夜の盗人

不可解な千年期喪失事件

　

　　　　　　　　　　　　　 しかし、主の日は盗人のようにおそってくる。その日には、天は大音響をたてて消え去り、天体は焼け

　くずれ、地とその上に造り出されたものも、みな焼きつくされるであろう。（ペテロの第二の手紙、三章

　十行）

　

　　　　　　　 序文

　

　『金星より搭乗客をのせたロケット今夜ロンドン空港に到着』

　　　　　　　 この見出しはわたしの好奇心をかなりそそった。すばやく、ほかの新聞の一面に眼を向けた。

　『霊魂の不滅性科学的に証明』

　『アトランティス大陸ポルトガル沖合に出現』

　　 わたしは、ニュースデスクの向こう側にいた編集長に視線を移した。

　「ほかにも何かありますか。」

　　 かれはつぎの見出しを指した。

　『医学上の新発見、疾病すべて絶滅』

　『ウィーンでヒットラー発見』

　「これでは全く世の終わりだな」とわたしは思わずつぶやいた。すると、編集長は「これを読みたまえ」

　といいながら、さまざまな見出しを載せた雑誌をわたしに手渡した。

　　 わたしはスポーツ部のデスクにもどり、その雑誌を丹念に読みはじめた。読んでいくうちに、ますます

　気乗りがしてきた。ほんの今朝までは、まったく手がかりがつかめない百年も前に発生した事件を解決し

　ようとしている探偵のような気がしていたが、この雑誌の記事を見て、張り合いがでてきたのである。

　　 あきらかに、何千という人たちが、一世紀もたった後でも、わたしと同じように、このミステリーの解

　決に強い関心をいだいていることがわかった。わたしは、引き出しのなかから紙ばさみを取りだし、えん

　ぴつでこう書きいれた。

　『不可解な千年期喪失事件』

　　 この雑誌は、全国の新聞社の編集長から、もっともセンセーショナルな架空の見出しを集めたもので

　あった。

　『シェイクスピアの本性、実はマーロー』

　『冬消滅す』

　『コナン・ドイル地球と連絡』

　『サンタ・クロス実在か。』

　　 わたしはほくそ笑み、以上の見出しが全部印刷される朝は、命からがら逃げ出だすときだと思った。だ

　が、その中に一つだけわたしの注意を引いたものがあった。ハードボイルド型の新聞編集長によれば、こ

　の見出しは、事実とすれば、もっともショッキングなものであろうということである。それはただ二つの

　言葉から成っていた。

　『キリスト再臨』（キリストが再びもどってくること）

　　 実は、わたし自身も、このニュースに過去二年間を費やしていた。このミステリーの追求は、わたしと

　同姓のクララ・エディンコット・シヤーズという人の書いた本を知人からもらったときに無邪気にはじめ

　たものであった。ちなみに、クララはわたしの親戚ではない。

　　 もし、そのとき、これが将来どのように発展するかを知っていたならば、その本をすぐその場で燃やし

　ていたであろう。

　　 当時、わたしは共同通信の夜勤係で、時間はたっぷりあったので、ひまつぶしにその本を読みだした。

　クララの本には、十九世紀にキリストの再臨を熱心に待っていた人たちについてきわめて興味深い叙述が

　あった。

　　 おどろいたことに、当時の新聞や雑誌にも実際、このセンセーショナルな事件が報道されていたのであ

　る。ある記事は冗談半分に、ほかの記事は物笑いの種に用いられていた。しかし、残りの記事は真剣に書

　かれていたのである。

　『キリスト再臨か否か。』

　『明日、世の終末来たる』

　『イエス来訪』

　『大流星、地球に恐怖をもたらす』

　『キリストの再臨、真実か悪ふざけか。』

　　 上手に書かれたサスペンス小説をきらいな者はいないと思う。とくに『世の終末。』のように恐怖感を

　呼びおこすようなスリル一杯の話には、だれも強い関心を示すであろう。

　　 世の滅亡の日を予言した者の中には「この世は十一月二十二日、土曜日の夕方七時ごろ、オハイオ川流

　域からはじまり、北方ミシガンへ向かって終わっていくであろう」と宣言した直解主義者（聖書の記事を

　文字通りに信じる人）から、「その日、星は天より落ち、地球は消滅するであろう」と警告した真剣な聖

　書研究家までさまざまな人たちがいた。

　　 これ以上信じがたいサスペンス実話があるであろうか。このキリストの再臨と世の終末の話は、とくに

　一八四〇年代に、恐怖と異様な熱意をもっていたるところで語られていた。この話は、アメリカだけでな

　く、イギリス、カナダ、ヨーロッパ諸国、アジア、オーストラリア、そしてアフリカまでもひろがって人

　びとの心を動揺させていたのである。　　　　

　　 人びとはキリストがとつぜん現われたときの準備をするように警告を受けた。キリストの再臨がもたら

　すものは、喜びであるか、それとも災難であるかは語り手によって異なっていた。人びとの大半は、この

　警告を聞いても、聞こえないふりをしたり、面白がったりした。中には、そのような狂信の犠牲者をあわ

　れんだりもした。しかし、実際に恐怖とパニックにおそわれた人たちもかなりいたのである。

　　 聖書研究家たちは、パンフレットや新聞で、または説教壇から、耳を貸そうとしない無関心な世間の人

　びとに、悔 桍めるように訴えつづけた。

　「ついにキリスト再臨のときがきた！」という警告を信じた人たちの中には、家屋財産を一切売り払った

　り、銀行の預金を全部引き出して隣人にあたえたり、特別の昇天用の衣を準備したりした人もいた。

　　 あるグループは運命の日をえらび、丘の上で雲に乗って下ってくるキリストをまったが、降ってきたの

　はどしゃぶりの雨だけであった、という話も残されている。ほかのグループは、キリストを迎えるために

　ひとつの村をつくり、「ヘブン（天国）」と名づけた。これはキリストのアメリカでの居住地として設立

　されたものであった。

　　 当時、アメリカ以外の国々にも、キリスト再臨の期待に、狂気の沙汰と思われるほど熱狂的になってい

　た人たちがあちこちにいた。なぜか。 なぜかれらはその時期にキリストをまっていたのであろうか。　 な

　ぜとくにその時期にかぎって熱狂的であったのであろうか。

　　 これはまったく不可解な話である。まるで千年期のヴィールスが、五大陸の住民をとつぜん感染させて

　しまったような話である。

　　 わたしは、世界中のあちこちでおこった興味深い、ときにはびっくりするような事件を読むうちに、好

　奇心が強まってきた。その好奇心がこの本を書くきっかけとなったのである。

　　 この長時間を要する調査に没頭しだした自分にとつぜん気がついたのは、図書館であったのか、博物館

　であったのか、それともカルメル山上のエリヤの洞であったのかははっきりおぼえていない。とにかく、

　調査を進めていくうちに、ジャーナリストとしても、この話をそのままにしておくことはできないと感じ

　はじめたのである。キリストの再臨が想像に過ぎないのか、単なる誤りなのか、あるいは現代における最

　大の未解決ミステリーなのかを明らかにする決心をしたのである。

　　 ちょうどそのころ、行きつけの図書館の一室で、わたしはとつぜん、言葉ではいい表せないようなスリ

　ルを感じた。それは、調査をあきらめようとしていた考古学者が、つるはしで壁をつついたときに、一瞬

　にして壁がくだけ、眼前に古代世界が現われたときに感じるスリルであった。

　　 わたしは、あてのない目的を追求しているのではなかった。というのは、図書館のほこりっぽい本棚で、

　探偵仲間が見つかったのである。ケンブリッジ大学ペングローク校のＥ・Ｇ・ブラウン教授であった。か

　れを同伴に、追跡の興奮はふたたびはじまった。

　　 かれもまた、この話に魅せられ、調査をはじめていたのである。そして、すでに一部を解決しており、

　それをキリストの話にたとえてつぎのように述べていた。

　「わたしの国の住民にこれを知らせることは、わたしの義務であり喜びでもある」�@

　　 後日、わたしは聖地イスラエルにおけるブラウン博士の探索の足跡をたどってみることができた。かれ

　が、ある偉大な人物に会うためにイスラエルを訪れる計画を述べた手紙も入手できた。その手紙の中で、

　ブラウン博士は「自分で納得いくまでは休まない」�Aと書いている。

　　 オックスフォード大学バリオル校のベンジャミン・ジョウィット博士も、この気持に共鳴していたこと

　がわかった。かれはブラウン博士と同時代の著名人である。かれもまた、わたしの眼前で展開しつつある

　話に偶然出くわしており、つぎのように述べていたのである。

　「この事件は、あまりにも偉大で、あまりにもわれわれに接近しすぎているため、今の世代には理解でき

　ないであろう。未来のみがそれを明らかにできるであろう」�B

　　 ブラウン博士とジョウィット博士は共に、自分たちの発見とキリストの再臨を結びつけていた。二人共

　に、この話の重大さに強い関心をもっていたのである。数年にわたる注意深い調査研究のあと、わたしも

　また、かれらと同じ結論に達したことはいうまでもない。

　　 つぎの数章は、七年にわたる調査研究の結果で、一世紀にわたるこのミステリー実話に解決をあたえる

　ものである。それは、現代の新聞記者が『キリストの再臨』という見出しで印刷しようと思っても、すで

　に百年以上おくれてしまったことを暗示するものである。

　　 実際、現代の新聞社は、百年以上もスクープされていたのだ。一八四〇年代の新聞社や出版社は「キリ

　スト再臨近まる」という話を印刷していたときには、その話の本質にまったく気づいていなかった。また、

　その話が真実であるかどうかを追求することもしなかった。しかし、実際は、想像ではなく、事実を印刷

　していたのである。

　　 わたしの調査結果が事実であれば、そして新聞編集長たちの言葉にしたがえば、それは新聞記事の中で、

　もっともショッキングでドラマチックな話と見なされるであろう。

　　 しかし、わたしを信じる者がいるであろうか。読者は今、この不可解なミステリー事件について、わた

　しが数年前にはじめた時点から読みはじめているとことである。わたしはこれを『不可解な千年期喪失事

　件』と呼ぶことにした。

　

　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 一章　

　

　一　すべての人と国家に一度

　

　　 まず、わたしは一八三〇年から一八五〇年までの期間の歴史を調べることにした。そのころ、奇妙な事

　件がつづけて起こっており、人びとは不安におそわれていた。かれらは太陽のまわりに現われた大きなか

　さをおどろきと恐れをもって見つめた。夜になると、大流星が暗やみの中を、おそろしい勢いで尾を引き

　ながら流れていくのを、恐ろしげに見上げた。この流星は全速力で地球に突進し、「世の終末」をもたら

　すのだ、と信じた人もいた。

　　 この時期に関するもので、つぎのようなおもしろい記事もある。

　「パレスタインに住むキリスト教に改宗したユダヤ人のジョセフ・ウルフは、キリストの再臨は一八四七

　年であると予知した。

　　 当時、雄弁で知られていたハリエット・リバーモア夫人は、キリストの再臨を、ワシントンの下院をは

　じめ、いたるところで説いた。どこにおいても、多数の人びとがかの女の話を聞こうとむらがってきた。

　　 ウィリアム・ピット卿の姪にあたる勇敢な女性、ヘスター・スタンホープ夫人は、ロンドンの権力と流

　行に背を向け、レバノンのアラブ人とドウルーズ派の人たちの間に住居をかまえた。それはキリストの再

　臨の場で、用意万端ととのえておくためであった。かの女は、白色のアラブ馬を二頭、一頭はキリストの

　ため、一頭は自分のために準備していたと伝えられている」�@

　　 あるジャーナリストは、つぎのように報告している。

　「聖地にある小さな回教寺院に住む僧侶は、救世主（メシヤ）がエルサレム来訪のときにはく靴を用意し

　ていた」�A

　　 つぎの文は、そのころの様子を描写するものである。

　「キリスト再臨への期待は、きわめて真にせまったもので、住民の中には、実際乱暴すぎると思われるほ

　どの行動をとった者もいた」

　　 一八三三年の流星、一八四三年の太陽のまわりのかさは、最悪の事態を予知するものとして議論の的と

　された。そして、一八四二年の大流星の尾は、二億八百キロまで達した……。ある家族は、全員そろって

　運命の日のために、きょうかたびらをつくったりした」�B

　　 熱心な信者たちの中には、実際、昇天用の衣を身につけて、雲に乗って天より下ってくるキリストを

　待った者もいたのである。そういったことに関心のない人たちは、雲は下降するものではなく、大地より

　上昇する蒸気でないかと指摘した。

　「地球の向こう側にはだれも住んでいるはずはない。終わりの日に、雲にのって降りてくるキリストを向

　こう側の人びとは見ることができないからである」と、聖オーガスティンはある本の中で説明しているが、

　それを引用した学者もいた。

　　 数学者たちは問うた。「どの方向が下なのか。 また、地球が球であることを考えると、キリストの下降

　がすべての人に見えるためには、何千回も単独飛行が必要ではないか。」と。かれらは、ほかの面からも

　直解主義者たちを愚弄し、雲の上にのってキリストが下りてくるというのは、明らかに象徴にちがいない

　と指摘した。ほかにも「雲はキリストが天から下るときの乗り物ではなく、人間の視力をぼかす地上より

　上昇したもやに過ぎないのではないか」と発言した人たちもいた。

　　 このように、疑問をいだいた人たちもかなりいた一方、デザイナーたちは、このときとばかり、再臨の

　日に昇天用衣を身にまといたい人たちのために、さまざまなデザインの衣をつくった。これらの衣は、ア

　メリカ東部の店の飾り窓に陳列されていたと伝えられている。多くの地方では、この話を強く否定する人

　が大半であった。しかし、わたし自身、旅行中にこの話にしばしば出くわしたのである。

　　 つぎの手紙は、昇天用の衣が実際つくられていたことを証明するものである。この手紙は、一九二一年

　八月二十一日、アイダ・ウイング夫人がクララ・シヤーズ夫人に宛てたものである。

　「わたしが幼少のころ、母がわたしに語ってくれたのですが、母は白い衣を準備し、家のなかを整頓し、

　ランプを窓際において世の終わりがくるのを一晩中寝ずに待ったそうです」�C

　　 一八四三年、大流星が天空をいなづまのように走るのを人びとは見ておどろき、叫んだ。「キリスト再

　臨のときが来た！」

　　 同じ年に、詩人のジェームス・ラッセルは書いた。

　「すべての人と国家に一度、偉大な大業、神の新しいメシアを決めるときがくる」�D

　　 フランスのラマルティーヌは、賛美の気持にあふれて神に問うた。

　「今が、あなた自身を現わされるときではないでしょうか」

　　 一八四四年五月二十四日、電信の発明者であるサミュエル・Ｂ・モールスは、ワシントン市で、自分の

　発明した電信機のキーに歩み寄った。かれは、ワシントンからボルチモアまで、歴史上はじめて正式の電

　信を送ろうとしていたのである。新聞は、この日を現代の奇跡の日と報道した。この電線にそって飛びゆ

　くインパルスは、地球を縮めるであろうと書いた。

　　 実際、議会がモールスの事業継続のために四万ドルを承認したとき、「これで君は電光を世界中に送る

　ことができるであろう」といわれたと伝えられている。

　　 当時は、この発言は冗談半分であったかもしれないが、モールスの発明はヨブ記の中で言葉に結びつけ

　て考えられた。

　　 聖書研究家たちは質問した。

　「これは、一八四四年が実際キリストの出現のときであるという証拠ではないのか。 というのは、ヨブ記

　に、『ただ神のみが、いなづまをつかわして行かせ、われはここにいる、とあなたにいわせることができ

　る』�Eと記されてはいないか。 それは、キリストがこの世に実際生きておられるという意味ではないのか。

　ヨブは約束したではないか。 『わたしは知る。わたしをあがなう者は生きておられる。後の日に彼は必ず

　地の上に立たれる』と」�F

　　 サミエル・モールスは電信機のキーに手を置き、最初の電信を打った。その言葉は民数記より引用され

　たものであった。

　「神がそのなすところ！」�G

　　 わたしは、このこのメッセージに好奇心をいだいた。電信のほかに、神がそのなすところがあったので

　はないか。 何か重大なものが秘められているかもしれない。それを探し出せるであろうか。

　　 そのころ、英国の科学者、ローレンス・ブラグ卿がニューヨークのカーネギーホールでおこなった講演

　の記録を入手することができた。かれは一八〇〇年代から最近までの科学の発達を図表に描いていた。一

　八四四年ごろまでは、科学発達の線はひじょうにゆるやかであるが、その後は急速に上昇し、現在に至っ

　ていることがわかる。

　　 これには理由がありそうである。一八四四年以後の世界に新しいエネルギーと創造力が注がれた原因は

　何であろうか。 なぜその時期にはじまったのであろうか。 一八四四年に歴史的な事件がおこったのであ

　ろうか。 もしそうだとすれば、この知識と発明の急速な増加の原因を明らかにするものであろうか。 歴

　史家たちが見過ごしたか、無視した事件があったのであろうか。 それは、その年話題となったキリストの

　再臨と何か関係があるのであろうか。

　　 わたしは、以上の質問の答えをどうしても得たいと思った。最初の電信が打たれた一八四四について徹

　底的に調査しなければならないと強く感じた。

　

　

　二　千年期喪失事件

　

　　 調べはじめてすぐわかったことは、聖書研究家たちも一八四四年を重要視していたことであった。かれ

　らは別々の大陸に住みながら、各自聖書を研究し、キリスト再臨の年を計算して、一八四四年がその年で

　あるという結論に達していた。

　　 アジア大陸のジョセフ・ウルフ、イギリスのエドワード・アーヴィング、スコットランドのメイソン、

　ドイツのレオナルド・ケルバー、米国南カロライナ州のアンドリュー・デビス、ペンシルヴァニア州の

　ウィリアム・ミラー、そのほか世界各地で、多くの人びとがこの年こそが「終末のときである」�@と信じ

　たのである。

　　 もちろん、かれらは必ずしも同じ日にキリストの再臨を予期していたのではなく、また予言の解釈も

　まったく同じであったわけではない。しかし、かれらについてつぎのような記事がある。

　「アメリカ、ヨーロッパ、アジアで、予言の時期が一八四四年に終わったという宣言の力強い声があちこ

　ちで出された」�A

　　 アンドリュー・デビスは、一八四五年にニューヨークで講演会を一五七回開いた。エドガー・アラン・

　ポーはそれに定期的に出席し、デヴィスが新しい時代について話すのを聞いた。その内容は、カルフォル

　ニアまで四日間という広告が出されるようになること、さらに飛行機の発明により旅行速度が短縮される

　ことなどであった。そしてかれは来るべき新時代の驚異をたたえ、それを精神界の準備の場である物質天

　国と呼んだ。

　「栄光の時代が人類の眼前にせまった。……新しい時代を愛しなさい」�B

　　 ウィリアム・ミラーは、一八三一年、キリストの再臨について講演をはじめた。かれは「世の人びとに

　知らせなさい」という内なる声に駆られてそうせずにはおれなかったと述べている。一八三二年にかれは

　書いた。

　「証拠はあらゆる方向より氾濫してきた。見よ。メシアが到来した！」�C

　　 フォアマンは、自著『予言の話』の中で、「当時、宗教的な目覚めといった雰囲気はいたるところで感

　じとられた」�Dと述べている。かれは、エマスンが世界改革大会に出席したとき「出席者が狂人から哲学

　者まで広範囲にわたっていた」と論評したことを指摘した。エマスンの言葉を借りていうと、かれらは狂

　人であり、狂女であり、あごひげをはやした男であり、ドイツバプテスト教会の信者であり、脱退者、不

　満者、土地均分論者、セブンスデーバプティスト、奴隷制度廃止論者、カルビン派信者、ユニタリアン、

　そして哲学者であったのである。�E

　　 クララ・エディンコット・シヤーズ夫人が、自著に「歴史上の奇妙な小片」という副題をつけたのも

　もっともな話である。

　　 一八四四年が近づいた時期に、英国国教教会の牧師、モーランド・ブロックは、つぎの声明文を公表した。

　「救世主の再来が近づいているという警告の声があげられたのはイギリスだけではない。アメリカ、イン

　ド、ヨーロッパでも同じである。アメリカでは、およそ三百人の牧師がキリスト再臨を説き、わが国では

　七百の英国国教会が同じことを説いている」�F

　　 わたしは、イギリスとアメリカの両国だけでも、約千人の牧師がこの時期にキリストの再臨を説いてい

　たことを知った。「千年期喪失事件」の調査は、ますますやりがいのあるものになってきた。

　　 このように多数の人びとが一八四四年にこだわった理由をＷ・Ａ・スパイサーは『予言の観点から見た

　現代』の中でつぎのように述べている。

　「各地の聖書研究家たちは、ダニエル書の八章十四行に書かれている二千三百年の期間が、九章で説明さ

　れている通り、まもなく終わるであろうことをさとった……。そして、審判の年である一八四四年に焦点

　を合わせた」

　　 スパイサーはつづけてつぎのように語った。

　「証人たちが、ヨーロッパのオランダ、ドイツ、ロシア、スカンジナビアの各国で立ち上がった。レバン

　トの宣教師、ジョセフ・ウルフは、ギリシャ、パレスタイン、トルコ、アフガニスタン、およびそのほか

　の地方で、審判のときが到来したことを説いた」

　　 この千年期への情熱は、一八四四年にクライマックスに達した。わたしはその理由を知りたいと思った。

　何がかれらを同じ年に導いたのであろうか。

　　 答えは新約聖書の中にあった。この歴史的な日付けは、キリスト自ら使徒にあたえた三つの約束をもと

　として選ばれていたのである。キリストは、これら三つの約束が実現されるとき、地上にもどってくると

　はっきり述べていた。

　　 第一の約束はキリストの福音が全世界に伝えられたとき、第二の約束は「異邦人の時期」が満ちユダヤ

　人がイスラエル（パレスタイン）にもどれるようになったとき、最後の約束はダニエルが予言した「荒ら

　す憎むべきもの」を全人類が見るときである。

　　 わたしのつぎの仕事は、以上の約束をひとつづつ取りあげ、その糸口を最後までたどっていくことで

　あった。その方法は簡単で、まず、聖書にあるキリストの約束を取りだし、つぎに、その約束が何である

　かを正確に把握することであった。最後に、それらの約束が全部実現されたかどうかを調べ、もしそうで

　あれば、その時期と過程を調査することであった。

　　 もはや、わたしは架空の事件ではなく、実際上の事件を取りかかっていた。

　

　三　第一の約束

　

　　 キリストの最初の約束はすぐ見つかった。こそれは弟子の質問に直接答えたものである。弟子はつぎの

　ように質問した。

　「どうぞお話しください。いつそんなことが起こるのでしょうか。あなたがまたおいでになる時や、世の

　終りには、どんな前兆がありますか」�@

　　 この句は、マタイによる福音書の二四章から引用したものである。

　　 キリストは世の終りの前兆についてこまごまと説明し、つぎのように答えた。

　「しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。そして、この御国の福音は、すべての民に対してあかしをす

　るために、全世界に宣べ伝えられるであろう。そして、それから最後が来るのである」�A

　　 この言葉は明らかである。キリストの福音が世界中にひろまったときに、世の終りがきて、キリストが

　再臨するという意味である。

　　 では実際に、キリストの福音はいつ世界中にひろまったであろうか。一八四〇年代のキリスト教布教に

　関する学者たちの研究結果を見ると、そのころまでに、福音は地球を取り巻いていたことがわかった。

　　 キリスト教は、一八四四年までに、個人と団体の努力によって、アフリカの奥地までとどいていたので

　ある。東アフリカ商業史にはつぎのように記録されている。

　「アフリカ人の間におけるキリスト教の宣布活動は、一八四四年にはじまった」�B

　　 宣教運動の歴史家、Ｄ・Ｌ・レオナルドは『宣教百年史』の中で、キリストの福音の宣布について、

　「……使徒時代以来はじめて、宣教に対する熱意が高まり、その活動が爆発的と思われるほどさかんに行

　われるようになった」と書いている。

　　 かれは十八世紀の末から十九世紀の前半までの時期について述べていたのである。

　「それはイギリスではじまり、やがてヨーロッパ大陸にひろがり、そして大西洋を越えていった。それは

　単なる熱望のひろがりでなく、強大な大潮が押し寄せてきたと思えるもので、その時期から今日にいたる

　まで、着実に拡大してきた」

　　 そのほか、つぎのような記録もある。

　「一八〇四年に、イギリスおよび海外聖書協会が組織された。予言の言葉の研究家たちは、この協会の設

　立そのものが予言が実現されたあかしであると考えた」�C　

　　 一八〇四年以前には聖書は五十ヵ国語に翻訳され配布されていた。一八一六年にアメリカ聖書協会が設

　立された。ジョージ・ストルスは、一八四三年五月四日付のミッドナイト・クライ新聞に、この二つの協

　会は数多くの支部をもち、世界のすみずみまでキリストの福音をひろめていると述べている。

　　 Ｇ・Ｓ・ファーバーは、人びとが大予言に熱中していた一八四四年に完成した『八つの論説』という本

　の中でつぎのように力説した。「すべての言語で世界のあらゆる地方に聖書を伝えようとする巨大な事業

　は、事件の多い現代でもとくに目立つものである。わたしの観察がまちがっていなければ、この事業はキ

　リスト教の世界のすみずみへの最終的な普及への準備である。この普及は多くの聖なる予言者たちのテー

　マであり、近い将来に完成するはずのものである」

　　 Ｍ・Ｈ・ゴイヤーは、予言の実現に関する著書の中で、「イギリス聖書協会が創立以来世界諸国で出版

　した聖書の数は四億二千百万冊にものぼる」と述べている。

　『予言の観点から見た現代』の中で、スパイサーはつぎのような記録を残している。

　「当時、聖書は世界人口の九十五パーセントに伝わっていた……。一八四二年には中国の五つの開港場が

　貿易と伝動のために開かれ、中国全体に聖書が伝わる第一歩となった。一八四二年、ヴィングストンはア

　フリカ奥地への伝導を決心した。一八四四年、トルコはイスラム教の伝統に反して、イスラム教徒がキリ

　スト教徒になることを許した。そして同じく一八四四年、アラン・ガーディナーは南米伝導協会を設立した」

　　 そのほかにも、キリストの福音が一八四四年までに諸大陸に伝えられた事実を証明する記録が多数ある。

　聖書研究家たちは、「マルコによる福音書」にあるキリストの言葉がそのまま実現するものであると考えた。

　「こうして、福音はまずすべての民に宣べ伝えられねばならない」�D

　　 同じ章で、キリストはこの予言が実現される時期について警告をあたえた。

　「気をつけて、目をさましていなさい。その時がいつであるか、あなたがたにはわからないからである」�E

　　 福音が世界の各国で出版されるときについても、かれは約束した。

　「そのとき、大いなる力と栄光とをもって、人の子が雲に乗って来るのを、人々は見るであろう」�F

　　 一八四〇年代の聖書研究家たちは、キリストの第一の約束は実現されたと見なした。キリストの福音は、

　全世界で説かれたことが明らかであり、したがって、キリストの再臨はすぐそこまで迫っていると感じた

　のである。

　　 わたしも、第一の約束は一八四四年までに実現したという結論に達した。これに関してはもううたがい

　はなかった。

　

　四　 第二の約束

　

　　第二の約束も難なく見つかった。それは「ルカによる福音書」の二一章に書かれていた。これも弟子の

　質問にキリストが答えたものであった。

　「いつそんなことが起こるのでしょうか。またそんなことが起こるような場合には、どんな前兆がありま

　すか」�@

　　この質問に、キリストは、その時期に現われるにせの予言者を警戒するように忠告し、第二の約束をあ

　たえた。

　「彼らはつるぎの刃に倒れ、また捕えられて諸国に引きゆかれるであろう。そしてエルサレムは、異邦人

　の時期が満ちるまで、彼らに踏みにじられているであろう。……そのとき、大いなる力と栄光とをもって、

　人の子が雲に乗って来るのを人々は見るであろう」�A

　「異邦人の時期」という言葉の意味は、聖書研究家たちには明らかである。わたしも、その意味は「エル

　サレムがユダヤ人以外の民族に支配される時期であり、またユダヤ人が自国より追放される期間」である

　ことを知った。つまり、ユダヤ人が長い間の放浪を終えて故国にもどるとき、キリストが再臨することを

　意味する。

　　 この第二の約束については、くわしく調べることにした。最初の句に「……また捕らえられた諸国へ引

　きゆかれるであろう」とある。この約束はキリストの死後四〇年以内に実現した。

　　エルサレムは西暦七〇年、ローマ皇帝ティトゥスによって破壊され、ユダヤ人は追放された。ユダヤ人

　は西暦一三二年に解放運動を起こしたが、ローマ帝国のハドリアヌスの軍隊に完全につぶされた。廃墟と

　化した都市の後に、ハドリヌスのために、新しい都市が建設された。

　　キリストの予言通り、多数のユダヤ人は「つるぎの刃に倒れ」た。かれらは逃散し、そして「捕えられ

　て諸国に引きゆかれた」のである。

　　ユダヤ人以外の移住者はエルサレムに入ることを許されたが、ユダヤ人がそうすることは死刑に価する

　犯罪と見なされた。

　　キリストの死後、エルサレムに足を踏み入れた最初の外国人（異邦人）はローマ人であった。つぎにこ

　の都市を占拠したのはイスラム教徒である。かれらは六三七年にエルサレムを征服し、ソロモンの神殿の

　土台にモスクを建てた。イスラム教徒の占拠時代は大半のユダヤ人は故国より追放され、残った少数は排

　斥された。その後十二世紀にわたってイスラム教徒はユダヤ人の帰国を許すことはなかった。

　　一八四四年になってはじめてユダヤ人はこの拘束から解放された。偶然の一致であろうか。おどろくべ

　き事実である。

　　 著名なアイルランドの学者であり、著述家であるジョージ・タウンゼントは博士は、つぎのように述べ

　ている。

　「イスラム教徒がユダヤ人に課した十二世紀にわたる故国よりのきびしい追放は、寛容勅令によって和ら

　げられ、異邦人の時期が終わった」�B

　　 タウンゼント博士が、この勅令が一八四四年に政府によって出されたことを指摘しているのも興味深い。

　ワース・スミスは、この勅令に関して『現代の奇蹟』という本の中でつぎのように書いた。

　「トルコは、一八四四年、西欧とくにイギリスの圧力により、その勢力下にあったイスラム教諸国に宗教

　の自由を許した」

　　 この中には、聖地のパレスタインも含まれていた。わたしは一八四四年の寛容勅令の調印に関する書簡

　や書類のコピーを手に入れ、調べることができた。トルコ政府は、宗教の自由を許可し、擁護する勅令に

　調印したのである。千二百年以来はじめてユダヤ人は自由にイスラエルにもどることができるようになっ

　た。この勅令調印日は一八四四年三月二十一日である。

　『わかりやすい予言の手引き』という本の中で、ビカーステスは、つぎのように述べている。

　「一八四四年六月二十日付のタンジールからの手紙には、モロッコ王国の困窮についてつぎの叙述がある。

　『ムーア人（イスラム教徒）は、絶えずこの年を予知してきた。長い間、かれらはお互いに一二六〇年

　（一八四四年）には警戒するように勧告してきていた。一二六〇年は、われわれの計算によるとまさしく

　今年にあたるのである』」

　　聖書研究家たちは、一八四四年が「異邦人の時期」が終わり、キリストの第二の約束が実現されるとき

　であることを聖書で確認していた。黙示録の十二章に「彼らは四十二ヵ月の間この聖なる都を踏みにじる

　であろう」とはっきりとした数字が出されているのである。また、そのつぎの句には別の表現で、「一二

　六〇日の間続くであろう」と書かれている。

　　聖書研究家は、この四十二ヵ月、または一二六〇日の終りは一八四四年と同じであると主張した。どう

　してであろうか。面白そうである。わたしも、かれらがそういう結論を出した過程をたどってみることに

　した。

　

　　 一　 聖書の予言を調べる場合、一日を一年として計算する。

　　 二　 この説は、つぎの予言で証明される。

　　　　　　　 Ａ　 「四十の日数にしたがい、その一日を一年として……」民数記十四章三十四行

　　　　　　　 Ｂ　 「わたしは一日を一年として定める……」エゼキエル書四章六行

　

　 この公式は一般に認められているものである。ヘンリー・ジェームス・フォアマンが編集した『予言の

　話』には、つぎのような説明がある。

　「聖書の予言研究家たちは、聖書の年代記に関する問題を徹底的に調べて、これが原理であるという結論

　に達した。すなわち、聖書の予言では一日は一年の象徴であるということである」

　　 Ｆ・ハジングスも『予言にあるシオン主義』という本の中で、この問題に関して書いた。

　「太陽年には三六五にと数時間が含まれているのはもちろんである。しかし、聖書にある象徴年を計算す

　る場合、聖書の著者は、単に一年を一ヵ月三十日として十二に分けた。つまり、聖書の一時、または一年

　は三六〇年の太陽年にあたるわけである」

　　 この問題をもう少し調べてみると、この一日を一年とみなすことは、聖書研究家たちが勝手に決めたも

　のではなかったことがわかる。それは旧約聖書の「創世紀」からとられたものであった。

　

　　 一　 「洪水は二月十七日に起こった」創世紀七章十一行

　　 二　 「水は七月十七日にとどまった」創世紀八章四行

　　 三　 「水は百五十日のあいだ地上にみなぎった」創世紀七章二十四行

　

　　 二月十七日より七月十七日まではちょうど五ヵ月である。この五ヵ月間は百五十日にあたる。したがっ

　て、一月を三十日とした五ヵ月である。

　　 研究家たちはこの公式を用いて、異邦人は聖地エルサレムを千二百六十年踏みにじるという結論を出し

　た。エルサレムを占拠したイスラム教の暦を調べてみると、聖書研究家たちをおどろかせた理由が明らか

　となった。イスラム暦の一二六〇年は西暦一八四四年と同じ年であったからである。

　「異邦人の時期」が終り、ユダヤ人が故国にもどれるようになった年（一二六〇年）とイスラム国の政府

　が寛容勅令を調印してユダヤ人の帰国を許した年は同じ年であった。

　　 聖書研究家たちの一八四〇年代に対す特別の関心が、わたしにもわかりだしてきた。キリストは、異邦

　人の時期が終わったときに再来すると約束していたからである。研究家たちにとって第二の約束は実現さ

　れた。一八四四年は、はっきりと浮き彫りにされた。わたしも同意見である。第三の約束を調べてみたい

　気持ちはますます強くなっていった。

　　

　五　第三の約束

　

　　第三の約束は、三つの中でもっとも興味深いものである。マタイによる福音書の二十四章を見てみよう。

　「またオリーブ山ですわっておられると、弟子たちが、ひそかにみともにきて言った。『どうぞお話くだ

　さい。いつそんなことが起こるのでしょうか。あなたがまたおいでになる時や、世の終りには、どんな前

　兆がありますか』」�@。

　　 キリストは、その日には「不法がはびこり、多くの人の愛が冷える」ことを予知し、第三の約束をした。

　「予言者ダニエルによって言われた荒らす憎むべき者が、聖なる場所に立つのを見たならば（読者よ、悟

　れ）」�A

　　これに関する章は、八から十二までである。これらの章には、キリストの再臨だけでなく、最初の出現

　までも予知されているのである。ダニエル書がひじょうに重要視される理由は、キリストの最初の出現と

　二度目の出現との間にある関係である。事実、この第三の約束は一番重要なものであると考えられた。

　　以上の章で、ダニエルは、エルサレムを建て直せという命令が出てから、メシアが断たれる（はりつけ

　にされる）まで七十週があると述べている。また、別のいい方で、七週と六十二週と一週があると書かれ

　ているが、これも合計すると七十週となる。

　　七十週とは四九〇日のことであり、前にも述べたように、聖書の予言では一日を一年と計算するので、

　四九〇年となる。

　　そこで、エルサレム再建の法令はいつ出されたのかを調べてみると、合計四回出されたことがわかった。

　

　　 一　　 紀元前五三六年にキルス王による法令。これはエズラ記の第一章に記録されている。この法令は実現

　　　　　　　 しなかった。

　　　 二　 紀元前五一九年にダリウス王による法令。これはエズラ記の第六章に記録されている。これも未

　　　　　　　 完に終わった。

　　　 三　 紀元前四五七年のアルタクセルクセス王によるもので、エズラ記の第七章に記録。これは実行に

　　　　　　　 移された。

　　　 四　 紀元前四四四年、同じくアルタクセルクセス王によるもの。ネヘミヤ第二章に記録。これも実施

　　　　　　　 された。

　

　　　 聖書研究家の大半は、ダニエルが言及したのは第三のアルタクセルクセス王の法令であると判断した。

　第一と第二の法令は未完のままで終わり、第四は同じ王によるもので、第三の延長にすぎないからである。

　　このことを念頭においてダニエルの予言を解釈すると、紀元前四五七年に出された法令から、キリスト

　の死まで七十週間、つまり四九〇日が経過しなければならないということになる。一日は一年と見なされ

　るので四九〇年である。

　　　 ほとんどの聖書研究家は、単に四九〇から四五七年を差し引き、三十三という答えを出した。つまり、

　メシア（キリスト）が最初の出現時にはりつけにあうのは、三十三才のときであることが予言されていた

　のである。

　 キリストの生誕日と昇天日に関しては、学者間でさまざまな説があるが、大半の学者はダニエルが予言し

　た時期を選んだ。このように、ダニエルはおどろくほどの正確さでキリストの最初の出現と殉教を予言し

　ていたのである。このことから、キリスト自身、自分の再臨についてダニエルの予言を重要視したことは

　もっともなことと思える。

　　つぎにわたしは、一八四〇年代に聖書研究家たちが没頭していた研究をたどってみた。つまり、キリス

　トの再臨について何が予言されていたかを調べることである。ダニエル書の八章に、つぎの言葉がある。

　「『常供の燔祭と、荒らすことをなす罪と、聖所とその衆群がわたされて、足の下に踏みつけられること

　について、幻にあらわれたことは、いつまでだろうか』と。彼は言った、『二千三百の夕と朝の間である。

　そして聖所は清められてその正しい状態に復する』」�B

　　聖所が清められるまでには、二千三百日が過ぎなければならない。それまでは、人民は神に対する愛も、

　人に対する愛も冷え、「荒らすことをなす」状態である。二千三百日が過ぎると、メシアが現われ、聖所

　も人の心も清められるというのが研究家たちの結論であった。

　　二千三百日は、予言の場合は二千三百年となることは前にも述べた。したがって、大多数の聖書研究家

　は、キリストの最初の出現のときに用いたアルタクセルクセス王の法令が出された紀元前四五七年を二三

　〇〇年から差し引き、一八四三年という答えを出した。しかし、紀元前四五七年からキリストの生誕まで

　実際は四五六年しかないので、二三〇〇年から四五六年を引いて一八四四年という年を出した人もいた。

　　　 キリストの再臨の正確な日付けについては、いろいろな説や意見があり、研究家の間でもかならずしも

　一致していなかった。しかし、ほとんどの人びとは、一八四三年から一八四四年にかけて起こるであろう

　ということには同意見であった。

　　これまでの調査で、わたしは、キリストがあたえた三つの条件、あるいは予言がすべて同じ時期に満た

　されたことを確信した。

　

　　 一　 福音は、すべての民に対してあかしをするために、全世界に宣べ伝えられた。

　　 二　 異邦人の時期が満ちた。

　　 三　 キリストによってあたえられたダニエルの予言、「聖なる場所に立つ……」は実現した。　

　

　　 以上の三つの約束は、それぞれ一八四四年に満たされたのである。

　

　六　他の約束

　

　　　 三つの約束を調べていくうちに、そのほかにも予言がいくつかあるのに気がついた。それらはおどろく

　ほど興味深いものなので、つぎに進む前に二つか三つ紹介しておきたい。

　　　 それらの予言は、「終わりの時」、「審判の日」、「大いなる日」、「復活の日」、「キリスト降臨の

　時」について述べたものであった。わたしの好奇心はあらたにそそられた。

　　キリストの言葉に、「戦争と戦争のうわさとを聞くであろう。……そして力と大いなる栄光とをもって、

　人の子が天の雲に乗って来るのを、人々は見るであろう」というのがある。

　　 聖書研究家のポール・Ｋ・デイリーは『知識の夜明け』とう本の中でつぎのように述べている。

　「歴史に記録されている主要国間の大戦争をあげてみよう。中国とイギリス間の戦争は中国の敗北に終わ

　り、香港はイギリスの手に渡った。一八四三年に両国間で条約が結ばれた。一八五四年にイギリス、フラ

　ンス、トルコの三国とロシア間に起こったクルミア戦争。一八五七年の残虐なセポイの乱。一八五九年の

　フランスとイタリア対オーストリアの戦争。一八六一年のアメリカ合衆国南北戦争。一八七〇年の普仏戦

　争。一八七七年の露土戦争。一八〇〇年代の最後の十年間には、中国と日本間、トルコとギリシャ間、ス

　ペインと合衆国間、そのほか、諸強大国による中国侵略やボーア戦争などがある」

　　このリストに二十世紀に人類が経験した恐るべき二つの大戦を付け加えなければならない。その後の朝

　鮮戦争、ベトナム戦争、アラブ人とユダヤ人間の戦争、そのほかの規模の小さい戦争や革命や反乱をあげ

　るときりがないほどである。キリストの言葉は今もあてはまるのである。

　　さて、聖書の予言とは関係のないアメリカのインディアンに目を移してみよう。信じがたいが、一八〇

　〇年代の後半、かれらの間でも、救世主がすでに地上に現われているという確信が強まっていたことがわ

　かった。大半のインディアンの部族も、救世主を何世紀も待っていたのである。

　　十九世紀の終りごろアメリカ合衆国の陸軍大将であったマイル氏の報告はこれを証明するものである。

　かれは、ミネソタ州セントポールの新聞につぎの記事をのせた。

　「わたしは西部を旅行中、救世主がすでに出現したことを信じている部族が十六もあることを知った」

　　この救世主の出現は、東洋でもひろく信じられていた。インドのインドレ州の教育委員長であったＧ・

　Ｓ・アランディル氏は『来たるべき世界的大教育者』という著書の序論でつぎのように述べている。

　「世界中たくさんの人たちが偉大な世界的大教育者の出現のときが近づいていることを信じている。この

　信念は一般の人びとの間で常識となっているが、とくに知識人の間では強く感じられている」

　　さらにかれは、人類の望みはこの大教育者の出現にあると確信し、つぎのように報告した。

　「老いも若きも、ユダヤ人もキリスト教徒も、イスラム教徒も仏教徒も、ジャイナ教徒もヒンズー教徒も、

　それぞれ神に向かう道は異なっていても、偉大なる世界的大教育者の出現の時期が迫っているという信念

　を抱いており、その信念はかれらの生涯を変える大きな神秘的な力となっていた」

　　古代の詩人や哲学者もメシアの予言について書いていた。たとえば、ローマの詩人のバージルは、紀元

　前三十年頃、つぎのように述べていた。

　「これらの予言は、未来の時代と新しい自然の誕生を指すものである。同時に栄光にかがやく王国と、全

　人類をひとつの統轄の下にまとめる高貴な人物とを結び合わせるものである」

　　西暦一世紀に生きたギリシャの伝記作家のプルタークはこのように述べた。

　「幸せな人びとが、まったく同じ生活、同じ言葉、同じ政府を持つときが到来するであろう。それは運命

　によって定められたときである」

　　ギリシャの哲学者のプラトンは、紀元前四世紀にこう予知した。

　「終末のときに、原始秩序の創造者である神はふたたび現われ、統治権を取りもどすであろう」

　　 ハズリットの著書『座談』のなかには、マルティン・ルター自らつぎのような考えを述べたとある。

　「キリストは一五五八年、またはトルコのコンスタンチノープルの征服後（一四五三年）百五年たって到

　来するであろう」

　 実際、コンスタンチノープルがトルコの手に落ちた一四五三年という日付けは、メシアの予言に関して何

　度もでてきている。それはなぜであろうか。

　　　 調査の結果、つぎのことが明らかとなった。一五四三年に、キリスト教は、ローマカトリック、新教、

　ギリシャ正教会の三つに大きく分かれた。コンスタンチノープルがトルコ（イスラム教徒）の手に渡った

　とき、黙示録の予言は実現したと見なされた。

　 この予言は、キリスト教徒の三分の一が切り離されることと関係があるのである。それは、三分の一の人

　が（真理より）殺される（切り離される）ときから「一時間、一日、一月と一年」�@が用意されていると

　予知するものである。この時期が過ぎると、メシアが到来する。すなわち、キリストの再臨である。

　　　 一四五三年に、東方正教会の首都は非キリスト教会の手に落ちた。予言の研究家たちは、これを三分の

　一が殺害されるという予言の象徴的な実現だと受け取ったのである。

　　 キリスト教研究家のＷ・ハーバートは、自著『来たるべき戦い』の中で、つぎのようにしるした。

　「黙示録九章十五行の三九〇年は、トルコ帝国の全盛期であった一四五三年から数えると一八四三となる

　……」

　　 かれはつづけて、これはキリストの出現の日だという明らかな証拠であると述べた。

　　　 聖書研究家たちが予言で述べられている時期を計算するときは、一年を三六〇日、一ヵ月を三〇日、一

　日を一日とし、時間は考慮に入れなかった。これら全部を合わせると、三九一日となり、ハーバートの三

　九〇とはならない。したがって、研究家たちは一日を一年とする通則を用いて「切り離される」ときから

　キリストの再臨まで三九一年と断定した。

　　　 一四五三年にコンスタンチノープルは陥落した。キリスト教徒の三分の一は、信仰の中心地がイスラム

　教徒の手に渡ったとき、象徴的に切り離されたが、三九一年後はキリストの再臨により、ふたたび真理に

　復帰するというのである。

　　このように、メシアの出現は世界のあらゆる地方で期待され、また、予言者以外の人たちも二、三千年

　前から待ち望んできていたのである。

　　　 一四五三と三九一は一八四四となる。このように、まったく別の方向から計算しても、一八四四年と出

　た。おどろくべき数字である。まったく興味深い。

　　

　七　それ以外の約束

　

　　さて、この一四五三年に関わる予言を実現させたのはトルコ人であった。さらに、ダニエル書の二三〇

　〇日の予言を満たしたのもトルコ人であった。

　　　 前に述べたアルタクセルクセス一世の法令は、紀元前四五七年の春分の日、つまりユダヤ暦の一月一日

　に調印されたと伝えられている。ユダヤ人の帰国が許された寛容勅令は一八四四年の春分の日であるユダ

　ヤ暦の第一日目に調印された。その間はちょうど二三〇〇年である。

　　この予言と黙示録にある一二六〇日と三九一日は、キリスト教とイスラム教を結ぶきわめて興味深い一

　例である。

　　それをもう少しくわしく見てみよう。西暦一八四四年とイスラム暦一二六〇年は同じ年である。一二六

　〇年に三五四日（イスラム暦の太陰年の日数）を掛けると四四六〇四〇となる。それを三六五（西暦の太

　陽年）で割ると一二二二年となる。イスラム教は西暦六二二にはじまったので、六二二に一二二二を加え

　ると一八四四となるのである。

　　イスラム教スンニ派は、終わりの時にキリストの聖霊が再臨するのを待望しており、その時期を一二六

　〇年に結びつけた。この年がキリスト教暦（西暦）の一八四四年と同じであることは前述したとおりである。

　　イスラム教のシーア派は、ダニエルが人の子のような者の到来を幻で見た国で栄えた。シーア派には、

　二六〇年に消えたエマム（精神的指導者）が千年後、すなわち一二六〇年（西暦一八四四年）に再来する

　という予言がある。

　　モハメッドの息子のエマム・ジャファは、約束の人が現われる年に関して質問されたとき、つぎのよう

　に答えた。

　「一二六〇年に神の大業は現われ、その名はひろく伝えられるであろう」�@

　　 アラブの学者、ムイデニィアラビは、キリスト再臨の時期に関する予言を数多く集めた。

　「ガーズ（一二六〇年）の年に地球は神の光で照らされるであろう」�A

　「ガーズ（一二六〇年）の年に神の教導の木が植えられるであろう」�A

　　　 これらの予言はすべて、一八四四年を指しているのである。もっとも興味深い予言のひとつは旧約聖書

　に見つかった。ユダヤ人が神にしたがわなければ、主は七度罰するであろうというモーゼの警告である。

　「わたしはあなたがたを七度罰するであろう……。わたしはあなたがたの町々を荒地とし、あなたがたを

　異教徒の間に散らすであろう……」�B

　　　 この警告にもかかわらず、ユダヤ人たちは従順でなかった。その結果、予言どおりとなった。七度は予

　言では七年のことである。一日を一年として計算するえば、合計二五二〇年となる。

　　 ウィリアム・ミラーは、自著の中で説明している。

　「紀元前六七七年にユダヤ人の第一回バビロン幽囚があったが、これは七度、または七年の予言期間であ

　る。二五二〇年から紀元前六七七年を引くと一八四三年となる……」

　　　 ほかの研究家たちは、最初の幽囚よりキリストの誕生まで六七六年であるから、出現の時は一八四四年

　であり、一八四三年ではないと主張した。

　　　 そのほかの研究家たちは、この同じ予言「七度」はダニエル書にも書かれており、二五二〇年をネブカ

　ネザルのときから計算すると一八四四年にはならない。したがって、この日付は間違いであるとした。

　　 ダニエルの予言「七度」は、聖なる神の予言者が地上に出現することを明らかに述べたものである。

　「ひとりの警護者、ひとりの聖者が天から下るのを見たが、彼は声高く呼ばわってこう言った……。七つ

　の時を過ごさせよ」�C

　　　 この予言を調べていた研究家たちの大半は、ネブカデザルの国、イラクの暦では紀元前六〇四年から六

　〇二年にあたると見なした。そのうち何人かが、六〇二年から一八四四年まで二五二〇年あることを発見

　し、この偶然の一致におどろいた。これで、モーゼとダニエルの予言の食いちがいは解決した。

　

　　　 一　 太陽年では紀元前六七六年から一八四四年までは二五二〇年である。

　　　 二　 太陰年では紀元前六〇二年から一八四四年までは二五二〇年である。

　

　　　 ほかにもいろいろと興味深い叙述があるが、その中からいくつかを述べてみたいと思う。中世密教の重

　要な教本『ゾハル』に五六〇〇Ａ・Ｍ（西暦では一八四〇年）に英知の戸が開けられるであろうという予

　言がある。

　　　 ユダ・アルカライは、十九世紀のシオン主義に関して書いた本の中で、一八四〇年代はメシアの時であ

　ると見なした。

　『イスラエルにおけるメシアに関する推論』という著書で、Ａ・Ｈ・シルバーは「一八四〇年は多数の人

　びとによってメシアの年であり、救済のはじまりであると見なされた」と述べている。

　『ヨブ記の注釈』の著者、サイモン・ベン・ゼマ・デュラン（一三六一ー一四四四）は一八五〇年をメシ

　アの年としてあげている。

　　　 シンシナチのセント・ポール教会の牧師、Ｅ・ウインスロップは、『キリスト再来に関する講義（一八

　四三年）』の中でつぎのように述べている。

　「旧・新約聖書の予言から判断すると、キリストはいつなん時到来されるかわからない。したがって、つ

　ねに待ちかまえ、祈りつづけていなければならない。現在生きている世代、あるいは少なくともその一部

　は、われわれの主の予言が、キリストの栄光ある再臨によって、完全に満たされるのを見るかも知れない

　のである」

　

　八　身を起こし、頭をあげよ

　

　　これまで述べてきたもののほかにも、一八四四年に関する予言はまだある。しかし、一八四四年の接近

　とともに興奮と熱望が高まってきた理由を説明するにはこれだけでも十分であろう。

　　当時、人びとの間で論争がたえなかった。予言をどう解釈するかに関して、あちこちで議論が起こった。

　千年期とキリスト再臨をいっさい否定する者も多かった。はげしい論争が新聞、雑誌、パンフレット、演

　説壇で繰り返された。

　　聖書研究家たちの研究調査をたどってみると、一八四四年というおどろくべき年の発見に対するかれら

　の興奮は当然と思える。ついに、キリストの再臨が近づいたということに疑いをはさむ余地がなかったの

　である。

　　ところが、その年がきても、天使にともなわれて雲に乗って降りてくるキリストの姿は見られなかった。

　ラッパも響かなかった。死人は墓よりよみがえらず、星も天より落ちてこなかった。そして太陽もとつぜ

　ん暗くなることはなく、月も血と化さなかった。それだけに、キリスト再臨を待望してきた人たちの失望

　と幻滅も大きかった。かれらはあわてて計算のやり直しをし、再調査にかかった。

　　キリストの再臨をまったく無視してきた人たちは、かれらの困惑を見ておもしろがった。

　「キリストは羊と山羊を分けるために現われなかったのではないか。世の終わりは作り話に過ぎないのだ。

　地球は以前と同じようにまわっており、われわれはいつもと同じように生活しているではないか」

　　キリスト再臨を信じる人たちは、「そのような態度こそがキリスト再臨のしるしなのだ。ノアのときも

　人びとは飲み食いしていたではないか」と反発したが何の役にも立たなかった。

　　 わたしは、この百年前の難問の解決に犯罪学の基本的テクニックがあてはまることに気がついた。たく

　さんの証拠が、すべて同じ結論に達しても、その結論があやまっている場合がある。しかし、そうであっ

　ても証拠までも捨ててしまうのは賢明ではないのである。恐らく、証拠は正しいが、解釈の仕方がまち

　がっているのかも知れないのである。それに、まったく異なった結論を導き出すことも可能なのである。

　　　 わたしは、この考えを応用することにした。わたしがやりたかったことは、キリスト再臨説者の考えを

　正当化することではなく、ただ一八四四年に起こった出来事の主流をたどることであった。

　　予言の確実性とそれが実現されたことについてはもう疑いはない。では一体何が起こったのであろうか。

　キリストはつぎの三つの約束が満たされるとき再臨すると予言した。

　

　　 一　 キリストの福音が全世界宣べ伝えられるとき

　　 二　 「異教徒の時期」が終るとき

　　 三　 ダニエルが語った「聖地を荒す憎むべき者」を人類が見るとき

　

　　 キリストはこのようにも語っている。

　「これらの事が起こりはじめたら、身を起し頭をもたげなさい。あなたがたの救いが近づいているのだか

　ら……」�@

　　　 わたしは、もはやこの調査を中止するわけにはいかなかった。現在の新聞編集長たちが、もっともドラ

　マチックなニュースの見出しとして『キリストの再臨』を選んだことを考えれば、あらゆる証拠がそろっ

　ていた当時では、どれほどセンセーショナルなものであったであろうか。

　　　 しかし、何かがどこかで見落とされているようである。キリストの再臨に関する予言は、第一回の出現

　に関するものより百倍も豊富で力強いものなのである。

　　　 一八四四年には新しい精神が文学、音楽、芸術、教育、医学、発明などに注ぎ込まれた。キリスト再臨

　に関するあらゆる予言が集中しているのもこの年である。

　　　 キリストの最初の出現の場合と同じように、第二回目も事実が認められるのに三百年を要するのであろ

　うか。だが、わたしの取った方法にしたがえば、それほどはかからないはずである。わたしには後十二ほ

　どの手がかりがあり、そのうちの一つが真実を明るみに出してくれるかも知れないからである。

　九　白い石の神秘

　

　　　 行方不明になった人をさがす場合、手がかりはかなりあるはずである。その人の名前や最後に居た場所

　は容易に入手できよう。また、家族の人たちも、その人についてくわしく語ってくれるであろう。

　　　 しかし、わたしがさがしている人の場合、それほど簡単ではなかった。第一、事件が起こってから百年

　以上もたっていた。それに、行方不明のメシアの人物についてくわしく語ってくれる人はだれもいなかっ

　たからである。

　　　 その上、予言は矛盾し合っていた。予言の多くは一八四四年を指していたが、キリストが期待どおりに

　再臨しなかったため、予言は実際に起った事件に合わせて再整理されていたのである。つまり、第一次世

　界大戦や大不況や第二次世界大戦、そして将来起るであろう大災難に合わせて解釈されていた。

　　　 その上、世界各地でメシアが待望されており、ヨーロッパでは白人、アフリカでは黒人、東南アジヤで

　は黄色人、南洋諸島では茶褐色人と、おのおの異なった皮膚の色をしたメシアを期待していた。

　　　 さらに困ったことは、欧米ではキリスト教徒、インドではヒンズー教徒、中国では仏教徒、イスラエル

　ではユダヤ教徒、アラブ諸国ではイスラム教徒などと異なった宗教に属するメシアが出現することになっ

　ていたことである。

　　　 したがって、新しい手がかりが見つかったときは、うれしさで一杯になった。というのは、この手がか

　りは、新しいメシアはどのような名前では出現しないかを明らかにしてくれたからである。もちろん、か

　れの名が何であるかはまだわからなかった。

　　　 千年期喪失事件の探偵としてわたしのすべきことは、複雑な学説に巻き込まれることではなかった。単

　に一八四四年に何が起ったかを見つけだすことであった。その年に実際メシアが出現したかどうかを明ら

　かにすることだけであった。

　　　 メシアの名前に関してわかったことは、それがクリシナ、モーゼ、仏陀、ゾロアスター、キリスト、モ

　ハメッド、あるいはこれまでに知られた名前のいずれでもないことであった。

　　では、どんな名前で現われるのであろうか。手がかりはマタイとルカの福音書にあった。キリスト自ら

　が「終りの時、キリストという名の下に現われるにせの予言者たちに気をつけよ」と警告していたのである。

　　この手がかりは、キリスト以外の名前で出現する人物を探さなければならないことを暗示するものであ

　る。その人物はキリストと同じ聖霊をもっているが、異なった名前で現われるはずなのである。

　　これを確認する最初の言葉はイザヤ書の六十二章に見つかった。

　「新しい名をもってとなえられる」�@

　　メシアが新しい名をもつとすれば、その信者も新しい呼び方で呼ばれるにちがいない。つまり、キリス

　ト教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒などとして知られている人たちの間には新しいメシアの信者はいない

　ことになる。

　　　 明らかに、キリストの最初の出現のときと同じことがくり返されるであろう。当時、キリストに従う者

　は、新しい名のキリスト教徒と呼ばれた。キリストの到来を待望してきたのはユダヤ教徒であったが、キ

　リストの信者はユダヤ教徒とは呼ばれなかった。

　　イザヤ書にも、終りの時に現われるメシアに従う人は、異なった名で呼ばれることがつぎのように明ら

　かにされている。

　「主なる神は……おのれのしもべたちをほかの名をもって呼ばれる」�A

　　さらに、新約聖書の黙示録にも、新しい名が約束されていることがわかった。

　「勝利を得る者には、隠されいるマナをあたえよう。また、白い石をあたえよう。この石の上には、これ

　を受ける者のほか、だれも知らない新しい名が書いてある」�B　

　　　 新約聖書には、それを受ける者以外はだれもその名を知らないであろうという警告がある。これを見る

　と、キリストの最初の出現のときよりも、再臨のときの方が、新しい名を受け入れるのが困難ではないか

　と思われる。

　　キリストが最初現われたとき、かれを受け入れたのはほんの少数の人であった。そして、キリスト教徒

　という名が一般に受け入れられるようになったのは、何世紀もたってからであった。キリスト再臨のとき

　も同じことが起こる可能性は大いにありそうだ。

　　黙示録三章には新しい名に関する叙述がいくつも見いだされた。

　

　　　 一　 「……彼の上にわたしの新しい名を書きつけよう」�C

　　　 二　 「わたしの父と御使いたちの前で、その名を言いあらわそう」�D

　　　 三　「わたしは、その（新しい名）をいのちの書から消すようなことは決してしない」�E

　　　 四 「聖なる者、まことなる者、ダビデのかぎを持つ者がつぎのように言われる。……わたしは、あなた

　　　　　　　 の前に、だれも閉じることのできない門を開いておいた。なぜなら、あなたには少ししか力がなかっ

　　　　　　　 たにもかかわらず私の言葉を守り、私の（新しい）名を否まなかったかである」�F

　　　 五　 「耳のある者は聞くがよい……」�G

　

　　以上の句は、キリストは、聖なる人物、まことのメシア、かぎを持つ者として現われ、かれの新しい名

　を否定しない者にはすべて門を開いてくれることを説明するものである。

　　 わたしは、この「開いた門」について調べることにした。

　

　十　 貧しき富める人

　

　　　 この新しい名に関する手がかりは、注意深い研究を要した。キリスト自らも、人びとが予期しない方法

　で、予期しない時間に再来し、新しい名で現われる自分を認めるのは困難であろうと警告していた。かれ

　は、新しい名を約束したのと同じ章でこう語っていた。

　「もし目をさましていないなら、わたしは盗人のように来るであろう。どんな時にあなたのところに来る

　か、あなたには決してわからない」�@

　「キリスト」という名に執着して、新しい名を否定する者らにかれはつぎのように警告した。

　「わたしはあなたのわざを知っている。すなわち、あなたは、生きているというのは名だけで、実は死ん

　でいる」�A

　　　 わたし自身もキリスト教徒として｢新しい名」という考えに好感がもてなかった。しかし、これまでわた

　したちが教えられてきたこととは反対に、この新しい名については、旧・新約聖書にはっきりと述べられ

　ていたのである。そして、キリスト教徒は、キリスト再臨のときには、それまで愛着してきたものをすべ

　て捨てて、新しい名を受け入れる用意をしなければならないことを、明白に警告されていたのである。

　　　 キリストの再臨は、人間の基準や信念や期待にそわないこと、各自が自分の力で真実を探し求めなけれ

　ばならないことも、はっきりと述べられていた。

　　　 わたしは、新約聖書の最後の書である黙示録におどろくべき事実を発見した。第二章と第三章の中で、

　キリストの再臨の認めるには精神的視力と真理を聞く耳が必要なことがくり返し強調されていたのである。

　

　　　 一　 「……悔い改めなければ、わたしはあなたのところにきて、あなたの燭台をその場所から取りのけよ

　う」

　　　 二　 「耳のある者は聞くがよい……」

　　　 三　 「……いのちの冠をあたえよう」

　　　 四　 「耳のある者は聞くがよい……」

　　　 五　 「わたしはすぐあなたとのところに行き……」

　　　 六　 「耳のある者は聞くがよい……」

　　　 七　 「わたしが来る時まで、自分の持っているものを堅く保っていなさい」

　　　 八　 「耳のある者は聞くがよい……」

　　　 九　 「もし目をさましていないなら、わたしは盗人のように来るであろう」

　　　 十　 「……どんな時にあなたのところに来るか、あなたには決してわからない」

　十一　　 「勝利を得る者はこのように白い衣を着せられるのである。わたしは、その名をいのちの書から消す

　　　　　　　 ようなことを決してしない」

　十二　　 「耳のある者は聞くがよい……」

　十三　　 「地上に住む者たちをためすために、全世界に臨もうとしている試練の時に、あなたを防ぎ守ろう」

　十四　　 「わたしは、すぐに来る」

　十五　　 「わたしの新しい名とを書きつけよう」

　十六　　 「耳のある者は聞くがよい……」

　十七　　 「わたしはあなたのわざを知っている。あなたは冷たくもなく、熱くもない」

　十八　　 「あなたを口から吐き出そう」

　十九　　 「あなたは、自分は富んでいて、なんの不自由もないと言っているが、実は、あなた自身がみじめな

　　　　　　　 者、貧しい者、目の見えない者であることに気がついていない……」

　二十　　 「……熱心になって悔い改めなさい」

　二一　　 「見よ、わたしは戸の外に立って、たたいている」

　二二　　 「だれでもわたしの声を聞いて戸をあけるなら、わたしはその中にはいって……」

　二三　　 「耳のある者は聞くがよい……」

　

　　　 見る目があり、聞く耳がある者だけが新しい名を受け入れ、理解できることは、これでほとんど疑いを

　はさむ余地はないようである。

　

　十　 目をくらます光

　

　　　 これでメシアは新しい名をもって再来することが確認できたが、それだけではわたしは満足できなかっ

　た。事実を探している探偵にとって、メシアが新しい名で呼ばれるということだけでは十分でないのであ

　る。わたしは、当然のことながら、メシアの新しい名を知りたかった。そこで聖書を注意深く調べてみた。

　　　 すばらしい結果がでた。ついにわたしは約束の人の名を発見することができたのである。その名は、世

　の終わりの予言と関連して何度となく出てきていた。それは「神の栄光」または「主の栄光」であった。

　　　 イザヤは終わりの時、シャロンの平野と聖なるカルメル山が「主の光」の中心になるであろうと予言し

　ていたのである。

　「……カルメルおよびシャロンの麗しさがあたえられる。彼らは主の栄光を見、われわれの神の麗しさを

　見る」�@

　　イザヤは、神は「東より正義の人を起ち上がらせるであろう」と約束した章の前の章でもつぎのように

　予言していた。

　「こうして主の栄光が現われ、人は皆ともにこれを見る。これは主の口が語られたのである」�A

　　そして、つぎの章でかれは警告の言葉を付け加えた。

　「耳しいよ、聞け。目しいよ、目を注いで見よ」�B

　　一八四四年の千年期研究家たちの中には、イザヤ書に予言されている「主の栄光」がカルメル山に出現

　することを確信して、家屋財産を一切売り払い、聖地イスラエルに向かったグループがあった。

　　このグループはドイツのテンプラーというキリスト教の一派に属する人たちで、指導者はレオナルド・

　ケルベルという人であった。かれらはカルメル山のふもとに住居をかまえ、家の入口の上部に「主は近

　し」という言葉をドイツ語で刻んでキリストの再臨を待ったのである。それは現在も見ることができる。

　「主の栄光」または「神の栄光」は、終わりの日に出現するメシアの新しい名であることが聖書のほかの

　個所からも明らかになった。黙示録から「異邦人の時期」の終わりが一八四四年（一二六〇年）であるこ

　とはすでに述べた。同じ黙示録に、新しい都市が約束され、その都市の中心の光である人物の名が確認さ

　れている。

　「また、聖なる都、新しいエルサレムが天から下って来るのを見た……。都は、日や月がそれを照らす必

　要がない。神の栄光が都を明るくしたからである」�C

　　キリストも自分の再臨とこの不思議な人物「神の栄光」または「主の栄光」と結びつけて語った。

　「人の子は父の栄光のうちに来るが……」�D

　　キリストが約束した「神の栄光」と、聖ヨハネとイザヤの幻に出てきた「神の栄光」、およびエゼキエ

　ルの見た幻も同じである。エゼキエルは「神の栄光」を何度か見たが、それを終わりの時にあらわれる約

　束の人と関連づけた。

　「主の栄光の形のさまは、このようであった。わたしはこれを見て、わたしの顔をふせた……」�E

　　この同じ「神の栄光」はダニエルにも現われている。ダニエルが終わりの時に関する幻を見たとき、か

　れを助けにきた王子、ミカエルについて語っているのである。ダニエルはこの幻を見たとき、その栄光に

　耐えることができなかった。

　「わたしは、地にひれ伏して黙っていた……」�F

　　　 ミカエルという言葉は「神に似た人」という意味である。このようにダニエルも「神の栄光」を見たの

　である。

　　ダニエルが見たこの人物は、終わりの時にあらわれる人物（キリストの再臨）と同人物と思わせる言葉

　も見つかった。

　　 キリストは再臨時の条件をつぎのようにはっきり述べている。

　「……人の子が天の雲に乗って来るのを人々は見るであろう」�G

　　　 これと同じ光景がダニエルの最後の日に関する幻の中で現われていたのである。そのときほとんど同じ

　言葉が使われていた。

　「人の子のような者が、天の雲に乗ってきて……」�H

　　それだけではなく、ダニエルは同じ章で、それが起る時間も予言していた。

　「ひと時とふた時と半時の間」�I

　　　 ここでも一二六〇日、四二ヵ月、三年半と同じ時期を示す予言「ひと時、ふた時と半時の間」（一二六

　〇）が記されているのである。

　　　 聖書研究家たちは、これらの予言がすべて一二六〇年であると判断した。ダニエルが幻を見た場所であ

　るペルシャの暦では一二六〇年は西暦一八四四年であることはすでに述べた。

　　このように、ダニエルとキリストは二人ともに、「人の子」の出現を約束していた。ダニエルは自分の

　見た幻の栄光に圧倒され、地に伏したほどであった。

　　そのほか、「神の栄光」に関する予言は多数あるが、そのいくつかをイザヤ書から引用してみよう。

　「主の栄光はあなたのしんがりとなる」�J

　「起きよ、光を放て。あなたの光が臨み、主の栄光があなたの上にのぼったから。そして主なるわたしが、

　あなたの救主、又、あなたのあがない主……」�K

　　これでキリストは再臨のとき「主の栄光」または「神の栄光」として知られるという証拠が十分集まっ

　た。わたしは満足した。「キリスト」は、最初の出現のときの名で、再臨のときは「神の栄光」と呼ばれ

　るということがわかった。

　

　十二　 だれも読むことができない

　

　　ここでわたしが不思議に感じたことは、どうして一八四四年以前にもっと多くの人びとが再臨に関して

　調べなかったかということであった。二千年近く調べる期間があったはずである。聖書研究家たちは、二

　千年もキリストの再来に関して盲目であったのであろうか。もしそうであったとすれば、かれらの無関心

　はキリストの責任ではないであろう。

　　 調査の結果、キリストはくり返し人びとに警告していたことがわかった。

　「目をさましていなさい。いつの日にあなたがたの主がこられるのかあなたがたにはわからないからであ

　る」�@

　「気をつけて目をさましていなさい。その時がいつであるか、あなたがたにはわからないからである」�A

　「だから目をさましていなさい。いつ、家の主人が帰って来るのかわからないからである……。あるいは

　急に帰ってきて、あなたがたの眠っているところを見つけるかも知れない……」�B

　「このことをわきまえているがよい。家の主人は、盗賊がいつごろ来るかわかっているなら、自分の家に

　押し入らせはしないであろう。あなたがたも用意していなさい。思いがけない時に人の子が来るからであ

　る」�C

　　　 以上はキリストの警告の言葉から一部を引用したものである。かれは弟子にだけでなく、全人類に向

　かって警告していた。

　「目をさましていなさい。わたしがあなたがたに言うこの言葉はすべての人々に言うのである」�D

　　　 わたしが疑問に思ったことは、どうしてキリスト再臨に対する関心が、かれの死後二、三百年たって消

　え、その後十九世紀になってふたたび新たな熱意をもって取り上げられたかということであった。

　　くわしく調べていくうちに、その答えは聖書のなかに見つかった。旧約聖書と新約聖書にその理由が述

　べられていた。両書ともに「終わりの時」まで聖書は封じられており、だれも予言の意味を理解できない

　とはっきり書かれていたのである。

　　　 答えはそれほど簡単なものであった。聖書は最後の日まで封じられていること、そして、そのときが来

　たとき、封は開けられることが、ダニエル、ペテロ、パウロによって説明されていたのである。

　　終わりの時は一八四四年に到来したことは前述した。したがって、それまでにかくされてきた聖書の意

　味はもう明らかにされなければならない。

　　ダニエルはおどろくべき正確さでキリストの第一回の出現と第二回の出現を予言した。かれは、メシア

　が三十代で断たれること、そして同じ人の子の聖霊が一八四四年に再臨することを述べていた。しかも、

　一八四四年までは、だれもこの予言の意味を十分に理解できなかったのである。ダニエル自身にもわから

　なかった。なぜであろうか。

　　ダニエルは、自分の見た不思議な幻の意味を神に聞いた。その問に神はこう答えた。

　「ダニエルよ、あなたは終わりの時までこの言葉を秘し、この書を封じておきなさい」�E

　　かれはこの答えに満足できず、ふたたび神に問うた。

　「わが主よ、これらの事の結末はどんなでしょうか」�F

　「ダニエルよ、あなたの道を行きなさい。この言葉は終わりの時まで秘し、かつ封じておかれます」�G

　　これは、聖書にある予言は終わりの時までだれも理解することができないという意味である。

　　イザヤもこの見方を支持していた。

　「それゆえ、このすべての幻は、あなたがたには封じた書物の言葉のようになり……」�H

　　 イザヤはつづけて、学問のある人でさえ終わりの時まで聖書の意味は理解できないことをはっきりさせた。

　「……人々は学問のある者にわたして『これを読んでください』と言えば、『これは封じてあるから読む

　ことができない』と彼は言う」�I

　　新約聖書のパウロもこのことを確認していた。

　「……主がこられるまでは、何事についても、先走りをしてさばいてはいけない。主は暗い中に隠れてい

　ることを明るみに出し……」�J

　　このように、キリストが再臨するとき、すべてが明るみに出されるのである。ペテロも同じような警告

　をあたえて、キリスト再臨までは、自分たちの限られた理解力で予言を解釈しないようにと忠告している。

　「こうして予言の言葉は、わたしたちにいっそう確実なものになった。……聖書の予言はすべて、自分勝

　手に解釈すべきでないことを、まず第一に知るべきである」�K

　　ペテロはつづけて予言が唯一の源（神）から出たものであり、解釈も唯一の方法でしかできないことを

　説明した。

　「なぜなら、予言は決して人間の意志から出たものではなく、人々が聖霊に感じ、神によって語ったもの

　である」�L

　　以上から、終わりの時にキリストが再臨するまでは、予言の意味はかくされ、真理への道はどざされた

　ままであることにはもはや疑いはないようである。

　　キリスト自身、聖書の封を開けようとしなかった。その仕事は未来の日のために残しておいたのである。

　その代わりに、寓話やたとえ話を用いて秘められた意味を語った。そして、未来、人の子が「御父の栄

　光」として現われるときには、比喩ではなく、率直かつ明確に語るであろうと約束した。

　「わたしはこれらのことを比喩で話したが、もはや比喩で話さないで、あからさまに、父のことをあなた

　がたに話してきかせる時が来るであろう」�M

　　同じ章で、キリストは真理の聖霊が現われることを予言した。

　「あなたがたにすべてのことを教え、またわたしが話しておいたことを、ことごとく思い起こさせるであ

　ろう」�N

　　このように、キリストも新しいメシアが到来するとき、聖書の封を開け、かくされた意味を明るみに出

　すことを約束している。もし、一八四四年にキリストが再臨したのであれば、当時の人びとの熱狂ぶりも

　理解できるようである。

　

　十三　 神秘の春季

　

　　　 さて、ここでわたしは聖書からはなれて自分の説を試すことにした。一八〇〇年代の歴史を調べてみる

　と、一八四四年以来、発明・発見が急速に増加してきたことが明らかとなった。すでに述べたブラック卿

　が作成した図表が正確であることには疑いがなかった。わたしは、たまたまアメリカの特許局の役人が書

　いた報告書を読むことができたが、そこには、「価値あるものはすべて発見された。もう特許局は閉局し

　てもよいと思う」とあった。ところが、その直後、特許局は新しい発明と発見であふれだしたのである。

　　 一八四四年後には社会面でも飛躍的な進歩があった。そのうちのいくつかをつぎに挙げてみよう。

　

　　 一　 女性の権利に関する最初の大会

　　 二　 一般教育に関する最初の大会

　　 三　 未成年労働を禁止する最初の対策

　　 四　 米国で奴隷解放宣言書に署名

　　 五　 医学、文学、音楽、美術の面での飛躍的進歩

　

　　 つぎに膨大な数にのぼる発明発見の一部をリストにしてみた。

　　　 一八四四年の電信機と硬化ゴム、一八四五年のターレット旋盤、一八四六年の輪転印刷機、一八五四年

　のエレベーター、一八五五年のガス燃焼器、一八五八年の大西洋海底電信、一八六七年のタイプライター

　とダイナマイト、一八六九年のエアブレーキ、一八七六年の電話、一八七七年のガス機関、一八七八年の

　白熱電燈、一八七九年のアーク燈、一八八〇年の遠心クリーム製造機、一八八四年の万年筆と電車と金銭

　登録器、一八八五年の自動車と鋳込み植字、一八八八年のフィルムと写真、一八九一年の装甲鋼板、一八

　九二年のディーゼル式機関、一八九三年の映画とコークス製造ガマ、一八九九年の無線電信、一九〇三年

　の飛行機。

　　そのほか、熱力学、蒸気力、電磁気学、冶金学、電力、ガス燈、電燈、高速印刷機、石版術、レントゲ

　ン、消毒外科術、細菌学、医学、薬学、麻酔薬、汽船、鉄道、運河建設なども急速に発達してきた。

　　　 細菌学や医学の分野でもリスターやコッホ、パスターなどの貢献で急速に発達した。冶金学では英国の

　ソービィ、ロシヤのチェルノフが活躍した。

　　科学面だけではなく、芸術面でもすぐれた芸術家が現われた。音楽面ではショパン、シューベルト、

　チャイコフスキー、ブラームスなどの作曲家が活躍した。文学面ではエマーソン、トルストイ、フィッツ

　ジェラルド、テニソン、ローウェル、ウィットマン、ジェームス、ディケンズ、ソーロー、ドストエフス

　キーなど、著名な文学者の名前をあげればきりがないほどである。

　　こういった発明や発見、そして芸術の発達によって、人びとの生活は豊かになりはじめた。その過程は

　現在までとどまることなくつづいてきている。

　　ジェット機、新幹線、豪華船、冷暖房、ラジオ、テレビ、新聞、雑誌、書物、電話、電信、コンピュー

　タ、教育施設、旅行などにより人びとの生活観は革命的に変化し、知識と情報はおどろくべき速度でまし

　てきた。

　　　　　　　 このような急激な変化は、ダニエルが終わりの時に関して予言していた。かれは、神に似た人物である

　ミカエルの到来と、その時期が一八四四年であること、そして聖書の封が開かれることを予言したが、同

　じ章でつぎのことも予言していた。

　「多くの者はあちこちと走りまわり、そして知識が増すでしょう」�@

　　　　　　　 さて、イザヤ書の二十九章には聖書は封じられるが、終わりの時に封が開かれるとある。

　

　　　　　　　 一　 封じられる。

　「それゆえ、このすべての幻は、あなたがたには封じた書物の言葉のようになり、人びとはこれを読むこ

　とのできる者にわたして、『これを読んでください』と言えば、『これは封じてあるから読むことができ

　ない』と彼は言う」�A

　　　　　　　 二　 封が開かれる。

　「その日、耳しいは書物の言葉を聞き、目しいの目はその暗やみから見ることができる。……心のあやま

　れる者も、悟りを得、つぶやく者も教えを受ける」�B

　

　 ダニエル書にも同じようなことが書かれている。

　 一　 封じられる。

　「ダニエルよ、あなたの道を行きなさい。この言葉は終わりの時まで秘し、かつ封じておかれます」�C

　 二 　封が開かれる。

　「わたしが見ていると、もろもろのみ座が設けられて、日の老いたる者が座しておられた。……彼に仕え

　る者は千々、彼の前にはべる者は万々、審判を行なう者はその座に着き、かずかずの書き物が開かれた」�D

　　　　　　　 このダニエルの最後の約束は、「人の子のような者が天の雲に乗ってくる」と述べたのと同じ章であた

　えられているものである。

　　　　　　　 黙示録は、これに関する疑問を最終的に解いたと思われる。黙示録のテーマは、キリストの再臨につい

　てであり、終わりのと時に書物（聖書）の封は開かれ、ふたたび封じられることはないであろうと書かれ

　ているのである。

　「この書の予言の言葉を封じてはならない。時が近づいているからである」�E

　ダニエル書同様、黙示録も書物の封が開かれる時に、人の子が再来することをくりかえし述べている。

　「また見ていると、見よ、白い雲があって、その雲の上に、人の子のような者が座しており……」�F

　　 黙示録はつづけて終わりの日に現われる神の子羊について述べた。

　「あなたこそは、その書物を受けとり、封印を解くにふさわしいかたであります」�G

　　以上から、なぜキリスト再臨への関心がかれの死後消え去り、なぜふたたび一八四四年に、異常な熱意

　をもって取り上げられたかとというわたしの問いに対する解答が得られたと感じた。

　　何かが一八四四年に起こったことは確かである。わたしの仕事はそれが何であったかを探し出すことで

　あった。　　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　 キリストは本当に再臨したのであろうか。地上のどこに現われたのであろうか。現代のわたしたちはそ

　れに気づかなかったのであろうか。キリストの最初の出現のときと同様、わたしたちも同じ誤りを犯して

　いるのであろうか。 封ぜられた書を読み、そこに書かれている予言を誤解しているのではないであろうか。

　　　　　　　 ダニエルと同様、わたしも満たされなかった。もっと情報が欲しかった。これまでにわかったことはき

　わめて興味深いけれども十分とはいえないのである。ダニエルの「これらの事の結末はどんなでしょう

　か」の答えをわたしもどうしても知りたいと思った。

　

　十三　生きている人間と死んでいる人間

　

　　　　　　　 面白い質問がわたしの頭に浮かんできた。これがキリストの最初の出現時だと仮定し、教会に行ってい

　る人たちや宗教の指導者たちに、「メシアはだれですか。出現しましたか。そうだとすれば、どこに居ま

　すか」と聞いたとすれば、どんな返事がもどってくるであろうか。おそらく、だれもこの質問に答えてく

　れる人はいないであろう。そして、現在も同じであると思った方が論理にかなっているように思えるので

　ある。

　　　　 　　　で、わたしはキリストの最初の出現時の状態をよく調べてみることにした。その結果、聖書から当時の

　人びとが、精神的に死んだ状態にあり、キリストを認めることができなかったことがわかった。ほんの少

　数の人たちだけが精神的に目ざめており、キリストを認め、信じることができたのである。

　　　　　　　 キリスト自らも、自分を信じた者を「生きている」と見なし、自分を認めることができなかった者を

　「死んでいる」とした。ある男はキリストに「わたしの父を埋葬してからあなたに仕えます」といった。

　これにキリストは答えた。

　「死人を葬ることは、死人に任せておくがよい」�@

　　　　　　　 これは精神的に死んだ者に死人を葬らせよ、という意味であろう。わたしは、エレミヤ書の五章にも、

　精神的に死んだ人への言及があることを思い出した。

　「愚かで、悟りもなく、目があっても見えず、耳があっても聞こえない民よ」�A

　　　　　　　 キリストは、当時の人びとがメシヤに期待していたような魔術的な力をもって現われたのではなかった。

　それどころか、かれは拒絶され、にせ予言者と呼ばれて殺されたのである。かれの数少ない弟子たちは、

　「ナザレから来た男を信じるなどナンセンスだ」と一般大衆からあざ笑われた。

　　　　　　　 ナザレのイエスは女から生まれ、ほかの人間と同じような身体をもち、飲み食いし、疲れたり眠ったり、

　悲しんだり怒ったりするふつうの人間ではないか、と人びとはいった。偉大なメシヤはこんな人間である

　はずはない、とかれらは主張した。

　　　　　　　 キリストの弟子たちは、宗教の指導者や政治家や知識人が、キリストのメッセージを受け入れることも、

　理解することもしなかったので苦しんだ。そして「どうしてこれらの人びとは信じないのですか」とキリ

　ストに聞いた。キリストは答えた。

　「あなたがたには、天国の奥義を知ることが許されているが、彼らには許されていない。……この民の心

　は鈍くなり、その耳は聞こえにくく、その目は閉じている。……しかし、あなたがたの目は見えており、

　耳は聞いているから、さいわいである」�B

　　　　　　　 このように、キリストはメシアを認めるためには特別の目と耳が必要であることを説明して、弟子をな

　ぐさめた。弟子は精神的に生きており、ほかの者たちは精神的に死んでいたのである。

　　　　　　　 ユダヤ教徒は、「イエスはメシアではない。もしかれがメシアであれば、エリヤがすでに現われている

　はずだ。エリヤはどこに居るのだ」と弟子につめ寄った。

　　弟子もエリヤが現われるべきことは知っていたが、だれであるかはわからなかったのでキリストに聞いた。

　　　　　　　 キリストは、エリヤはすでに現われているが、弟子さえも認めることができなかったのを悟った。エリ

　ヤは人びとの期待どおりには出現しなかったために、かれらは認めることができなかったのである。イエ

　スは答えた。

　「すべての預言者と律法とが預言したのは、ヨハネの時までである。そして、もしあなたがたが受けいれ

　ることを望めば、この人こそは、きたるべきエリヤなのである。」�C

　　　　　　　 これはおどろくべき説明であった。バプテスマのヨハネがエリヤだったのか。キリストはこう付け加えた。

　「耳のある者は聞くがよい」�D

　　　　　　　 かれはここでも精神的な耳が必要であることを強調した。エリヤの肉体が再来したのではなく、かれの

　精神がバプテスマのヨハネのうちに現われたのである。これを認めるためには内的な目と耳が必要であった。

　　　　　　　 わたしは、ルカによる福音書一章の中にこのことがはっきりと説明されていたことを発見した。

　「母の胎内にいる時からすでに聖霊に満たされており、……彼はエリヤの霊と力とをもって、みまえに先

　立って行くであろう」�E

　　　　　　　 この句は、わたしがキリストの教えの中に見つけたもっとも重要な手がかりであった。メシアが新しい

　名で出現することを確認するものであったからである。キリストはヨハネとエリヤの例で、メシアは同じ

　肉体で再来するのではないことを教えた。再来するのは聖霊であり、各時代に、異なった肉体と名前を

　もって現われるのである。

　　　　　　　 しかし、弟子たちはこのことを理解するのに苦しんだ。かれらはキリストに聞いた。

　「いったい、律法学者たちは、なぜ、エリヤが先に来るはずだと言っているのですか」�F

　　 キリストの答えは簡潔であった。

　「確かに、エリヤがきて、万事を元どおり改めるであろう。しかし、あなたがたに言っておく。エリヤは

　すでにきたのだ。しかし人々は彼を認めず、自分かってに彼をあしらった。人の子もまた、そのように彼

　らから苦しみを受けることになろう」�G

　　エリヤは現われていた。しかし、ヨハネの中の聖霊として出現したためだれも信じることができなかっ

　たのである。人びとは、エリヤの肉体がそのまま再現すると思い込んでいたため、内的な意味を理解する

　ことができなかった。

　　一八四四年に、これと同じことがくり返された可能性が大きい。メシアが現われなかったとだれが断定

　できようか。少数の人たちがメシヤ再来の象徴的な意味を理解していたかもしれない。調べてみる価値が

　ありそうである。

　「終わりの時」の予言の研究家、パブリは『来たるべき世界の大教育者』の中で、この危険性を認めた。

　かれはつぎのように述べている。

　「おそらく、キリスト教会の何人かは、かれ（再臨したキリスト）の英知とこの上もない慈悲深さを見て、

　認めることができよう。しかし、残りの人たちは、キリストは自分たちが想像した衣をまとって到来する

　と主張し、〈神はさまざまな方法で予言を実現される〉ということを忘れるならば、キリストの再臨を認

　めそこなうかもしれない……。最初の出現のとき『かれはユダヤ人としては十分なユダヤ人ではなく、

　ローマ人としては十分なローマ人ではなく、ギリシャ人としても十分なギリシャ人ではなかった。かれは

　全部にとってあまりにも偉大すぎた』。したがって、今度もプロテスタントにとっては十分なプロテスタ

　ントでなく、カトリック教徒にとっても十分なカトリック教徒でなく、自由人にとっても十分にブロード

　・チャーチ（広教会）派ではないであろう。これら全部にとって、かれはあまりにも偉大すぎるであろう。

　かれは全人類のためのメッセージをもって再来し、ヒンズー教徒にとって十分なヒンズー教徒でなく、イ

　スラム教徒にとって十分なイスラム教徒でなく、仏教徒にとっては十分な仏教徒でなく、キリスト教徒に

　とっても十分なキリスト教徒ではないであろう。かれは全部にとってあまりにも偉大すぎるであろう」

　　 キリスト自身も、自らの再来を認めるためには、精神的な視力が必要であると語っていた。

　｢予言者ダニエルによって言われた荒らす憎むべき者が、聖なる場所に立つのを見たならば（読者よ、悟

　れ）……」�H

　　 この最後の句は、かれの再来が外的な視力には明らかでなく、内的な視力が必要なことを示すものであ

　る。ほかの個所でも、メシアはわたしたちの間に現われ、ほかの人間と同じように生活すると述べられて

　いる。

　　　　　　　 わたしは、キリストの再臨を調査する場合、同じ肉体の再現ではなく、同じ聖霊を探さなければならな

　いと確信した。キリスト自らもヨハネの中に現われたエリヤの再来について述べたとき、つぎのように

　語った。

　「人の子もまた、そのようにかれらから苦しみを受けることになろう」�I

　　 わたしは、この章の原稿の終わりに、「耳ある者は聞くがよい」と書き入れた。

　

　十五　 神の代弁者

　　

　　　　　　　 わたしは、キリストが自分以外の人として再臨することに関する手がかりを得たいと思った。かれの予

　言は象徴的に解釈しなければならないことは、かれ自身の言葉でも確認されていた。

　　　　　　　 キリストは自分の再臨について二通りの方法を明らかに示していたことがわかった。つまり、あるとき

　は、自分自身が再臨すること、ほかのときは、自分以外の人物が出現するとを語っていたのである。

　

　　　　　　　 一　かれ自身が再臨すること

　「わたしはあなたがたを捨てて孤児としない。あなたがたのところに帰ってくる」�@

　「わたしは去って行くが、またあなたがたのところに帰ってくる」�A

　「しばらくすれば、あなたがたはもうわたしを見なくなる。しかし、またしばらくすれば、わたしに会え

　るであろう」�B

　「そして、行って場所の用意ができたならば、またきて、あなたがたをわたしのところに迎えよう」�C

　

　　　　　　　 二　自分以外の人物が到来すること

　「しかし、わたしはほんとうのことをあなたがたに言うが、わたしが去って行くことは、あなたがたの益

　になるのだ。わたしが去って行かなければ、あなたがたのところに助け主はこないであろう」�D

　「もし行けば、それをあなたがたにつかわそう。それがきたら、罪と義とさばきとについて、世の人の目

　を開くであろう」�E

　「わたしには、あなたがたに言うべきことがまだ多くあるが、あなたがたは今はそれに堪えられない。け

　れども真理の御霊が来る時には、あなたがたをあらゆる真理に導いてくれるであろう」�F

　「わたしが父のみもとからあなたがたにつかわそうとしている助け主、すなわち、父のみもとから来る真

　理の御霊が下る時、それはわたしについてあかしをするであろう」�G

　　　　　　　 つぎの言葉で、キリストは、自分も再来する人も、人間の姿ではあるが、同じ聖霊の通路であることを

　明らかにした。キリストは自分についてつぎのように述べた。

　「あなたが聞いている言葉は、わたしの言葉ではなく、わたしをつかわされた父の言葉である」�H

　「わたしがあなたがたに話している言葉は、自分から話しているのではない。父がわたしのうちにおられ

　て、みわざをなさっているのである」�I

　　　　　　　 キリストはまた、再来する人物についてもつぎのように語っていた。

　「彼は自分から語るのではなく、その聞くところを語り、きたるべき事をあなたがたに知らせるであろう」�J

　「すなわち、父がわたしの名によってつかわされる聖霊は、あなたがたにすべてのことを教え、またわた

　しが話しておいたことを、ことごとく思い起こさせるであろう」�K

　　　　　　　 キリストはエルサレムの人びとに、自分を否定したゆえに、再来の時まで自分を信じる機会を失った、

　と警告した。つぎの句でも、自分と再来する人物との関係を明らかにした。

　「わたしは言っておく、『主の御名によってきたる者に、祝福あれ』とおまえたちが言う時までは、今後

　ふたたび、わたしに会うことはないであろう」�L

　　　　　　　 キリストが自分自身の再臨を語るときは、自分の中にある聖霊の再現を語るのであり、ほかの人物が現

　われるというときには、キリスト以外の新しい名をもった人ではあるが、同じ聖霊がその人の中にあるこ

　とを示しているのである。

　　　　　　　 ほかの句でキリストは、重要なのは肉体ではなく、神の使者がもたらす聖霊であることを強調した。

　「神は霊であるから、礼拝をする者も霊をまことをもって礼拝すべきである」�M

　　　　　　　 聖霊が、来たるべきメシアまたは神の使者のうちに再現するという予言は、ほかの聖典にもはっきりと

　書かれていることがわかった。たとえば、ヒンズー教の聖典にはつぎのような予言がある。

　「おお王子よ、世の中の道徳と正義がすたれ、邪悪と不正が君臨するとき、主であるわたしは現われ、見

　える姿となってふたたび訪れ、人間としてほかの人びとと交わり、わたしの影響と教えで、邪悪と不正を

　ほろぼし、道徳と正義を再建する。今までにわたしは何度も現われた。これからもまた何度も現われるで

　あろう」

　　　　　　　 同じ書の中には終わりの時に偉大な世界の教育者が現われることが予言されている。

　　　　　　　 仏陀も聖霊の再来について明確に述べていた。

　「わたしは地上に現われた最初の仏陀ではない。また、最後でもない。時がくれば、世界にほかの仏陀、

　聖なる人、最高に啓発された人、比類なき人類の指導者が立ち上がるであろう。かれは、わたしがあなた

　に教えたのと同じ永遠の真理を現わすであろう」

　　　　　　　 キリストは同じ肉体で再来したのではなく、同じ聖霊が異なった人の中に現われている可能性はあった。

　事実、それがすでに起ったと思わせる証拠がありすぎるようであった。

　　　　　　　 わたしは、一八四四年ごろの歴史を調べて、キリストのような聖なる人物が、異なった名で現われな

　かったかどうかを確かめることにした。その人物は、キリストと同じやさしさ、親切さ、愛を示さなけれ

　ばならない。

　　　　　　　 しかし、ひとつだけまだわからないことがあった。それはメシアが出現する場所であった。世界のどの

　地方から現われるのであろうか。

　　　　　　　 おどろいたことに、わたしの知っているキリスト教徒の人たちのほとんどは、キリストが再臨するなど

　信じていなかったのである。信じていたとしても、宗派によって再臨に対する見方もさまざまに異なって

　いた。わたしは、自分の力で調べる以外に方法はないと思った。

　

　十六　 ひとりの羊飼いと多くの群れ

　

　「世界キリスト教会議、キリストの再臨に関しふたつに分裂し、決議不可能となる」

　　　　　　　 この見出しは架空のものではない。一九四五年八月二六日のシカゴ・トリビューン紙の第一面に出たも

　のである。これは、四八カ国から一六三のキリスト教の宗派が集まってイリノイ州のエヴァンストンで開

　催された世界キリスト教会議の記事である。ジャーナリストのチェスリー・マンリーは、つぎのように報

　告した。

　「昨日、第二回キリスト教会議の代表たちは、神のみ国の建設に対するキリスト教徒の願いは、この世で

　実現されるか、またはキリスト再臨の後にのみ実現されるかどうかについて討議したが、かれらの間には

　いちじるしい意見の対立があった」

　　　　　　　 キリストの誕生から二千年近くたった現代でも、キリスト教徒の間で、キリストが実際に再臨する約束

　をしたかどうかについて意見が一致していないのである。新聞記事によれば、著名な神学者や牧師は、キ

　リストの再臨について報告書を提出したが、英国国教会の代表、ジョージ・ゴイダーは、その態度がなま

　ぬるいと非難してかれらの面目をつぶした、とある。

　　　　　　　 ゴイダーは、かれらの報告は、キリスト再臨の日時について好奇心をもっているだけだと述べ、つぎの

　ように言明した。

　「われわれが必要とするものは、キリストの新たな独立宣言である。歴史上、この世界にこれほどの混沌、

　混乱、絶望は存在しなかった」

　　　　　　　 タイム誌も、この大会に集まった代表が世界の望みであるキリストについて討議した際、問題はないよ

　うに見えたが、ヨーロッパと米国の代表間で対立が見られたと記している。

　『黙示録の関連性』という本の中で、H・H・ローレイは、「キリスト再臨の望みは新約聖書に欠くことの

　できない思想である」と述べた。

　　　　　　　 Ｏ・カルマンは、『新約聖書によるキリストの再臨』という本の中で、「この望みを否定することは、

　新約聖書の救済のメッセージを骨抜きにすることである」と書いている。

　　　　　　　 英国の婦人参権論者、クリスタベル・パンクハーストは、『見よ、かの人来たる』という著書の中で、

　「わたしの現実的かつ政治的な目で見ると、神の計画（キリストの再来）は、世界の国際・社会・政治問

　題などを解決することのできる唯一のものである」と述べている。

　　　　　　　 わたしは、キリスト再臨に関する討論が何世紀もつづいて来ていること、そして、世界キリスト教会議

　は、もうひとつの不和の証拠にすぎないことを知った。

　　　　　　　 そのほかにも、キリスト教研究家たちによるさまざまな意見があるが、わたしはかれらの矛盾し合った

　意見に影響されずに、独自に調査していくことにした。

　

　十七　 誤りなきしるし

　　　　　　　 調査を進めていくうちに、聖書の中には、キリストの再臨についておびただしい数の予言が記録されて

　いることがわかった。また、それらは力強い言葉で語られていた。

　 キリストの弟子は、キリストが再臨を約束していることを十分知っていたが、もっとくわしく知りたいと

　思い聞いた。

　「あなたがまたおいでになる時や、世の終わりには、どんな前兆がありますか。」

　　キリストはこの質問に答えて、三つの条件を出したことはすでに述べた。

　

　　　　　　　 一　 御国の福音が全世界に宣べ伝えられるとき

　　　　　　　 二　 異邦人の時期が満ちるとき

　　　　　　　 三　 予言者ダニエルによって言われた荒らす憎むべき者が聖なる場所に立つとき

　

　　　 以上の三つの約束は、ペンテコステ（五句節）のときまでにはいずれも実現しなかった。キリストは自

　分の再臨についての質問に、つぎのように答えている。

　　　 一　　　　　　　　　　　　　　　　　 「そしてそれから最後がくるのである」�@

　　　 二　　　　　　　　　　　　　　　　　 「ちょうど、いなずまが東から西にひらめき渡るように、人の子も現われるであろう」�A

　　　 三　　　　　　　　　　　　　　　　　 「そのとき、人の子のしるしが天に現われるであろう」�B

　　　 四　　　　　　　　　　　　　　　　　 「人の子が天の雲に乗って来るのを、人々は見るであろう」�C

　　　 五　　　　　　　　　　　　　　　　　 「そのように、すべてこれらのことを見たならば、人の子が戸口まで近づいていることを知りなさ

　い」�D

　　　 六　　　　　　　　　　　　　　　　　 「人の子の現われるのも、ちょうどノアの時のようであろう」�E

　　　 七　　　　　　　　　　　　　　　　　 「人の子の現われるのも、そのようであろう」�F

　　　 八　　　　　　　　　　 　　　　　　　「いつの日にあなたがたの主がこられるのか、あなたがたには、わからないからである」�G

　　　 九　　　　　　　　　　　　　　　　　 「思いがけない時に人の子が来るからである」�H

　　　 十　　　　　　　　　　　　　　　　　 「主人が帰ってきたとき、そのようにつとめているのを見られる僕は、さいわいである」�I

　十一　　　　　　　　　　　　　　　　　　 「その僕の主人は思いがけない日、気がつかない時に帰ってくるであろう」�J

　十二　　　　　　　　　　　　　　　　　　 「そのとき、大いなる力と栄光とをもって、人の子が雲に乗ってくるのを、人々は見るであろう」�K

　十三　　　　　　　　　　　　　　　　　　 「これらの事が起こりはじめたら、身を起し頭をもたげなさい。あなたの救が近づいているのだか

　ら」�L

　十四　　　　　　　　　　　　　　　　　　 「このようにあなたがたも、これらの事が起るのを見たなら、神の国が近いのだとさとりなさい」�M

　十五　　　　　　　　　　　　　　　　　　 「思いがけないとき、その日がわなのようにあなたがたを捕えることがないように、よく注意してい

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 なさい」�N

　十六　　　　　　　　　　　　　　　　　　 「人の子の前に立つことができるように、絶えず目をさまして祈っていなさい」�O

　

　　　 新約聖書を調べ終わったとき、わたしの好奇心は以前にもまして強まったことはいうまでもない。これ

　まで引用したほかにも、キリスト再臨の約束はいたるところに見いだされたからである。これほど沢山の

　約束を見ると、千年期に対する熱狂的な関心がキリスト教世界をとらえたのは不思議ではないように思える。

　　　 つぎにキリスト再臨に関する句をリストにしてみよう。

　

　　　 マタイ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 六ー十、七ー二二、十ー二三、一六ー二七、一六ー二八、二三ー三九、二四ー三、二四ー一四、

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 二四ー一五、二四ー二七、二四ー三十、二四ー三三、二四ー三七、二四ー三九、二四ー四二、

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 二四ー四四、二四ー四六、二四ー五十、二五ー六、二五ー十、二五ー一三、二五ー三一、二

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 六ー二九、二六ー六四

　　　 マルコ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 八ー三八、九ー一、一二ー九、一三ー二六、一三ー三三、一三ー三五、一四ー六二

　　　 ルカ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 九ー二六、一二ー三六、一二ー三七、一二ー三八、一二ー四十、一二ー四三、一二ー四六、一

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 三ー三五、一七ー二四、一七ー二六、一七ー三十、一八ー八、二一ー二七、二一ー二八、二

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 一ー三一、二一ー三四、二一ー三六

　　　 使徒行伝　 二ー二十、三ー一九、三ー二十

　　　 コリント人（第一の手紙）　 一ー七、四ー五、十一ー二六、一五ー二三、一五ー二五

　　　 ピリピ人　 一ー六、三ー三十

　　　 テサロニケ人（第一の手紙） 一ー十、二ー一九、三ー一三、四ー一五、四ー一六、四ー一七、五ー二、

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 五ー三、五ー四、五ー二三

　　　 テサロニケ人（第二の手紙）　 一ー七、一ー十、二ー二、二ー三、二ー八、三ー五、

　　　 テモテ（第一の手紙）　 六ー一四

　　　 テモテ（第二の手紙）　 四ー一、四ー八

　　　 テトス　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 二ー一三

　　　 ヘブル人　 九ー二八

　　　 ヤコブ　 五ー七、五ー八

　　　 ペテロ（第一の手紙）　 一ー七、一ー一三、五ー一、五ー四

　　　 ペテロ（第二の手紙）　 一ー一九、三ー三、三ー四、三ー九、三ー十、三ー一二

　　　 ヨハネ（第一の手紙）　 三ー二

　　　 黙示録　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 一ー七、一ー八、一ー一三、二ー五、二ー一六、二ー二五、三ー三、三ー一一、三ー二十、

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 四ー八、六ー一七、一四ー一、一四ー一四、一四ー一五、一四ー一六、二二ー七、二二ー十、

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 二二ー一二、二二ー二十

　

　　　 このほかにも、キリスト再臨に関する叙述はきりがないほどある。たとえば、カルフォルニア州ロスア

　ンジェルス聖書協会の会長であるＲ・Ａ・トーレイ牧師は、『 主、イエスの再臨』という著書の中で、キ

　リスト再臨の確実さとその結果に関する句は二五〇頁にわたっていると述べている。

　　　 わたしが独自に発見した句だけでも、キリストが確実に再臨の約束したことは疑いをはさむ余地はない

　ようである。聖書の一番最後の句のすぐ前にも「これらのことをあかしするかたが仰せになる、『しかり、

　わたしはすぐに来る』アーメン、主イエスよ、きたりませ」も、そういう言葉の一つである。

　　　 以上のことから、一八四〇年代に、どうして世界中でキリスト再臨の期待があれほど高まったかが納得

　できるようである。

　　　 しかし現在、キリスト教徒の間では、キリストの再臨に関して一致した意見はなく、かえって不信がひ

　ろまっているが見られる。しかし、わたしの興味は、これまでの調査により、ますます深まっていいき、

　キリスト教徒間の信念の欠乏そのものが、キリストがすでに再臨したことのしるしであると感じはじめた。

　　　 これに関して、聖書研究家のＭ・Ｈ・ゴイヤーはつぎのように述べている。

　「キリスト再臨に関して疑いと不信がひろく行きわたっているが、そのことが終わりの日のしるしといえ

　る。聖ペテロは、われわれにこう語った。『終わりの時にあざける者たちが、あざけりながら出てきて、

　自分の欲情のままに生活し、〈主の来臨の約束はどうなったのか。先祖たちが眠りについてから、すべて

　のものは天地創造の初めからそのままであって、変わっていない〉というであろう』�Q

　　 ヤコブはこう述べていた。

　「だから、兄弟たちよ。主の来臨の時まで耐え忍びなさい」�R

　　　 聖ペテロは疑いと不信について、つぎのような言葉も残した。

　「しかし民の間に、にせ予言者が起こったことがあるが、それと同じく、あなたがたの間にも、にせ教師

　が現われるであろう。……また、大ぜいの人が彼らの放縦を見習い、そのために、真理の道がそしりを受

　けるようになろう」�S

　　　 答えは明白であった。証拠はたくさん見つかった。キリストは確実に再臨することを約束していた。こ

　のことから、わたしは、キリストが最初に現われたとき、当時の人びとは、キリストの明白な説明にもか

　かわらず、ヨハネのうちに現われたエリヤの再来を認めることができなかったように、現代人も、新しい

　メシアとして現われたキリストを認めることができないのではないか、という思いを強めた。

　

　十八　 東方から来たいなずま

　

　　　 では、メシアが現われる場所についてどんな手がかりがあるであろうか。調べていくうちに、興味深い

　ことが二つ見つかった。最初の出現のときはダニエルが出現時を予言し、ミカが出現の場所を予言してい

　たことである。ミカは場所についてつぎのように述べていた。

　「しかしベツレヘムよ、イスラエルを治める者があなたのうちからわたしのために出る」�@

　　　 ダニエルは、最初の出現時と再臨の時期をおどろくべき正確さで予言していた。したがって、わたしは、

　ミカ書の中に再臨の場所が予言されてないかと考えた。実に、答えはそこにあったのである。

　「……わたしはわが救の神を待つ。……その日には彼はアッシリアからあなたにくる」�A

　　　 アッシリア帝国は、ダニエルとミカが過ごした地域を支配していた。わたしは、この二人の予言者が住

　み、教えた地域を調べることにした。おどろいたことに、つぎからつぎへと手がかりが見つかった。

　　　 エゼキエル書には偉大な人物の出現が述べられていた。

　「そして見よ、イスラエルの神の栄光が東の方から来た」�B

　　　 これは明らかに、キリストの最初の出現ではなく、再臨に関するものである。最初の出現のときは、か

　れはエルサレムの北西から来ているからである。

　　　 イザヤも同様に、東方から来るすばらしい人物のことを語っていた。

　「だれが東から人を起したか。彼はその行く所で勝利をもって迎えられ、もろもろの国を征服し、もろも

　ろの王の足の下に踏みつけ……」�C

　　　 キリスト自身も、再臨のときの方向を示していた。

　「ちょうどいなずまが東から西にひらめき渡るように、人の子も現われるであろう」�D

　　　 ユダヤ教の書には、終わりの時の王、メシアは日の出の方向から来るという予言がある。�E

　　　 ダニエルが終わりの時に関する予言をしたのは、東方のエラムにいたときであった。そこは、古代ペル

　シャの一地方であり、かれがキリストの最初の出現と再臨をおどろくほどの正確さで予言したところである。

　　　 エレミヤも終わりの日に起ることを述べたすぐ前の句でこう書いていた。

　「そしてわたしの位をエラムにすえ……」�F

　　　 そのほか、アラブ人の間でよく知られた予言の中には、つぎのような言葉もある。

　「約束の人が現われるとき、その教えの支持者はペルシャの人びとであろう」�G

　　　 以上のさまざまな予言から、メシアは東方から来ること、とくにペルシャ地方から来ることが明らかと

　なった。これで方向が定まった。

　

　十九　 終わりの日の幻

　

　　　 わたしは、そのほかにもおどろくべき一連の予言を発見した。それらにもまた、ペルシャがメシアの現

　われる場所として記されていた。さらに、メシアの再臨時期に関しては、キリストとダニエルと黙示録の

　予言が一致していた。

　　　 同時に、これらの予言は現代の困難な時代を正確に描写していた。二つの大戦をはじめとするもろもろ

　の戦争で荒廃した現代、そして核兵器による第三次大戦の危機にさらされている時代を予言していた。こ

　のような時代がくれば、キリストはすでに出現していることが約束されていたのである。

　　　 わたしたちは、核爆弾による爆発が要素までも強烈な熱でとかしてしまう時代に住んでいる。キリスト

　の弟子も、キリストの再臨時に、人びとは眠っているであろうと警告していた。それはいつ起るのであろ

　うか。

　「しかし、主の日は盗人のように襲って来る。その日には、天は大音響をたてて消え去り、天体は焼けて

　くずれ、地とその上に造り出されたものも、みな焼きつくされるであろう」�@

　　　 このような恐ろしい出来事が聖書に予言されていたことを知ってわたしはおどろいた。このような出来

　事は、メシヤが人類一般に認められ、受け入れられる前に起こらなければならないのである。そうしては

　じめて、メシヤは「一つの群れ、一つの羊飼い」の時代に人類を導くことができるのである。

　　　 予言者ヨエルは、終わりの日についてつぎのような警告をしていた。

　「主の大いなる恐るべき日が来る前に、日は暗くなる……」�A

　　　 キリストも同じ言葉を口にしていた。

　「たちまち日は暗くなり、……そのとき、人の子のしるしが天に現われるであろう」�B

　　　 ヨエルは後の日についてつぎのようにも述べた。

　「このようなことは昔からあったことがなく、後の代々の年にも再び起ることがないであろう」�C

　　　 キリストは、この困難な時代がかれの再臨のときであることを再確認している。かれはヨエルと同じ言

　葉をくり返した。

　「その時には、世の初めから現在に至るまで、かってなく今後もないような大きな患難が起るからである。

　……そのとき、人の子のしるしが天に現われるであろう」�D

　　　 この二つのしるしは黙示録にも記されている。一つは太陽が暗くなることであり、もう一つは主の偉大

　なる、そして恐ろしい日の到来である。神の子羊（メシア）が終わりの日に現われ、聖書の封を開けると

　き、聖ヨハネはつぎのことを見た。

　「大地震が起って、太陽は毛織の荒布のように黒くなり、……ほら穴や山の岩かげに身をかくした。……

　『御怒りの大いなる日が、すでにきたのだ。だれか、その前に立つことができようか』」�F

　　　 ダニエルも終わりの日、メシアの到来につづいて起こる苦難を語っていた。そして、この苦難はメシア

　が人類に受け入れられるまでつづくであろうと予言した。

　　　 ダニエルもまた、キリストとヨエルと黙示録の言葉と同じ表現を用いて、新しいメシアの到来の日に関

　してこう警告した。

　「また国が始まってから、その時にいたるまで、かってなかったほどの悩みの時があるでしょう」�G

　　　 この予言で、ダニエルはキリストと「神の栄光」に似た人とを結びつけた。かれは終わりの時について

　語ったとき、つぎのことを約束した。

　「その時あなたの民を守っている大いなる君ミカエルが立ち上がります。……その時あなたの民は救われ

　ます」�H

　　　 エノクもまた、『エノクの秘密の書』の中で、同じミカエルについて語っている�I。

　　　 わたしのつぎの仕事は、終わりの日に神の子供たちを救うミカエルがだれであるかをはっきりさせるこ

　とであった。答えはダニエル書の十章にあった。そこでダニエルはペルシャで見た強烈な幻について語っ

　ていた。

　「ペルシャの国の君が、二十一日の間わたしの前に立ちふさがったが、天使の長のひとりであるミカエル

　がきてわたしを助けた」�J

　　　 そして、つぎの句でダニエルは、この幻が終わりの日に関するものであることを述べた。

　「この幻は、なおきたるべき日にかかわるものです」�K

　「しかしわたしは、まず真理の書にしるされている事をあなたに告げよう」�L

　　　 同じ章で、主はダニエルにペルシャの王子であるミカエルだけが末の日の幻を理解できることを語った。

　「これらのことに関してわたし（主）と見解が一致する者はあなたがたの君ミカエルのほかにはありませ

　ん」�M

　　　 ミカエルは明らかにペルシャの王子であるが精神的王子である。ダニエルに反抗したペルシャ王国の王

　子ではない。主はミカエルを「あなたがたの君」と呼んだ。

　　　 ミカエルという名は、「神のように見える人」という意味であり、「神の栄光」ともいえる。ダニエル

　もエゼキエルと同様、この使者の栄光を見た瞬間、圧倒され地に伏した。

　「彼がこれらの言葉をわたしに述べていたとき、わたしは、地にひれ伏して言葉が出なくなった」�N

　　　 エゼキエルが東方から来た「神の栄光」を見たときも同じようなことが起った。

　　　 ダニエル書の最後の章で、ダニエルは末の日に関してふたたびつぎのように述べている。

　「その時あなたの民を守っている大いなる君ミカエルが立ち上がります。……その時にいたるまで、かっ

　てなかったほどの悩みの時があるでしょう」�O

　　　 これでミカエルが精神的な王子であり、神の代表であることはうたがいないようである。彼がメシアな

　のであろうか。かれは聖書に予言された時期に到来するであろうか。このペルシャの王子ミカエル、神に

　似た人が現われ、人びとを救うのはいつなのであろうか。

　　　 ダニエル書にそれがいつ起るかが記されていた。

　　　 一 「末の日に……」�P

　　　 二 「この幻は終わりの時にかかわるものです」�Q

　　　 三 「ダニエルよ、あなたは終わりの時までこの言葉を秘し、この書を封じておきなさい」�R

　　　 四 「ダニエルよ、あなたは終わりの時までこの言葉を秘し、この書を封じておきなさい」�S

　　　 ダニエルは、このあと、終わりの日と「日の老いたる者」、すなわち書物の封を開ける約束の人を幻

　　　　　　 で見た。

　

　「彼に仕える者は千々、彼の前にはべる者は万々、審判を行なう者はその席に着き、かずかずの書き物が

　開かれた」21

　　　 同じ章の中で、ダニエルはつぎのようにも述べている。

　「見よ、人の子のような者が、天の雲に乗ってきた」22

　　　 そのあとで、かれはまた同じ言葉をくり返した。

　「ついに日の老いたる者がきて、いと高き者の聖徒のために審判をおこなった。そしてその時がきて、こ

　の聖徒たちは国を受けた」23

　　　 そして、それがいつ起るかが記されているのである。

　「ひと時と、ふた時と、半時の間」24

　　　 これは三年半のことであり、一二六〇日のことである。すなわち、聖書の予言では一二六〇年にあたる

　ことはすでに述べた。

　　　 ダニエル書の最後の章には、ペルシャの王子、ミカエルが書物の封を開けるときに人びとを救うであろ

　うという予言がある。それが起るのは「ひと時と、ふた時と、半時の間」25がたってからであるとかれは

　述べている。ここでふたたび一二六〇年という数字が出てきた。

　　　 ダニエルがこの予言を書いたペルシャ、神のように見える人、ミカエルの国では一二六〇年は西暦一八

　四四年にあたる。

　　　 これまでの調査からわかったことをリストにするとつぎのようになる。

　

　　　 一 一八四四年がメシアの出現の年である。

　　　 二 メシアは「神に似た人」または「神の栄光」である。

　　　 三 かれはペルシャに現われる。

　　

　　　 ここで、千年期喪失事件の時間と場所が一点に集中してきた。

　

　二十 　なだれ

　

　　　 つぎの段階は、十九世紀前半のペルシャの歴史を調べてメシアを探すことであった。その前に、これま

　で集めた情報をリストにしてみた。それ以外にも終わりの日に出現するメシアに関してつぎのことが判明

　した。

　

　　　 一 ペルシャから来るであろう。

　　　 二 バビロンの地にあるチグリスとユーフラテスの谷に行くであろう。

　　　 三 キリストが最初の出現時に砂漠に行ったように、町から出て、荒野に引きこもるであろう。

　 　　四 バビロンで公に自らの使命を宣言し、イスラエルと全世界を救うであろう。

　　　 五 アブラハムがしたように、チグリスとユーフラテスの谷から聖地イスラエルに行くであろう。そして

　　　　　　 カルディアの地から約束のカナンの地まで同じ旅をするであろう。

　　　 六 イスラエルに行く途中、要塞都市から要塞都市に行くであろう。

　　　 七 要塞都市から出て、自由の川に旅するであろう。

　　　 八 東方からイスラエルの旅の途中で、山から山へ行くであろう。

　　　 九 イスラエルに到着したときは、その地は荒涼としているが、後でバラの花のように開花するであろう。

　　　 十 カルメル山中に住み、そこよりかれの教えにより「羊の群れ」を養うであろう。

　十一　 この世での仕事は四十年間つづくであろう。

　十二　 アッカの谷に来て、終わりの日にかれを求めてきた人びとはかれを見るであろう。

　十三　 聖地イスラエルで足を踏み入れたところは栄光に輝くであろう。

　十四　 かれの聖所、墓地は木や花で美しく飾られるであろう。

　十五　 かれはアブラハムの子孫であろう。

　十六　 キリストを讃めたたえるであろう。

　十七　 出現時に、実際天空にしるしが見えるであろう。

　十八　 書物の封を開け、かくされた意味を説明するであろう。それにより、すべての人びとは理解できるよ

　　　　　　 うになるであろう。

　十九　 邪悪な王の権力と王座をくつがえすであろう。

　二十　 精神的な王国を世界のあらゆる地方の建設するであろう。これはキリストが祈りの中で述べていた王

　　　　　　 国である。「御国がきますように、みこころが天に行われるとおり、地にも行われますように」

　　

　　　 七年前にキリストの再臨について調査をはじめたとき、わたしはこれほどの手がかりと証拠のなだれに

　遭遇するとは夢にも思わなかった。

　　　 わたしは、クリスタベル・パンクハーストの著書、『見よ、かの人来たる』の結論を認めざるを得な

　かった。

　「数年前までは、批評家たちは聖書の予言に疑問をいだいても言い訳ができた。しかし、最近の出来事は、

　疑問がすべて除かれるほど予言が的中していることを示している」�@

　　　 過去のメシアはこれほどの証拠をもって現われなかった。したがって、真偽をたしかめることも容易で

　ある。メシアはこれまで述べてきた予言を実現しなければならないからである。

　　　 事実や証拠や手がかりを集めるやっかいな仕事は終わった。これからは、収集した情報を整理してメシ

　アの条件を満たす人物を探さなければならない。わたしはどこから始めていいか知っていた。一八四四年

　のペルシャである。解決できるであろうか。

　

　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 二章

　

　解決

　

　　　 これから述べる話は、さまざまな資料に基づくもので、数十年にわたってそれが真実であることが証明

　されてきているものである。ここでは簡単に語ってみよう。

　　　 はじめてこのおどろくべき出来事の手がかりを見つけたとき、わたしは胸を刺されるようなスリルを感

　じたが、読者の方々はどう感じられるであろうか。

　　　 わたしは、この話が真実であることをたしかめるために、何度か中東に旅行した。実際、この本の最後

　の二章は、カルメル山中の有名なエリヤの洞窟の近くで書き上げられたものである。

　　　 この調査はウイスコンシン州のラジオ局で始まり、聖地であるイスラエルで終わった。

　

　一　ミステリーの解決

　

　　　 端正で気品のある青年が混雑した道路を護送されていった。かれの首にはぶあつい鉄の輪がはめられて

　いた。それには長いロープがつけられており、群集がむらがるなかを、引きずられるように歩いていった。

　　　 青年が歩みを止めると、護送人はかれをつついたり、けったりして一時も休ませようとしなかった。護

　送人のすきを見て、人ごみから飛び出してきた者たちが青年をげんこつか棒で打った。そのたびに群集か

　ら歓声があがった。だれかが投げた石ころがかれの顔にあたったとき、人びとは大喜びした。

　「偉大な英雄さまよ。自分を救ったらどうだ」と一人が叫んだ。「自分でくさりをといて奇跡を見せろ

　よ」といって、この沈黙を守りつづけている青年につばをかけた。

　　　 この青年は処刑場まで連れて行かれた。正午が近づいてきていた。炎天下にある兵営の広場には銃殺刑

　の執行部隊が待機していた。かれらは銃をかまえ、青年の胸に向け、「撃て！」という命令を待った。群

　集は、最後の瞬間に奇蹟が起らないかと身を乗りだした。

　　　 おくれてき人たちが、広場になだれ込むように入ってきていた。近くの家の屋根も人でいっぱいであっ

　た。かれらは、この六年間あれほど国中をかき立てたふしぎな人物の最後を見とどけようと広場を見下ろ

　していた。

　　　 この青年はどう見ても悪人ではなさそうである。いったい何のために処刑されるのであろうか。あまり

　にも若すぎる。三十才にもなっていないようである。集まってきた人たちも、かれがどうして処刑される

　のかよくわかっていなかった。七百五十の銃が向けられているかれの品格をそなえた美しい顔には、動じ

　た様子はまったく見られなかった。むしろ、満足そうに見えた。

　　　 やがて青年と、もう一人かれと運命を共にしたいと願った若者が兵舎の壁にいっしょにつり下げられた。

　執行隊の兵士たちは銃をかまえた。「撃て！」という命令に、二百五十人づつに分かれた兵士たちが交替

　に青年めがけて撃った。

　　　 そこには一万人以上の群集が集まっており、この出来事は歴史的な事件として、つぎのように記録された。

　「七百五十の銃が発砲されたときに出た煙は、正午の陽射しを暗くしたほどであった。……たちこめた煙

　が消えたとたん、群集は信じがたい光景を目の前にしておどろいた。……青年をつりさげていたなわは、

　銃弾で切断されていたが、青年の身体は奇跡的に一斉射撃をまぬかれていたのである」�@

　　　 そこには青年の姿はなかった。いっしょにつりさげられていた若者だけが地面に立っていたのである。

　このときの状況をフランスの作家Ｍ・Ｃ・ウァルトは、このように記録している。

　「兵士たちは群集の興奮をしずめようと、銃弾で切断されたなわを見せ、奇跡がおこったのではないこと

　を示した」�A

　　　 群集から不満の声があがった。兵士たちはかれらをなだめようと、「おれたちが撃った弾はなわに当

　たったではないか」と説明した。「だから、かれは逃げることができたのだ。それだけのことだ。奇蹟な

　んかではない」といい張った。

　　　 Ｍ・Ｃ・ウアルトはつづけてつぎのように述べている。

　　　 「……信じがたいことであるが、銃弾は死刑囚にはあたらず、かれをしばっていたロープにあたったた

　めにかれは救われた。本当の奇跡である」�B

　　　 名高いフランスの学者、Ａ・Ｌ・Ｍ・ニコラスもまた、この光景を記録していた。

　「異常な出来事が起こった。人間の史上まれにみる事件である。……銃弾がかれの身体をしばっていたな

　わだけを切り、かれはかすり傷一つもなく地上に落ちたのである」�C

　　　 わたしがこの話を最初に知ったのは、著名なイギリスの東洋学者でケンブリッジ大学教授のエドワード

　・Ｇ・ブラウン博士の記録からであった。（ブラウン博士は、この本のはじめに述べたブラウン博士と同

　一人物である）。

　　　 かれは、この話をキリスト再臨の話しに関連させて、つぎのように書いた。

　「わたしはこの事件の詳細をできるだけ正確に得たいと望んでいる。わたしの目にはこの話はキリスト教

　発生以来もっとも興味深く、かつ重要な出来事の一つと思えるからである。わたしの同国人に、力のおよ

　ぶかぎり、このことを知らせることは喜びでもあり、義務でもあると感じる。もしだれかが、キリストの

　幼年時代、若いころの生活、容貌を語ってくれるならば、わたしたちはどれほどうれしく思うことであろ

　うか。しかし、今となってはキリストについてはあまり知ることはできない。ところが、この若者につい

　ては知ることができるのである。ゆえに、後世の人びとから感謝されるように、今のうちに備えようでは

　ないか……」

　　　 もし、このこの偉大な学者やほかの学者たちが、調査研究の結果、この若者がキリストの再臨ではない

　かと考え、それを記録することにより、後代から感謝されると思ったのであれば、わたしの高まってきた

　興奮を非難する人はいないであろう。わたしはもっと知りたかった。

　　

　二　おどろくべき類似点

　

　　　 わたしは、ありとあらゆる文書や記録を手に入れようと図書館をあさった。その結果はつぎの通りであ

　る。そのときわたしが感じた畏敬と驚嘆の念は読者の方々にも容易に想像できよう。

　　　 この青年の死は一八五〇年七月であった。かれは、新しい時代のための教えをもたらしたために群集の

　前で殺されたのである。かれの生涯はキリストを思い起こさせた。かれの生涯を丹念に調べた結果、その

　波乱に満ちた生涯に匹敵するものはキリストの生涯以外には見いだせなかった。

　　　 実際、この青年とキリストの生涯を比較してみると、おどろくほどの類似点が明るみにでてきた。

　

　　　 ・二人とも若く、この上ないやさしさと慈愛で人びとに知られていた。

　　・二人とも病気の治療に奇跡を行った。

　　・二人とも活動期間がひじょうに短かく、迅速に死のクライマックスに達した。

　　　 ・大胆に古びた因習や儀式に挑戦し、宗教や社会の不正や腐敗を非難した。

　　・生活はまわりの人びとを恥じさせるほど清純であった。

　　・かれらに反対し、かれらを迫害したのは主に宗教的な指導者たちであった。

　　　 ・幾度となくひどい侮辱を加えられた。

　　・むりやり政府当局に連行され、群集の面前で侮辱と尋問を受けた。

　　・尋問の後、苛酷な罰を受けた。

　　・群集から侮辱を加えられながら町の中を通り、殉教の場へと歩かされた。

　　・自分と共に死ぬ者に同じような希望と約束の言葉をあたえた。「あなたは楽園でわたしと一緒になる

　　　　　 であろう」と。

　　・無情な群集の目前に吊るされ、殺害された。

　　・殺害された直後、正午より暗やみがおおった。

　　　 ・遺体は兵士たちによって切り裂かれた。

　　・遺体は弟子たちの手に渡った。

　　・遺体が消えたとき、宗教の指導者たちはうまく弁明した。

　　・死に際して、少数の弟子しかいなかった。

　　・殉教後、混乱と失望が弟子たちをとらえた。

　　・主な弟子たちのうちの一人が、自分の師を否定したが、あとで偉人となった。

　　・すぐれた女性の弟子がいた。彼女らは、信者たちが過去を捨てて未来に向かって前進するための役割

　　　　　 を果たした。

　　・弟子たちをとおして教えは世界に伝わった。

　　・「あなたは約束の人ですか」という質問に同じように答えた。

　　・弟子たちを激励し、地球の隅々まで吉報を伝えるために立ち上がるように命じた。�@

　

　　　 わたしはキリストの言葉は知っていたので、青年の言葉を興味深く読んだ。

　

　「まことにわれは告ぐ。今日こそ、神が以前その書の中で語った時代である……。イエスが弟子を送り出

　したときの言葉を深く考えよ。……『あなたがたは、夜の暗やみの中で山頂にともされた炎のようである。

　あなたがたの光を人びとの目前で輝かせよ。地上の人びとが、あなたがたを通して、清純と恩寵の源泉で

　ある天の御父を認め、近づくことができるように、あなたがたの性格は清純で、超脱の精神は高尚でなけ

　ればならない」�A

　

　「まことにわれは告ぐ。今日は、いにしえのキリストの十二使徒の時代を越えてかぎりなく高められた時

　代である。いや、その違いははかり知れないほどである。あなたがたは、約束された神の日の夜明けを目

　撃する人たちである……。あなた方は国中に分散し、確固とした足取りと、清らかな心で、約束されてい

　る方の到来を準備しなければならない……。神は、人びとの目には、貧しく身分の低く見えたイエスの主

　権を確立されたではないか。……神のみ名に誓って立ち上がり、神を完全に信頼し、最終的な勝利を確信

　せよ」�B

　

　　　 オックスフォード大学の著名な学者、ジョウエット教授が、この新しい信教についてつぎのように述べ

　たこともおどろくにあたらない。

　「それ（バブの教え）はあまりにも偉大すぎて今の世代には理解できない。未来のみがその重要さを明ら

　かにすることができるであろう」�C

　　　 ジョウエット教授やブラウン教授のこういった言葉が最初わたしをこの調査の道に向けたのである。こ

　こまできて、わたしはかれらの高い関心が理解できた。

　　　 百年あまりつづいてきた千年期喪失事件の解決の糸口がついに見つかった。このあと一年間、わたしは

　この青年とその教えに関する情報をできるだけ集め、メシアの条件と一つづつ比較していった。もし、か

　れがメシアであれば、わたしはそれを十分に試す立場にあった。この事件をわたしの心の中で最終的に解

　決することができるはずであった。

　　　 わたしの熱意の刃は、つぎの答えを発見したとき、かみそりのように鋭くなった。この青年の信教はい

　つ始まったか?　 一八四四年である。　 どこで？　 ペルシャ！　

　

　三　天に現われた二つの火炎

　

　　　 わたしは、この調査にに長い期間をついやしていた。この章の調査も一年の予定が三年かかってしまっ

　た。しかし、わたしは実に信じがたい話を発見したのである。ハードボイル型の新聞記者は正しかった。

　日曜日の新聞をとりあげ、この話を知った人はびっくり仰天するであろう。

　　　 最初わたしの手に入った情報をつぎに述べてみよう。

　

　　　 一 一八四四年五月二十三日、アメリカのサミュエル・モールスははじめて公式の電信をワシントンから

　　　　　　 バルチモアまで送った。そのとき使われた言葉は、聖書の民数記から引用された「神がそのなすとこ

　　　　　　 ろ！」であった。

　　　 二 その前日の一八四四年五月二十二日、地球の向こう側のペルシャで、バブという若者が「人類に新し

　　　　　　 い時代がはじまった」というおどろくべき宣言をした。この二つの出来事は同時に起こったが、時差

　　　　　　 のために日付が異なるのである。

　

　　　 この青年は、現代が過去のあらゆる聖典に予知された時代であり、約束された人物（神の使者）が出現

　して、「一つの群れ、一人の羊飼」となる時代であると宣言した。

　　　 かれが出現した場所はペルシャであった。この日付けと場所はすぐわたしの注意を引いた。この青年の

　名はバブで、その意味は「門」または「戸」であることがわかった。かれ自身も、自分は「門」であり、

　それを通してすべての聖典に約束された人が現われ、人類の一体性が確立されると宣したのである。

　　　 わたしは、キリストの約束を思い出した。

　「門からはいる者は羊飼である……。私にはまた、この囲いにない他の羊がある。わたしは彼らをも導か

　ねばならない。彼らも、わたしの声に聞き従うであろう。そして、ついに一つの群れ、一人の羊飼となる

　であろう」�@

　　　 バブは、自分は自分の後に出現する聖なる人物の先駆者であると宣言し、自分の使命は、人びとがその

　人物を受け入れられるように準備することであると述べた。

　　　 つまり、バプテスマのヨハネがキリストの先駆者であったように、バブは約束された偉大なる人物の先

　駆者であると宣言したのである。

　　　 終わりの日の幻の場所としてダニエルが約束した地、ペルシャの聖典には、二人の神の使者が現われる

　という予言がいくつかある。

　「復活の日に、全地球はかれの手中におさまるであろう。……そしてラッパが鳴り、それからもう一度

　ラッパが鳴るであろう。そして見よ！地球はその主の光で輝くであろう」

　「まことにわれは告ぐ。ガエムの後に、ガイユームが現われるであろう。」�A

　『来たるべき世界の教育者』の中で、パブリはつぎのように書いた。

　「主クリシュナの到来の数年前に賢人ナラダとほかの者たちが、その到来を宣言するであろう。……そう

　いった宣言が前もって必要なのである」

　　　 終わりの日に二人の偉大な人物が出現するという予言は、ほかの世界宗教に共通することがわかった。

　　　 一 ユダヤ教　　 エリヤとメシヤ

　　　 二 ゾロアスター教　　 ウシダルーマとシャー・バハラム

　　　 三 仏教　　 アバローキテーシュバラとマイトレーヤ・アミタバ

　　　 四 キリスト教　　 バプテスマのヨハネ（エリヤ）とキリスト

　　　 五 イスラム教のシーア派　　 ガエムとエマム・ホセイン

　　　　　　 スンニ派　　 メヘディとキリスト

　

　　　 バブが出現した国には、そのほかにも二人の聖なる人物の出現に関する予言がある。ボカリは、つぎの

　ような伝説を引用している。

　「終りの時に、神は神性と威光をもって、自らを人類に現わすであろう。しかし、かれに向かう人は少数

　であろう。……そしてふたたびび、かれは現われ、この二度目には、あらゆる奉仕の特質を示すであろう。

　人びとはかれの周りに集まり、かれを信じ、その徳性をたたえるであろう……」

　　　 ゼカリヤは末の日に出現する二人の聖人に関して、つぎのように予言した。

　「すると彼は言った、『これらはふたりの油をそそがれた者で、全地の主のかたわらに立つ者です』」�B

　　　 黙示録にも、「二つのわざわい」や「二つのオリーブの木」、そして「二つの燭台」という表現で二人

　の聖なる人物の出現が予言されている。

　　　 マラキ書には末の日に関してつぎの予言が見つかった。

　「見よ、主の大いなる恐るべき日が来る前に、わたしは予言者エリヤをあなたがたにつかわす」�C

　　　 ダニエルはつぎの幻をペルシャで見た。

　「見よ、人の子のような者が、天の雲に乗って来て……」�D

　　　 バブは、この偉大な救世主は自分の出現後九年たって現われることを約束した。その偉大な人物は、キ

　リストが黙示録の中で何度も強調したように、「すぐ来る」であろう。

　　　 マラキ書はつぎのようにも述べている。

　「見よ、わたしはわが使者をつかわす。彼はわたしの前に道を備える。またあなたがたが求める所の主は、

　たちまちその宮にくる」�E

　　　 バブは、自分は夜明けであり、自分の後にまもなく出現する人物は、太陽であるとくりかえし語った。

　この人物は全人類を進歩と平和の時代に導いていくであろうと予言した。

　　　 ここでわたしは当然のことながら、バブとそのあとにつづく偉大なる人についてできるだけ知りたいと

　思った。それも、もっとも基本的な疑問のうち三つがすでに証明されていたからである。

　

　　　 一 この信教は、キリストの福音があかしのため全世界に宣べ伝えられたときにはじまった。（一八四四

　年）

　　　 二 この信教は、「異邦人の時期」が満ちたときに宣言された。（一八四四年）

　　　 三 この信教はダニエルが予言した年に出現した。（一八四四年）

　

　　　 以上から明らかなように、三つの重要な条件はすべて一八四四年に満たされたのである。わたしは、こ

　こで調査をやめるわけにはいかなかった。

　

　四　証言

　

　　　 エマスンの友人、マーガレット・フーラーは、一八四四年の頃の世界的な熱狂について述べた。

　「この期間のいちじるしい特色は、興奮があらゆる階層にわたっていたことである」�@

　　　 わたしは、その時期に、バブに何が起っていたかを正確に知りたかった。この信教はどのようにしては

　じまったのであろうか。千年期に対する熱狂は、モーリスが一八四四年五月二十三日に電信のキーを打っ

　たときに最高潮に達した。

　　　 海の向こうのペルシャでは一八四四年五月二十二日の日没後二時間十一分であった。シラーズの町で、

　バブは、神の使者を捜し求めていた学生に、キリストが貧しい漁夫に語ったのと同じように、自分こそが

　その神の使者であることを宣言した。そしてつぎのように語った。

　「今夜のこの時間は将来あらゆる祝祭日のうちもっとも偉大で、もっとも意義ある日として祝われるであ

　ろう」�A

　　　 この若い学生はそのときの、けっして忘れることのできない状況を記録に残した。

　「まことに、新しい時代の夜は明けた。約束の人は、人びとの心の王座についた」�B

　「わたしは、この言葉に魔法にかかったように魅せられてすわっていた。わたしからは時間の感覚がすべ

　て去ってしまっていた。とつぜんわたしの胸に突き刺さってきたこの真理は、かみなりのようにわたしを

　襲った。わたしの感覚はマヒしたようであった。そして興奮、恐れ、驚きがわたしの魂の奥底をかき立て

　た。やがてわたしは喜びと力を感じ、自分が新しい人間に変わったのに気づいた」�C

　　　 わたしは、バブとその弟子たちの初期の歴史を記録した七百ページにわたる本を読んだ。この本から、

　わたしはかれらの苦しみや殉教について知ることができた。その話は、キリストとその弟子たちの話によ

　く似ていた。

　　　 キリストの生涯の著者であるフランスの歴史家、アーネスト・レナンは、バブの弟子たちの殉教を、

　「おそらく、世界の歴史で比類のない時代」と呼んでいたことも知った。

　　　 わたしは、バブが最初に語りかけた若い学生の回想を数回読みなおした。かれは後代のために、バブの

　宣言に関してつぎのような記録を残していた。

　「その夜、眠りはわたしから去っていた。わたしはかれ（バブ）の甘美な声の音楽に魂をうばわれて座っ

　ていた。わたしの感情は喜びと力強で圧倒されていた。それはわたしを変えてしまったかのようであった。

　その前までは、何とか弱く無力に感じていたことであろうか。しかし、その時、わたしは勇気と力に満た

　されていたので、たとえ全世界と、そこに住むすべての人びとと支配者たちがわたしに反対して立ち上

　がってきたとしても、わたしは自分一人で、勇敢に、かれらの攻撃に耐えることができたであろう。わた

　しの声は、全人類に向かって呼びかけているガブリエルの声のように思えた。『目覚めよ、そして見よ！

　神の大業は現われた。その恩恵の戸はひろく開かれた。世界の人びとよ、そこに入りなさい！あなたがた

　に約束された方が到来されたからである』」�E

　　　 バブの話でわたしの心は奥底からゆり動かされた。これほどの雄大な叙事詩的なドラマは現代史に記録

　されないはずはないと思った。正確には捉えられないとしても、見すごされるはずはなかった。この考え

　は正しかった。

　　　 わたしは、ヨーロッパの現代史に、この出来事について多くの記述があることを発見したのである。フ

　ランスの歴史家、Ａ・Ｌ・Ｍ・ニコラスは、バブについて記録を残していた。

　「その生涯は、もっともすばらしい模範的な勇気を示すものの一つであり、それを見るのは人類の特権で

　ある」�F

　　　 ニコラスはまた、現代がキリストの時代に似ていることを指摘し、つぎのようにも語った。

　「バブは人類のために自己を犠牲にした。……イエスと同じように、かれは和合、正義と同胞愛の時代を

　宣言するために、自分の生命を捨てた」�G

　　　 この話にわたしを最初に導いてくれたケンブリッジ大学のＥ・Ｇ・ブラウン教授は、バブについて熱心

　に研究し、こう結論づけた。

　「バブのやさしい精神に魅せられない者がいるであろうか。その迫害を受けた悲惨な生涯、清純な行動と

　若さ、勇気と逆境の下での忍耐、そしてかれの悲劇的な死は、われわれの同情をこのシラーズの若い予言

　者に集めることになった……」�H

　　　 千年期喪失事件は、とつぜん発展しだした。この発展は、わたしに強い印象をあたえた。これは、ただ

　の小事件ではなかった。どこかあまり知られていない国で起った出来事でもなかった。また、小さなグ

　ループだけにかかわるようなものでもなかった。人びとからおろそかにされてきたのは確かであるが、そ

　れは二十世紀になってからであり、十九世紀にはそうではなかった。

　　　 著名なフランスの政治評論家はつぎのように証言していた。

　「ヨーロッパ全体は、憐れみと憤りでかき立てられていた。一八九〇年のパリのわれわれの世代の文学者

　間では、バブの殉教は、かれの死のニュースが最初伝わったときと同じようにまだ新しい話題であった。

　われわれはかれについて詩を書いた。サラ・バーンハルトはカチュル・メンデスに、この歴史的悲劇を

　テーマにした戯曲の制作を依頼した」�I

　　　 アルミニアス・ヴァンベリーは、フランス学士院で、バビについてこう語った。

　「かれは偉大な思想家にふさわしい学説を表明した」

　　　 戯曲はバブという題名で一九〇三年に出版された。そして、セントピータースバーグの一流の劇場で上

　演された。この戯曲はロンドンで宣伝され、フランス語とドイツ語に翻訳された。（詩人フィードラー翻訳）

　　　 著述家のフランシス・ヤングハズバンドは、現代詩の中で、こう述べている。

　「バブの話は、ほかにそれをしのぐもののない精神と英雄の物語であった。……かれの生涯は過去百年間

　のうちもっとも研究価値のあるものの一つにちがいない」�J

　　　 さらに、イギリスのオックスフォード大学の著名な学者であったＴ・Ｋ・チェイン博士は、バブをつぎ

　のように描写した。

　「かれは現代のイエスであり、予言者である。いや、それ以上の人である。かれのように柔和さと力を持

　ち合わせている人物はひじょうにまれであり、われわれはかれを超人間の列に置かなければならない」�K

　　　 ここでわたしは、バブがその出現を予言した偉大なる人物について調査しなければという強烈な衝動に

　かられた。

　　　 もし、バブがこれほどの称賛を学者や著名人から得たとすれば、かれの後に現われる人の偉大さははか

　り知れないものであろう。バブは、その人の威力は自分の力をはるかにしのぐものであり、ローソクと太

　陽の違いほどあると述べているからである。

　　　 キリストの先駆者であるバプテスマのヨハネはキリストについてこのように語った。

　「しかし、わたしのあとから来る人は、わたしよりも力のあるかたで、わたしはそのくつをぬがせてあげ

　る値うちもない」�L

　　　 同様に、バブは来たるべき人物に関して、こう述べた。

　「わたしのあとに来る人に与える称賛のうち最大のものは、この文書にしたわたしの告白である。すなわ

　ち、わたしの言葉では十分にかれを叙述することができないということ、そして、わたしがかれについて

　書いたことも、かれの大業を公正に評することはできないという告白である」�M

　　　 バブは自分を後に出現する人の「指にはめられた指輪」とみなした。かれは、最初にその人に頭を下げ

　るのは自分であると述べ、弟子たちにこう語った。

　「わたしは、まことに、その方と、その信教と、その方の書と証言を信じる。……そして、その方を信じ

　ることを誇りに思う……」�N

　　　 さらにまた、かれは来たるべきメシアを信じるキリスト教徒についてこう述べた。

　「……わたしのひとみと同じと見なす」�O

　　　 バブは死の数日前に、つぎのような言葉を残した。

　「わたしは、全人類がこの東洋にも西洋にも属さない（来たるべきメシアの）啓示を認めるように、かれ

　らを教育してきた……。それゆえ、だれと言えども、いかにかれからヴェールでさえぎられることができ

　ようか」�P

　　　 わたしは、このときほど一世紀にわたるミステリー事件が解決されるという強い感じをもったことはな

　かった。

　　　 つぎの仕事ははっきりしていた。バブがその出現を予知した人物とはいったいだれであるかを明らかに

　することであった。その名前は？ 出身地は？ その人物は、わたしが収集したもろもろの聖典の予言を満

　たしたであろうか。

　

　五　隠されていたものが明るみに出さる

　

　　　 わたしは英訳されたすべてのバブの著書を注意深く調べてみた。その中には、来たるべき人物の名前と

　出現の時が明らかに述べられていた。

　「この大業がはじまって九（年）が過ぎ去るまでは、創造物の実体は明らかにされないであろう……。新

　しい創造を見るまで忍耐せよ」�@

　　　 これはまったく明瞭である。ペルシャの暦の九年（一二六九年）は西暦の一八五三年にあたる。一八五

　三年になるまでは、かれは現われないであろうというのである。ほかの個所で、バブはつぎのように書いた。

　「九年にあなたがたは神の面前に達するであろう」�A

　　　 バブの宣言の年の一八四四年に九年を足すと一八五三年になる。

　　　 では、この人物はどこに現われるのであろうか。この答えもバブの本の中にみつかった。都市の名前も

　はっきり書かれていた。

　　　 バブは最初に自分を信じた若い弟子にこのように語っていたのである。

　「北に向かって旅をつづけ、テヘランを訪れよ……。その首都で、真の主権の座に達し、最愛なる方の館

　に入ることができるよう、全能の神の援助を求めよ。その都市に秘密がかくされており、それが現わされ

　るとき、全地球は楽園となるであろう」�B

　「すべてを超越した聖なる神秘がかくされているテヘランにあなたの歩を向けよ……」�C

　　　 これが、わたしが何年も探しつづけてきた「神秘」なのであろうか。これが、キリスト教徒、ユダヤ教

　徒、イスラム教徒、仏教徒、ヒンズー教徒などがむなしく待ち望んできた失われた千年期へのとびらを開

　けるかぎなのであろうか。

　　　 わたしは、バブがテヘラン市近郊の聖地を訪れたときの記録を見つけた。かれは、そこに埋葬されてい

　る聖人たちに、つぎの言葉を宛てていた。

　「わが敬愛する人の陰の下に、休息所を見出したあなたたちは幸いである……」�D

　　　 これで出現の時と場所についてはほとんど疑いはなかった。すなわち、時は一八五三年で、場所はテヘ

　ランである。

　　　 終りの時に二人の神の使者が出現することが書かれているペルシャの聖典の中に、つぎの予言を見いだ

　したとき、わたしの好奇心はさらに強まった。

　「ガーズの年（一八四四年）に地球はかれの光で照らされるであろう……。もし、あなたがガラシの年

　（一八五三年）まで生きれば、国家、支配者、人民、そして神の信教がすべて復活されるのを目撃するで

　あろう」�E

　　　 ペルシャの歴史とバブの書をさらに深く調べてみた結果、あるおどろくべき人物の誕生に関する情報が

　見つかった。かれは、首都のテヘランで誕生した。かれは、ダニエルが予言した通り、高貴な家柄の出で

　あった。かれは、ペルシャの古代王家の子孫でもあった。かれの若いころの生活は、つぎのように描写さ

　れていた。

　「子供のときから、かれはひじょうに親切で、寛大であった。かれは野外生活を深く愛し、ほとんどの時

　間を庭園や野原ですごした。かれは、人をひきつけるおどろくべき力をもち、それはあらゆる人に感じと

　られた。人びとはかれのまわりに集まり、大臣や宮廷人はかれを取り巻いた。子供たちもまた、かれに熱

　中した」�F

　　　 かれの青年時代の記録を読むと、それがイエスの話にひじょうに似ているのがわかった。

　「かれがわずか十三才か十四才のころ、その学識はひろく知られるようになっていた。かれは、どんな論

　題についても論じ、どんな難問が提出されても解決した。大集会でも指導的な立場にある僧侶と討議し、

　複雑な宗教上の問題を説明した。人びとは皆、強い関心をもってかれに聞き入るのを常とした」�G

　　　 かれが人びとにあたえた影響は大きかった。ペルシャの総理大臣でさえ、かれの偉大さを認め、とま

　どったほどであった。かれの名前が政府の要職に推薦されたとき、総理大臣は言った。

　「そのような地位はかれにふさわしくない。かれにはもっと高い目標があるのだ。わたしは、かれを理解

　できないが、かれにはある崇高な任務を果たすように運命づけられていると確信する。かれの思考は、わ

　れわれのものとはちがう。かれをそっとしておこう」�H

　　　 かれの生涯の記録を読んでいくうちに、ほかの面でもキリストと似ている点があることが明らかになった。

　「イエスが、弟子の足を洗ったように、かれも時々信者たちのために料理をしたり、そのほかの卑せんな

　仕事をしたりした。かれはしもべの中のしもべであり、奉仕の地位だけに喜びを感じた。必要であれば、

　何も敷かれていない床の上に眠り、パンと水だけで過ごし、時にかれが〈聖なる栄養、すなわち飢え〉と

　呼んだもので満足した。かれのまったくの謙虚さは、自然や人間の本質や、とくに聖人、予言者、そして

　殉教者に対する深い尊敬に見られた。かれには、卑小なるものから最大のものまで、あらゆるものが神を

　語っていたのである」�I

　　　 かれの使命は、エゼキエルとキリストが予言したように、東方ではじまった。ダニエルの約束通り、東

　方のペルシャではじまった。そして、バブが予言したテヘランで、九年後にはじまったのである。

　　　 バブは書いた。

　「真理の太陽を見よ……。これこそ、まことに、わたしがあなたに約束したことである……。九（年）が

　過ぎ去るまで待て……。わたしは、かれとそのしるしを信じる最初のしもべである」�J

　　　 バブは、だれも誤解しないようにつぎの言葉を残した。

　「おおわが神よ、あなたに讃美あれ。この書を通してあなたが顕される方（メシア）の使命について、わ

　たしが全創造物と聖約を結んだことをあなたは証言される……」�K

　「（一八五三年）後に大業があなたがたに与えられ、それをあなたがたは知るようになるであろう」�L

　　　 わたしは、バブが九年後の一八五三年に現われる偉大なメシアに何度となく言及していたことを知った。

　かれは、ペルシャは「神のもっとも偉大なる名の足跡と強大なる宣言」で祝福されるであろうと述べてい

　たのである。

　

　六　神の栄光　

　

　　　 わたしは、バブが最初に語りかけた若い学生について調べてみた。かれもまた、バブがその出現を約束

　した偉大な人物を探していた。かれは、テヘランに行き、人びとにたずねた。

　「この都市にだれよりも卓越した人はいませんか。すぐれた人格でひろく知られた人はいませんか」

　「一人だけそういう人がいます」と人びとは答えた。

　「その人の職業は？」

　「悲しんでいる人を力づけ、お腹がすいた人に食べ物をあたえることです」

　「どういう身分階級の人ですか？」

　「貧しい人と見知らぬ人を助けるほか何もありません」　

　「その人の名前は？」

　「ホセイン・アリ（バハオラの本名）です」

　「年令は？」

　「二十八才です」

　　　 キリストの名前はイエスであったのと同様、この偉大な人物の名前はホセイン・アリであったことをわ

　たしは知った。イエスはキリスト（油を注がれた者の意味）の称号で知られ、ホセイン・アリはバハオラ

　（神の栄光の意味）の称号で知られていたのである。

　　　 バハオラはペルシャの高貴な家柄に生まれたが、そこはダニエルがミカエル王子（ミカエルとは神のよ

　うに見える人）の幻を見たところである。

　　　 神がダニエルに、末の日まで「書物は封じられる」と告げたとき、つぎのように約束した。

　「その時、あなたの民を守っている大いなる君ミカエルが立ち上がります」�A

　　　 バハオラは、ペルシャのマザンラダン地方で生まれた。マザンダランについてつぎのようなことが記さ

　れている。

　「この地方に関して多くの伝説がある。そこで、枝が天にとどく美しい木が成長するといわれている。こ

　の木の果実は諸国民の生命となり、多くの人びとがそのすばらしい木を見つけようと、この地方に旅する

　であろう。そのほかの伝説は、戦争と憎悪の王が、これらの高い山々の一つに閉じ込められるというもの

　である」�B

　　　 この話は、この地方からある偉大な人物、人類に平和をもたらす人物の出現を寓話にたとえたものであ

　ると著者は説明している。

　　　 これと似た伝説が黙示録とダニエル書の中にも見いだされた。ダニエルは、神のように見えるミカエル

　が、終りの日に人類を救済すると予言し、同時にその日は大復活の日であると述べている。

　　　 現代のユダヤ教の学者であるＦ・ハジングスは『予言の中のシオニズム』の中で、「われわれは予言者

　ダニエルが幻で見たのと全く同じ“末の日”に実際生きているようである」と書いた。

　　　 フセイン・アリ、バハオラ。わたしには聞きなれない名であった。この名になれるまではかなりの時間

　がかかった。中東の人の名前である。知らず知らずのうちに、わたしは、ローマのある歴史家と同じよう

　に、この聞きなれない東洋の名前に反対したのである。しかし、考えてみると、神の使者たちはすべて東

　洋から出現し、最初かれらの名前は奇妙に聞こえたのである。

　　　 このころ、わたしは、オックスフォード大学の聖書研究家であり有名なキリスト教の牧師であったＴ・

　Ｋ・チェイン博士の宣言ともいえるものに出くわした。

　「もし最近予言者が出たとすれば、それはバハオラであり、われわれはかれに向かわなければならない。

　かれは最高の地位、すなわち予言者に属する人である」�C

　　　 わたしはまた、エステリン・カーペンターが、『比較宗教』の中でつぎのような質問をしていたのを読

　んだ。

　「ペルシャはその苦難の中で、世界中に行き渡る宗教を生み出したか。」

　　　 ここまでくると、わたしはだれから何を言われようと、この調査を止めるわけにはいかなかった。わた

　しは今、千年期喪失事件の解決への糸口を見つけたのである。多くの人びとが、長い間失望してきたよう

　に、わたしも失望するであろうか。

　　　 少なくとも、わたしは前時代の人びとより有利な立場にいた。わたしは、メシアが認められ、受け入れ

　られるための確実な証拠をリストにしたものをもっていたからである。

　　　 わたしの心は熱意であふれた。もはやそれを抑えることはできなかった。スリルは高価な宝石の発掘以

　上に胸をときめかせるものである。しかし、それはつづくであろうか。

　　　 困難な仕事である。わたしはリストを取り出し、ゆっくりと一つづつバハオラの生涯と照らし合わせて

　いった。

　　　 その結果、バハオラについては、かなり知ることができた。かれは、キリストと同様、当時の指導者た

　ちからひどい侮辱と屈辱を受けた。アマルの祈り場では残忍にむち打たれたりもした。

　　　 バブの殉教の二年前に、かれは兵士にとらえられ、テヘランの地下牢まで何キロも歩かされた。その途

　中、衣服ははがされ、罵言とあざけりの的とされた。歴史書にはつぎのように記録されている。

　「バハオラは、裸足で、真夏の猛烈な陽射しにさらされ、頭には何もかぶらず、シミランから地下牢まで

　の長い道のりを歩かされた。途中いたるところで、群集から物を投げつけられたり、そしられたりした。

　……地下牢に近づいたとき、一人の老女がバハオラに石を投げつけようとした。彼女は兵士に哀願した。

　『わたしにも、あの顔に石を投げつけさせてくれ』。バハオラは、その老女が後から近づいてくるのを見

　て、護送兵にいった。『この女を失望させてはならない。彼女が神の前で正しいと思う行為を妨げてはな

　らない』」�D

　　　 政府当局は、バハオラの影響を阻止するために、かれを信者たちから離し、国外へと追放した。行き先

　はイラクであった。

　　　 チグリス・ユーフラテス川！　 エゼキエルが「主の栄光」の幻を見た場所である。バビロン！　 そして、

　バハオラは「神の栄光」という意味である。

　　　 わたしは、これまでの調査書類に「解決」と書き入れた。そのあとすぐ、「証拠」にとりかかることに

　した。千年期喪失事件がどのように発展するかは、このあとの調査にかかっていた。

　　　 つぎの章では、バハオラが過去の聖典の予言をどのように満たしたかを見てみよう。　

　

　　

　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 三章　 証拠

　

　一　日の出ずる国から来た王

　

　　　 調査を進めていくうちに、バハオラが「メシアは東方から来る」という聖典の予言を満たした証拠がふ

　えてきた。バハオラはペルシャの高貴な家柄に生を受けたことはすでにわかっていた。ペルシャはイスラ

　エルの東に位置する。

　　　 キリスト教の牧師、ジョーン・カミングは、末の日に関する著書『最大艱難』の中で、ゾロアスターの

　予言を引用している。それによると、神の使者はペルシャのヌール地方から出現するとある。ヌールはマ

　ザンデラン州にあり、バハオラの故郷である。かれの父親、ミルザ・ボゾグルはペルシャ皇帝の大臣で

　あった。

　　　 ネイテフの『宗教上の論争』という本の中に、東方から出現する人物について、ゾロアスターの予言が

　書かれているが、それをつぎにあげてみよう。

　

　　　 一 神はなんじ（ペルシャ）によい結果をもたらすであろう。

　　　 二 もし、全世界に一分しか残されていないとすれば、わたしは宗教を復活する人物をこの国（ペル

　　　　　　 シャ）から送り出すであろう。

　　　 三 ペルシャとほかの国々がアラブに征服されるとき、わたしはペルシャの王族の子孫から一人を選ぶで

　　　　　　 あろう。かれは世界の人びとが神を賛美するように、東から西へと呼びかけるであろう。

　

　　　 その後、つぎのような情報も手に入った。

　「ある記録文書が発見され、かれ（バハオラ）の家系が千三百年以上もさかのぼって古代ペルシャの王家

　にたどりつくことがわかった」�@

　　　 さて、仏教典に目を移してみると、そこにも偉大な救世主の出現が予言されていた。

　「マイトレーヤ（ミロク）と呼ばれる仏陀、世界的友情をもたらす仏陀」�Aが、時が満ちれば現われると

　書かれている。そして、この聖なる人物は、東方からではなく西方から出現すると信じられているのである。

　　　 英国の牧師、エドワード・アーヴィングは、一八〇〇年代の千年期熱狂期間といわれる時期に、キリス

　トの再臨を熱心に待っていた人であるが、つぎのように述べている。

　「……まったくおどろくべきことだが、わたしの友人の一人が、インドのヒマラヤ山の聖池のそばに立っ

　たとき、そこにはキリスト教徒が住んだことはかってなかったのに、地元の人たちが西方からきて四十年

　間地球を所有する宗教を期待していることを知った」�B

　　　 バハオラはペルシャから到来した。ペルシャはイスラエルからは東方であるが、インドからは西方にあ

　たる。かれの活動期間は一八五三年から一八九二年までの四十年であった。

　　　 シリアとパレスタインの予言者たちは、約束のメシアが東方からくることを予言した。インドや東南ア

　ジアの予言者たちは、メシアが西方から来ると述べている。

　　　 旧約聖書の予言者エノクは、メシアがペルシャから出てくることを予言していた。

　「その時代に天使が集まり、国王たちを動揺させるために、頭を東方のバルシアとメディアの人びとの方

　へ向けるであろう。そして、騒乱の気がみなぎり、かれらは王座から追放されるであろう」�C

　　　 パルシアとメディアは現在のペルシャ（イラン）にあたるところであり、バハオラの生まれ故郷である。

　　　 ユダヤ教の聖書であるシビリン書にもまた、東方から現われるメシアについての予言があった。

　「それから、神は日の出ずるところより王を送り出すであろう。そして、その王はあらゆる国を戦争の破

　滅から救い出すであろう……。かれは自分からそうするのではなく、強大な神のよい定めにしたがってそ

　うするのである」�D

　　　 ジョセフ・クラウスナーは、『イスラエルのメシア観』の中で「日の出から来る王とは、うたがいもな

　く王なるメシアである」と書いている。

　　　 エゼキエルもメシアが東方からイスラエルの聖地に来ることを予言した。かれは、メシアがそのときど

　ういう名で呼ばれるかも予言した。それは「神の栄光」である。エゼキエルは、最後の日の幻をつぎのよ

　うにしるした。

　「その時見よ、イスラエルの神の栄光が東の方から来た……」�E

　「主の栄光が東の方に面した門の道から宮にはいった時……」�F

　　　 わたしは、バハオラという名はアラビア語で「神の栄光」または「主の栄光」という意味であることは

　知っていた。バハオラの先駆者はバブで、これは「門」という意味であることもわかっていた。

　　　 バブは門で、それを通してバハオラ（神の栄光）が人びとの心に入ったのである。バハオラは自分の意

　志ではなく、追放されてペルシャからイスラエルまで来た。ペルシャはイスラエルの東方にあたる。

　　　 わたしは、これまでの発見に十分満足した。バハオラはイザヤ、エレミヤ、エゼキエル、ダニエル、ミ

　カ、ゾロアスター、仏陀、モハメッドおよびそのほかのさまざまな予言を実現したのである。

　

　二　古代神秘の国

　

　　　 つぎの調査は、古代神秘の国、バビロンに関してであった。これまでの調査で、末の日の救世主は、

　かってバビロンと呼ばれたチグリス・ユーフラテス川の流域から来ることにはほとんどうたがいがなかった。

　　　 人びとが救世主がいないことをなげいたとき、ミカはかれらを強くいましめ、救済はバビロンから来る

　ことを約束した。かれは、人びとの信仰のなさを嘆き、つぎのようにいった。

　「今あなたは何ゆえわめき叫ぶのか、あなたのうちに王がないのか……」�@

　「シオンの娘よ、産婦のように苦しんでうめけ。あなたは今、町を出て野にやどり、バビロンに行かなけ

　ればならない。……主はその所であなたをあがなわれる」�A

　　　 ミカは、終りの日に関してこのように予言をした。終わりの日であることは、第四章の最初の句を見て

　も明らかである。

　「末の日になって……」�B

　　　 これは、イスラエルの民が集められ、国々はつるぎを打ちかえてかまとする時である。

　　　 探偵としてのわたしの役割は、ミカ書の予言をバハオラが実現したかどうかを見ることであった。

　

　　　 一 バビロンで生まれる。

　　　 二 町を出る。

　　　 三 野にやどる。

　　　 四 バビロンに来て人びとをあがなう。

　

　　　 これまでにわかったことは、バハオラの信教は一八四四年にはじまり、その後バハオラは一八五三年一

　月十二日に、ペルシャからイラクに追放されたことである。

　　　 かれの住居は、旧バグダード市のカルクと呼ばれる区域であった。

　　　 この地方は古代バビロンの国であったことは確実である。プリストルの司教、トーマス・ニュートンは、

　『予言に関する論説』（一七五四）の中で、つぎのように書いている。

　「有名な旅行家、タバーニエはこう説明した。『バグダードから少し離れたところにあるチグリス川の分

　岐点に都市のいしずえがある。その周囲は、一リーグ以上あったと思われる。壁がいくらか残っているが、

　その上を六つの馬車が平行して通っていた。それは、十フィート平方、厚さ三フィートの焼れんがで造ら

　れていた。この国の歴史家たちは、ここに古代バビロンがあったと述べている』」

　　　 ハンウエイは、『ハンウエイ旅行記』の中で、有名な都市、バグダードについて述べた。

　「その付近には世界でもっとも古い、もっとも強力な君主国の首都があった。その場所はバグダードまた

　はバクダートと呼ばれたが、ほかの著者たちは、古代の呼び名、バビロンを用いた」

　　　 ウィル・デュラントは、『信教の時代』の中で、バグダードについてこう書いている。

　「それは、昔のバビロニアの都市で、古代バビロニアからそう遠くないところにある。そこのチグリス川

　底で、ネブカドネザルの名を印したれんがが発見された」

　　　 わたしは、バハオラがバグダードに来て、チグリス川のほとりに立ったことを知った。そのほかにもつ

　ぎのことがわかった。

　　　

　　　 一 古代バビロンのチグリス・ユーフラテス川の流域で、バハオラは非常な苦しみと困難の中で自らの使

　　　　　　 命を宣言した。　

　　　 二 ミカが予言したように、バハオラは一八五四年この町から出て、クルディスタンの山中に行った。キ

　　　　　　 リストが砂漠に行ったときと同様であった。

　　　 三 ミカが約束したように、バハオラは野にやどった。かれはただ一人で、将来の大事業にそなえるため

　　　　　　 にクルデスタンの荒野をさまよった。

　　　 四 この荒野から出て、バビロン（バグダード）に行った。そこで、自分が末の日に約束されているメシ

　　　　　　 アであることを公に宣言した。

　

　　　 エゼキエルが東方から来た「神の栄光」について幻を見たとき、かれはバビロンの囚人であった。かれ

　はつぎのように述べている。

　「わたしがケバル川のほとりで、捕囚の人びとのうちにいた時、天が開けて、神の幻を見た」�C

　　　 エゼキエルは、同じ章で、空ににじを見たと述べている。にじは、ノアに約束された神の聖約のしるし

　である。かれは、幻の中で一人の人物を見た。

　「……主の栄光の形のさまは、このようであった。わたしはこれを見て、わたしの顔をふせたとき、語る

　者の声を聞いた」�D

　　　 わたしは、ケバルの歴史を調べてみた。古代の地理学者たちにはカバル川またはそのほかの名で知られ

　ていた。ケバル川は、バグダードの西にその源があり、古代バビロンのユーフラテス川に流れ込んでいた。

　バハオラが自分の使命を宣言したのもこの同じ地域である。

　　　 エゼキエルは、自分の見た幻についてつぎのように述べている。

　「時に霊がわたしをもたげた。そして主の栄光がその所からのぼった時、わたしの後に大いなる地震の響

　きを聞いた。……そこで、わたしは立って平野に出て行った。見よ、主の栄光が、かってわたしがケバル

　川のほとりで見た栄光のように、その所に立ち現われたので、わたしはひれ伏した」�E

　　　 バハオラは古代バビロンの地、ケバル川地方に現われた。かれの名は「主の栄光」または「神の栄光」

　を意味することはすでに述べた。

　　　 ほかにも、興味深い予言が見つかったが、それはインドからきたものである。これも末の日にバビロン

　に現われる約束の人に関するものであった。これは赤い衣の伝統と呼ばれるもので、内容をつぎに述べて

　みよう。これは八世紀に生きたインド人のイスラム教徒が神の大いなる日の到来に関して述べたものである。

　「その日、聖なる人はカルクと呼ばれる国に住むであろう。かれは川のほとりをイスラム教の托鉢僧の

　ターバンをして、赤い衣に身をつつんで歩くであろう。そして、川の堤で信者に教えるであろう。もし、

　わたしが、かれの面前に出て、その道に血を流す恩恵を受けることができれば……」�F

　　　 わたしは、バハオラが実際そのような赤い衣を着たことを知った。その衣は、バハオラがクルデスタン

　の荒野をさまよっていたとき、かれの妻と娘が用意したものである。それは、バハオラがペルシャで監禁

　されていたとき、略奪をまぬかれた赤い布で作られたものであった。バハオラは、チグリス川辺で教えを

　説いた。かれの住んだ場所はカルクと呼ばれ、古代バビロンがあったところである。

　　　 なんとおどろくべき事実であろうか。

　

　三　バビロンで生まれる

　

　　　 バビロンに関してほかの手がかりも見つけることができた。イスラム教の予言にキリストの再臨に関す

　るものがあるが、その中にバグダードが出てくる。コーランには、この都市は「平和の住居」と神自らが

　呼ばれるところだと述べられている。同じ書にはつぎの言葉もある。

　「神がすべての人びとを集められるとき、主と共にいられる平和の住居がある……」�A

　　　 イザヤも人びとが集められる終りの日とバビロンについて語った。かれはバビロンへの約束をつぎのよ

　うに述べている。

　

　　　 一 「地の果てなるもろもろの人よ。わたしを仰ぎのぞめ、そうすれば救われる。わたしは神であって、

　　　　　　 ほかに神はないからだ」�B

　　　 二 「ヤコブの家よ、イスラエルの家に残ったすべての者よ。……わたしに聞け。わたしは造ったゆえ、

　　　　　　 必ず負い、持ち運び、かつ救う」�C

　　　 三 「われわれをあがなうものはその名を万軍の主といい、イスラエルの聖者である」�D

　　　　　　 それから、イザヤは神がバビロンで選んだ人に皆耳を傾けるように呼びかけた。

　　　 四 「あなたがたは皆集まって聞け。彼らのうち、だれがこれらの事を告げたか。主の愛せられる彼は主

　　　　　　 のみこころをバビロンに行い、その腕はカルデヤびとの上に臨む」�E

　　　 五 「語ったのは、ただわたしであって、わたしは彼を召した。わたしは彼をこさせた。彼はその道に栄

　　　　　　 える」�F

　　　 六 「あなたがたはわたしに近寄って、これを聞け、……今、主なる神はわたしとその霊とをつか

　　　　　　 わされた」�G

　　　 七 「あなたのあがない主……主はこう言われる。……あなたを導いて、その行くべき道に行かせる」�H

　　 そして、イザヤはつぎの言葉で結んだ。

　　　 八 「あなたがたはバビロンから出、カルデヤから逃れよ。喜びの声をもってこれをのべ聞かせ、地の果

　　　　　　 てまで語り伝え、『主はそのしもべヤコブをあがなわれた』と言え」�I

　　　 以上のように、イザヤもミカと同様、イスラエルはバビロンであがなわれるであろうと予言したのである。

　　バハオラはバグダード（バビロン）に来て、世の人びとに自分の使命を宣言した。かれは人びとからは

　歓迎されず、そこから追放された。かれはバビロンから出、カルデヤから逃れ、聖地イスラエルにたどり

　着いたのであった。

　　　 イスラエルは現在、バハオラが創立した信教の世界中心地となっている。このこともまた、イザヤ書に

　予言されていた。

　「わたしはこの事を語ったゆえ、必ずこさせる。わたしはこの事をはかったゆえ、必ず行う。……わたし

　はわが救いを近づかせるゆえ、わたしは救いをシオンに与え、わが栄光をイスラエルに与える」�J

　　　 しかし、偉大な救世主がバビロンから来るというおどろくべき証拠はゼカリヤ書にあった。ゼカリヤが

　「わたしはエルサレムに帰る」といった人の幻を見たとき、かれはまたふたつのオリーブ木を見た。かれ

　は神にこれらのオリーブ木の出現の意味をたずねた。

　「あなたはそれがなんであるか知らないのですか」と神は問うた。ゼカリヤが知らないと答えると、神は

　その意味を説明した。ゼカリヤはそれをつぎのように記録した。

　「ゼルバベルに、主がお告げになる言葉はこれです」�K

　　　 ゼルバベルという名は、為政者の名前であるが、本当の意味は象徴的な意義をもっていることがわかっ

　た。ゼルバベルという言葉は、オックスフォード出版局から出された欽定英訳聖書では「バビロンで生ま

　れた」を意味し、他の版では「バビロンで散らばった」の意味である。クルーデンは、用語索引で、「バ

　ビロンに追放さる」、「バビロンの見知らぬ人」を意味すると断言した。

　 　　これらの意味はすべてババオラにあてはまるのである。かれはペルシャからバビロンに追放された。そ

　こでは見知らぬ人であり、かれの信教はバビロンで生まれた。最後には信者とともに散らばり、古代カナ

　ンの地にたどりついた。そこは神がアブラハムに末の日に相続させるものとして約束した土地である。

　　　 アブラハムの大業とバハオラの大業は共にバビロンで生まれた。聖霊がこのふたりに下り、光が古代の

　地、バビロンから全世界にそそがれた。このことはゼカリヤが幻で予言していたことであった。

　「主の言葉がわたしに臨んで言うには、『ゼルバベルの手はこの宮の礎をすえた。彼の手はこれを完成す

　る。その時、あなたがたは万軍の主が、わたしをあなたがたにつかわされたことを知る』」�L

　　　 アブラハムは神の言葉により、イスラエル家の土台を築いた。バハオラは神の言葉によりそれを完成し

　た。両者共にバビロンで生まれた。ゼカリヤはこのことを的確に予言していた。

　「ゼルバベル（バビロンで生まるの意味）に、主がお告げになる言葉はこれです。万軍の主は仰せられる、

　これは権勢によらず、能力によらず、わたしの霊によるのである」�M

　　　 ゼカリヤは、誤解がないように、ここでもう一度ふたつのオリーブの木が何を意味するのかを聞いた。

　神はこう答えた。

　「これらはふたりの油をそそがれた者で、全地の主のかたわらに立つ者です」�N

　　　 油をそそがれた者というのは神の使者を意味するところから、オリーブの木の一つは、バビロンで神の

　教えをもたらしたアブラハムで、もう一つは、その教えを同じくバビロンで完成させたバハオラを指すと

　解釈できる。

　　　 また、これらのオリーブの木は、終りの日に全世界の主のそばに立つバブとバハオラであると見ること

　もできる。

　　　 そのほか、バハオラがその使命を宣言したバグダードは、「神の贈り物」という意味があることもわ

　かった。ここでもまた、バハオラは聖書の約束を果たしたのである。

　　　 このように、メシアはバビロンに来て、荒野に引きこもり、そして、古代の神秘の国であるバビロンよ

　り全世界に自らの使命を宣言するという聖書の予言は、バハオラによって実現されたのである。

　　

　四　おどろくべきミカ書

　

　　　 旧約聖書の中に一連の手がかりを見つけることができた。それは、メシアの動きを始めから終わりまで

　たどったものであった。この書だけでも、終りの日に出現するメシアを証明することができるほどである。

　　　 ミカは一章の始めにこう予言した。

　「見よ、主はそのご座所から出てこられ、下ってきて地の高い所を踏まれる」�@

　　　 バハオラは「地の高い所を踏まれる」という予言をふたつの意味で実現した。一つは象徴的なものであ

　る。かれは、アブラハムの足で聖なる土地となった場所を歩いた。そして、ユダヤ教、キリスト教、イス

　ラム教がすべて聖地と見なしているイスラエルに追放された。かれは、イエスやほかの古代の予言者たち

　が歩いたところを歩くよってこの予言を満たした。

　　　 現実的には、バハオラは自らの使命を宣言する前に、クルデスタンの山岳地帯で何ヵ月も祈りと瞑想に

　過ごし、さらに後日、イスラエルのカルメル山に足を踏み入れてこの予言を実現したのである。カルメル

　山は、「神の山」、「予言者の隠れ場所」、「雪のように白い場所」と呼ばれるところである。

　　　 この聖なる山、カルメル山中のエリヤの洞窟のやや上方で、バハオラはつぎのように呼びかけた。

　「おおカルメル山よ、シオンに呼びかけよ。そして死ぬ運命にある人間の目からかくされてきた方が到来

　されたという吉報を告げよ」�A

　　　 ミカのつぎの予言もおどろくべき正確さで実現された。

　「ヤコブよ、わたしは必ずあなたをことごとく集め、イスラエルの残れる者を集める」�B

　　　 この予言は、一八四四年に実現しはじめたことはすでに述べた。一八四四年に寛容令が出され、ヤコブ

　の子孫であるユダヤ人は、十二世紀間の追放を終えて、自由にイスラエルに帰れるようになったのである。

　　　 そして、とくにバハオラがイスラエルに足を踏み入れて以来、多数のユダヤ人が故国にもどりはじめ、

　ついに一九四八年、イスラエル国家が建設された。

　　　 バハオラ自らも近い将来にこの偉大な出来事が起こることを予言していた。シオニズムに関してたくさ

　んの著書を残したカール・アルバートは、『現代の改革主義者』の中で、このバハオラの予言についてつ

　ぎのように述べた。

　「七十五年も前、アッカの牢獄でバハオラは書いた。『イスラエルの追放人たちは集まり、国家を建設す

　るであろう。そして、敵味方双方の羨望と称賛の的となり、外面的にも精神的にもひじょうに繁栄し、二

　千年の屈辱は忘れ去られるであろう』」�C

　　　 ミカ書の予言はキリストの最初の出現に関してでなく、再臨についてであることはまちがいない。ミカ

　自らも、これらは末の日に起ることだといっているからである。

　「末の日になって主の家の山はもろもろの山のかしらとして堅く立てられ、もろもろの峰よりも高くあげ

　られ、もろもろの民はこれに流れくる」�D

　　　 わたしは、バハオラの先駆者であるバブが埋葬されているイスラエルのカルメル山腹を訪れた。その近

　くには、バハオラの信教の世界行政センターがある。千年期喪失事件を調査するために、そこに滞在して

　いた間、わたしは毎日、「そこに流れてくる」多数の人びとを目撃した。三時間たらずのうちに、二千人

　位の人が出入りしていたのである。これらの人びとは、文字通り、世界中から集まってきた人たちであった。

　　　 ミカはまた、終りの日に主の家より主の言葉とともに律法が出されることを約束している。

　　　 イスラエル滞在中に、わたしはバハオラの律法が、現在、二百五十の国、属領と島に出されていること

　を知った。そして、全世界に八千以上のセンターが確立されていたのである。（一九九八年現在、十二万

　以上のセンターが確立）

　　　 わたしは、バハオラの指示にしたがって一九六三年に設立された万国正義院の建物が建設される予定の

　敷地を歩いた。（万国正義院の建物は一九八二年に完成。）ここから、ミカ書の予言通り、世界中の全国

　および地方行政会に律法が出されているのを知ったのである。

　　　 ミカは、キリストの最初の出現と再臨について予言し、一回目はベツレヘムから、二回目はアッシリア

　から出てくると約束した。そして、最初の出現の後で、苦しみと困難がイスラエルの子孫たちに降りかか

　ることも予言した。

　「それゆえ、シオンはあなたがたのゆえに田畑となって耕され、エルサレムは石塚となり、宮の山は木の

　おい茂る高い所となる」�E

　　　 紀元七十年にエルサレムはローマのティトゥスに滅ばされた。一三二年にローマ皇帝ハドリアヌスは、

　バーコクバの兵士を潰し、廃墟となったその都市を耕した。

　　　 ベツレヘムから出現するメシアについて、ミカはつぎのように述べた。

　「それゆえ、産婦の産みおとす時まで、主は彼らを渡しおかれる。その後、その兄弟たちの残れる者はイ

　スラエルの子らのもとに帰る」�F

　　　 ミカは「産婦」とはシオンの娘であることを指摘した。では彼女はどこで産みおとすのであろうか。ミ

　カはこれについてもつぎのように予言していた。

　「シオンの娘よ、産婦のように苦しんでうめけ。あなたは今、町を出て野にやどり、バビロンに行かなけ

　ればならない。その所であなたは救われる」�G

　　　 ミカはつづけた。

　「……今、彼は大いなる者となって、地の果てにまで及ぶからである」�H

　　　 ミカは、メシアが二度目に現われるときは、アッシリアから来、一つの群れ、一人の羊飼いとなる時代

　をもたらすであろうと予言した。

　「……国は国にむかってつるぎをあげず、再び戦いのことを学ばない」�I

　　　 一八〇〇年代の聖書研究家たちは、メシアの到来に関して、アッシリアとエラム（同じ地方の古代王

　国）とペルシャに特別の約束が与えられていることを知っていたが、その理由は理解できなかった。

　　　 一八七〇年代に、キリストの再臨に関する特別会議に出席した十四人の牧師のうちの一人であったＨ・

　ボーナーは、つぎのように述べた。

　「祝福と復活が運命づけられた国がもう一つある。それはエラムである。これは終りの日に、全地球がキ

　リストに受け継がれるとき、神が為されることのうちで、人間が見落とす実例と見なされるものである」

　　　 ボーナーは、アッシリア、エラム、ペルシャに関する予言を受け入れたが、その理由は自分にはわから

　ないと述べている。

　「……わたしはどうしてエラムまたはアッシリアが終りの日にそれほど特別に祝福されるのか、その理由

　をあえて述べることはできない」�J

　　　 キリストがあたえた再臨のときのしるしと同じしるしをミカは与えていた。人びとがノアの時代と同じ

　ように飲み食いし、快楽を求めて生活しているとき、東方からメシアが現われることをキリストは警告した。

　　　 ミカもメシアが東方のアッシリアから来ることを予言し、つぎのように述べた。

　「神を敬う人は地に絶え、人のうちに正しい者はない。……おのおの綱をもってその兄弟を捕える。両手

　は悪い事をしようと努めてやまない。つかさと裁判官はまいないを求め、大いなる人はその心の悪い欲望

　を言いあらわし、彼らの最もよい者もいばらのごとく、最も正しい者もいばらのいけがきのようだ……」�K

　　　 キリストは、主は「盗人のように」来るので気をつけていなければならないと警告したが、ミカも、そ

　のときについてつぎのようの述べた。

　「……彼らの見張りびとの日、すなわち彼らの刑罰の日が来る」�L

　　　 ミカはつづけて、おどろくべき予言をつぎからつぎへとあらわした。かれは、主がイスラエルに来る経

　過とかれに降りかかってくる出来事を正確に予言していた。これほど明白な手がかりを見つけた探偵はほ

　かにいないであろう。

　　　 ミカはつぎのように約束した。それらはすべてバハオラによって実現されたものである。

　

　　　 一 かれはアッシリアから来るであろう。

　　　 二 かれは要塞都市から来るであろう。

　　　 三 かれは要塞から川に行くであろう。

　　　 四 かれは海から海へと行くであろう。

　　　 五 かれは山から山へと行くであろう。

　　　 六 かれが行く土地は荒れ果てているであろう。

　　　 七 かれはカルメル山中で自分の群れを養うであろう。

　　　 八 かれはユダヤ人がエジプトを出たときに過ごした期間と同じ期間、もろもろの不思議なことをするで

　　　　　　 あろう。

　

　　　 実をいえば、わたしは、メシアの証明には以上の予言が実現されただけでも十分だと感じた。ところが、

　バハオラはつぎの九つのミカの予言も実現していたのである。

　

　　　 一 神の使者として現われ、地上の高いところに足を踏み入れる。

　　　 二 イスラエルの子孫が故国に集められるときに現われる。

　　　 三 山中に神の家を建てる。

　　　 四 世界の人びとが引きつけられてくる。

　　 　五 その山から教えや律法が全世界に送られる。

　　　 六 バビロンに行く。

　　　 七 町より去る。

　　　 八 荒野と野に住む。

　　　 九 イスラエルの子孫をあがなうものをバビロンで生み出す。

　

　　　 これでなぜ、わたしが「おどろくべきミカ書」と呼んだかが読者の方々にわかっていただけるであろう。

　バハオラがこれらの九つの予言を実現したのであれば、わたしの調査も終わりにきたはずであった。正直

　なところ、わたしは千年期喪失事件の解決に必要な証拠は十分そろったと感じたのである。

　

　五　八つのおどろくべきステップ

　

　　　 信じないミカの敵はあざ笑った。

　「あなたの神、主はどこにいるか」�@

　　　 ミカはゆるぎない確信をもって答えた。

　「……わたしは主を仰ぎ見、わが救いの神を待つ。わが神はわたしの願いを聞かれる」�A

　　　 ここでミカは、メシアの出現を示す一連の予言を記した。見る目のある人たちがすべて、人びとの中に

　住んでいるメシアを見ることができるようにである。

　

　　　 一 「その日、彼はアッシリアから、そして要塞都市から来るであろう」�B

　　　 アッシリアは前にも述べたように、バハオラがその使命を宣言した地方（バグダード）にあった古代王

　国である。バビロンやエラムもその付近にあった王国であることも前述した。

　　　 バハオラはバグダードから要塞都市であるコンスタンチノープルに追放された。その後、ペルシャとト

　ルコの両政府は、かれとその教えを潰すために、要塞都市であるアッカに追放した。

　

　　　 二 「かれは要塞から川に行くであろう」�C

　　　 バハオラはアッカの要塞内に二年間閉じ込められていた。このとりではひじょうに頑丈に作られており、

　ナポレオンさえも征服することができなかった位である。ナポレオンの軍隊が撃った大砲の弾は現在もと

　りでの石壁に突き刺さったままである。バハオラはこのアッカの要塞から出て、ナマム川と呼ばれる川の

　中にある島に旅した。

　

　　　 三 「彼は山から山へと行くであろう」�D

　　　 これも前述したように、バハオラはクルデスタンの山に引きこもった。かれはその山からバグダードに

　もどった。がその後、イスラエルに追放され、カルメル山に行った。カルメル山はキリストが歩いたとこ

　ろでもある。

　

　　　 四 「彼は海から海へと行くであろう」�E

　　　 わたしは、バハオラの追放をイラクからイスラエルまでたどってみた。要塞都市、コンスタンチノープ

　ルへ追放される途中、かれは黒海を渡り、さらに要塞都市、アッカに追放されるときは、地中海を通って

　行った。

　

　　　 五 「彼が行く土地は荒れ果てているであろう」�F

　　　 バハオラが追放されたアッカの町は牢獄都市と呼ばれ、荒れ果てていた。その町は不潔で臭気に満ち、

　病原菌の巣窟であり、バハオラはそこで死ぬと思われたほどであった。アッカの空を飛ぶ鳥は落ちて死ぬ

　とさえいわれた。そこでは、腸チフス、マラリア、ジフテリア、赤痢が猛威をふるった。そこは「オオム

　の町」と呼ばれたが、その意味は「荒涼とした不毛の土地」であると、当時の歴史家は説明した。

　

　　　 六 「カルメル山中の森の中に一人で住むあなたのつえをもってあなたの民、あなたの羊の群れを養って

　ください」�G

　　　 晩年になって監禁生活から解かれたバハオラは、カルメル山中にテントをはった。そして、荒れ果てた

　山腹にあるイトスギのかたまりのそばに座って、先駆者の遺体が埋葬される地点を定めた。現在、そこに

　はバブの廟が建っている。

　　　 バハオラはその地点から慈愛にあふれた言葉で羊の群れである信者たちを養ったのである。かれは信者

　たちにこう教えた。

　「地球は一つの国であり、人類はその市民である。……自国を愛することを誇りとせず、むしろ人類を愛

　することを誇りとせよ」�H

　　　 カルメル山中で、バハオラは、自らの使命とイエスの使命を結びつけた。かれは、キリストがかって歩

　んだ聖なる山につぎのように呼びかけた。

　「……おおカルメルよ、なんじの主に感謝をささげよ。われよりの別離の炎で、なんじが燃え尽くされて

　いたとき、大洋のごときわが出現は、なんじの面に打ち寄せ、なんじと全創造物の目を活気づけた……。

　主はまことに、その王座とされたこの地、その足跡が残されたこの地、その出現で栄誉を与えられたこの

　地、その呼び声があげられ、その涙が流されたこの地をこよなく愛される」�I

　　　 ミカの最後の予言は、おそらく、もっとも驚嘆すべきものであろう。かれは、神が末の日のメシアに真

　理を注ぎ込む正確な期間を予言したのである。

　「あなたがエジプトを出た期間によってわたしはもろもろ不思議なことを彼らに示す」�J

　　　 モーゼがエジプトを出た期間は四十年であった。モーゼの導きの下で、ユダヤ人たちは約束の地に着く

　までの四十年間砂漠をさまよった。それと同じ期間、全能の神は、その使者の口を通して、終りの日にも

　ろもろの不思議なことを彼に示すであろうというのである。

　　　 ショセフ・クラウズナーは、『イスラエルのメシア的思考』の中で、Ｒ・エリーザーの言葉を引用して、

　「メシアの期間は四十年であろう」と述べている。

　　　 このことは詩篇の九十五章にも記されていた。

　「わたしは四十年の間その世代を嘆いた」�K

　　　 牧師のエドワード・アーヴィングは、「四十年間地上を支配する」宗教についてのエンドの予言に注目

　した�L。

　　　 聖書研究家のフーパー・ハリスは、『教課』の中で、つぎのように述べている。

　「ここで述べられている四十は、ある偉大な人との追放、包囲、流刑、投獄、迫害の期間と深い関係があ

　る。この偉大な人には苦難と重荷が降りかかるが、それもかかわらず、その期間、神の教えは地球を満た

　すことになろう」

　　　 バハオラはモーゼと同様、四十年間追放生活を強いられた。最後には囚人としてアッカに送られた。そ

　こはかっては古代カナンの土地で、神が、終りの日にアブラハムの家系から出る人に継がせると約束した

　ところである。追放、流刑、そして投獄の四十年間は、バハオラがこの世で信教の仕事にたずさわった正

　確な期間であった。

　　　 バハオラは一八五二年八月、テヘランで「暗黒の穴」と呼ばれる最悪の地下牢に投げ込まれた。その牢

　獄の中で経験したことをかれ自身つぎのように語っている。

　「見よ、栄光に満ちた神の微風がわれに吹き寄せ、これまでに存在してきたすべての知識をわれに教えた。

　これはわれから来たものではない。すべてを知る全能者から来たものである。神は、われに天と地の間に

　声をあげるように命じた。……これはあなたがたの主の意志の風が揺り動かした一葉にすぎない。激しい

　風が吹き荒れているときに動かずにいることができようか」�M

　 　　地下牢から出された後、バハオラはバグダードに追放された。その後も場所から場所へと追放され、最

　後はイスラエルのアッカに移された。そして一八九二年五月、アッカ近郊でこの世を去った。

　　　 このように、バハオラの使命がはじまって終わるまでちょうど四十年であり、モーゼがエジプトから出

　た期間とまったく同じなのである。

　　　 わたしは、畏敬の念をもって「ミカの七つの予言はすべて実現された」とノートに書き込んだ。

　　　 これほど信じがたい話がほかにあるであろうか。世の人びとがこの話を知らないのは何と残念であろう

　か。紀元前八世紀に生きた予言者ミカの予言がこれほど的確にバハオラによって満たされたことに対して

　ただ驚嘆するばかりである。

　

　六　太陽は不要である

　

　　　 終りの日に現われるメシアの名は「神の栄光」であることは前にも述べた。十九世紀の聖書研究家たち

　の多くもこの名をもつメシアを探していた。

　　　 バハオラという名の意味は「神の栄光」または「主の栄光」であることも前述したが、この名はイザヤ

　書にも何回となく出てくる。

　　　 イザヤは、最後まで忠実なイスラエルの子孫に予言していた。

　「主の栄光はあなたのしんがりとなる……。あなたの子らは久しく荒れすたれたる所を興す……」�@

　　　 イスラエルでバハオラが足を踏み入れた「荒れすたれたる所」はすべて興され、美化された。バハオラ

　の名が「主の栄光」という意味であることはいうまでもない。

　「主は、あがなう者としてシオンにきたり……」�A

　「主は言われる。『わたしが彼らと立てる契約はこれである』」�B

　　　 この後で、イザヤはつぎのように宣言した。

　「……起きよ、光を放て。あなたの光が臨み、主の栄光があなたの上にのぼったから」�C

　　　 バハオラは東方よりシオン（イスラエル）に来た。かれは聖約の書とよばれる本を書き、人類の将来に

　ついて述べた。バハオラの信教の中心地は神の山と呼ばれるカルメル山の中腹に位置する。

　　　 イザヤはつぎのようにも予言していた。

　「荒野と、かわいた地とは楽しみ、さばくは喜びて花咲き、さふらんのように、さかんに花咲き、かつ喜

　び楽しみ、かつ歌う。……カルメルおよびシャロンの麗しさが与えられる。彼らは主の栄光を見る。……

　神は来て、あなたがたを救われる」�D

　　　 バハオラが到着して以来、荒涼としていたカルメル山は美しい緑と花で飾られてきた。カルメル山から

　はアッカが見え、その向こう側にはシャロンの平野がひろがっている。

　　　 イザヤは、ほかの章でも一人の羊飼いと一つの群れについて語った。

　「見よ、主なる神は大能をもってこられ、主は牧者のようにその群れを養い、そのかいなに小羊をいだき

　……」�E

　「こうして主の栄光があらわれ、人は皆ともにこれを見る。これは主の口が語られたのである」�F

　　　 バハオラは、イスラエルに来て、全人類が一つの群れの羊であることを説き、散らばった神の羊をひ一

　つとつの家族に集めた。

　　　 エゼキエルもまた、「神の栄光」について語っていた。

　「見よ、イスラエルの神の栄光が、東の方から来たが、地はその栄光で輝いた……」�G

　　　 つづけてエゼキエルはこう述べた。

　「主の栄光が、東の方に面した門の道から宮にはいった時、主の栄光が宮に満ちた……」�H

　　　 キリストもまた、一つの群れを導く偉大な羊飼いについて語っている。

　「門からはいる者は、羊の羊飼いである」�I

　「人の子は父の栄光のうちに、御使いたちを従えて来る……」�J

　　　 バハオラは東方から来た。かれは門（バブ）を通って来たことは前にも述べた。「父の栄光」と「神の

　栄光」は同じ意味である。

　　　 このように、東方から門を通してあらわれる神の栄光は、散らばった羊を一つの群れにまとめる羊飼い

　であることが、旧約聖書にも新約聖書にも何回となく予言されているのである。

　　　 黙示録はイザヤ書と同じように、キリストの最初の出現と再臨に関して述べているが、二回目には「神

　の栄光」として出現することを予言した。

　「わたしはまた、新しい天と新しい地とを見た。先の天と地とは消え去った……。また聖なる都、新しい

　エルサレムが天から下って来るのを見た……。……都は、日や月がそれを照らす必要がない。神の栄光が

　都を明るくしたからである」�K

　　　 キリストも「神の栄光」として再臨するとき、新しいエルサレムの時代を予言した。サマリア人の女が、

　キリストにどうして古代から神聖であった礼拝の場を変えたのかと聞いた。

　「主よ、わたしはあなたを予言者と見ます。わたしたちの先祖は、この山で礼拝をしたのですが、あなた

　がたは礼拝すべき場所は、エルサレムにあると言っています」�L

　　　 キリストは答えた。

　「女よ、わたしの言うことを信じなさい。あなたがたが、この山でも、またエルサレムでもない所で、父

　を礼拝する時が来る」�M

　　　 新しいエルサレムは、メシアと共に天から下されてくる神の律法であることがわかった。メシアの住む

　ところはどこでも新しいシオン山である。エルサレムとは「平和のある場所」を意味し、シオンは「記念

　碑が建てられるところ」を意味する。

　　　 黙示録には、つぎの言葉がある。

　「……聖都エルサレムが、神の栄光のうちに、神のみもとを出て天から下って来るのを見せてくれた。…

　…その都の輝きは高価な宝石のようであり……」�N

　　　 エノク書も終わりの日の新しい名前について語っている。

　「彼らは祝福され、讃美され、賞賛された。人の子の名が彼らにあらわされたからである」�O

　「彼（神）は聖なるミカエルに聖なる名を彼らに明かすように話した。かれらがその秘められた名を理解

　するようにである」�P

　　　 このミカエルは、ダニエルが述べた神のような人、ペルシャの王子であるミカエルと同じ人物である。

　彼はこれが一八四四年に起ることを予言した。

　「おおカルメルよ、急げ、神のみ顔の光はなんじに注がれた……。……喜べ、今日、神はなんじの上にそ

　の座を確立された」�Q

　　　 同じ書簡につぎのような言葉もある。

　「おおカルメルよ、シオンに叫べ……神の都は天より下された」�R

　　　 そして、つぎの句が加えられていた。

　「ためらうことも、とどまることもしないように留意せよ」

　ハバクク書にもつぎの句が見いだされた。

　「海が水でおおわれているように地は主の栄光の知識で満たされるからである」�S

　　　 世間一般の人びとは、バハオラの出現にまだ気づいていないが、かれの信教は、世界の二百五十の国と

　属領、およびほとんどの島にひろがっているのを知っておどろいた。わたしは、バハオラの信教の発展を

　示す地図をたんねんに調べてみた。

　　　 ハバククは、神の栄光について見た幻は、終わりの日に起ることを予言していた。

　「この幻を書き、これを板の上に明らかにしるし、走りながらも、これを読みうるようにせよ。この幻は、

　なお定められたときを待ち、終わりをさしていそいでいる。それは必ず臨む。滞りはしない」21

　　　 ハバククはまた、人びとはこのすばらしい真理を見るけれども信じないであろう、と警告した。終わり

　の時、神の栄光が聖なる宮殿にあるとき、人びとの状態はつぎのようである、と述べた。

　「諸国民のうちを望み見て驚け、そして怪しめ、わたしはあなたがたの日に一つの事をする。人がこの事

　を知らせても、あなたがたはとうてい信じまい」22

　　　 わたしは、神が「一つの事をする」のを見つけたであろうか。一つだけ自信があった。それはメシアが

　「神の栄光」として知られるであろう、ということであった。わたしは、「証拠」の横に「実現」と書き

　入れた。

　　

　七　地球の家族は祝福を受ける

　

　　　 バハオラがメシアとすれば、かれはアブラハムの家系から出てきたことが証明されなければならない。

　キリストの再臨を待っていた十九世紀の聖書研究家の間では、メシアはアブラハムの子孫でなければなら

　ないということに意見が一致していた。わたしは、バハオラの家系をたどってみた。

　　　 アブラハムとバハオラの結びつきについてはすでに述べたが、バハオラが「忠実なる人の父」（アブラ

　ハム）の子孫であることを説明する文をつぎに引用してみよう。

　「かれは、一方においては、アブラハムの妻ケトラの子孫であり、他方においては、ゾロアスターおよび

　ササン朝の最後の国王、ヤズデギルド三世の後裔でもある。また、かれ（バハオラ）は、エッサイの子孫

　であり、ミルザ・ブゾグルとして知られているかれの父、宮廷の大臣職にある貴族、ミルザ・アバスを通

　して、マザンダランのもっとも古い由緒ある家族の子孫でもある……」�@

　　　 以上から、バハオラがアブラハムの子孫であることがわかった。それも、かれの三番目の妻ケトラによ

　る子孫である。これは興味深い手がかりであった。というのも、イスラエル系英国人たち、および千年期

　の研究者たちの著書の中に、終りの日に現われるメシアは、アブラハムの三番目の妻ケトラの子孫である

　と書かれているからである。

　　　 アブラハムは晩年になってケトラをめとった。ケトラの息子たちは、終りの日に、若いライオンたちと

　共にイスラエルで神のために勇敢に戦うことを約束されているのである。

　　　 この言い伝えは、ハルマゲドンの戦いについて語ったエゼキエルの予言に基づいていた。邪悪な王たち

　がゴグとマゴグの国から「イスラエルの我が民」を攻めてくるとき、主はつぎのように約束した。

　「シバ、デダン、タルシシの商人およびそのもろもろの村々はあなたに言う、『あなたは物を奪うために

　来たのか。物をかすめるために軍隊を集めたのか。あなたは金銀を持ち去り、家畜と貨財を取りあげ、大

　いに物を奪おうとするのか』と」�A

　　　 そのとき、主は忠実なる人たちの助けを借りてゴグをほろぼす、と約束した。

　「わたしは疫病と流血とをもって彼をさばく。わたしはみなぎる雨と、ひょうと、火と、硫黄とを、彼と

　その軍隊および彼と共におる多くの民の上に降らせる」�B

　　　 このことは、黙示録とペテロの第二の手紙の「主が夜の盗人のように来る」終わりの日に関して記され

　ている。

　　　 イスラエルで主のそばに居るシバとデダンの若いライオンたちは、アブラハムの妻ケトラの血を引く約

　束された子孫なのである。このことはまた、創世記に書かれていた。

　「アブラハムは再び妻をめとった。名をケトラという。彼女はヨクシャンを産んだ……。ヨクシャンの子

　はシバとデダンである」�C

　　　 エゼキエルは、シバとデダンの子孫に関する章の前の章で、終わりの日、イスラエルのふたつの家系が

　結ばれることを予言した。これは、神がアブラハムと結んだ聖約のあらわれである、とエゼキエルは明言

　した。

　　　 この予言はユダとイスラエルの融合だけでなく、ユダヤ教とキリスト教というふたつの精神的な家系の

　融合とも考えられるのである。

　　　 主はエゼキエルに言った。

　「わたしはイスラエルの人々を、その行った国から取り出し、四方から彼らを集めて、その地にみちびき、

　その地で彼らを一つの民となしてイスラエルの山々におらせ、一人の王が彼ら全体の王となり、彼らは重

　ねて二つの国民とならず、再び二つの国に分れない」�D

　　　 バハオラの信教がはじまった年と同じ年（一八四四年）に、勅令が出され、イスラエルの人びとが「集

　められる」ことが可能になった。バハオラの到着後、イスラエルは独立国家となった。バハオラの教えの

　一つは、ユダヤ教徒とキリスト教徒の融合である。

　　　 エゼキエルは、メシアの廟が永遠にイスラエルに置かれるという神の約束でこの予言を結んだ。

　「わたしは彼らと平和の契約を結ぶ。これは彼らの永遠の契約となる。わたしは彼らを祝福し、彼らをふ

　やし、わが聖所を永遠に彼らの中に置く」�E

　　　 この約束どおり、バハオラの聖所はイスラエルの美しい場所に置かれている。

　　　 イザヤもまた、イスラエルの民が集まってくることを語っていた。

　「あなたの目をあげて見まわせ、彼らはみな集まってあなたに来る。あなたの子らは遠くから来、あなた

　の娘らは、かいなにいだかれてくる」�F

　　　 この句の少し前で、イザヤはいつこの集りが起るかを予言した。主は、この聖なる山につぎのように語

　りかけている。

　「起きよ、光を放て、あなたの光が臨み、主の栄光があなたの上にのぼったから」�G

　　　 ほかの個所にはつぎのような言葉もある。

　「主にあがなわれた者は帰って来て、シオンに来る……」�H

　　　 同じ章で、イザヤはつぎの予言をした。

　「カルメルおよびシャロンの麗しさが与えられる。彼らは主の栄光を見、われわれの神の麗しさを見る」�I

　　　 そのほかにも、「集り」についてつぎの句が見いだされた。

　「主は牧者のようにその群れを養い、小羊を集めるであろう……」�J

　「こうして主の栄光があらわれ、人は皆ともにこれを見る」�K

　　　 このように、例外なくイスラエルの民の集りのときは、「主の栄光」の出現と密接な関係があることが

　示されているのである。この「集り」または「帰国」は、一八四四年に始まった。そして、一九四八年、

　イスラエルの建国によって頂点に達した。バハオラは、囚人としてに到着した後、このことを予言してい

　た。「バハオラ」という名前は、「神の栄光」という意味であることはすでに述べた。

　　　 エゼキエルは、つぎのように予言している。

　「わがすみかは彼らと共にあり、そしてわが聖所が永遠に彼らのうちにあるようになるとき……」�L

　　　 モーゼの遺体がどこに埋葬されているかは不明である。やキリストの墓地についても推測や議論がある

　だけである。しかし、バハオラの遺体が安置されている「聖所」は、正確に知られており、永遠にイスラ

　エルのうちにあるのである。

　　　 その聖所には、現在、数えきれないほどの人びとが、世界中から訪れてきている。キリスト教徒の作家、

　アーサー・ムアは、つぎのように述べている。

　「そこは、国際的な巡礼の地である。日曜や祭日には、ハイファに住むさまざまな信仰をもった人たちが、

　休息やレクレーションのために、そこを訪れるのである」�M

　　　 ここまできて、わたしは、アブラハムとバハオラの関係を示す証拠は十分集まったと思った。ところが、

　そのほかにも、きわめて興味深い一連の予言が見つかった。

　

　八　新しい時代の主

　　

　　　 イザヤは、アブラハムの種に関して三つの明確な予言をしていた。

　

　　　 一 主は、イスラエルの追いやられた者を集め、ユダの散らされた者を地の四方から集められる�@。

　　　 二 主は国々のために旗をあげる�A。

　　　 三 エッサイの旗から一つの芽が出、そのから一つの若枝が生えて実を結ぶ�B。

　

　　　 ゼカリヤも第三章で、アブラハムの子孫からこの枝が出てくることを述べた。同じ章の中で、終わりの

　日に関して、かれはつぎのように予言した。

　「それゆえ、主はこう仰せられます。わたしはあわれみをもってエルサレムに帰る……」�D

　「主はこう仰せられる、『わたしはシオンに帰る……』」�E

　　　 現代は、太古の昔、神がアブラハムに、その子孫がこの土地を受け継ぐであろうと約束した時代なので

　ある。

　「…あなたの身から出る者があとつぎとなるべきです。わたしはこの地をあなたに与えて、これを継がせ

　ようと、あなたをカルデヤのウルから導き出した主である。……この地をあなたの子孫に与える」�F

　　　 そこでアブラハムは神に聞いた。

　「主なる神よ、わたしがこれを継ぐのをどうして知ることができますか」

　「三才の雌牛と、三才の雌やぎと、三才の雄羊と、山ばとと、家ばとのひなをわたしの所に連れてきなさ

　い」と神は答えた�G。

　　　 どのように、そしていつカナンを継ぐかというアブラハムの質問に対するこの神の答えはいかにも奇妙

　である。

　　　 Ｆ・ハッジングスは『予言におけるシオニズム』の中で、ここで述べられている動物が重要なのではな

　く、それらの年令に意味があると説明している。三種の動物はおのおの三才である。鳥はひなであるから

　一才とみなされる。したがって、三、三、三、一、一、を合計すると十一となる。この意味は、十一年後

　にこの予言が実現し、アブラハムはカナンを継ぎ、かれの子孫は地球を継ぐというものである。

　　　 聖書の一日は一年（三六〇日）であるから十一に三六〇をかけると三九六〇年となる。すなわち、三九

　六〇年後にこの予言が実現するというのである。

　　　 この予言がアブラハムに与えられたのは、イサクの誕生（紀元前二〇〇七年）の少し前であるので、三

　九六〇年から二〇〇七年を引くと一九五三年となる。

　　　 わたしの仕事は、この一九五三年に、バハオラの信教内で何か意義のあることが起こったかどうかを調

　べることであった。この調査は成功であった。

　　　 一九五三年はバハオラがバグダード（バビロン）に到着したときから百周年にあたる記念の年であった。

　また、世界の隅々にまでバハオラの信教をひろめるための大計画が立てられた年でもある。これはイザヤ

　が予言した「神の法」がシオンより全世界に出されるための土台をつくるためであった。そのために、多

　数のパイオニアと呼ばれる人たちが全世界に散らばっていき、一九五四年にはバハオラの信教は百カ国に

　ひろまった。

　　　 それ以上に重要なことは、一九五三年は、「地上における神の王国の始まりをしるす」年とみなされる

　ことである�H。

　　　 この一九五三年は、大ビラミッドの予言にも重要な日付けの一つとしてしるされていた。ワース・スミ

　スは、『現代の奇跡』の中で、一九五三年に関してつぎのように述べている。

　「全地球が、公害から清められ、キリストの一千年の統治が実際に始まる前に、地上の人びとを準備する

　期間である」

　　　 ローリッヒ教授は、『アルタイ・ヒマラヤ』という五年間の探検を記録した本の中で、インド、蒙古、

　シベリアにさえも、このメシアと共に新しい時代が到来することを述べている。それも、どのようにそれ

　が到来するかも語られているのである。その中からいくつかを紹介してみよう。

　

　　　 一 「あらゆる国に前例のない戦争が起るであろう」

　　　 これは第二次世界大戦で実現された。

　　　 二 「それから、世界のすみずみに布教者たちが現われ、真の教えが聞かれるであろう」

　　　 バハオラの信教の記録を調べてみると、第二次世界大戦後、バハイ（バハオラに従う者）は、第二次七

　年計画を実行し、その教えは西半球からヨーロッパまでひろがった。一九五三年には十年計画が始まり、

　バハオラのメッセージは地球のすみずみまでとどいた。

　　　 三 「人びとは、この真理の言葉に引かれるが、暗黒と無知でいっぱいになっている人びとは、それを妨

　　　　　　 害するであろう……。この教えを助ける者は、百倍もの報酬をうけるであろう」

　　　 バハオラの書にも、神のために努力する者は、百倍の報酬を受けることが明記されているのである。

　　　 四 「すべての人は短い間に、新時代の主の力強い歩みを聞くであろう」

　　　 バブの殉教時には、バハオラのメッセージは二カ国にだけ知られていた。そして、バハオラの昇天の年

　には十五カ国にひろまっていたにすぎなかった。しかし、一九五三年の世界的にひろめられたことにより、

　バハオラの信教は二百三十五の国と属領にひろがり、三千のセンターをもつまでになった。

　　　 Ｖ・レスニイ博士は、バハオラを「二十世紀の救世主」と呼んだ�I。バハオラはまた、「新時代の主」

　とも呼ばれ、その教えに関する本でひろく読まれているものには、『バハオラと新時代』という題名の本

　がある。

　　 　五 「そして、人びとは通常ではない人びとを目撃するようになろう。すでに、これらの人びと（バハ

　　　　　　 イ）は、知識の門を開け、果実は熟して木より落ちてきているのである」

　　　 わたしは、これらの「通常でない」バハイについてさまざまな意見があることを知った。米国最高裁判

　所の裁判官であるウイリアム・Ｏ・ダグラスは、バハイの誠実さを賞賛している。アイオワ大学宗教学部

　の教授であるマーカス・バックは、『キリスト教の世紀、バハイについて再考』という論評の中でこう述

　べた。「米国でもっともキリスト教的な信教について、あるプロテスタントの牧師と語っていたとき、か

　れは言った……。『バハイが動き出したら、全国をとりこにするであろう』�J。豊かな生命をもたらす福

　音に関心をもつすべての人は注意せよ。バハイがくるかもしれない……。かれらは、給料も名誉も欲しな

　い。また、受け取るより与えることに興味がある人たちである……。この牧師の『バハイが動き出したら、

　全国をとりこにするであろう』という言葉はまったく正しいと思われる」

　　　 六 「かれ（メシア）を受け入れる人は、喜びに満ちあふれるが、かれを否定する人は、ふるえおののく

　であろう……。そして、戦士（布教者）たちは、マイトレーヤ（ミロク）の旗の下に行進するであろう」

　　　 バーローとスピーゲルバーグは、『世界の聖書』の中で、東洋の聖典によれば、マイトレーヤ（ミロ

　ク）は、遠い将来に出現するあわれみ深い仏陀であるが、キリストが自分の再来を予知したように、ゴー

　ダマもマイトレーヤの出現を予言したと述べている。

　「世界的な友情」をもたらす仏陀、マイトレーヤは、インドの西方、イスラエルの東方に現われるといわ

　れている。バハオラの故国、ペルシャは、インドとイスラエルの中間に位置する。かれのメッセージもま

　た、世界的な友情と、すべての宗教、国家、民族の和合をもたらすものである。

　　　 イザヤも、全地球がメシアの教えを聞く時代を予言した。

　「すべての世におるもの、地に住むものよ、山の上に旗の立つときは見よ……」�K

　　　 イザヤはつぎのようにも予言した。

　「それゆえ、主は待っていて、あなたがたに恵みを施こされる。……あなたの目はあなたの師を見る」�L

　　　 Ｆ・ハッジングスは、アブラハムとカナンに関する予言は、一九一四年に実現すると計算した。かれは、

　当時のシオニズムに対する関心がひじょうに強まったことで、この予言が実現したと判断したのである。

　しかしながら、わたしは、神がアブラハムに告げた三九六〇年の実現の年がいつであるにせよ、バハオラ

　の信教の進展の時期にあたることを知った。

　　　 事実、ハッジングスの計算による一九一四年は、バハオラの信教にとって重要な年であることがわかっ

　た。その年、バハオラの長子がカルメル山の斜面に立ち、やがてハイファは重要な港になり、繁栄するで

　あろうと予言した。また、ハイファとアッカの両都市は、ハイウエイで結ばれるであろうと述べた。この

　二つの都市は、バハオラの信教にとって聖なるところである。この予言もすでに実現した。

　　　 かれはまた、電灯の光が聖なる山、カルメルを照らし、その光は遠くはなれた沖からでも見えるであろ

　うと予言した。これも実現した。

　　　 主は、予言通りシオンを建設した。ダビデの詩篇には、つぎのような約束がある。

　「主はシオンを築き、その栄光をもって現われる」�M

　　　 イザヤは予言した。

　「異邦人は、あなたの城壁を築くであろう……」�N

　　　 これは、枝、エッサイの根、アブラハムの子孫が地上に現われるときである。同じ章で、イザヤは聖な

　る山について宣言した。

　「主の栄光があなたの上にのぼった」�O

　　　 バハオラはイスラエルにきた。かれは「主の栄光」として知られていた。かれはアブラハムの第三の妻、

　ケトラの子孫である。かれの聖所は永遠に聖地に置かれた。かれの信者たちは、短期間に水が海をおおう

　ように地球をおおった。

　　　 以上から、わたしはこれらの予言がすべて実現したと断定した。

　　

　九　希望への戸

　

　　　 わたしのつぎの仕事は、メシアが現われてからハイファとアッカで起るすばらしいことを調べることで

　あった。というのも、カルメル山だけでなく、シャロンの平野とアッカの谷に関しても、すばらしいこと

　が約束されていたからである。

　　　 ホセア書にはつぎの約束が書かれている。

　「その所でわたしは彼女にそのぶどう畑を与え、アコルの谷を望みの門として与える。その所で彼女は若

　かった日のように歌うであろう……」�@

　　　 これが起こるのはいつであろうか。それはイスラエルがメシアの一回目の出現に背を向けたことが許さ

　れるときであり、二回目の出現のとき、メシアの真理を信じるようになる終わりの日であることは確かで

　ある。ホセアはつづけてつぎのように述べている。

　「わたしはあわれまれぬ者をあわれみ、わたしの民でない者に向かって、『あなたはわたしの民である』

　と言い、彼は『あなたはわたしの神である』と言う」�A

　　　 ホセアはこれが終わりの時に起こることを予言していた。まず、アコル（アッカ）の谷が希望と避難場

　所となり、イスラエルが不信から目ざめ、最愛の人、ダビデをエッサイの茎（アブラハムの子孫）から探

　すのである。

　「そしてその後イスラエルの子らは帰って来て、その神、主とその王ダビデとをたずね求め、終りの日に

　おののいて、主とその恵みに向かって来る」�B

　「主の日」と「終わりの時」は同じ意味であることはすでにわかっていた。それは一八四四年、バハオラ

　の信教が誕生したときであり、また、ユダヤ人がイスラエルにもどってこれるようになったときに始まっ

　たことも明らかになっていた。

　　　 これに関して、イザヤもホセアと同じ予言をしていた。

　「わたしはヤコブから子孫をいだし、ユダからわが山々を受けつぐ者をいだす。わたしが選んだ者はこれ

　を受けつぎ、わがしもべらはそこに住む。シャロンは羊の群れの牧場となり、アコルの谷は牛の群れの伏

　す所となって、わたしを尋ね求めたわが民のものとなる」�C

　　　 五行あとで、イザヤはこう述べた。

　「……おのれのしもべたちをほかの名をもって呼ばれる」�D

　　　 ほかの個所でもイザヤはつぎのように予言している。

　「……そして、あなたは主の口が定められる新しい名をもってとなえられる」�E

　　　 そして、メシアの都市と主からあがなわれた者は、つぎのように呼ばれるであろう。

　「人に尋ねもとめられる者、捨てられない町」�F

　　　 エゼキエルは、この都市、一つの群れの一人の羊飼いの偉大な町について、その名は、新しいエルサレ

　ムであると語っているのである。

　「……この町の名は『主そこにいます』と呼ばれる」�G

　　　 調べてみると、アコル（アッカ）の谷が、どこにあるかだれもはっきりと知っている者がいなかった。

　聖書のウエストミンスター歴史図表には、死海の西部、ユダの荒野にあるヒルカニアとギルガルの間にあ

　るとされている。ジョージ・アダム・スミスのアベルディーン大学用の聖地の歴史図表には、ジェリコと

　ギルガルに近い現在のＷ・エル・ケルト川沿岸付近ではないかと考えられている。しかし、双方共に推測

　にすぎず、正確な場所は不明である。

　　　 アカンとその家族が石で打ち殺され、アッカの谷に埋められて以来、そこは見捨てられた場所となった。

　神の法に逆らった罪にたいする罰であった。

　　　 アコルは「苦難」という意味であり、アコルの谷は「苦難の谷」である。これはユダヤ人が終わりの日

　にメシアが到来するとき、かれらの苦しみは終わるであろうというしるしと考えられる。その時代は、ヨ

　シュアによって予言されていた。

　「主は激しい怒りをやめられた……」�H

　　　 終わりの日、バハオラは囚人として古代の都市、アッカの要塞都市に送られた。そこはもっとも忌まわ

　しい気候とひどい汚水しかない都市であった。この古代カナンの地で、バハオラはトルコ政府よりきびし

　く監禁され、はげしく迫害された。アコルはまさしく苦難の谷といえるのである。

　　　 この谷に関して、バハオラはつぎのように述べている。

　「……われらがこの土地に着いたとき、ここを〈最大牢獄〉と呼ぶことにした。以前、ほかの国（ペル

　シャ）で鎖と足かせをはめられていたが、そこではこの呼び方を用いなかった……。これについて熟考せ

　よ。おお、理解ある者らよ……」�I

　　　 ほかの個所で、バハオラはアッカの牢獄について書いている。

　「われらに降りかかってきたことは、全能者、全知者である神以外はだれも知ることはない」�J

　　　 バハオラは、自らの苦しみが、このアッカの谷で最高潮に達したことを述べている。かれは予言どおり

　アッカに到着し、カルメル山を訪れた。これに関してつぎの説明がある。

　「敵から迫害され、追放されなかったならば、どのようにしてバハオラはペルシャをはなれ、この聖地に

　テントをはることができたであろうか……」�K

　　　 バハオラは、イスラエルのエリヤの洞の真下にあるハイファに最初足を踏み入れた。かれの信者たちは、

　バハ（栄光）が聖地に到着されたことを知って喜びにあふれた。かれがトルコから追放されたとき、だれ

　もその行き先を知らなかったからである。

　　　 バハオラの追放はついに終わりにきた。神の栄光はイスラエルの土地に足を踏み入れた。かれの追放は

　エジプトから出たユダヤ人と同じく、聖地イスラエルに到着することで終わった。

　　　 サミエル・ベン・ジュダ・ヴァレリオは、きわめて興味深い予言を残している。かれは、聖書評論家で、

　ダニエル書の注釈を書いた人であるが、それは十六世紀の後半にベニスで出版された。ヴァレリオは、ユ

　ダヤ人の追放は、ユダヤの暦で五六二八に終わると計算していた。西暦では一八六八年である。

　　　 一八六八年は、バハオラがイスラエルに着いた年である。その年かれの長い追放生活は終わった。かれ

　は、ついに「予言者の場」にきたのであった。かれはまた、イスラエルの子らの精神的な追放を象徴的に

　終わらせたのである。

　　　 バハオラのイスラエルへの到着は、ダビデの詩篇の中で予言されていた。

　「門よ、こうべをあげよ。とこしえの戸よ、あがれ。栄光の王がはいられる。この栄光の王とはだれか。

　万軍の主、これこそ栄光の王である」�L

　　　 バハオラは、キリストと古代の予言者たちが歩んだガレリーの土を踏んだ。かれは、ヨルダンを越えて

　海を通ってきた。

　「しかし、苦しみにあった地にも、やみがなくなる。さきにはゼブルンの地、ナフタリの地にはずかしめ

　を与えられたが、後には（第二回目には）ヨルダンの向こうの地、異邦人のガリラヤでもっとひどく苦し

　められるであろう」�M　　　　　　　　　　

　　　 門（バブ）を通して、栄光の王バハオラはイスラエルに到着したことは前にも述べた。イザヤは、海を

　通ってくる第二回目の出現を語っているのであり、キリストが多くの時間をすごしたナフタリやゼブルン

　の地ではないことは、数行後の予言から明らかである。　　　

　「一人のみどりごがわれわれのために生まれた、一人の男の子がわれわれに与えられた。まつりごとはそ

　の肩にあり、その名は『霊妙なる議士、大能の神、とこしえの父、平和の君』ととなえられる……そのま

　つりごとと平和とは増し加わって限りなく、ダビデの位に座して、その国を治め、今より後、とこしえに

　公平と正義とをもってこれを立て、これを保たれる。万軍の主の熱心さがこれをなされるのである」�N

　　　 この予言は、キリストにあてはまると考えられてきたが、一部しか満たされていないので、キリスト教

　の学者も、残りの予言はキリストの再臨のとき実現されるものと率直に認めているものである。では、こ

　の予言をくわしく見てみよう。

　

　　　 一 まず、まつりごと（政治）はキリストの肩になかった。キリスト自ら述べている。「カイザルのもの

　はカイザルに、神のものは神に返しなさい」�O。「わたしの国はこの世のものではない」�P

　　　 二 つぎに、キリストの名前は「大能の神」ではない。キリストは明らかに自らを神と異なったものだと

　考えた。「なぜわたしをよき者と言うのか。神一人のほかによい者はいない」�Q

　　　 三 キリストは「とこしえの父」でもなかった。かれは自分の父は自分と異なっているとしばしば述べて

　いる。キリストは自分と父上は同じ目的をもっているが、このように明確にちがいを説明した。「わたし

　の父がわたしに下さったものは、すべにまさるものである」�R。「……子は父のなさることを見てする以

　外に、自分からは何事もすることができない」�S

　　　 四 キリストは自分を「平和の君」であると宣言したことはない。「地上に平和をもたらすために、わた

　しがきたと思うな。平和でなく、つるぎを投げ込むためにきたのである」21　

　　　 五 「まつりごと（政治）と平和が増し加わる」ことも、キリストは期待しなかった。それどころかかれ

　はこのように述べているのである。

　「あなたがたは、わたしが平和をこの地上にもたらすためにきたと思っているのか。むしろ分裂である。

　今から後は、一家の内で五人が相分れて、三人はふたりに、ふたりは三人に対立するであろう」22

　

　　　 以上と同じ章で、キリストは夜の盗人として現われる終わりの日について語っているのである。

　　ではここで、キリストによって満たされなかた予言がバハオラによって満たされたかどうかを見てみよう。

　

　　　 一 まず、まつりごと（政治）はバハオラの肩にかかっていた。かれは地方、全国、国際機関を確立し、

　かれの信教と全人類の人権が守られるようにした。

　　　 二 つぎに、かれの名前は「霊妙なる議士（評議員）」と呼ばれることができる。かれは、これらの行政

　機構に評議の原則を定めたからである。　

　　　 三 また、キリストは息子と呼ばれたがバハオラは父上と呼ばれた。バハオラの使命は父上としてのもの

　であった。すなわち、それまで分裂していた人類を一つの家族に和合させるという使命である。異なった

　国家、民族、宗教を和合させるのがかれの目的なのである。

　　　 四 キリストは明らかに平和をもたらすためにきたのではないと述べた。一方、バハオラの最大目的は世

　界平和である。かれがＥ・Ｇ・ブラウン博士に語った言葉からも、かれが「平和の君」であることがわか

　る。ブラウン博士は、バハオラとの会見をつぎのように記録している。

　「やさしいが威厳のある声がわたしに座るように命じた。『わたしは、ただ世界の利益と諸国民の幸福を

　願うばかりである。……すべての国が同じ信念のもとに一つとなり、すべての人びとが同胞として一体に

　なること、人びとの間に愛情と和合のきずなが強化されること……それらは、かならず実現されるであろ

　う。多くの無益な争いや破壊的な戦争はなくなり、やがて最大平和がかならず到来するであろう』。これ

　が、わたしがバハ（バハオラ）から聞いたことである。これらの言葉を読む人に考えていただこう。この

　ような教えが監禁や死にあたいするかどうか、また、世界はこれらの言葉の普及によって利益を得るか、

　損失をまねくかどうかを」23

　　　 五 バハオラが生み出した王国（共同体）は百数十年の間に世界中にひろまり、発展しつづけている。こ

　の目をみはるほどの発展は、バハオラの曾孫のショーギ・エフェンディの指導による。かれは三六年間、

　バハオラの信教の守護者であった。

　

　　　 ここまできて、読者の方々も、わたしと同様、「何とおどろくべき話であろうか」と感じておられるこ

　とであろう。千年期喪失事件の探偵として、わたしはますます熱中していった。

　　　 バハオラはまた、百巻以上の本を残し、全世界に平和をもたらし、新しい行政機構のもとですべての人

　が安心して暮らせる方法を示した。さらに、世界の為政者に書簡を送り世界平和確立のために努力するよ

　うに勧告した。

　　　 これらのできごとはすべてカルメル山から見えるアッカ（アコル）の谷で起こったことである。このこ

　とは詩篇に約束されていた。

　「主は大いなる神であって、われらの神の都、その聖なる山で大いにほめたたえられるべき方である。シ

　オンの山は北の端が高くて、うるわしく、全地の喜びであり、大いなる王の都である」24

　　　 バハオラの信教の行政センターはカルメル山の北側にあり、イスラエルでもっとも美しいところの一つ

　ある。この新しいシオンから全人類に向かって吉報が告げられているのである。このように、新しいシオ

　ンは、詩篇の終わりの日に関する予言を実現した。

　「主は大いなる神であって、われらの神の都、その聖なる山で大いにほめたたえられるべき方である。シ

　オンの山は北の端が高くて、うるわしく、全地の喜びであり、大いなる王の都である」25

　　　 わたしは、カルメル山やハイファやアッカについて、もっと知りたいと感じた。

　

　十　貧しき者は楽園の王

　

　　　 カルメル山については、つぎの説明がすぐ見つかった。

　「カルメル山はユダヤ人の歴史では有名であり、予言者の比喩的な表現にしばしば用いられる」�@

　　　 この名高い山は、旧約聖書のヨシュア記、列王紀上、列王紀下、雅歌、イザヤ書、エレミヤ書、アモス

　書、ミカ書、ナホム書などに記されている。

　

　　　 一 カルメル山は、エリヤがイスラエルの民をＹＨＷＨ（神）に忠誠を誓わせ、バールの僧侶を殺害した

　ところとして有名である�A。

　　　 二 カルメル山は、エリヤがシュナマイトの女の息子の生命を蘇生させたところである�B。

　　　 三 ユダヤの百科事典には「カルメル山は昔から聖なる場所と考えられてきた」とある�C。

　　　 四 ＹＨＷＨ（神）の祭壇は、バールの崇拝が紹介される前にカルメル山に存在していた�D。エリヤの洞

　は現在もカルメル山に存在している。終りの日にメシアの先駆者として現われるようになっている預言者

　エリヤの洞である。

　　　 五 エリヤは、ジェリコよりカルメル山にきて、そこを自分の永遠の住まいとした�E。

　　　 六 ピタゴラスは、カルメル山のもつ神聖な名声のゆえ、そこに魅せられた�F。

　　　 七 ローマの歴史家、タキトウスによれば、ウエスパシアヌス皇帝は、カルメル山の山腹に住んでいると

　信じられていた神託を述べる人に相談するためにそこを訪れた�G。

　　　 八 エリヤは、人びとの集会の場所として、カルメル山をえらんだ�H．

　　　 九 カルメル山で、真理の論争が行われているとき、火炎が天より下り、イスラエルの神が、真の神とい

　うことを証明した�I。

　　　 十 エリヤの洞窟は、カルメル山に現存する。終わりの日にメシヤの先駆者として現われる予言者エリヤ

　の洞窟である。

　　　

　　　 以上のほかにも、カルメル山と終わりの日に関して、きわめて興味深い予言がエリヤ書の中に見られる。

　　　 シルバーは、『イスラエルにおけるメシアの推論』の中で、エリヤ書について論評した。

　「天使ミカエルは、エリヤに天界を見せた後、カルメル山上で終わりの時をあらわす」�J

　　　 つぎの約束もまた、カルメル山に関するものである。

　　　

　　　 一 メシアはカルメル山中に住むであろう。

　　　 二 メシアはカルメル山よりその教えのつえでかれの群れを育てるであろう。　　　　　

　　　 三 メシアである神の栄光をカルメル山は見るであろう。

　

　　　 ほかの聖典にもカルメル山とアッカに関して数多くの記述が見つかった。アッカ（アッコー、アコル、

　聖ジャンヌダルク、プトレマイオス）の都市は、希望と約束の地としてひじょうに称賛されてきた。たと

　えば、アラビアの予言者もアッカに何度も言及してつぎのように呼んだ。　　　

　

　　　 一 「神が特別の慈悲を示した都市」�K

　　　 二 「海辺にあり、その白さは神の喜びである」�L

　

　　　 イスラム教の予言にはアッカについてつぎのようなものがある。

　　　 一 「アッカを訪れる者に祝福あれ。そしてアッカの訪問者を訪れる者に祝福あれ」�M

　　　 二 「そこであげられる祈りの声は楽園にとどくであろう」�N

　　　 三 「アッカの貧しき者は楽園の王であり、王子である」�O

　　　 四 「アッカでの一ヵ月は、ほかの場所での千年より幸いである」�P

　

　　　 最後に、バブの殉教、バハオラの追放、そして、アッカの牢獄での監禁を知っている者には、びっくり

　するような予言を紹介してみよう。

　「かれらのすべて（メシアの先駆者の伴侶たち）は、一人を除いてすべて殺害されるであろう。その人は、

　アッカ、神の大饗宴会場の平野にたどりつくであろう」�Q

　　　 有名なケンブリッジ大学の教授、Ｅ・Ｇ・ブラウン博士は、一八九〇年にバハオラとアッカの平野にた

　ずねた。かれは、そのときの模様をつぎのように記録した。

　「ここで、わたしは決して忘れられない五日間をすごした。……その間、力強い精神の源泉である人びと、

　目に見えないが、ますます強くなっていく力をもって、死に似た眠りにまどろんでいる人びとを活気づけ、

　変えるために働く人たちと交わることができた。それは、ひじょうにめずらしい、そして、予期だにしな

　かった機会であった。それは、実際不思議で、感動的な経験であった。しかし、それについて貧弱な印象

　しか伝えることができないのが残念である……（バハオラの信者たち）の間にある精神（スピリット）は、

　その影響下にある人たちをすべて強烈に感動させずにはおれないものである。それは、無視されたり、見

　過ごされたりすることはできない。それを見なかった者は、わたしのいうことは信じられないかも知れな

　いが、それはそれでよい。しかし、その精神がひとたびかれらに示されれば、かれらは忘れることのでき

　ない感動を感じるであろう」�R

　　　 ブラウン博士が、バハオラと顔を合わせたとき、かれは「おどろきと怖れではげしく動悸を打った」と

　述べている。かれはつづけてつぎのように記録している。

　「わたしが凝視した顔は、言葉ではとても描写することはむずかしいが、けっして忘れられない顔であっ

　た。かがやくその眼は、何人の心も読むようであった。威力と権威とがその大きな額にそなわっていた…

　…。わたしがその人の前に身をかがめたとき、それがだれの前であるか、たずねる必要はなかった。その

　人こそ王たちが羨み、皇帝たちもただ嘆息をもらすばかりの、献身と愛の目標の人であったのである」�S

　　　 ブラウン博士が訪れたとき、バハオラはアッカ近郊にある邸宅に移り住んでいた。この邸宅は、バハオ

　ラがまだアッカの囚人であるときにはまだ建設中であった。バハオラはキリストと同様、ロバに乗ってイ

　スラエルの土地を散歩した。ある日、富裕なイスラム教のウディ・カマールが建設しているこの邸宅の前

　を通りすぎたとき、完成前の邸宅が眼に入った。バハオラは目を輝かせながら息子のアブドル・バハに聞

　いた。

　「この邸宅はだれのために建てられているのだろうか」

　　　 邸宅が完成するやいなやコレラが発生した。持ち主はこの邸宅を捨て、ほかの町へ逃げた。アブドル・

　バハはバハオラのために、この邸宅をわずかの家賃で借りることができた。

　　　 バハオラは九年間の監禁生活から解放された後、この邸宅に移った。バハオラが使用した部屋にあがる

　階段の上方に、家主であったウディ・カマールは、つぎのような言葉を石に刻みつけていた。それは現在

　も残っている。

　「この邸宅に敬礼と平和あれ。その美は、時代と共にましていくであろう。この壁の中では、地上のいか

　なるペンも叙述することができないほどのすばらしい不思議なことが起こるであろう」

　　　 バハオラは、この邸宅で晩年を送り、一八九二年五月二十九日に息を引きとった。現在、世界中からこ

　の聖なる場所を訪れてくる人の列は絶えない。

　　　 カルメル山から見えるこのアッカの谷で、イザヤの五三章のすべての予言は実現した。

　

　　　 一 「かれは侮られて人に捨てられ、悲しみの人で悲痛を知っていた……」21

　　　 二 「……また顔をおおって忌み嫌われる者のように、かれは侮られた。われわれもかれを尊ばなかっ

　た」22

　　　 フランツ・ヨセフ皇帝は、バハオラが監禁されていた牢獄の近くを通りすぎた。ルイ・ナポレオンは、

　バハオラから送られてきた書簡を投げすてた。世間の人びとも同じような態度をとった。

　　　 三　「まことに、かれはわれわれの病を負い、われわれの悲しみをになった……」23

　　　 バハオラの迫害と投獄について、かれ自身の言葉を引用してみよう。

　「疲れがわれが重くのしかかり、飢えがわれを消耗した。わが寝床は岩であり、わが仲間は野獣であった。

　しかし、不平をいわず、忍耐強く耐えよう……そして、あらゆる境遇の下で、神に感謝をささげよう……

　神はその恩寵により、この監禁を通して、人間の首を鎖と束縛から解き放されんことを」24

　　　 四 「しかし、かれはわれわれのとがのために傷つけられ、われわれの不義のたまに砕かれたのだ。かれ

　はみずから懲らしめをうけて、われわれに平安を与え、その打たれた傷によって、われわれはいやされた

　のだ」25

　　　 バハオラは二度石で打たれ、一度むち打たれ、三度毒を盛られた。百キロのくさりが肩の肉を引き裂い

　て骨まで達したときの傷は生涯のこった。約半世紀間、かれは囚人・追放人として過ごさなければならな

　かった。

　　　 五 「かれは暴虐なさばきによって取り去られた。……」26

　　　 バハオラは、テヘランの地下牢から裁判のために連れ出された。処刑されるであろうと思われたが、家

　族と共にイラクに追放された。そして、追放人として、最後にたどり着いたところはイスラエルのアッカ

　であった。そこで、つぎのようなことが起こった。

　「知事は軍隊を引き連れ、刀を抜いて（バハオラの）家を取りまいた。市民全体も、軍当局と同様にひど

　く興奮していた。人びとの叫び声やどよめきはいたるところに聞かれた。バハオラは知事のところに強制

　連行され、尋問され、最初の夜拘留された。……その直後、知事はバハオラに自分の家に自由にもどるよ

　うに伝え、この事件が起こったことをあやまった」27

　　　 六　「……その墓は、悪しき者と共に設けられ、その塚は悪をなす者と共にあった」28

　　　 バハオラは、富裕なイスラム教徒の所有するバージの邸宅付近に埋葬された。しかし、その埋葬地に隣

　接する家に、バハオラを裏切り、敵となった者らが住んでいた。

　　　 七　「その子孫を見ることができるであろう……」29

　　　 バハオラは『聖約の書』と呼ばれる特別の文書を用意し、その中で自分の長子を後継者および信教の中

　心者に指名した。このことは詩篇に予言されていた。

　「わたしはまた彼をわがういごとし、地の王たちのうちの最も高い者とする。……わが契約は彼のために

　堅く立つ」30

　　　 バハオラの長子はアブドル・バハと呼ばれ、その名は「バハ（バハオラ）の僕」という意味である。バ

　ハオラは遺訓の中で、アブドル・バハを「聖約の中心者」と呼んだ。

　　　 Ｅ・Ｇ・ブラウン博士は、アブドル・バハについてつぎのように語った。

　「これほど深い印象を与える風采をもった人にはめったに逢ったことはない。かれより雄弁で、即座に議

　論ができ、適当な実例を出し、ユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒の聖典に深く通じている人は見

　つからないであろう……これらの資質と威厳と温和な態度を合わせて考えると、かれの父の信者たちの範

　囲を越えてひろがる影響力と尊敬に対してもおどろかなくなった。この人に逢った人は、その人格の偉大

　さと力強さにだれもうたがいを差しはさむことはできなかった」31

　　　 オックスフォード大学の有名な聖書研究家、Ｔ・Ｋ・チェイン博士は、オックスフォードのマンチェス

　ター校で、アブドル・バハのために会合を計画した。チェイン博士自らオックスフォード新聞に広告を出

　し、一般の人びとを招待した。かれの著書『民族と宗教の和解』の序言で、チェイン博士は、ハンガリア

　の聖人、バンベリーは、バハオラの信者であると述べている。自分の信仰については、「バハイの指導者

　を熱心に信奉する」と語っている。

　　　 チェインは、自著の本の序文に、自らをバハイ共同体のメンバーであると紹介した。キリスト教の牧師

　であり、聖書研究家であるかれはつぎのように書いた。

　「もし近年予言者出たとすれば、わたしたちが向かわなければバハオラである。最終的な判断は、かれの

　特性に依存する。バハオラは最高の地位、予言者に属する人である」32

　　　 八 「その命をながくすることができる……」33

　　　 バハオラの生涯は長かった。かれは一八一七年に生まれ、一八九二年聖地で昇天した。晩年になってか

　れは牢獄から出され、カルメル山の山腹を歩いた。かれの信者たちは、遠くからかれを訪れ、深い愛でか

　れをかこんだ。こうして、ダビデが洞窟の中で語った祈りの言葉は実現されたのであった。

　「わたしを牢獄から出し、み名に感謝させてください。あなたが豊かにわたしをあしらわれるので、正し

　い人びとはわたしのまわりに集まるでしょう」34

　　　 要塞牢獄都市のアッカの谷で起こったことは伝導の書に予言されていた。

　「牢獄から出て統治する……」

　　　 バハオラは「聖典に告げられて来たことはあらわされ、明確になった」と書いた。かれは「古代の美」

　は、「ダビデの王座で統治し、最大法律は現われた……」35と宣言した。

　　　 メシアが「シャロンの平野」、「アコルの谷」、「カルメル山」に関して実現しなければならない予言

　の横に、わたしは「実現」と書き入れた。

　

　十一　花咲く砂漠

　

　　　 そのほかにも、まだ証明されなければならない予言がある。それはメシアが到来するとき「砂漠はバラ

　の花のように花咲くであろう」というものである。これもバハオラの到来で実現されたであろうか。イザ

　ヤはつぎのように明らかに予言していた。

　「荒野とかわいた地とは楽しみ、さばくは喜びでバラの花のように花咲く」�@

　　　 この句につづいて、イザヤは、これが起こるとき、カルメルとシャロンは「神の栄光」を見るであろう

　と予言している。

　　　 カルメルとシャロンはバハオラ（神の栄光）を見た。しかし砂漠はバラの花のように花咲いたであろうか。

　　　 バハオラは子供や緑の野原や花をこよなく愛していたが、閉じ込められていたアッカは不潔で殺風景な

　ところであった。このことを知っていた弟子たちの心は重かった。かれらは、遠くペルシャから花や植木

　をもってきた。バハオラの息子であるアブドル・バハは、近くにそれらを植えて美しい庭園を作った。当

　時、このことを目撃した人は、つぎのように描写している。

　「これらのすばらしい巡礼たちは、どれほど困難な長い道程を歩いてきたことか。数え切れないほどの危

　険に遭遇し、悪意にみちた敵と悪天候もものとせず、疲労困ぱいしながらも自分たちの敬愛する方の庭園

　のために、最高の宝物ともいえる植木をもってきたのである」�A

　　　 わたしは、アッカの郊外にあるナメインを訪れてみた。土地は乾燥し、水を必要としていた。しかし、

　この砂漠の真ん中にはすばらしい庭園があった。ローレンス・オリファントは、イスラエルに関する本の

　中で、この庭園に言及している。

　「この島（庭園）は、奥行きがおよそ二百ヤードで、幅が千ヤード足らずの大きさである。そこには花壇

　が配置されており、木や果樹で飾られていた。とつぜんそこに行くと、あたかもおとぎの国の景色を見る

　ようでy濫驕v�B

　　　 オリファントは、この庭園についてつぎのようにも語った。

　「豊富に流れる水、こんもりとした木陰、ジャスミンとオレンジの花の芳香で満ちたその場所は、暑さか

　ら逃れる理想的な避暑地である。……水がささやくように流れ、草木からは芳しい香りがただよい、ゆら

　ぐ葉は影をつくり、美しい花々は色とりどりに咲き、そこにいると感覚が和らげられるのである……」�C

　　　 この砂の多いアッカの平野より、岩の多いカルメル山にくると、その斜面には道路をはさんで見事な庭

　園がひろがっていた。

　　　 わたしが、ローマから聖地に旅行したときも、この場所の美しさには注目せずにはおれなかった。英国

　航空からもらったパンフレットの表紙には、カルメル山のバハイ信教の庭園の入り口の写真が使われてい

　た。そこには「中東でもっとも美しい場所」と説明されていた。

　　　 道路の上方の庭園には、バハオラが創設したバハイ共同体の最高機関である万国正義院の建物が立って

　おり、下方の庭園にはバハオラの先駆者バブの遺体が埋葬されている聖廟がある。この美しい庭園にかこ

　まれたバブの廟はハイファ市のシンボルとも呼ばれているほどである。

　　　 この二つの庭園には、世界中からひっきりなしに人びとが訪れている。かれらの心は喜びに満たされ、

　口からは美しい賛美の声が出されているのである。これはイザヤが予言していたことであった。

　「そこに大路があり、その道は聖なる道ととなえられる。……あがなわれた者のみ、そこを歩む。主にあ

　がなわれた者は帰ってきて、その頭に、とこしえの喜びをいただき、歌いつつ、シオンに来る。彼らは楽

　しみと喜びを得、悲しみと嘆きとは逃げ去る」�D

　　　 これらの庭園はオレンジ、レモン、ざくろの木でかこまれており、赤と白の小石で敷きつめられた小道

　の両側には、さまざまな色をした花、芝生、濃いみどりの低木が植えられていた。このように、バハオラ

　が足を踏み入れたカルメル山の斜面はすべて美しい庭となったのである。

　　　 カルメル山より車で二十分ほどのところにバハオラが埋葬されている廟があるが、そこにも広大な敷地

　に見事な庭園がひろがっている。その建物のまわりに、円をえがいたように道があり、それから廟に向

　かってたくさんの小道が出ているのである。

　　　 この土地も、かっては乾燥した土地であったが、今は花が咲き乱れる美しい場所となった。バラ、ヒヤ

　シンス、ジャスミン、ゼラニュムなどの花の香りでいっぱいである。ガリラヤの海から運ばれてきたなめ

　らかな白い小石は、廟の入り口に通じる道に敷かれている。三段に盛り上げられた土の丘は、聖所を風と

　嵐から守るために造られたものである。廟は、レバノンのヒマラヤスギ、もみの木、松、いとすぎ、すず

　かけ、オリーブの木などで囲まれている。イザヤは予言していた。

　「……その置かれる所に栄光がある」�E

　「レバノンの栄えはあなたに来、いとすぎ、すずかけ、まつは皆共に来てわが聖所をかざる。またわたし

　はわが足をおく所を尊くする」�F

　　　 バハオラハ「主の栄光」という意味であることはすでに述べた。かれの聖所はかざられ、かれが歩いた

　ところは尊くされた。イザヤはまた、つぎのようにも予言していた。

　「わたしは裸の山に川を開き、谷の中に泉をいだし、荒野を池となし、かわいた地を水の源とする。わた

　しは荒野に香柏、アカシヤ、ミルトスおよびオリーブの木を植え、砂漠に、いとすぎ、すずかけ、からま

　つをともに置く。人びとはこれを見て、主のみ手がこれをなし、イスラエルの聖者がこれを創造されたこ

　とを知り、かつ、よく考えて共に語る」�G

　　　 わたしは、このほかにも「神の栄光」であるイスラエルの「聖者」が、シオンにもどるとき、気候が変

　わり、不毛な土地は緑におおわれ、聖所は清められ、砂漠であった場所には水が流れ出すであろう、とい

　う予言も見つけ出した。

　　　 現代イスラエルの初期の発展状況に関する報告書の中に、つぎのような説明がある。

　「パレスタイン（イスラエル）の気候でさえ現在いちじるしく改良された。一九二七年、何世紀も乾燥し

　ていたソロモンの池はあふれだしてきた。パレスタインの高官は、当時、この奇跡的出来事を神に感謝す

　る日を市民に公布するように頼まれた。測量の結果、池には約六千万ガロンの水があることがわかった。

　聖書時代のパレスタインには「初期と後期」の雨量の多い雨期が年に二回あった。しかし、何世紀間も初

　期の雨は減少し、後期の雨はまったく消え去ってしまっていたのである。しかし、現在雨はもどり、土地

　をうるおしはじめた。その結果、パレスタインのある地方では、年に二、三回の収穫が得られるように

　なった」�H

　　　 このようにヨエルの予言は実現されたのである。

　「……またあなたがたのために豊かに雨を降らせ、前のように、秋の雨と春の雨とを降らせられる」�I

　　　 ゼカリヤも同じことを予言していた。

　「主はこう仰せられる、『わたしはシオンに帰って、エルサレムの中に住む』。……しかし、今は、わた

　しのこの民の残れる者に対することは、さきの日のようでないと、万軍の主は言われる。……天は露を与

　える。わたしはこの民の残れる者に、これをことごとく与える」�J

　　　 一八七八年、アッカ平野の砂の多い乾燥地にあるバハオラの庭園に、泉がわき出はじめた。清らかな水

　が豊富に流れ出し、不毛の土地には美しい青々とした芝生や木や花が成長し出した。それはイザヤの予言

　通りであった。

　「……それは荒野に水がわきいで、さばくに川が流れるからである。焼けた砂は池となり、かわいた地は

　水の源となる」�K

　　　 同じ章で、イザヤはふたたびこれらのすばらしいことは、カルメルとシャロンが「主の栄光」を見ると

　きにイスラエルで起るであろうと述べた。

　 　　バハオラは、聖書にあるメシアの条件をすべて満たした、とわたしは断定した。かれがイスラエルに到

　着以来、その土地は徐々に美しくなっていき、かれが住んだ場所と足を踏み入れたところは、この上ない

　美しい庭園となった。

　　　 砂漠は予言通り「バラの花のように花咲いた」のである。わたし自身、ごつごつした岩の間から、芳ば

　しい香りを放っている色とりどりのバラの花を見ることができた。

　　　 証拠はあふれていた。「メシアの到来の日、砂漠はバラの花のように花咲くであろう」の句に、わたし

　は「実現」と書き入れた。

　

　十二　 空に燃える火

　

　　　 もう一つ証明されるべき予言があった。それは、キリスト自ら述べていたもので、終わりの日に現われ

　るメシアは、キリストの名を讃美するという予言である。バハオラはそうしたであろうか。

　　　 これを証明するために、わたしは二つの重要な証拠をとっておいた。

　

　　　 一 かれは聖書の封を開けるであろう。

　　　 二 かれは不正な国王たちを王座から落とすであろう。

　

　　　 このふたつの予言は見事に実現された。それらは、あまりにもスリルに満ちたドラマチックな話である

　ので、わたしは各々の予言がいかに実現されたかを、別々の本に書かざるを得なかった。読者の方々も、

　その二冊の本を読んで、わたしが感じたと同じ喜びを感じられることであろう。

　　　 一冊は『驚異のぶどう酒』という題目の本である。バハオラは自らの使命を宣言する前夜に、『確信の

　書』を書いたが、これは「選り抜きのぶどう酒」を人類に与えるためであった。この本により、バハオラ

　は、ダニエルが言及した「聖書」の封印を開け、終わりの時まで封じられてしきた言葉の意味をあきらか

　にたのである�@。

　　　 バハオラは百巻以上の本を書いたが、この『確信の書』は二日二晩のうちに書き上げられたものであっ

　た。かれの口から「とうとうと流れ出る奔流」のように言葉が発せられたことが記録されている。

　　　 バハオラが、バグダッド滞在中に、その町に住んでいたある歴史家は、「一昼夜のうちにかれの唇から

　ほとばしり出た句は一冊の大きな書物に匹敵する」と述べている。さらに、この歴史家は、バハオラが書

　いた（または書き取らせた）本の内容と広範囲にわたるテーマもおどろくべきものであると述べている�A。

　　　 バブとバハオラを知っていたペルシャのシラズの商人は、自ら目撃したことをつぎのように報告している。

　「バハオラが顕された句は、筆記の速度、円滑な流れ、明白さ、深遠さ、甘美さにおいて、ほかに凌ぐも

　のはないことをわたしは証言します。わたし自身も、バブのペンから（そういった句が）流れ出すのを眼

　前で目撃しました。バハオラにほかの偉大さがないとしても、かれのペンから今日、これほどの句が生み

　出されたということだけで、その偉大さを世界の人びとの眼に証明するのに十分でありましょう」�B

　　　 バハオラは、これまで人びとを混乱させたり、困惑させてきたさまざまなテーマに対する考え方から真

　理をとりだし、かくされた意味を明らかにした。かれが取り扱ったテーマにはつぎのようなものが含まれる。

　「審判の日」、「復活」、「洗礼」、「聖餐」、「三位一体」、「再生」、「世界の創造」、「神の存在

　の証明」、「死後の生命」、「魂の不滅性」、「アダムとイブの話」、「善と悪」、「神の子」、「御

　父」、「天国と地獄」、「天より落ちる星」、「太陽と月の暗黒化」、「神の日」、「神の都市」、「予

　言者の封印」、「再来」などである。

　　　 バハオラは、これらのテーマのほかにも、多くのテーマにひそむ真の意味を明らかにした。その新しい

　明白な説明は、科学と知性に一致するものであり、人びとの視野を広げるものであった。これについては、

　『驚異のぶどう酒』の中に詳細に語られている。

　　　 エノクは、終わりの日のメシアについて約束した。

　「これが人の子である……彼は隠されている宝物をすべてあらわすであろう」�C

　　　 もう一つは『空に燃える火』という本である。その内容は、バハオラが世界の為政者や国王に宛てた書

　簡についての話である。（この本は『囚人と国王』という題目で出版された）

　　　 バハオラはかれらにつぎのように宛てた。

　「おお、地上の国王たちよ。あなたがたは、毎年それぞれ経費を増額し、人民にその重荷を負わせている

　のをわたしは見受ける。まことに、それは、はなはだしい不正行為である……。人民に過度の重荷を負わ

　せないようにせよ。人民のものを奪い取り、自分のために宮殿を建てないようにせよ。いやむしろ、自分

　のために選ぶものを、かれらのために選ぶようにせよ……。あなたがたの国民は、あなたがたの宝である。

　神の命令にそむかないように支配し、人民を盗人の手に渡さぬように気をつけよ。あなたがたは、人民が

　いるからこそ統治ができ、かれらがいるから暮らすことができ、かれらの助けがあるから勝利を得ること

　ができるのである。それなのに、あなたがたは、かれらを何と軽くあなどり、見下していることか。何と

　も奇妙なことである」�D

　　　 ほかの個所でバハオラはつぎのようにも述べた。

　「おお地上の国王たちよ、不和をなくし、軍備を縮小せよ。経費の重荷が軽くなり、あなたがたの心が平

　安になるように……。あなたがたを分割させている紛争を解決し、かれら（人類）の間で正義の象徴とな

　れ……」�E

　「もし、圧政者の手を阻止し、踏みにじられている人びとの権利を守ることができないならば、何をもっ

　てあなたがたは人民に対して誇れるというのか」�F

　　　 バハオラは、地上の君主たちに、自分がだれであるかをつぎのように伝えた。

　「われは、イザヤの舌が称えた者、その名は（モーゼの）トーラと（キリストの）と福音の双方が讃美し

　た者である……」�G

　　　 つぎのリストは、バハオラが書簡を送った世界の指導者たちである。

　

　　　 オーストリア皇帝、フランツ・ヨゼフ一世

　　　 フランス皇帝、ナポレオン三世

　　　 ドイツ皇帝、ウィルヘルム一世

　　　 ロシア皇帝、アレクサンドル二世

　　　 トルコ皇帝、アブデュル・アジズ

　　　 ペルシャ皇帝、ナスル・ウディン

　　　 イギリス女王、ヴィクトリア女王

　　　 ローマ法王、ピウス九世

　　　 欧米の共和国の大統領と為政者

　　　 キリスト教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒

　　　 人類全体

　

　　　 以上の為政者のほとんどが、バハオラの書簡を無視した。ナポレオン三世は、バハオラの手紙を投げ捨

　て、「もしこの男が神から来たものであれば、われは二つの神である」といった。まもなく、ナポレオン

　は権力の座から追われ、バハオラの予言通り、屈辱のうちに投獄された。その後、追放され、悲惨な最後

　をとげた。

　　　 君主たちのうちで、一人だけがバハオラの呼びかけに応じた。それはイギリスのヴィクトリア女王で

　あった。かっては強大な権力を保持していた君主たちのうち、現在までつづいているのは、イギリスの君

　主制だけであることを考えると、きわめて興味深く感じられる。

　　　 バハオラは、ヴィクトリア女王の統治は長くつづくであろうと予言した。当時、女王の健康はすぐれな

　かったのであるが、バハオラの予言通り、彼女の君臨は長くつづいた。後代、ヴィクトリア女王の孫娘で

　あるルーマニアのマリー女王は、バハオラを信じる者となった。彼女は、バハオラとその信教について、

　一九二六年五月四日付のトロント・デイリー・スター新聞につぎのような声明文を掲載した。

　「それ（バハオラの信教）は、キリストのメッセージが新たにされたものであります……。この本によっ

　て善良にならない人はいません。わたしは、すべての人びとにこれを推薦いたします」

　　　 彼女は、個人に宛てた手紙の中で、つぎのように述べている。

　「これらの本（バハオラの信教の本）は信じがたいほどわたしを強くしました……。バハイの教えは平和

　と理解をもたらします」�H

　　　 バハオラは、貧困にあえぐ人や身分の低い人の権利や幸せをおろそかにする不正な為政者には、屈辱が

　待っていると宣言した。かれらは、世界の人びとへのいましめとなるであろう、と勧告した。君主たちの

　うち、三人は暗殺され、二人は追放された。一人を除いてすべて皇帝の座を失った。

　　　 これらの出来事は、メシアの到来のときに起ることが予言されていたのである。このことはまた、聖書

　研究家たちが予期していた証拠の一つであった。

　

　　　 一　 詩篇「主はもろもろの君たちのいのちを断たれる。主は地の王たちの恐るべき者である」�I

　　　 二 ヨブ「彼は力ある者を無数打ち滅ぼす」�J

　　　 三 イザヤ「王は悪い者のつえとくかさびとのしゃくを打たれた」�K

　　　 四 イザヤ「その日、主は天において、天の軍勢を罰し、地の上で、地のもろもろの王を罰せられる」�L

　

　　　 ダニエルは、終わりの日を語ったと同じ章で、つぎのように述べている。

　「見よ、人の子のような者が、天の雲に乗ってきて……」�M

　「……もろもろのみ座が設けられて、日の老いたる者が座しておられた」�N

　　　 わたしは、メシアが到来する終わりの日に国王たちが倒されることに関して、明確な予言が二十ほどあ

　ることを知った。

　　　 エノクは、終わりの日に関してダニエルが述べた「人の子」に言及している。

　「あなたが見た人の子は……、罪人を責め、王座と王国を国王たちからうばうであろう」�O

　　　 エノクは世界のどの地域からこの「人の子」が現われるか予言していた。

　「その時期、天使は集まり、国王たちを興奮させるために頭を東、パティヤとメディヤ（現代の）に向け

　るであろう。そして動乱が起り、彼らは王座から落とされた」�P

　　　 恵まれない人、したげられた人、一般の人の福利と幸福は、バハオラがつねに心にとめていたテーマで

　あった。かれは飢えや迫害で苦しんだ人に対して深い慈愛を示した。一方、為政者たちにはつぎのように

　警告した。

　「あなたがたの中にいる貧しき人びとは、神がその世話をあなたがたに委託した人びとである。その委託

　を守り、裏切らないようにせよ。また、貧しき人びとを不当に取り扱ったり、悪を行なう者らの道を歩ま

　ぬように留意せよ」�Q

　　　 バハオラの言葉は、一八四四年以来、地上に吹き荒れた災難の嵐の方向を定めるものであった。それは、

　国王を王座から落とし、君主制を転覆し、古い王国をほろぼした。

　「神は、圧政者の暴政を見逃すことはなかった。また、将来もけっしてそうはしないであろう。とくに、

　この啓示においては、神は圧政者のすべてに報復をあたえた」�R

　　　 もろもろの国王の没落と予言の実現の話は、『空に燃える火』の中で詳細に述べた。

　　　 わたしは、メシアは聖典の封を開けるという予言と、メシアは不正な国王を王座から追うという予言の

　横に「実現」としるした。

　

　十三　 かれはキリストに栄光を得させる

　

　　　 ここで最後の予言にきた。すなわち、メシアは、キリストに栄光を得させるであろう、という予言であ

　る。キリスト自ら、メシアが出現するとき、つぎのことを約束した。

　

　　　 一 「彼（御霊）はわたしに栄光を得させるであろう」

　　　 二 「それがきたら、罪と義とさばきとについて、世の人の目を開くであろう。……彼らがわたしを信じ

　　　　　　 ないからである」

　　　 三 「（彼は）わたしのものを受けて、それをあなたがたに知らせるからである」

　　　 四 「……またわたしが話しておいたことを、ことごとく思い起させるであろう」

　

　　　 バハオラは、以上の約束を果たしたであろうか。千年期喪失事件のこの最後の手がかりは、もっとも驚

　嘆すべき結果を生み出した。バハオラは、キリストに対してつぎの言葉を残していたのである。

　「……彼（キリスト）の、潔白で、真実を語る口から出されることはすべて、決して変えることはできな

　い」�@

　　　 バハオラは、キリストのはりつけについて、こう書いた。

　「人の子が息絶えたとき、全創造物は深い嘆きで泣いたことを知れ。しかしながら、自らを犠牲にするこ

　とにより、新たな能力が全創造物に注ぎ込まれた。地上のあらゆる民に目撃されるように、その証拠はあ

　なたがたの前に現わされている」�A

　　　 地上の国王たちに宛てた書簡の中で、バハオラは、キリストを信じない世の人びとの目を開かせた。バ

　ハオラは自分を信じようとしない現代の人びとと、キリストの時代の人びとを比較して、つぎのように述

　べた。

　「……栄光のうちにわれが到来したとき、かれらは背を向けた。かれらは、まことに、堕落した者らであ

　る。これは、まことに、神の聖霊（キリスト）が真理をもって現われたとき、告げていたことである。…

　…かれらは悪事を行なって聖霊を嘆かせ、神に近づいた人びとの涙を流させた」�B

　　　 バハオラは、著書を通して、キリストの言葉をわたしたちに思い出させた。キリストが予言したように、

　かれは「わたし（キリスト）のものを受けて、それをあなたがたに知らせた」のである。

　　　 さらに、バハオラは、世界の人びとにこう呼びかけた。

　「（あらゆる）宗教を信じる人びとと心から喜んで交際せよ。山上で話した人（キリスト）が宣言したこ

　とを行動で示し、あらゆることに公正であれ」�C

　「和合は、世界という身体の精神そのものである……。聖なるイエス・キリストは、この和合を人類間に

　ひろめた……。イエス・キリストを信じた人はすべて、その精神により生気を与えられて再生し、永遠の

　栄光の頂に達した」�D

　　　 誠実なキリスト教徒が、つぎのバハオラの言葉を読めば、バハイ信教をキリスト教の敵などと見なすこ

　とはできないであろう。

　「イエスは神の顕示者（使者）である。かれのすべては神に属する。かれ（キリスト）を知ることは、神

　を知ることである。……かれにしたがうことは神にしたがうことである。かれはあらゆる聖なる美徳の源

　泉である。……この鏡（キリスト）を通して神のエネルギーは世界に伝えられた」�E

　　　 バハオラは自らの使命とキリストの使命を生涯結びつけて考えた。石を投げつけられ、むちで打たれ、

　投獄された後、かれはこう宣言した。

　「神の聖霊であるキリストをもう一度はりつけにするならば、われを殺害せよ。かれは、ふたたびわが身

　のうちに現われたからである。思い通りにわれを扱え。われは、神の道にわが生命をすてることを誓った

　からである」�F

　「われを捕らえ、迫害せよ。わが名はかれの名と異なるが、われはかれより敬愛される者であり、かれ自

　身の啓示であるから。われは、栄光の雲の影のもとに到来した」�G

　　　 バハオラは、世の人びとが、この世の君（キリスト）を裁いたことを非難した。かれらの手によるキリ

　ストの苦しみを分かち合おうと、バハオラは書いた。

　「イエス・キリスト自ら、その到来を予知していた方の血を流す決心であれば、あなたがたの前に、防御

　のすべもなく立っているわれを見よ……。汝の思い通りにわれを取り扱え」�H

　　　 キリストの名に栄光を得させることは、バハオラがつねにしたことであった。また、キリストの偉大さ

　を称えることは、バハオラがとくに好んだテーマでもあった。

　「かれ（キリスト）がこの世に到来したとき、その栄光の輝きを全創造物に注いだことをわれは証言する。

　かれにより、らい病患者はよこしまと無知のらい病より回復した。かれにより、不貞な者や強情な者は癒

　された。全能の神より生みだされた力によって、盲人の目は開き、罪人の魂は清められた」�I

　　　 キリストの栄光について、バハオラはこう語った。

　「かれ（キリスト）こそは世界を浄化した方である。光で輝く顔をもってかれに向かった者は幸いである」�J

　　　 あるバハイ書の中には、キリストの美、威厳、偉大さ、栄光に言及した句がおよそ百ヵ所に見らる。こ

　のように、バハオラは最後で、もっとも重要な予言の一つを実現した。「真理の御霊が現われるとき、彼

　はわたしに栄光を得させるであろう」というキリストの予言を満たしたのである。

　　　 この予言の横に、わたしは「実現」と書き記した。

　

　十四　 なだれの終り

　

　　　 この時点で、わたしは、バハオラが千年期喪失事件を解決したことを確信した。バハオラは、星の運行

　と同じ正確さで、そしてあふれるほどの豊富な証拠をもって、終わりの日に現われるメシアの条件を満た

　したのである。

　　　 バハオラは、つぎにあげる聖書の約束をすべて満たした。

　

　　　 一 かれの信教は一八四四年に始まった。

　　　 二 かれは東方に現われた。

　　　 三 かれはペルシャからきた。

　　　 四 かれは「神の栄光」として知られた。

　　　 五 チグリス・ユーフラテス両河の流域に行った。

　　　 六 古代バビロンの地で、世界に向かって宣言した。

　　　 七 アブラハムと同様、バビロンからシリアへ追放された。

　　　 八 神がアブラハムの子孫に約束した古代カナンの地にきた。

　　　 九 海を通って聖地イスラエルにきた。

　　　 十 要塞都市から要塞都市にきた。

　十一　 要塞から川にきた。

　十二　 山から山へきた。

　十三　 海から海へきた。

　十四　 カルメルとシャロンは「神の栄光」を見た。

　十五　 東方から門（バブ）を通ってきた。

　十六　 アッカの谷、牢獄の都市にきた。

　十七　 カルメル山の山腹に住んだ。

　十八　 かれの法は山から下された。

　十九　 イスラエルの民は、今日聖地に集められた。

　二十　 すべての国のために「祈りの家」が神の山に建てられた。

　二一　 砂漠はバラの花のように花咲いた。

　二二　 かれの地上における任務はちょうど四十年つづいた。

　二三　 かれの聖所と埋葬地は美化された。

　二四　 かれが足を踏み入れたところは美化された。

　二五　 かれはアブラハムの子孫であった。

　二六　 地上の隅々まで精神的王国を確立した。

　二七　 聖書の封を開けた。

　二八　 もろもろの国王を王座から追放した。

　二九　 キリストに栄光を得させた。

　

　　　 以上の予言が実現されたことで、この本が終わるわけではない。しかし、これらの予言はわたしがバハ

　オラとその信教の真実性を試す主な条件であった。調査の結果、リストの一つ一つに「実現」と書き入れ

　ることができたのである。

　　　 ちょうどこの時期に、ほかの情報が手に入り、わたしの好奇心と興味はかき立てられた。そうでなけれ

　ば、千年期喪失事件の原稿に「解決」と書いて終わりにしたであろう。

　　　 まったく信じがたいことであるが、さらに書くべきことが出てきたのである。この「驚異」は終わるこ

　とがないのであろうか。

　　　 わたしは、この話が長い間、一般大衆にとどかなかったことをひじょうに残念に思う。とくに、希望と

　真理を渇望してきた人びとにとどかなかったことを。

　

　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 第四章

　

　一　 天のしるし

　

　　　 一八四四年代とそれ以前の時期に関する文献や記録を調べていたとき、ほかにも当時の人びとを興奮さ

　せ、メシアの到来への熱望を高めていた出来事があったことが明るみにでた。

　　　 これらの出来事も聖書に予言されていたが、メシアの出現の日を直接に語ったわけではなかった。それ

　らは、このすばらしい日に徐々に導いていくドラマチックな出来事であり、記録しておくべきものである

　とわたしは強く感じた。この時点で、わたしは、一八四四年前後、人びとがなぜ熱望にかき立てられたか

　の原因をより深く理解できるようになっていた。

　　　 黙示録には、アブラハムの子孫が、終わりの日に聖書の封を開けるという約束がある。この神の子羊は、

　幻の中で七つの目をもつと描かれている。これらの七つの目は、その時代までにこの世に下された神の七

　つの精神（宗教）といわれている。すなわち、メシアが封を開けるのは、これら七つの大宗教の聖典である。

　　　 歴史を振り返ってみると、バハイ信教の出現までに、ちょうど七つの大宗教があったことがわかった。

　これについては後で述べたいと思う。

　　　 黙示録の第六章によると、神の羊が聖書の封を開けて、その意味を明らかにしたとき、天に書かれるし

　るしに関するものがあった。これらのしるしは、メシアの再来に先がけて現われるものである。黙示録に

　あるこれらのしるしは、千年期研究者たちが調査したことである。

　　　 黙示録にはつぎの予言がある。

　

　　　 一 「……そして見よ大地震が起った」�@

　

　　　 二 「……太陽は、毛織の荒布のように黒くなり、月は全面、血のようになった」�A

　　　 三「天の星は、いちじくのまだ青い実が大風に揺られて振り落とされるように、地に落ちた」�B

　　　

　　　 バハオラは、これらの天に現われるしるしについて『確信の書』の中で、黙示録にある言葉にひそむ意

　味は象徴的であるが、場合によっては外面的にも実現されることがあると述べている。バハオラの説明に

　よる予言の意味は『驚異のぶどう酒』という本の中で取り扱っている。

　　　 これら三つの黙示録にあるしるしは、つづけて現われ、キリストの再臨の日に導いていくものであった。

　その順番はつぎの通りである。

　

　　　 一 大地震

　　　 二 太陽と月の暗黒化

　　　 三 星の落下

　

　　　 イザヤ、ヨエル、ダニエル、ゼカリヤの各書および新約聖書の中で、キリスト自らも、これらのことが

　起るであろうと予言していた。これらの出来事につづいて、偉大なそしておろそしい主の日が現われ、そ

　してメシアが到来し、世の終わりをもたらすであろう、と予言されているのである。

　　　 聖書研究家の中には、これらの出来事は一度に起り、大変動をもたらして、世界は永遠に消え去るであ

　ろう、と考えた者もいた。しかし、大半の研究家たちは、これらの出来事は順次に起り、最後の「星が落

　ちるとき」メシアが現われると考えた。

　「世の終わり」という言葉は象徴的な意味をもつことが調査の結果明らかとなった。ある本には、それは

　「混乱の終わり」、「周期の終わり」または「時代の終わり」と見なされているのである。

　「世」という言葉には、ふたつのギリシヤ語があり、一つは「コスモス」の意味で、もう一つは「アイオ

　ン」の意味である。コスモスは実際の世界のことを指し、アイオンは「時代」という意味である。「世の

　終わり」という言葉は、新約聖書に七回出てくる。七回ともに「アイオン」という言葉が使われ、「コス

　モス」は一度も使われていない。キリストの弟子が、キリストに「世の終わり」と「再臨」についてたず

　ねたとき、使われた言葉は「アイオン」であった。

　　　 キリストが「世の終わりの時の収穫」に言及したとき、「アイオン」が用いられたし、またかれが「世

　の終わりにはそうなるであろう」といったときも「アイオン」であった。明らかに、キリストの再臨は

　「時代の終わり」をしるすものであることがわかる。

　　　 さて、黙示録に述べられている三つの出来事にもどると、不思議なことに、それらは書かれた順番に

　起っていた。

　　　 そのころ、わたしは一八四〇年代にいたるまでの歴史的事件を調査した聖書研究家の記録を入手するこ

　とができた。その研究家は、調査を終えたあと、こう述べた。

　「（黙示録に）記録された出来事が予言された順番につづけて起ったことが判明した」�C

　　　 そして、つぎのリストを作成した。

　

　　　 一 リスボンの地震　　　　　　　　　　　　　　　　　　 一七五五年

　　　 二 暗い日　　　　 一七八〇年

　　　 三 星の落下　　 一八三三年

　

　　　 わたしは、これらの三つの出来事を一つづつ取り上げて、自分で調べることにした。

　

　二　 震える地球

　

　　　 最初の手がかりは簡単に見つかった。

　「……そして見よ大地震が起った」

　　　 わたしは、この地震は「一七五五年のリスボン地震」と呼ばれ、多くの歴史的記録に残されていたこと

　を発見した。

　　　 この大地震について地理学者のＷ・Ｈ・ホッブスは、『地震』という本の中で、つぎのように述べていた。

　「歴史上に残る地球の震動のうち、一七五五年十一月一日にポルトガルを襲ったものは第一級のもので

　あった。……六分間に六万人が死亡した」

　　　 聖書研究家たちは、地球の震動が勢いを増してきていたことを指摘していた。ジョン・カミング牧師は、

　『七番目のガラスびん』という本の中で、この時期についてつぎのように書いていたのである。

　「一八〇〇年から一八六五年にいたる六五年間に（古代ローマ帝国の範囲内だけで）三五回の大地震が起

　り、歴史家の注目をひいた。……スカンディナビア半島とアイスランドで、一七〇〇年から一八五〇年の

　間に二二四回の地震、スペインとポルトガルで一七八回、フランス、ベルギー、オランダで六〇〇回の地

　震があった。……イタリア半島と東部地中海では一八〇〇年から一八五〇年の五〇年間に、八〇〇回以上

　の地震が起った」

　　　 研究家たちの注目をひいたのは、ポルトガルの大地震で始まる三つの出来事（地震、暗い日、星の落

　下）であった。しかし、（ジェームス・ハートンの『ヴォルテールの生涯』によれば）、ほかの地震と異

　なっていたのは、目をくらます破壊力の速度であった。かれはこう述べている。

　「一七五五年十一月一日のリスボンの地震は、神学者と哲学者に防御の身構えをとらせた。……その朝十

　時二十分にはリスボンの建物は確実に立ち並んでおり、すばらしく見えた。……しかし、六分後にこの都

　市は廃虚と化した」

　　　 ロバート・シアーズは『世界の驚異』という本の中で、「一七五五年の地震は少なくとも四百万平方マ

　イルの広さにおよんだ」と記録している。

　　　 ヴォルテールは、ポルトガルの地震による破壊に動揺し、こう述べた。

　「それは、この地方の最後の審判である。ラッパの音以外はすべてそろっていた」�@

　　　 ヴォルテールの新しい戯曲の開演は、この災難によっておくれた。かれの伝記を書いた作家、トーレン

　・タイヤーは、こう書いた。

　「この地震はあらゆる人びとを思慮深くした。かれらは戯曲を愛好することに疑問をいだき、代わりに教

　会を満たした」�A

　　　 同じく一七五三年、ほかの地震がペルシャを襲い、四万人が死亡した。キリストは述べていた。

　「……あちこちに地震が起るであろう。……しかし、これは産みの苦しみの初めである。……そして人の

　子が来るのを人びとは見るであろう」�B

　　　 聖書研究家の多くは、黙示録にある大地震がついに来たと感じた。地震の数がますます多くなってきた

　時期に、それは起ったのである。

　　　 多くの人びとが、黙示録の第六章にある三つのしるしのうち、第一のものが現われたと確信した。かれ

　らは、空を見てつぎにつづくしるしを待った。それは、太陽が暗くなることである。

　

　三　 鳴りひびくラッパ

　

　　　 つぎに、わたしは二番目の手がかりを追った。予言にはつぎのような言葉がある。

　「……太陽は毛織の荒布のように黒くなり、月は全面血のようになった」

　　　 わたしは、このような出来事が実際、さまざまな文献に残されているのを発見した。それは「一七八〇

　年の暗い日」であった。この出来事は、ひじょうな注目を集め、アメリカをはじめほかの国々で新聞の見

　出しになったほどであった。

　　　 つぎの記録は、サミエル・スターンズが一七八〇年六月二二日のボストン・インディペンデント新聞に

　のせたものである。

　「暗さは日食によるものではないことは、そのときの太陽系の惑星の位置で明らかであった。その日は、

　一日中、月は太陽より一五〇度のところにあったからである」

　　　 不思議なこの出来事は、一八八三年版のウェブスター大辞典に取り上げられた。

　「一七八〇年五月十九日の暗い日、この日ニューイングランド中にひろがった信じがたい暗さによってこ

　う呼ばれるが、このおどろくべき現象の真の原因は不明である」

　『マサチューセッツ歴史学会収集、一七九二年』の中で、サミエル・テニーはこう書いた。

　「その前夜は満月であったにもかかわらず、この極端な暗さは一時ごろまでつづいた」

　　　 ウリア・スミスはテニーの報告について述べた。

　「この報告は、月の変相を考慮すると、その日の日食が不可能なことが証明される。この忘れがたい夜に

　月が出たとき、それは血のように見えた……」�@

　　　 学者たちの多くは、この出来事の不思議さについてさまざまな考えをめぐらした。この現象は、自然に

　起る日食によるものでなく、空がとつぜん暗くなったため月が血のように見えたのだ、と説明したりした。

　もっと保守的な学者たちはこう宣言した。

　「この出来事が自然現象であろうが神秘的なものであろうが、そんなことはどうでもよいことだ。重要な

　のは、太陽が暗くなり、月が血のようになったことである」

　　　 ほかにも、さまざまな説明が試みられたが、聖書研究家にとっては、予言が実現したかどうかが重要で

　あった。人によっては、「暗い日」は、世界のすべての人びとには見えなかったではないか、と異議を申

　し立てた。ほかの人は、「ベツレヘムの星は中東の人たちだけしか見えなかったではないか」と反論した。

　そして、地球の半分はつねに暗いので全世界の人びとが一度に見ることはできないと指摘した。

　　　 このように、あちこちで議論がはげしく交わされた。そのはげしさに比例して、キリスト再臨への興奮

　も高まっていった。

　　　 マサチューセッツ・スパイ新聞はつぎの記事を出した。

　「夜中の暗さも日中の暗さと同じようにめったにあるものではなく、おそろしいものである。その夜は、

　ほとんど満月であったにもかかわらず、明かりをつけなければ何も見えないほど暗かった。……ある人た

　ちは、これは最後の日、『太陽が暗くなり、月は光を投げかけない』日の直前の先触れだと見なした」

　　　 バーバーは『コネティカット歴史収集』の中で、ハートフォードのコネティカット州会議で起ったドラ

　マを報告している。会議は進行中であった。そのときとつぜん暗くなった。大半の議員は審判の日が来た

　と声を合わせた。

　　　 しかし、ダベンポート大佐は、解散の動議に反対した。かれは発言した。

　「審判の日はせまっているかもしれないし、そうでないかもしれない。もし、そうでなければ、わたしは

　自分の義務を果たしていたい。で、ローソクをもって来させたらどうであろうか」

　　　 詩人のウィティヤーは、恐ろしい日について書いている。

　「生き生きとした地球の白昼に恐怖の暗黒が落ち、あらゆる人の耳は鋭敏になった。暗黒の空に最後の審

　判を告げるラッパの響きを聞こうと……」

　　　 キリストは述べていた。

　「……たちまち日は暗くなり、月はその光を放つことをやめ、……そして、人の子が来るのを、人びとは

　見るであろう……」�B

　　　 その当時の聖書研究家たちは、この出来事に深く感動した。かれらの多くは、大地震につづいて起こっ

　た暗い日が、黙示録の予言の実現だとみなし、満足した。これらの出来事は、メシアの出現の前に起ると

　されているからである。

　　　 これら二つの出来事は、欧米で目撃された。人びとは「星が天から落ちる」という第三の予言の実現を、

　熱望の目で天を見上げながら期待した。

　

　四　 星が雪片のように落ちるとき

　

　　　 わたしは千年期喪失事件担当の探偵として、この話に強く魅せられてきたことを告白しなければならな

　い。第三の手がかりのときは、とくにそうであった。黙示録の第三の予言はこれである。

　「天の星は、いちじくのまだ青い実が大風に揺られて振り落とされるように地に落ちた」

　　　 このような出来事が実際に起っていたことがわかった。それは、一八三三年の星の落下といわれるもの

　である。この事件は、あまりにも異例のことであった。クラークは『十九世紀の天文学歴史』という本の

　中で、「……落下する星の風が地球上を襲った」と記した。

　　　 一八四〇年代の聖書研究家は、黙示録の第六章にある第三のしるしは、一八三三年十一月十二日、星の

　落下の夜現われたと信じた。

　　　 クラークはその夜について述べた。

　「一八三三年の星の落下、光かがやく流星は、天文学には欠かせない一部となった」

　　　 かれはつづけてこう描写した。

　「北アメリカは、つづけさまに落ちてくる星の矢面に立った。メキシコ湾からハリファックスまで、あら

　ゆる方向に線を引きながら流れる流星と大きな火のかたまりで朝方まで照らされた」

　　　 エール大学の数学の教授、デニソン・オムステッドは、『アメリカ科学ジャーナル』につぎの記事をの

　せた。

　「一八三三年十一月十三日の朝は流星と呼ばれる現象で忘れがたい日となった。これまで記録されたと同

　種類の流星より、おそらく、はるかに広範囲で見事なものであったと思う。……この国に移住がはじまっ

　て以来、このような天体での現象は起こったことがなかった。目撃者の一部は、ひじょうな賞賛と喜びで

　それを受けとめ、ほかの目撃者たちは、おどろきと恐怖で受けとめた。その後、しばらくの間この流星現

　象は話題の中心となった」

　　　 サイモン・ニューコムは『一般人のための』という本の中で、これらの流星は「これまでに観察された

　もののうちで最もおどろくべきもの」と述べた。

　　　 フランスの天文学者、クラマリヨンは『一般向き天文学』という本の中で、つぎのように記した。

　「ボストンの観測者、オムステッドは『最高時には、普通の雪の日に降ってくる雪片の半分に匹敵するほ

　どであった』と書いている」

　　　 オムステッド教授は、一時間に三万四千六百四十の流星があったと推測した。この推測は、流星の数が

　数えられるまでに減少したときのものである。

　　　 メリーランドのアナポリスにあるセント・ジョーンズ・カレッジの学長、ハンフリーズ博士は『アメリ

　カ科学ジャーナル』に掲載した記事の中で、「一般の言葉でいえば、流星は雪片のように落ちてきた」と

　述べている。

　　　 同じ雑誌には、つぎのような報告もあった。

　「月は出ていなかったが、その（流星の）輝きは、ひじょうに強く、普通の活字を読むのにそれほど困難

　ではなかった。そして、流星からの光は、地面が雪でおおわれたもっとも寒い日の月よりも明るかった」

　（一八三四年、二五巻、三七二頁）

　『ニューヨーク商業ジャーナル』には、つぎの記事がのせられた。

　「哲学者や学者は、だれも昨日の朝に起きたような出来事を語ったり、記録したりしなかった。もし、わ

　れわれが星が落ちるということは、実際に星が落ちるという意味であることが理解できないとしても、一

　八〇〇年前に、ある予言者はにそのことを正確に予知していたのである……」（一八三三年十一月十四日）

　　　 イギリスのトーマス・ミルナーは、一八五二年、『自然の画廊』という雑誌に記事を出し、アメリカだ

　けでなく、世界中の人びとがこの現象から強い感銘を受けた、と述べた。多くの地方で、民衆は恐怖にお

　ののいた。教育のある人たちは、黙示録のあざやかな描写、「天の星はいちじくのまだ青い実が大風に揺

　られて振り落とされるように、地に落ちた」を考えて畏敬の念に打たれた。

　　　 天文学者たちは、研究の結果、この特殊な流星は三三年ごとに出現することを発見した。しかしながら、

　一八三三年の流星は、異常なほどユニークであり、一八六六年のものとは比較にならないものであった。

　一八九九年のものは、それよりもかなり弱くなっていた。

　　　 とにかく、聖書研究家たちが指摘したように、流星の原因が重要なのではなく、その出現の時期と、地

　震と暗い日につづいた順番が重要なのである。

　

　　　 第一番目　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 一七五五年の大地震

　　　 第二番目　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 一七八〇年の暗い日と赤い月

　　　 第三番目　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 一八三三年の星の落下

　

　　　 同じ章で、メシアが国王を王座から追うことや、主の大いなる日の到来が述べられている。キリストは

　語った。

　「星は空から落ち、……そして人の子が来るのを人びとは見るであろう」�@

　　　 聖書研究家たちは、一八四四年に予言が集中していることを知っていた。黙示録に約束されている天の

　三つのしるしが実現された今、キリストの再臨のときがせまっているという信念は強まっていった。

　　　 Ｌ・Ｄ・フレミング牧師は、一八四二年に出版された『一八四三年を中心とするキリスト再臨証拠の梗

　概』という本の中で、つぎのように宣言した。

　「多くの著名な予言研究家たちは、同じ結論に達した。……数年前、世界をおどろかした星の落下または

　流星のすばらしい現象は、終わりのときのしるしとしか考えられない」

　　　 フレミングはつづけて、数年前に起ったふしぎな「夜の光」に言及した。かれは最後に「神よ、わたし

　たちが目覚めているように助けたまえ」と書き終えた。

　　　 星の大落下が十一月十二日の夜起こったことも興味深い。それはバハオラの誕生日であったからである。

　ほかにも、どんなしるしがあるであろうか。

　

　五　 天の顔

　

　　　 しるしはもっとあった。実際、たくさんあったのである。空に現われたこれらの驚異のほかにもその当

　時に起きた異常な出来事が記録されていたのである。

　　　 エマーソンの友人、マーガレット・フーラー（オソリ）は、つぎのように書いていた。

　「この時期のいちじるしい特徴の一つは、動揺があらゆる階層に達していたことである」�@

　　　 もう一つ、この時期の説明に、つぎのようなものがあった。

　「そのころ、不思議なしるしが、ひじょうにひんぱんに空に現われ、強い不安を引き起こした」�A

　　　 一八三三年十一月二五日付のコネティカットの新聞につぎの記事が掲載された。

　「われわれが水曜日の朝見た火の雨は、最後の、おそろしい（終わりの日の）確実な先ぶれであると宣言

　する。（黙示録の）第六の封が開けられるとき、地球の住民が目撃する恐ろしい大いなる日の慈悲深いし

　るしである。時はせまっている、と新約聖書だけでなく、旧約聖書にも述べられている」

　　　 一八三三年の星の落下以来、人びとの終わりの日に関する予言に対する関心は急速に高まったいった。

　それは一八四三年から一八四四年にかけて最高潮に達した。一八四三年から一八四四年にかけて太陽のま

　わりに現われたかさは、人びとの興味と熱意をいっそう強めた。

　　　 マサチューセッツ州のボストンにあるマールボーロ街教会のチャールズ・フィンチ牧師は、それらの終

　わりの日のしるしを真剣に受けとめ、このことを一般大衆に警告しなければならないと強く感じた。

　「わたしは、聖職者からいくぶんのけ者にされたが、代わりに救済を得た」�B

　　　 天のしるしは、これで終わったわけではない。バハオラの言葉に、メシアが現われるときには、つねに

　天に星が現われるというのがある。

　『確信の書』という本の中で、バハオラは神の使者が地上に現われたとき、実際に二つの星が現われたと

　述べている。一つは、神の使者の前に現われる先駆者という象徴的な星であり、もう一つは、空に出現す

　る実際の星である。

　　　 聖書からもこのことが確認される。アブラハムの出現をニムロッドに警告した星、占いたちがモーゼに

　関してファラオに示した星、ヘロドがキリストを恐れるようになったベツレヘムの星などである。ゾロア

　スターやほかの神の使者たちについても同じ話が伝えられている。

　　　 過去の予言者にはそれぞれ先駆者がいた。たとえば、キリスト出現の前に、バプテスマのヨハネが現わ

　れているように。したがって、終わりの日に、二人の神の使者が同じ時期に出現するならば、二人の先駆

　者が現われなければならない。そして天にも二つのしるしがなければならないことになる。この考えは、

　妄想のように思えたが、聖書にしたがえば、そうでなければならなかった。それに、ここまでると、わた

　しはどんなことにもおどろかないようになっていた。

　　　 ペルシャの歴史を調べてみると、まさにそのことが起こっていた。バブとバハオラの出現前に二人の先

　駆者が現われていたのである。一人は、シェイク・アーマドで、もう一人は、セイエド・カーゼムであっ

　た。では、天にも二つの星が現われたであろうか。

　　　 偶然であろうか。わたしは二つの星、または双星についての研究が、その当時すでに始まっていたこと

　を知った。ウィリアム・ハーシェルとウィリアム・ストルーブは、〈双星の系統的測定と研究の基礎〉を

　作った主要な人物であった。ストルーブは、一八三五年に、ドルパットでその研究を終えている�C。

　　　 同じころ、シェイキ・アーマドとセイエド・カーゼムは、終わりの日に現われる二人の神の使者の出現

　がせまっていることを世にひろめていた。セイエド・カーゼムはつぎのように述べた。

　「まことにわれは告ぐ。約束された夜明けである方の出現のあと、約束された太陽である方が現われるで

　あろう。前者の光が消えるとき、後者の太陽がのぼり、全世界を照らすであろう」�D

　　　 同じ時期に現われた双星について、もう一つ不思議なことを発見した。もっとも明るい星の一つはシリ

　ウスである。天文学者のベッセルは、一八四四年、シリウスは一つの星でなく、二つだという理論を提出

　した。シリウスは「例外的な歴史的重要性をもつ」双星であると発表したのである。

　　　 前述したように、一八四四年はバブが宣言した年であり、またバハオラの信教が始まった年でもあった。

　アルバン・クラークはシリウスを注意深く研究した後、シリウスは双星であるというベッセルの理論は正

　しいと発表した。それは一八六二年であった。その年は、バハオラが自分はバブが予知していた約束の人

　であると宣言した数ヵ月前であった。

　　　 なんと興味深い話であろうか。しかも、まだ始まったばかりであった。バハオラの生涯と歴史に関連す

　る予言のほとんどがそうであるように、この予言も単に実現されただけではなく、「コップはあふれ出し

　ていた」のである。

　　　 わたしは、これらの予言の実現について、予言研究家の言葉を理解し、心から同意した。

　「探索者は、泉や小さな流れ、または川も見つけることができないかも知れないが、大洋を見そこなうこ

　とはないであろう」

　

　六　 夜の訪問者

　

　　　 バハオラの信教が始まった日は、空に現われるしるしで確認されなければならない。では、どんなしる

　しが見られたであろうか。それは容易に見つかった。しるしは大彗星であった。

　　　 有名な天文学者、ジェームス・ジーンズ卿は『空間と時間を貫いて』という本の中でこう述べている。

　「……奇妙にも、もっともはっきりと見える彗星の多くは、歴史上に起る重要な事件と同時に現われるか、

　または恐らくそれに先行して出現するようである」

　　　 つぎの見出しは、そのことを語っていた。

　「正午、巨大な火を噴く大彗星がとつぜん現われる」

　　　 それは一八四三年であった。バハオラの信教の誕生の前年である。バハオラの信教に先行したこの巨大

　な彗星は、一億五百万マイルの尾を引くものであった。太陽のまわりのかさが人びとの驚異と憶測を呼び

　起こしているときに、その彗星は現われたのである。

　　　 この出現は『われわれの最初の世紀』という本の中に報告された。

　「一八四三年の彗星は、おそらく現代で起きたもっとも不思議な出来事と見なされることができよう。そ

　れは夜になる前にも観測することができ、太陽のすぐ近くをひじょうに長い尾を引きながら通り過ぎた」

　　　 ニューヨークの新聞と『アメリカ科学ジャーナル』は、この大彗星に特別の欄をもうけ、「一八四三年

　の大彗星」と呼んだ。

　　　 これと同じ時期に、はるかにドラマチックな出来事が起こっていた。それは一八四五年に見られたもう

　一つの彗星である。三百個ほどからなるこの彗星が現われた年には、普通の彗星のように見え、過去に何

　回も研究されたものであった。

　　　 しかし、この時期には史上めずらしい彗星となっており、生命の最後の時期にさしかかっていた。それ

　は、発見者の名をとってビエラの彗星と呼ばれた。一九四四年版のアメリカーナ百科事典には、つぎのよ

　うに説明されている。

　「ふたたび、一八四五年末とその翌月に、天文学史上もっともおどろくべき現象の一つが観測された。そ

　れは彗星の分割である。この変化が起こっているときは彗星は尾を引いていなかった。チャリス教授は、

　一八四六年一月十五日に、以前には一つであった彗星が二つになっているのを見て、自分の目と望遠鏡を

　疑った。かれが使用していた天体望遠鏡は、ケンブリッジのノーサンバーランドに設置されているもので

　あった。かれはその彗星を二連彗星（もしこれ迄にそういうものがあったとしたら）と呼ぶであろうと述

　べた」

　　　 ジェームス・ジーンズ卿は、この彗星についてつぎのように書いている。

　「もっとも興味深いものは、一八四六年、観測中に二つに分裂したビエラの彗星の話である」�@

　　　 チャリス教授はまちがっていた。それは天文学史上始めて現われた二連彗星ではなかった。シリアスが

　唯一の二連星でなく、またベツレヘムの星が唯一の明るい星でないのと同じであった。重要なのは、出来

　事の異常さでなく、おどろくべきタイミングであった。

　　　 ビエラの星は、一八四六年に消え、一八五二年の八月に再現した。同じ年と月に、バハオラはテヘラン

　の地下牢に投げ込まれた。このとき、四十年間つづくバハオラの使命が始まった。

　　　 一八五二年はまた、ペルシャ暦で一二六九年にあたり、バブがバハオラの到来を予言した九年目であっ

　た。バブはつぎのように予知していた。

　「九の年にあなたがたはすべての善に達するであろう……。九の年にあなたがたは神の面前に達するであ

　ろう」�A

　　　 二つになった星は、一八五二年の八月に再現した。そのとき、一つは後の方に後退していた。バハオラ

　の先駆者であるバブの殉教によって背後に後退したのである。そして、かれが予知したバハオラが今や、

　その使命を受け継いだのである。

　　　 この彗星の再現はつぎのようにも説明されている。

　「一八五二年の八月、大きい方の彗星が見えてきた。そして三週間後に、小さい方が見えた。それは前者

　よりもかなり弱々しく見えた」�B

　　　 ジェームス･ジーンズ卿は、一八五二年には二つの星は五十マイルはなれていたことを確認している。

　　　 バハオラは、二連彗星が空を横切っていたとき、地下牢にくさりでつながれていた。そのときの体験を

　つぎのように書いた。

　「……見よ、栄光に満ちたる者（神）の微風がわれに吹き寄せ、これまでの知識をすべてわれに教えた。

　これはわれから出て来たものではない。全能者であり、全知者である方から来たものである。そしてかれ

　は、われに天と地の間に声をあげるように命じた」�C

　　　 そのとき、偉大な聖霊がバハオラに現われた。それは、ヨルダン川にいたイエスにハトが舞い降り、燃

　える叢林がモーゼに現われたのと同じ聖霊であった。

　「わが生命にかけて誓う。われが自らを顕したのは自分の意志ではなく、神自身の意志である……。沈黙

　を守り、静かにしたいと思うときはいつでも、わが右側に立っている聖霊の声でわれは起された……栄光

　の聖霊がわが胸をかきたて、われに立ち上がって沈黙を破るように命じた」�D

　　　 バブとバハオラの二人の出現を宣言した二連彗星は消え去り、ふたたび戻ることはなかった。ジェーム

　ス・ジーンズ卿は語った。

　「（二連彗星）のいずれも彗星の形では見られないが、それらがあるべき場所は、アンドロメダ流星体と

　呼ばれる無数の流星群で占拠されており、ときおり、軌道上で地球と接触し、すばらしい流星となるので

　ある……」

　　　 このように、二つの彗星は、二つの別々の彗星ではなく、一つの光となった。バハオラとバブの信教が

　もはや別々のものではなく、一つになって世界に光を投げかけているように。

　　　 バハオラとバブの信教が一つであることを示すものがほかにもある。かれらの生国、ペルシャの暦でも、

　二人ははなれがたく係わりあっているのである。すなわち、バブの誕生日のつぎの日がバハオラの誕生日

　なのである。その順序は、かれらが使命を宣言した順序と同じである。

　　　 西暦では、バブは十月二〇日に生まれ、バハオラは十一月十二日に生まれた。しかし、ペルシャの暦で

　はバブはムハラン月の最初の日に生まれ、バハオラは二日目に生まれた。つまり、ペルシャではかれらの

　誕生日は二日つづく一つの大祝祭日として祝われるのである。

　　　 わたしは、空に現われるしるしに関する予言が、バハオラとその信教によってつぎからつぎへと実現し

　たことに満足した。

　

　　　 一 一八三三年の星の落下と定期的に現われる流星の雨がつねにバハオラの誕生月である十一月に現われ

　　　　　　 たこと

　　　 二 二連星の研究がはじまったこと

　　　 三 一八四三年の太陽のまわりの現われた光輪

　　　 四 一八四三年の大彗星

　　　 五 一八四四年の光輪

　　　 六 一八四五年に現われた流星が一八四六年に二つに分割され、後にこの二連流星は一つの光の雨となっ

　　　　　　 たこと

　　　 七 シリウス星は二連星であるという理論は、一八四四年に発表され、一八六二年、バハオラの使命の宣

　　　　　　 言の少し前に、それが真実であることが証明されたこと

　

　　　 これらのドラマチックな出来事、地震、暗い日、落下する星、流星などは、神の栄光であるバハオラの

　出現に関わるものであった。それらは旧約聖書の詩篇の中にある言葉の実現でもあった。

　「もろもろの天は神の栄光をあらわす」�F

　　　 わたしが、この章で述べたことは、バハイ信教の教えではない。それは、一八〇〇年代のメシア出現へ

　の熱望を燃え立たせた実際上のしるしである。その熱望は、キリスト教徒がキリストの再臨に対していだ

　いていたものであった。しかし、バハイ信教にとっては、「星の落下」やそのほかのしるしは、むしろ象

　徴的な意味をもつのである。

　　　 わたしは今、新聞記者たちが、もっともドラマチックな話として「キリストの再臨」を選んだことに心

　から賛同した。それが可能であると感じた。

　「メシア出現のしるしはもろもろの天に現われるであろう」という予言の横に、わたしは〈実現〉としる

　した。

　　　 千年期喪失事件には、もう一つだけ未解決問題が残っていた。それは「にせ予言者たちに気をつけよ」

　であった。

　

　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 第五章

　

　一　 にせ予言者たちに気をつけよ

　

　　　 キリストは信者に、にせ予言者たちに惑わされないように、十分気をつけているように警告した。

　「人に惑わされないように気をつけなさい。多くの者がわたしの名を名のって現われ、自分がキリストだ

　と言って多くの人をまどわすであろう」�@

　　　 つづけてかれは述べた。

　「そのとき、だれかがあなたがたに『見よ、ここにキリストがいる』、また、『あそこにいる』と言って

　も、それを信じるな」�A

　　　 キリストは、にせキリストやにせ予言者は一人でなく、たくさん現われ、つぎのようなことをなすであ

　ろうと警告した。

　「大いなるしるしと奇跡とを行ない、できれば、選民をも惑わそうとするであろう」�B

　　　 キリストが、自分の再臨に関してつぎの三つの証拠をあげたのは、自分の信者たちを保護するためで

　あった。

　

　　　 一 福音が全世界に宣べ伝えられる

　　　 二 異教徒の時が実現する

　　　 三 ダニエルによって言われた荒らす憎むべき者が聖なる場所に立つ

　

　　　 キリストは人びとが惑わされないように精神的な目と耳を開いておくようにと勧告した。かれは心の純

　粋な者だけが自分の再臨を認めることを知っていた。また、すべての本当の予言者たちが、出現当時はに

　せの予言者と呼ばれたことも知っていた。そして、自分も同じ経験をしており、同世代の人びとから「に

　せの予言者」と呼ばれたのである。

　「群集の中に、イエスについていろいろとうわさが立った。ある人びとは『あれはよい人だ』と言い、他

　の人びとは『いや、あれは群衆を惑わしている』と言った」�C

　　　 身分の低い人たちがキリストの使命について僧侶にたずねたとき、かれらは「かれはにせ予言者だ」と

　答えた。キリストは、その驚嘆すべき言動によって多くの人びとを引きつけた。しかし、宗教の指導者た

　ちはかれを否定したのである。

　　　 このことは、つぎの言葉で明らかである。

　「下役どもは答えた、『この人の語るように語った者は、これまでにありませんでした』。パリサイ人た

　ちが彼らに答えた、『あなたがたまでが、だまされているのではないか』」�D

　　　 キリストを真実の予言者と信じた少数の人たちと、にせだと思った大多数の人たちは、はっきり分かれた。

　「こうして、群衆の間にイエスのことで紛争が生じた」�E

　　　 一般の人びとは、低い身分の人たちだけがキリストを信じ、知識や学問のある人たちはキリストをにせ

　の予言者と見なすのだと思い込まされた。かれらは、キリストを信じる者を愚か者だと見なし、つぎのよ

　うに指摘した。

　「役人たちやパリサイ人たちの中で、一人でも彼を信じた者があったであろうか」�F

　　　 そしてかれらは、モーゼの書を知らない無知な者だけがキリストを信じるのだ、と何度も話した。指導

　者たちも、人びとは惑わされているのだ、と断言した。

　「……律法をわきまえないこの群衆はのろわれている」�G

　　　 パレスチナの大半の人びとは、ナザレのイエスを信じなかった。イエスはメシアの出現に関する予言を、

　かれらの解釈通りには実現しなかったからである。かれらは、旧約聖書にある予言を引き合いに出して、

　キリストがにせ予言者であることを証明しようとした。

　「『メシアはダビデの王座に座る』と書いてあるが、ナザレ人（キリスト）の王座はどこか」

　「『メシアは剣でおさめる』とあるが、イエスは杖も持っていないではないか」

　「かれはダビデの息子でなければならないが、実際は処女から生まれた。この予言さえ彼は実現できな

　かったではないか」

　「ダニエルは、メシアは王子であると約束したが、このイエスはただの大工であり、高貴な家柄に生まれ

　た王子ではないではないか」

　「『聖なる人は木につられることはない』とあるが、このナザレ人は木にはりつけにされ、吊り下げられ

　たではないか」

　　　 申命記にはつぎの言葉がある。

　「……木にかけられた者は神にのろわれた者である」�H

　　　 ユダヤ人たちは、このことをキリスト教徒に指摘した。

　「聖書にしたがってのろわれた者をどうして信じることができようか」

　　　 キリスト教徒は、メシアがイスラエルの分散した羊を集めることに関して質問されたとき答えに困った。

　ユダヤ人たちは問うた。

　「メシアは分散した国々からわれわれを集める、と書いてある。しかし、われわれは分散さえしていない。

　われわれはここに居るではないか。どうしてかれが新の予言者であり得ようか。われわれは分散していな

　いのにどうして集めることができようか」

　　　 その後西暦七〇年に、エルサレムが破壊されてユダヤ人たちが分散したとき、この質問への解答はます

　ます困難になった。ユダヤ人たちがつぎのように問うたからである。

　「メシアが到来すれば、われわれを集めるようになっている。キリストは現われたが、われわれは故国か

　ら追い出された。これはメシアがすべきことの反対ではないか。よって、われわれは彼をにせの予言者と

　見なす」

　　　 ピリポが友人のナタナエルに出会い、こう話した。

　「わたしたちは、モーゼが律法の中にしるしていた人、……ナザレのイエスに今出会った」

　　　 ナタナエルは聖書から引用してかれにいった。

　「ナザレから何もよいものが出てくるはずはない」

　　　 ニコデモがイエスに関してパリサイ人たちにいった。

　「わたしたちの律法によれば、まずその人の言い分を聞き、その人のしたことを知った上でなければ、さ

　ばくことをしないのではないか」

　　　 パリサイ人たちはかれに答えた。あなたもガリラヤの出身なのか。よく調べてみなさい。ガリラヤから

　は予言者が出るものではないことがわかるであろう」

　　　 パレスチナ人は正直に自分に問うた。

　「ではどうしてナザレのイエスがメシアであり得るであろうか」

　　　 当時の人びとは、とくにガリラヤの人たちはメシアについて疑問をもっていた。その時代、ゴロナイト

　のユダが人はメシアだと宣言し、ユダヤ人たちをローマの支配から解き放すために立ち上がった。何千と

　いう人たちがガリラヤで起こった戦争で死んでいった。同時代の歴史家ヨセフスは、「神はガリラヤ人を

　ローマ人に手放した」と結論をだした。かれらは、このガリラヤのイエスは、もう一人のにせキリストだ

　ろうと考え、無視した方がよいと思った。

　　　 イエスの信者たちは、これらの予言は外面的にでなく、内面的に実現されたと説明した。これらの予言

　は象徴的に理解されるべきであり、文字通りにとらないようにと述べた。しかし、人びとはそのような説

　明を受け入れることをしなかった。

　　　 キリストの信者たちの中にも、かれをにせ者だと思うようになった者もいた。かれらは、キリストのぐ

　う話の象徴的な意味と内面の真理が理解できなかったのである。キリストは告げた。

　「肉はなんの役にも立たない。わたしがあなたがたに話した言葉は霊であり、また命令である」�I

　　　 人びとは、これまで教えられてきたことに反するような言葉をキリストから聞いた。

　「それ以来、多くの弟子たちは去っていって、もはやイエスと行動を共にしなかった」�J

　　　 イエス・キリストは、何世紀間も多くの人びとに、にせ予言者だと思われた。現在もユダヤ人たちはキ

　リストをメシアとして受け入れていないし、人類の大半もそうである。

　　　 ローマの歴史家、タキトウスは書いた。

　「キリスト教徒は人類に敵意を持つという理由でネロに処刑された。かれらは罪人であり、見せしめのた

　め罰を受けるに価する者らである」

　　　 かれはまた、キリスト教は「邪悪な迷信である」とも述べた。

　　　 同じくローマの哲学者であり、歴史家であるスエトニウスは、キリスト教を「新しい魔術的な迷信」と

　呼び、信者たちは「つねに騒動を起こしている」と記録した。

　　　 セルサスは、西暦二世紀に、聖なるイエスを侮辱してつぎのように書いた。

　「キリストは婚姻から生まれ、小柄で、ぶきりょうで、下品であった。かれは貧しかったため、エジプト

　に行き、労働者としてはたらき、そこで魔術を学んだ。かれは物乞いしてまわり、自分のまわりに十人か

　十一人の悪名高き男たちを集めた」

　　　 新プラトン主義の哲学者、ポルピュリオスは、同じような本を書いたが、その後、二人のキリスト教徒

　の皇帝の命令により、その本は焼かれた。

　「背教者ユリアヌス」と呼ばれたローマ皇帝ユリアヌスは、自著の中で、キリスト教とキリストを攻撃した。

　　　 ある皇帝の指導教師であったフロントは、キリスト教に反対する論文を出版した。

　　　 ミルザ・アブール・ファドルは、キリストとキリスト教を否定した者たちの著書のリストを作れば、一

　巻の本に匹敵する長さになるであろうと述べている。

　　　 メシアを認めることができるのは「見る目」をもつ者だけである。このように、精神的な人は、キリス

　トの生涯と教えの中にある真理を自分の内的な目を通して見つけなければならないのである。洞察力のあ

　る人は、メシアの敵の言葉を判断の基準とはしないであろう。

　　　 しかし、誠実な探究者は、どのように確信を得ることができるであろうか。神は人間に、判断の基準と

　なるものを与えられているはずである。

　

　二　 誠実な人の敵

　

　　　 キリストは、これらの人びとの不信が自分の再臨のときにもくり返されるであろうことを知っていた。

　かれは、弟子たちに外面的な奇跡に惑わされずに、慈愛にあふれた内在する聖霊をさがさなければならな

　いと警告した。

　　　 イエス、モーゼ、ゾロアスター、仏陀、モハメッド、バブ、そしてバハオラのような神の使者が現われ

　るとき、精神的に目覚めていない人たちは、かれらを「にせの予言者」と呼ぶのである。

　　　 これは、新しく起こってきた問題ではない。キリストで始まったものでも、バハオラで始まった問題で

　もない。人類の発生までさかのぼる古い問題なのである。

　　　 キリストは、明白に自分の再臨を予言したマタイ書の中で、終わりの日に現われるにせの予言者たちに

　ついて重大な警告を発していた。

　「だから、人びとが『見よ、彼は荒野にいる』といっても、出ていくな。また『見よ、へやの中にいる』

　と言っても、信じるな」�@

　　　 キリストがはりつけになった後、五〇年間に多くの者らが、自分はメシアであると宣言し、その後、何

　世紀にもわたって多数の者らが同じ宣言をした。

　　　 これらのにせメシアたちにもかかわらず、ユダヤ人の思想家、マイモニデスは「メシアへの望みは、離

　散しているユダヤ人の精神を支える欠くことのできないものとして受け入れ、ユダヤ教の十三の主な教義

　の一つとした」ことを、デュラントは自著『信仰の時代』の中で述べている。

　　　 キリスト教徒もユダヤ教徒も、メシアの到来を熱心に待ってきたのであるが、現代では大半の信者は興

　味を失い、無関心となってしまった。両教徒とも、日々、来るべき神の王国の到来を祈ってきたにもかか

　わらずである。

　　　 以上のことから、わたしはバハオラが真の予言者であり、にせではないことを確かめる方法がないかど

　うかを探した。

　　　 その方法はあった。キリスト自ら、真の予言者であるかどうかを試す確実な方法を信者たちに与えてい

　たのである。

　「にせ予言者を警戒せよ。彼らは、羊の衣を着てあなたがたのところに来るが、その内側は強欲なおおか

　みである」�A

　　　 キリストは、外面の姿を見て判断するのではなく、内在する真理を探せば、かならず、にせと真実を

　はっきりと区別できることを約束した。

　「門からはいる者は羊の羊飼である。……かれは羊の先頭に立って行く。羊はその声を知っているので彼

　について行くのである」�B

　　　 ここで、キリストが自らの再臨の時に関して語っていることはつぎの句でも明らかである。

　「わたしはまた、この囲いにない他の羊がある。わたしは、彼らも導かねばならない。彼らも、わたしの

　声に聞き従うであろう。そして、ついに一つの群れ、一人の羊飼となるであろう。父は、わたしが自分の

　命を捨てるから、わたしを愛して下さるのである。命を捨てるのは、それを再び得るためである」�C

　　　 キリストは、マタイによる福音書の七章で、にせの予言者について警告を与え、真が偽をはかる尺度を

　示した。わたしを含めて、すべてのキリストの信者が真理を知らない、という言い訳は通用しないと思っ

　た。それは、山上の垂訓の中からとられていたからである。

　「にせ予言者を警戒せよ。彼らは、羊の衣を着てあなたがたのところに来るが、その内側は強欲なおおか

　みである。あなたがたは、その実によって彼らを見わけるであろう。茨からぶどうを、あざみからいちじ

　くを集める者があろうか。……このように、あなたがたはその実によって彼らを見わけるのである」

　　　 わたしは、この安全な基準を用いて判断することにした。キリスト自らの忠告通りにすることにしたの

　である。

　　　 わたしは、バハオラを「その実によって見わける」ことにした。そうすれば、バハオラが真のメシアか

　どうかが最終的に明らかになるはずであった。

　　　 実がよければ木もよい。実がよければ予言者は真実である。わたしはこれをもっとも基本的な証拠のひ

　一つとつとすることにした。千年期喪失事件の解決はほかの証拠よりも、この証拠に依ると感じたからで

　ある。

　

　三　 生命の木

　

　　　 キリストは終わりの日に現われる人は「真理の御霊」と呼ばれるであろうと予言した。

　「……あなたがたをあらゆる真理に導いてくれるであろう」�@

　　　 ほかの個所でキリストはつぎのように述べている。

　「……あなたがたにすべてのことを教え、またわたしが話しておいたことを、ことごとく思い起させるで

　あろう」�A

　「……わたしのものを受けて、それをあなたがたに知らせるからである」�B

　　　 わたしは、キリストの言葉にひそむ内的な意味をとらえることにした。というのも、かれはつぎのよう

　に語っていたからである。

　「……わたしの語ったその言葉が、終わりの日にその人をさばくであろう」�C

　　　 バハオラは百巻以上の本を残し、その教えは生活のあらゆる面にわたる。しかし、ここではかれの教え

　の一部しか述べることができない。つまり、大洋の水をコップの中に入れるようなものである。

　　　 多くの著名人がバハオラの教えを高く評価しているが、学者のチャールズ・ボードインは『現代研究』

　という本の中で、つぎのように述べている。

　「この道徳律は、イエスやほかの予言者たちのすべてが教えた愛の法則によって支配されている。しかし、

　これらの法則は、実際の生活で、ほとんどまちがいなくさまざまな解釈を生み出すであろう。バハオラの

　法則は、その中でもっともわかりやすく、もっとも高遠で、現代人の心にもっとも満足を与えるものの一

　つである……」�D

　　　 チェッコスロバキアの前大統領、エドワード・ベンズは、バハオラの教えについてつぎのように書いて

　いる。

　「バハイの大業は、今日の世界において偉大な道徳的、社会的な影響力をもつものの一つである……」�E

　　　 かれはまた、別の個所でつぎのようにも述べている。

　「バハイの教えは、物質的な勢力との戦いにおいて、精神を最初にもってくるために必要な精神力を与え

　るものの一つである。……バハイの教えは、精神と人類の最終的な勝利のための強大な手段の一つである」�F

　　 　科学者のグレン・A・シュツク博士は、色彩オルガンの発明者であり、マサチューセッツ州のノートンに

　あるウィートン大学の物理学部長であった人であるが、バハオラの教えについてつぎのような声明を出した。

　「ここに強大な知識の川がある。一般の人と同じように科学者にも訴えるものである。バハオラの教えは

　現代の問題に正面からぶっつかるものであり、確実で合理的な解決を提出するものである。それは、科学

　者としてのわたしにとって貴重な発見であり、一人の人間としてのわたしにとって宝物であり、慰めでも

　ある」�G

　　 　ルーマニアのマリー女王は、一九二六年五月四日付のカナダのトロントのデリー・スター新聞に書いた。

　「もしバハオラの名（またはかれの長子の名）が、あなたがたの注意を引いたならば、かれらの本を離さ

　ないようにしなさい。かれらの本を探し出し、そのすばらしい平和と愛を生み出す言葉と教えを、わたし

　自身そうしたように、あなたがたの心に深くいれなさい」�H

　　　 八年後、女王はこう書いた。

　「これらの本は信じられないほどわたしを強めました。そして今、わたしは希望にあふれ、いつでも死ぬ

　ことができます。バハイの教えは平和と理解をもたらします。それは、以前のすべての予言者を受け入れ、

　ほかの信条を損なうことはなく、すべての面に向かって戸を開いています。……確信を求めてきた人には、

　御父の言葉は長い間さまよった後にたどりついた砂漠の泉のようであります」�I

　　　 バハオラのつぎの言葉は、かれの教えの根本精神となるものと考えてよい。

　「おお、人の子らよ。神の信仰とその宗教に生気を与える　 根本目的は、人類の利益を守り、その和合を

　促進し、人びとの間に愛と友情の精神を育成することにある」�J

　　　 ここでわたしは、バハオラの木から生み出された実を一つづつ調べていくことにした。そうすれば、か

　れが真の予言者であるかどうかが明らかになるからである。

　　　 まず最初に、バハオラの言葉の中から、すべての人に重要だと思われるテーマを選んでみた。

　

　　　 一 家庭生活

　　　 二 国家

　　　 三 宗教

　　　 四 人格

　

　四　 第一の果実、家庭生活

　

　　　 バハオラは、家庭生活の重要性を強調した。それは充実した人生を送るための基本となるものである。

　かれは、全人類に結婚の神聖さを尊ぶように呼びかけた。同時に、バハイには隠遁生活を送ることを禁じ

　た。現代においては、ほかの人たちとの交際を断って、自分だけが善良な人間になっても意味がないので

　ある。わたしたちはグループの中で共同して働く人間にならなければならない。つまり、健全な家庭生活

　は社会に欠かせない重要な基盤なのである。

　　　 バハオラは、結婚についてこう述べた。

　「あなたがたに代わって立ち上がる者が出てくるように結婚せよ。われらは、不純なものを拒み、あなた

　がたに忠誠を命じたゆえに」�@

　　　 エッセルモント博士は、バハオラの教えを分析してつぎのように書いた。

　「昔は僧院生活のためには何らかの口実があったかも知れないが、バハオラは、もはやそのような口実は

　通用しないことを宣言した。そして実際に、ひじょうに敬虔で、神を畏敬する人びとの多くが、同胞との

　交際を断ったり、親としての義務と責任から逃れるならば、人類は精神的に貧しくなるであろう」�A

　　　 かれはまた、結婚についてつぎのような教えを与えた。

　「バハイの婚約は両者の完全な同意と一致による。二人は細心の注意をはらってお互いの性格を知らなけ

　ればならない。相互は固い約束で永遠に結ばれ、その目標は、永続する愛情、交友、和合、生命でなけれ

　ばならない……」

　「バハイの結婚は、男女が精神と肉体の両面で結ばれ、あらゆる神の世界を通して永遠に和合し、相互の

　精神生活を改良していくことを意味する。これがバハイの婚姻である」�B

　　　 バハオラは、すべての男女に結婚するように忠告した。そして、生まれてくる子供たちは、神を讃美し、

　人類に奉仕する人間に成長するように教育されなければならないと教えた。

　　　 かれはまた、家庭生活についてつぎの忠告を与えている。

　「あなたがたの家庭を安息と平安の避難所としなさい。あなたがたの家庭の戸を友人および他人に開き、

　かれらを親切にもてなしなさい。どの客にもにこやかに、寛大な心で迎え、客が自分の家だと感じるよう

　につとめなさい」

　「あなたの結婚の木が、四季を通じてみどりに包まれるように、愛と慈愛で養いなさい。そして、神から

　可愛くうるわしい子供たちを授けられたならば、かれらが人類のしもべとなるように指導し、教育しなさ

　い……」�C

　　　 バハオラの長子、アブドル・バハは、家族の土台となる条件をつぎのように述べている。

　

　　　 一 あらゆる人びとに同情心と親切心をもつこと

　　　 二 人類に奉仕すること

　　　 三 暗やみにいる人たちを指導し、啓発すること

　　　 四 すべての人びとに親切であり、愛情を示すこと

　　　 五 神の前に謙虚であり、日々神に近づくように祈ること

　　　 六 いかなる行動をとるときも忠実で誠実であること。家族のメンバーはすべて、正直、愛、信頼、親切、

　　　　　　 寛大さと勇気をもっていることで知られなければならない。

　　　 七 神の教え以外のものに愛着しないこと

　

　　　 以上の条件を満たす家庭は、バハオラの教えを守る家庭である。これもバハオラの木に実った果実であ

　り、読者がバハオラの真実性を判断するときの手段の一つである。

　

　五　 第二の果実、国家

　

　　　 これに関するバハオラの言葉を見てみよう。

　「神から直接下された聖なる命令によれば、誹謗は禁じられている。すべての人びとに温和さと友情を示

　さなければならない。また、正しい行為と正直さと親睦をもって、世界中のあらゆる民族と国民と接しな

　ければならない」�@

　　　 バハオラにしたがう人は、自国の政府に忠実でなければならないことも教えの一つである。バハイの義

　務は「もっとも効果的な方法で、自国の政府と国民の利益を推進すること」�Aである。

　「……自分が属している国の最大の利益のために利己心をすて、見栄をはらずに、愛国心をもって奉仕す

　ること」�Bは、あらゆる忠実なバハイの望みなのである。　

　　　 バハオラの教えの基本は、あらゆる国家間に和合をもたらすことであるが、健全な愛国主義を非難した

　り、軽蔑したりするものではない。また、個人が自国に対してもつ温かい自然な感情を変えようとするも

　のでもない。

　　　 世界政府と世界の和合に関するバハイの教えは、つぎの説明で明らかであろう。

　「（バハイの教えは）個人の自国に対する忠誠心や愛国心を損なうものではない。また、各政府や国家の

　正当な願望、権利、義務と矛盾するものでもない。それが意味し、宣言しているのは、愛国主義の不適切

　さである。社会の経済面にもたらされた根本的な変革と、諸国家が相互依存と、交通と通信機関の改革に

　よる世界の縮小化の結果（それはイエス・キリストの時代には存在せず、存在することもできなかった状

　態であったが）としての愛国主義の不適切さである……諸国家と諸国民が相互依存している世界では、自

　国への愛は、一部の利益は全体が利益を受けることによって最高度に発揮されるのである」�C

　　　 バハイは、自国の政府に忠誠をつくさなければならないが、政府を転覆するような政治・社会運動に参

　加することは禁じられている。

　　　 英国統治下にあったパレスチナの高官、サミエル男爵は、一九五九年八月に、バハイについてつぎのよ

　うに書いた。

　「バハイは市民の中で貴重な要素であり、頭がよく、秩序正しく、教養があり、なかんずく信頼できる人

　たちだと一般に見なされている。政府の仕事や商業上でもかれらは腐敗しない人たちだと高く評価されて

　いる。かれらは礼儀正しく、丁寧である……」�D

　　　 バハイがどこの国においても正直で有用で望ましい市民であることは、つぎのバハオラがバハイに宛て

　た言葉でも明らかであろう。

　

　　　 一 現代、すべての人は世界中の国家と公正な政府の利益を推進し、その地位を高めるものに確固とすが

　　　　　　 らなければならない。

　　　 二 誠実と正直であなたがたのすべての行動を際立てよ。

　　　 三 今日、全人類の奉仕に自らを捧げる者こそまことに、真の人間である。

　　　 四 おお人びとよ、あなたがたの舌を真実で清め、魂を正直の飾りでかざれ。おお人びとよ、だれも裏

　　　　　　 切ってはならない。神の創造物の中で神から信頼される人となれ……。

　

　　　 以上もバハオラの木を試す一つの果実である。

　

　六　 第三の果実、宗教

　

　　　 バハオラはこう述べた。

　「世の人びとよ。神の宗教は愛と和合のためにある。憎悪と争いの原因としてはならない。……この言葉

　により世界のさまざまな宗派は、真の和合の光に達した」�@

　　　 バハオラは、神が一つであること、そして宗教も一つしかないことを説明した。すべて偉大な予言者た

　ちは、同じ一つの宗教を教えてきたのである。ヒンズー教徒だけ、ユダヤ教徒だけ、仏教徒だけ、または

　キリスト教徒だけの排他的な救済はあり得ないのである。

　　　 バハイ信教は宗派ではなく、一つの独立した宗教である。有名な歴史家、アーノルド・トインビーは、

　バハオラの信教について聞かれたとき、つぎのように答え、それがバハイとの交際と調査に基づくもので

　あることを明らかにした。

　「わたしの意見では、バハイズムはうたがいもなく宗教である。イスラム教、キリスト教、およびほかの

　一般に認められている世界の宗教と同格の宗教である。バハイズムは、ほかの宗教の宗派ではなく、独立

　した宗教である……」

　　　 すべての純粋で聖なる宗教は、永遠につづく神の宗教の一部であり、一つの宗教だけが神からの真理を

　もっているのではない。どの宗教も真理をもち、すばらしいのである。すべては神から異なった時代に下

　されてきた教えであるからである。

　　　 神の言葉は一つであるが、それを語る話し手は何人もいるのである。光は一つであるが、ランプはいく

　つもあるのと同じと考えることができる。

　 　　どの宗教も、根本的には同じことを教えた。したがって、黄金律は世界のどの宗教にも見いだされる。

　

　　　 ヒンズー教　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 真の原則は、自分自身を扱うように他人を扱うことである。

　　　 ユダヤ教　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 自分にされたくないことを隣人にしてはならない。

　　　 ゾロアスター教　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 あなたが他人に為すことと同じことが自分の身にもふりかかるであろう。

　　　 仏教　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 自分に欲する幸福をほかの人にも望みなさい。

　　　 キリスト教　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 自分にして欲しいことを他人にもしなさい。

　　　 イスラム教　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 自分が扱われたくない方法で、同胞を扱ってはならない。

　　　 バハイ信教　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 あなたが慈悲を求めるならば、自分に利益になることを求めず、同胞に利益になるこ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 とを求めなさい。正義を求めるならば、自分のために選ぶことをほかの人にも選びな

　さい。

　

　　　 バハオラの教えは、地球の成長にたとえられる。バハオラの教えを長年にわたって研究してきたエッセ

　ルモント博士は、このように述べている。

　「神の宗教は一つであり、すべての予言者はそのことを教えてきた。しかし、神の宗教は生きていて成長

　していくものであり、生命がなく、不変のものではない。モーゼの教えの中に芽があり、キリストの教え

　には花があり、バハオラの教えには果実がある。花は芽を破壊するのではなく、果実も花を破壊するので

　はない。破壊ではなく成就するのである。

　　　 芽の鱗は、花が咲くためには落ちなければならない。そして、花びらも果実が実るためには落ちなけれ

　ばならないのである。芽鱗や花びらが役に立たないものであれば、初めからない方がよいのではないかと

　いう疑問が出てくるかもしれない。しかし、両方ともにある時期においては必要なのである。それらなし

　には果実を実のらすことはできない。

　　　 さまざまな予言者の教えに関しても同じことがいえる。外面は時代から時代にかけて変わっていくが、

　各予言者の啓示は、前に出現した予言者の言葉を成就するものである。それらは、歴史上に存在する異

　なった段階にある一つの宗教なのである。最初の段階では種として、つぎは芽、そして花、今それが結実

　の段階にきたのである」�B

　　　 一つの段階がほかの段階より重要なのではないし、また一つだけが独占的なものでもない。そして、ど

　の段階も最後の段階ではない。果実の段階でさえ最終的なものではない。果実は種が完成したものであり、

　周期の終わりであるが、ふたたびほかの周期がはじまる点である。同じように、神の宗教も絶えることが

　なく、いつまでもつづいていき、雨のように人類に生命の水をそそぎつづけていくのである。

　　　 この一体性と累進的な真理の展開は、聖書からも見てとることができる。モーゼは、人びとが教えを十

　分に理解することができなかったことを知ってつぎのように述べた。

　「あなたの神、主はあなたのうちから、あなたの同胞のうちから、わたしのような一人の予言者をあなた

　のために起こされるであろう。あなたがたは彼に聞き従わなければならない」�C

　　　 これはキリストの出現を予言したものである。キリストが現われたとき、かれはモーゼの言葉を人びと

　に思い起こさせた。

　「もし、あなたがたがモーゼを信じたならば、わたしをも信じたであろう。モーゼは、わたしについて書

　いたのである」�D

　　　 それから、キリストは人びとの盲目さをけん責した。

　「しかし、モーゼの書いたものを信じないならば、どうしてわたしの言葉を信じるだろうか」�E

　　　 後に、キリストはモーゼが信者に話したのとほとんど同じ言葉で話した。キリストは信者たちが自分の

　説いた教えを全部理解できないことを知っていた。

　「わたしには、あなたがたに言うべきことがまだ多くあるが、あなたがたは今、それに堪えられない。け

　れども真理の御霊が来る時には、あなたがたをあらゆる真理に導いてくれるであろう……」�F

　　　 これはメシアの出現を予言したものである。バハオラが出現したとき、かれは人びとにキリストの言葉

　を思い起こさせた。

　「神の聖霊であるイエスの言葉をあなたは聞かなかったであろうか……。かれは言っている。『真理の御

　霊が来る時には、あなたがたをあらゆる真理に導いてくれるであろう』と」�G

　　　 そのあと、バハオラはかれらの盲目さをけん責した。

　「なにゆえに、あなたがたは神に近づかなかったのか……。しかも、あなたがたは顔を神に向けることを

　拒否した……」�H

　　　 バハオラは、キリスト教の指導者たちに特別の書簡を送った。その中で、かれは信者たちを聖なる群れ

　に導くように命じた。

　「おお、人びとよ、来れ……。一時といえどもためらってはならない」�I

　「まことにわれは言う。宗教の崇高なる地位を下げるものはなんであれ、邪悪者たちの無思慮を増すこと

　になるであろう」�J

　　　 バハオラはまた、あらゆる宗教の信者たちに、キリストが山上の垂訓で与えた教訓にしたがうように勧

　告した。

　「山上の垂訓の説教者（イエス・キリスト）が宣言したことを実行せよ……。そして、すべて為すことに

　公正であれ」�K

　　　 バハオラは、あらゆる宗教と予言者たちの一体性をつねに強調した。予言者たちはすべて、神からの

　メッセージをもたらしたこと、かれらの目的はすべて同じであることをくり返し強調したのである。

　「すべての神の予言者の精髄は一つであり、同じであることを知れ……。かれらの一体性は絶対的なもの

　である。創造主である神は言われる。『わがメーッセージを伝達する者らの間にはなんの区別もない。か

　れらの目的はただ一つである。かれらの秘密は同じ秘密である。一人の予言者だけに好意を寄せたり、一

　人だけを高めたりすることは決して許されない。真の予言者は、すべて自分のメッセージを以前に現われ

　たほかのすべての予言者の啓示と基本的には同じである、と見なした。それゆえ、この真理を理解できず

　に、うつろな見苦しい言葉を勝手に口にしたとしても、視力が鋭敏で、啓発された理解力をもつ者は、決

　してそのような無駄話によって自らの信仰をゆるがせるようなことはないであろう』」�L

　　　 バハオラは、世界中のさまざまな宗教の信者たちに宛ててつぎのように書いた。

　「哀れみと親切の綱に確固とすがり、敵対心と憎悪から超脱している人は幸いである」�M

　　　 宗教の悲劇は、人間が神の使者たちをおぼえていても、そのメッセージを忘れることである、とバハオ

　ラは指摘した。サントブーブは、フランス人に「かれらはキリスト教徒でなくなった後も、長い間キリス

　ト教の宗派に属しているであろう」と述べている。かれらは、光よりもランプに関心があるからである。

　　　 予言者はすべて、神の真理の太陽がかがやく鏡にたとえられる。鏡は真理ではない。光が真理である。

　キリストは、この真理を強調して、人が信ずべきは神であり、自分、イエスではない、と教えた。

　「わたしを信じるものは、わたしを信じるのではなく、わたしをつかわされたかたを信じるのである」�N

　　　 バハオラは、世界のすべての宗教の創立者たちを深い愛と尊敬をもって語った。かれは信者たちに、あ

　らゆる宗教の信者たちと愛と友情をもって交わるように忠告した。そして、人類は一つであるという事実

　を人びとに思い起こさせた。

　「あなたがたはすべて一つの木の葉であり、一つの大洋の一滴である」

　　　 パブリは『来るべき世界の大教育者』という本の中で、つぎのように述べている。

　「……バハイの間には宗教が一つであることを強調するすばらしい動きがあり、それは偉大な教育者に

　よってのみ成就されるという」

　　　 バハオラはバハイに、あらゆる宗教の信者とすべての国民の安定と幸福のために献身するように呼びか

　けた。

　「人の子の福利と平安を促進するものに従事せよ。地上のもろもろの国民と民族の教育に心と意志を傾け

　よ。願わくば、地上を分裂している不和が、もっとも偉大なる名により、その表面より消され、全人類が

　一つの秩序を支持する者となり、一つの都市に住む者となるように。心を啓蒙し、清らかにせよ。憎しみ

　のとげや悪意のあざみで汚されてはならない。あなたがたは一つの世界に住み、一つの意志の働きにより

　創造されたからである。最高の親切さと愛の精神で、あらゆる人と交わる者は幸いである」�O

　　　 以上もバハオラの木を試すもう一つの果実である。

　

　七　 第四の果実、個人の生活

　

　　　 バハオラは、キリストをはじめほかの予言者たちと同じ理由をもって出現した。かれはこう説明している。

　「人類の性格のすべての面に変革をもたらすことであり、この変革は、外面にも内面にも現わされ、内的

　生活と外的状態に影響をおよぼすことである」�@

　　　 神の使者が現われる根本的な目的はこうである。

　「人の魂を教育し、あらゆる人間の性格を洗練することである」�A

　　　 バハオラは、清純な生活がどれほど重要であるかをくり返し強調した。

　「今日、もっとも重要な義務は、性格を清め、態度を正し、行動を改めることである」�B

　「（バハイは）聖なる芳香を全世界に注ぎ、（精神的に）死んだ人をよみ返えらせるように、高貴な性格

　と行動を示さなければならない」�C

　　　 バハオラは、神を信じる人の生活について、『かくされたる言葉』という小冊子を残した。クロン

　フォートの前副司教であり、ダブリンの聖パトリック教会の僧会会員のジョージ・タウンゼントは、この

　本についてつぎのように書いた。

　「『かくされたる言葉』は法律書でも命令書でもない。それは新しい創造である。それは聖なる芳香の蒸

　留である。過去のすべての偉大な光が一つの光に合体し、すべての神の過去が今日になった焦点である。

　……人類にこれほど強烈な光でかがやく本は与えられたことはなかった。また、与えられることもできな

　かった。それは、すべての啓示を完全に一丸とした総和である。そして力は再新され、バハオラの無上の

　言葉で和合は完成された」�D

　　　 バハオラ自らも、この本の中でつぎのように述べている。

　「この書は栄光の国より下り、権威と威力の舌によって語られ、いにしえの予言者たちに啓示されたもの

　である。われは正しき者たちへの恩恵のしるしとして、それより内奥の真髄を取り、簡潔なる衣で包んだ。

　かれらが神の聖約を忠実に守り、生涯に神託を成就し、精神の領域で聖なる美徳の宝石を得るために」

　　　 この書には、つぎの句がある。

　「おお精神の子よ。すべてのもののうち、わが目に最愛なるものは正義である。あなたがわれを求めるな

　らば、正義から目をそらしてはならない。また、われがあなたを信頼できるよう、正義をなおざりにして

　はならない。その助けにより、あなたは他人の目でなく、自分の目で見、隣人の理解力を通してでなく、

　自分自身の理解力で知るであろう。自分がどうあるべきかを、心のうちで熟考せよ。まことに、正義はあ

　なたへの贈り物であり、わたし愛情のしるしである。では、これをあなたの目前に置け」

　　　 この正義と高潔さの精神について、アメリカ合衆国最高裁判所のウイリアム・ダグラス裁判官は『イン

　ダス川の西』という本の中で語っている。かれは、バハオラとバハイ信教の発祥地、イランを訪れて、つ

　ぎのように書き記した。

　「バハイの中には、商業にたずさわっている人が沢山いる。かれらは商人として良い評判をもっている。

　その理由は、かれらが取引上、高い道徳基準をもっているからである。市場の商人たちは、もうけに抜け

　目がない。かれらはごまかしたり、にせものや粗悪品をつかませたりするが、バハイは決してそういうこ

　とをしない。かれらは取り引きに正直であり、その結果、信望が厚いのである」

　　　 つぎの『かくされたる言葉』からの引用句は、バハオラの言葉の精神を伝えるものである。

　「おお地上の富者よ……。あなたがたの中にいる貧しき者は、わが信頼する者である。わが信頼する者を

　守れ。そして、自らの安楽にのみ熱中ししないように」

　「おお実在の子よ。あなたはなぜ自らの欠点を忘れ、ほかの人びとの欠点をあげることにいそがしいのか。

　だれがそうするとも、わがのろいを受けよう」

　「おおわがしもべよ。この世の束縛より自由になれ。また自我の牢獄よりあなたの魂を解き放て。好機を

　つかめ。それはふたたび訪れることはないであろうから」

　

　　　 バハオラはある書の中で、人が生み出さなければならない果実について語った。

　「信仰の真髄は、口数すくなく、行為が豊富なことである……。言葉が行動と異なる人たちの道を歩かな

　いように気をつけよ……。人は果実を生み出さなければならない。聖霊の人（イエス・キリスト）の言葉

　によれば、果実なき人間は果実を実らせない木のようなもので、火にくべられるべきである……。あなた

　の行為を全人類を導びくものとなせ。ほかの人と区別されるのは行為を通してである。それにより、あな

　たの光の輝きが全地球に注がれることができるのである」

　　　 バハイの行動はつぎのようでなければならない。

　「言葉だけで友情を示すことに満足してはならない。あなたの道で出会うすべての人たちに対して愛と友

　情を心に燃え立たせなければならないのである」�E

　「病人や悩んでいる人に、最高の親切と同情を示せ。これはほかの治療法よりも大なる効果をもたらす。

　病人と悩んでいる人を訪れるときには、つねにこの愛をもたなければならない……」�F

　『戦争と平和』を書いたトルストイは、バハイの本を調べたあと、つぎのように述べた。

　「バハイの教えは現在、最高の、そしてもっとも純粋な宗教的教えをわれわれに提供してくれるものであ

　る」�G

　　　 バハイは、つぎの言葉にしたがって生活しなければならない。

　「おお主より愛される人たちよ。この時代においては、争いや論争は決して許されない。侵略者はすべて、

　神の恩恵を失った者である。あらゆる人は、最高の愛、高潔な行為、率直さ、心からの親切を世界のあら

　ゆる国民と民族、そして友人にも見知らぬ人にも示さなければならない」

　「他人は友人を見いだし、敵は真の兄弟を見いだし、両者間にはすこしの不和も残らないほどに、強烈な

　愛と慈愛の精神をもたなければならない。普遍性は神のものであり、限界あるものは地上に属するもので

　ある。……同様に、唯一神のしもべの愛と慈愛は、全人類に惜しみなく与えられなければならない。これ

　に関して、制限や拘束はけっして許されない」

　「……無知、敵意、憎悪、恨みが世界から消え、世界の国民や民族間の離反の暗黒が、和合の光にゆずる

　ように願う。ほかの国民や国家があなたがたに対して不誠実であれば、かれらに忠誠を尽くしなさい。か

　れらが、あなたがたに対し不正であれば、正義を示しなさい。あなたがたに冷淡であれば、引きつけなさ

　い。……あなたがたの生命に毒を流そうとするならば、かれらの魂を甘美にしなさい。傷をあたえられれ

　ば、かれらの傷のこう薬となりなさい。これが誠実な人の属性である。これが正直な人の属性なのである」�H

　　　 Ｊ・ティサル・デビス牧師は、『宗教の団結』という本の中で、バハオラが定めた個人生活の規範につ

　いて語っている。

　「バハイの宗教は発展してきた。……現代の要求を満たすからである。それは、昔からある厳格で排他的

　なもろもろの宗教よりも、現代のより大なる見地に相応したものだからである。その特徴の一つは、想像

　もできないような公平無私と寛容である。それは、大宗教をすべて真実として受け入れる。……その倫理

　的理想は、きわめて高く、われわれ西洋人が『キリストに似た』と呼ぶにいたった形態をもつ。……研究

　者がおどろくのは、この運動の倫理や哲学ではなく、その理想に非常に多くの人びとが目ざまされたこと

　であり、この基準が実際に行動上にもたらした強力な影響である。……『あなたは果実によって知るであ

　ろう』。われわれは、この若々しい宗教に歓迎の万歳をいわずにはおれない。われわれは、その活動の中

　に、現代、人びとの心の中の神の休まぬ精神の動きを目撃せずにはおれないのである」

　　　 バハオラは、バハイにつぎのような行動の基準を与えた。

　「繁栄しているときは寛大で、逆境にあるときは感謝せよ。隣人の信頼にふさわしい者となり、晴れやか

　で親しみのある顔で隣人を見よ。貧しい人たちには宝庫となり、富める人たちには忠告者となれ。困窮者

　の叫びに答え、約束の神聖さを守る人となれ。判断は公正で、発言は慎重であれ。すべての人に公平にあ

　たり、だれに対しても謙虚であれ。暗やみの中を歩く人には明かりとなり、悲しみにうちひしがれている

　人には喜びとなれ。渇きにあえぐ人には大洋となり、苦悩におぼれる人には避難所となり、圧政の犠牲者

　を支持し、その擁護者となれ」

　　　 以上は、バハオラの木に実ったもう一つの果実である。キリストはいった。「あなたがたはその実に

　よってかれらを見わけるのである」

　　　 わたしは、これを基準にしてバハオラがにせの予言者かどうかを判断することができた。

　

　八　 探索の目

　

　　　 前述のアイルランドの学者で、クロンフォートの副司教であったジョージ・タウンゼントは、現代の思

　想家たちは、世界政府、社会保障制度、国際語、世界裁判所、人権などについて語っているが、それは単

　に、百年以上も前にバハオラによって宣言されたテーマの再述にすぎない、と述べている。

　　　 つぎにバハオラの木から集めた果実をいくつか紹介してみよう。

　「各人、独力で真理を探究しなければならない」

　　　 バハオラは、問題の解決に、科学的方法を用いることを強くすすめた。これに関して、J・E・エッセル

　モント博士は、こう説明した。

　「バハオラは、自分の説明や教えを盲目的に受け入れることをだれにも望まなかった。それどころか、そ

　ういった態度を強くいましめた。真理を確かめるため、耳と目を開け、自らの判断力を用いるようにすす

　めた……。バハオラは、自分が予言者であることの最大の証拠として、自らの言葉や活動、およびそれが

　いかに人びとの生活や性格を変えるかを示した。そして、すべての人に、それらを十分調査するように命

　じ、けっして自分をかくそうとしなかった」�@

　　　 バハオラ自ら「探索の目ですべてを見よ」と述べているのである。

　　　 各個人は、精神的真理を自分で探さなければならない。人は他人の知識や経験から学ぶべきであるが、

　自分の能力を用いて注意深い調査をせずには何も受け入れるべきではない。

　　　 この精神的真理の探索には、聖書にも述べられているようにたゆまぬ努力を要する。

　「しかし、その所からあなたの神、主を求め、もし心をつくし、精神をつくして主を求めるならば、あな

　たは主に合うであろう」�A

　　　 予言者エレミヤもこう述べた。

　「あなたがたは、わたしを尋ね求めて、わたしに会う。もしあなたがたが一心にわたしを尋ね求めるなら

　ば、わたしはあなたがたに、会うと主は言われる」�B

　　　 キリストは、にせ予言者に注意するように述べて「その実によって彼らを見わけるであろう」と語り、

　信者に熱心に探索するように勧告した。

　「求めよ、そうすれば、与えられるであろう。捜せ、そうすれば、見いだすであろう。門をたたけ、そう

　すれば、あけてもらえるであろう。すべて求める者は得、捜す者は見いだし、門をたたく者はあけてもら

　えるからである」�C

　　　 バハオラは書いた。

　「それゆえ、立ち上がれ。そして、燃える心と熱望する魂と情熱をこめた意志と全身を投じた努力をもっ

　て、その方の面前の楽園に達するようにつとめよ……」�D

　　　 キリストと同じように、バハオラもそれが容易でないことを警告した。「招かれる者は多いが、選ばれ

　る者は少ない」からである。

　「探究心、真剣な努力、燃えさかる願望、情熱をこめた献身、熱烈な愛、歓喜と忘我の灯が探究者の心の

　中にともされ、また、神の慈愛の微風が、その者の魂の上にただようとき、はじめて、誤りの暗やみは追

　い払われ、疑いや不安の霧は晴らされ、知識と確信の光は、その者をおおい包むようになるであろう」�E

　　　 真理の探究は人生の目的の全部ではない。真理がひとたび見つかれば、それで終わるわけではない。そ

　れは探究者の心の中に根をはり、生涯のうちで果実を生み出さなければならないのである。そうでなけれ

　ば、何の利益も受けられないであろう。

　　　 バハオラの教えには「神の人間への最大の贈り物は知性である」というのがある。人は真理を発見する

　ために知性を最大限に用いなければならない。これは、バハオラの木からとられたもう一つの果実である。

　

　九　 二つの翼

　

　「男性と女性は世界中で、同等の権利、特権、教育そして機会をもつべきである」

　　　 バハオラはこの原則を重要視した。かれの教えによれば、母親は子供の最初の教師であるので、最上の

　教育を受けなければならないのである。かれが説いた一般教育は、少年と少女に同じ地位を与えるもので

　ある。

　　　 世界中で、女性の地位が男性の地位と同じ高さに引き上げられれば、社会はより健全となり、安定する

　ことはまちがいない。これに関するバハオラの教えはつぎの通りである。

　「もし母親に教育があれば、子供たちもよい教育を受けるであろう。母親が賢明であれば、子供たちも英

　知の道にみちびかれるであろう。もし母親が宗教心をもっていれば、子供たちに神の愛を教えるであろう。

　もし母親が道徳性を身につけていれば、子供たちを正直の道へとみちびくであろう」�@

　　　 女性の地位を向上させることは、バハオラの基本的な原則の一つである。

　「人類は二つの翼をもった鳥に似せられる。一つは男性で、もう一つは女性である。この両翼が強く、共

　通の力で飛び立たなければ、鳥は空に向かって舞うことはできない。女性も男性と同等になって、生活の

　すべての面で進歩し、その使命を果たさなければならない……。これこそ現代の精神である」�A

　　　 このバハオラの教えは、世界中で女性の地位がまだきわめて低く、ある地方においては動物よりも少し

　ましな存在だと考えられている時期に与えられた。

　　　 バハイ信教最初の偉大な信者の一人は女性であった。その名はタヘレで、それは『清純な人』という意

　味である。彼女は、自分の信念のために殉教した。タヘレは死ぬまで信教と女性の進歩のために全力をつ

　くし、女性解放の最初の殉教者と呼ばれるようになった。彼女は死を前にして、勇敢に死刑執行者に向

　かって叫んだ。

　「あなたたちは、わたしをすぐ殺すことができます。しかし、決して女性の解放を止めることはできない

　でしょう」�B

　　　 バハオラと会見した唯一の西欧の学者、ブラウン博士は、もしバハイ信教がほかの偉大さをもっていな

　いとしても、タヘレのような偉大な女性を生み出したことだけでも、その偉大さを証明するのに十分であ

　ろう、と述べた。

　　　 ヴァレンティン・チロール卿は、つぎのように書いている。

　「彼女ほどより深く尊敬され、より強烈な熱意を人びとの心にともした者はいない。彼女が生存中に与あ

　たえた影響は、今もつづいているのである」�C

　

　十　 真の財産

　

　「人間はだれでも教育を受けなければならない」

　　　 教育は人間の真の財産である。そして教師は、文明のもっとも重要な要素である。人間の歴史がはじ

　まって以来、教育は予言者たちの最高の目的であってきた。バハオラは、教育の重要性とその無限の可能

　性を明白な言葉で説明した。すべての人が正しい教育を受けはじめれば、世界は楽園のようになるであろう。

　　　 バハオラハ、科学、工芸および芸術についてつぎのように書いた。

　「知識は人間の翼にたとえられ、上昇するためのはしごのようなものである。人はすべて知識を得なけれ

　ばならない。しかしそれは、世界の利益になる科学の知識で、単なる言葉ではじまり、言葉で終わるよう

　な科学の知識ではない。科学と芸術を習得した人は、世界の人びとの間で、大いなる権利をもつ……。実

　に、人間の真の財産は知識である。知識は、名誉、繁栄、喜び、楽しみ、幸福と歓喜への手段である」�@

　　　 単に知識を得ることだけでは十分ではない。同じように重要なことは、どのようにそれを使うかにある。

　したがって、性格面の教育も重要視されなければならない。知識だけでは、賢明さを保証できないからで

　ある。文法や地理や数学などの知識を頭につめ込むだけで、モラル面の教育が伴わなければ、高潔で役に

　立つ人間を育成することはできないのである。

　　　 エッセルモント博士は、バハオラの教えについて書いた本の中で、つぎのように述べている。

　「現在、真に正しく教育された人間はきわめてまれにしか見られない。ほとんどすべての人間は、赤ん坊

　のときからしみ込んだ偏見やまちがった理想や、誤った概念や、悪い習慣をもつ。幼少のときから心から

　神を愛し、生涯を神に捧げ、人類への奉仕を人生最高の目標とみなし、あらゆる人びとの利益のために最

　大限に自分の能力をのばすように教育された人は何と少ないことであろうか……」�A

　　　 一世紀以上も前に、バハオラは世界中の子供たちが義務教育を受ける重要性を説いた。もし両親が子供

　に教育を与えることができなければ、社会が代わって教育しなければならない。子供は若い枝で、初期に

　正しい教育を受ければ、真っ直ぐに強く育つのである。もし、まちがった教育を受ければ、子供は不正直

　で弱い人間となる。そして、生涯の最後の日まで幼少時に受けた教育の影響は残るのである。

　　　 つぎの引用文は、バハオラの本からとられたものである。

　「子供の指導と教育はすべての人に課せられる。自分の息子または他人の子供たちを教育する者は、あた

　かもわが（バハオラの）子供たちを教育しているようなものである」�B

　　　 以上もまた、バハオラの木を試すもう一つの果実である。

　

　十一　 だれも他人ではない

　

　「自国語のほかに国際補助語が世界中の国々で教えられなければならない」

　　　 バハオラは、国際語が現存の言語より選ばれるか、または新しく創造されなければならない、と述べた。

　国際語が採用されれば国家間や民族間にある誤解や偏見が取り除かれるであろう。また、コミュニケー

　ションや交易の流れも円滑になり、世界中が恩恵を受けることはまちがいない。

　　　 バハオラは、この国際語は永続する世界平和の確立には欠かせないものであることを指摘した。それは、

　神が終わりの日に世界の国民を一致と協同の精神で集めるためのもう一つのステップなのである。世界語

　については聖書に予言されていた。

　「わたしの決意は諸国民をよせ集めることである。その時わたしはもろもろの民に清き言葉を与え、すべ

　て彼らに主の名を呼ばせ、心を一つにして主に仕えさせる」�@

　　　 バハイ書にはつぎのように書かれている。

　「それ（国際語）は、全世界を一つの家族となし、また人類の発展のためのもっとも強い刺激となろう。

　それは、人類の一体性の旗を掲げ、地球を一つの世界共同体となすであろう」�A

　　　 モーゼはモイセとも呼ばれ、イエスはジェスまたはジェシュワとも呼ばれるが、バハオラはどの国でも

　バハオラと発音される。これで予言者ゼカリヤの言葉にひそむ意味が明らかとなった。

　「主は全地の王となられる。その日には、主一人、その名一つのみとなる」�B

　　　 各国の指導者たちに宛てて、バハオラはつぎのように勧告した。

　「世界が一つの国となり、一つの家族となるように、現存する言語の中から一つを選ぶか、あるいは新し

　い言語を創出しなければならない。同じように、一つの共通文字を採用して、世界中の学校で子供たちに

　教えなければならない」�C

　　　 このバハオラの原則が世界の国々で採用されれば、言語のちがいから起る誤解を一世代で消すことがで

　きるであろう。

　　　 かれはまた、人類間の和合と一致についてつぎのように書いた。

　「最大の手段は、人びとがお互いの文字や言語を知ることである……。知識の木のもっとも華麗な果実は、

　この高遠なる言葉である。『あなたがたは皆一つの木の果実であり、一つの枝の葉である』」�D

　　　 以上もバハオラの木に実った果実を判断するもう一つの手段である。

　

　十二　 進歩の共同者

　

　「宗教は科学と理性に一致しなければならない」

　　　 宗教が科学に反すれば、それは単なる迷信にしかすぎない。バハイ信教の原則の一つにはつぎのものが

　ある。

　「人間の知性で理解できないものは宗教も受け入れてはならない。宗教と科学は提携するものであり、科

　学に反する宗教は真理でない」�@

　　　 エッセルモント博士は、バハオラの教えを分析して、つぎのように述べている。

　「バハオラの基本的な教えの一つは、真の科学は、真の宗教とつねに調和しなければならない、というこ

　とである。真理は一つであり、衝突が起るのは、真理からでなく、つねに誤まりによるものである。いわ

　ゆる科学と呼ばれるものと、いわゆる宗教と呼ばれるものの間には、昔から歴史を通して激烈な衝突が

　あった。しかし、より大なる真理の光で、これらの衝突をかえりみると、それらがつねに無知、偏見、虚

　栄、貪欲、偏狭、頑迷、頑固、またはそれに類するもの、すなわち科学と宗教の真の精神にそわないもの

　が、その原因となっていたことがわかる。科学と宗教の両者の精神は一つであるからである」�A

　　　 トーマス・ハクスレイも、この点を指摘している。

　「哲学者たちの偉大な業績は、知性の果実というより、むしろ、すぐれた宗教的な心意が知性を動かして

　きた結果であった。真理はかれらの論理的聡明さよりもかれらの忍耐、愛、誠意、無私から生み出された」�B

　　　 英国の有名な数学者、ブールは述べている。

　「幾何学的帰納推理は、本質的に祈りの過程である。有限の心意が無限なるものに対して、有限の事物に

　光を与えてくれるようにとたん願するものである」�C

　　　 過去の聖典に予言されていた「一つの群れと一人の羊飼いの日」について、バハイの書につぎのように

　書かれている。

　「そのような世界社会では、科学と宗教という人間生活における二つのもっとも強大な力は、和解し、協

　力し、調和しながら発展していくであろう」�D

　　　 SCIENCE（科学）という言葉も SCIRE （知ること）という言葉からきたものである。真の知識があると

　ころには、偏見や迷信の余地はない。物質的なものであれ、精神的なものであれ、人は真理を探究すると

　きには、まず先入観を取り除かなければならない。科学と宗教の一致は、バハオラの教えに一貫して流れ

　る原則である。

　「真理を発見するためには偏見と卑小でつまらない見解を捨てなければならない。寛大で包容力のある心

　が必要である。杯が自我で満たされていれば、生命の水を入れる余地はない。自分は正しくほかの人はま

　ちがっていると思うことは、和合への最大の障害である。真理に達するためには、和合は必要条件である。

　真理は一つであるから……。一つの真理がほかの真理と矛盾するはずはない。光はどのランプで燃えても

　よいものである。バラはどの庭に咲いても美しい……。これらの束縛から放たれ、自由な心で探究すると

　き、われわれは目標に達することができるであろう」�E

　　　 このように、科学と宗教の調和は、幸福で安定した社会生活に欠かせないものである。宗教が科学を支

　配するとき、世界には迷信と偏狭がはびこる。科学が宗教より優位に立つとき、人びとは過度の物質主義

　と堕落に落ち込んでいくのである。

　　　 わたしたちは、科学の力に正しい方向を与え、そのすばらしい力が破壊のためにではなく、人類の利益

　のために用いられるように高い水準のモラルを身につけなければならない。

　　　 バハイの教えは、これに関してつぎのように説明している。

　「宗教が、迷信、慣習、愚鈍な教義を捨てて、科学との一致を示すならば、世界に大なる和合と浄化の力

　が現われるであろう。そして、あらゆる戦争、衝突、不和、争いを一掃して、人類は神の愛の力のもとで

　和合されるであろう」�F

　　　 これもまた、バハオラの木に実った果実である。

　

　十三　 虹の美しさ

　

　　　 人間はすべて唯一の神の子供であり、一つの大家族の兄弟姉妹である。つぎの引用文は、バハイに宛て

　られたものである。

　「……あなたがたは、全人類に奉仕する神の聖なる援助者になるであろう。全人類、すなわちあらゆる人

　間への奉仕にである。決してこのことを忘れてはならない」�@

　　　 バハオラはつぎのように述べている。

　「自分自身より自分の兄弟を好む者は幸いである」�A

　　　 どれほど偉大な征服者であっても、死ねばなにも所有することはできない。遺体を埋めるだけの土地が

　かれのものである。バハオラは、地球は神の所有物であり、人間は短い期間そこに住む賃借人である、と

　述べている。人間の最大の所有物は、神への愛であり、そのつぎが同胞への愛なのである。

　　　 神への献身とは、同胞への奉仕に身を捧げることを意味する。人類に奉仕しなければ、神に奉仕するこ

　とはできない。したがって、同胞に背を向けることは、神に背を向けることになるのである。

　　　 人種偏見の問題の解決は、人種意識の排除である、とバハオラは教えている。皮膚の色のちがいは美を

　そえるものであり、偏見と分裂の原因になるべきではない。

　　　 わたしたちは、同胞を黄色人種とか黒人種とか白人種などとして見ないで、同じ神の子供たちとして見

　るべきなのである。

　　　 人類が一つである、という考えをはばむ問題は、さまざまな形で現われる。たとえば、ある地方ではそ

　れは階級問題となり、ほかの地方ではカスト制度、そのほかでは宗教問題、または人種問題として現われ

　るのである。これらの偏見のさびは、人間社会の組織を侵食してきた。

　　　 単に、偏見をもつことは悪い、と信じるだけでは十分でない。わたしたちは、それを態度と行動で矯正

　していかなければならないのである。だれでもこれらの偏見を自分の生活から除く力をもっているからで

　ある。

　　　 この問題について、バハイの書につぎのような説明がある。

　「ある人種が社会的におくれており、政治的に未熟で、数の上からも少ない、という理由で差別されるの

　は、バハオラの信教の精神にはなはだしく反する……。不和や分裂の意識は、バハイ信教の目的、原則、

　理想と相いれないものである。階級、信条または人種の差別はすべて自動的に除かれなければならない。

　そして、いかなる口実の下にも、いかなる事件が起こっても、また世論からの圧力がいかに大なるもので

　あっても、決して再主張させてはならない……。地上の国家や国民は、東洋あるいは西洋においても、ま

　た民主主義者、独裁主義者、共産主義者、資本主義者のいずれであろうと、また旧世界あるいは新しい世

　界に属していようとも、その管轄内に居住する人種的、宗教的、政治的な少数民族を無視したり、蹂躪し

　たり、または根絶しようとしているのが現状である。しかし、それとはちがい、バハオラの旗の下にある

　すべての共同体は、いかなる信仰、人種、階級、または国民に属していようとも、すべての少数民族を育

　成し、勇気づけ、擁護することを第一の避けがたい義務と感じなければならない」�C

　　 　神への愛と同胞愛が消え去ると、偏見と憎悪がはびこってくる。神が人の心から去り、人間が作り出し

　たにせの神々がほめそやされるようになる。にせの神々の信仰とは、ある特定の国、特殊の人種、階級、

　信条が優越であると信じることである。このような信仰は、不健康であり、破壊的でもある。それは、一

　つの国がほかの国を左右することであり、一つの人種のもとにほかの人種をしたがわせることである。そ

　れは、黒人と白人、黄色人種と褐色人種を差別することであり、ある特権階級がほかの階級を支配するこ

　とである。それは、人間の信仰の自由を妨害することである。それは、明らかに誤った教義であり、それ

　を信じる人間、民族、国家は遅かれ早かれ、神の怒りと懲罰を招かずにはおれないであろう。

　　　 バハオラは、つぎのような言葉を人類に宛てた。

　「このひと握りの土である地球は、一つの家である。和合せしめよ」�D

　　　 人種偏見は、いかなる形のものであれ、現代の社会から排除されなければならない。あらゆる偏見の排

　除は、バハイ信教の原則の一つでもある。

　「神は、白人と黒人の間に何の差別もつけられない。心が純粋であれば、だれでも神は受け入れられるの

　である。神は、皮膚の色や人種によって人間を尊敬されるのではない……すべての人間は平等である。魂

　の間には差別も特典もない……。皮膚の色は重要ではない。心がもっとも重要なのである」�E

　「国籍、信条、皮膚の色が何であれ、人類を愛するものこそすぐれた人間である」

　　　 以上もまた、バハオラが真の予言者であるかどうかを判断できる果実である。

　

　十四　 死後の世界

　

　「魂は人間の本質である」

　　　 バハオラは、魂が不滅であることを教えた。それは、神が存在しつづける限りつづくものである。した

　がって、永遠のものである。

　「魂は肉体から離れた後、神の面前に達するまで進歩し、時代と世紀のめぐりも、この世の変化と運命も

　その魂の状態を変えることはできない……。それは、神の王国が存続するかぎりつづくのである。これほ

　ど高遠なる地位の崇高さと栄光を適切に述べようとするとき、わがペンの動きは止まる」�@

　　　 創造の目的は完全な物質界を創ることではない。創造の目的は、精神の通路を発達させることである。

　人間は、物質界における進化の最終段階であるが、それと同時に、精神的な進化のはじまりでもある。こ

　れについては、『驚異のぶどう酒』という本の中でくわしく述べている。

　　　 物質界で最大限に進化した人間は、精神の通路となる能力をもつ。人間は自我を意識し、神を知る最初

　の生き物なのである。

　　　 進化について、バハオラはつぎのように語った。

　「神は、この世とそこに住み動くあらゆるものを創造し、何にも拘束されない至上の意志により、人間に、

　神を知り、愛するという独特の特質と能力を与えた……」�A

　　　 人間の身体は精神または魂が発達する仮の宿である。身体はランプで、魂は光りであるといえよう。人

　間の魂は、身体という物質界でもっとも完全な形の中で発達するようになっているのである。魂は肉体の

　死後も生存しつづける。それは、あたかも鏡に反射していた太陽の光が、鏡がこわれたあとも輝きつづけ

　るのと同じである。

　　　 この生命の本質である魂の不滅性、そして魂のもつ選択の自由は、世界のモラルと秩序を回復し、維持

　するためのもっとも強力な要因である。それは、すべてのモラルの土台でもある。

　　　 人間の内部には、物質的生活以外のなにかに対する強い願望がある。この精神的生活への内的願望はひ

　じょうに強く、歴史を通して人間は、この基本的な信念を奪おうとした物質的な勢力をくつがえしてきた。

　　　 ルシパスとデモクリタスは「原子論者」の学派を起こそうとした。それは「原子と真空だけが実在であ

　る」という機械論的な概念である。しかし、ソクラテスとプラトンは、ギリシャ哲学に新しい方向を与え、

　原子よりも心の方が重要であることを説いた。かれらの思想は、長い間「宇宙の中心事実」となった。

　　　 後代になって、機械論的な決定論が起こり、人間の選択の自由はとりあげられてしまった。科学は、盲

　目的な宗教の指導者のおどろくほど因習的な教えに反対して、一種の宿命論をふたたび確立した。それは、

　魂に自由意志を与えないものであった。そして、この選択の敗北は、永久につづくかに見えた。

　　　 しかし、前世紀の後半、新しい精神が科学の世界にとつぜん現われた。ニュートンの「古典物理学」は

　消え、それに代わって原子物理学が出現したのである。決定論は非決定論のとって代わられた。電子の動

　きは、新しい非決定論の法則をもたらしたのである。

　　　 宿命論と無神論は隅に追いやられた。ある科学者が述べたように、それらは「負けた」のである。真剣

　な探究者は、真の科学と真の宗教がついに現代において一致できること、そして、科学の知識が徐々に人

　間の神に対する内的な熱望を擁護するために援助に来つつあることを知って安堵した。ディーン・インゲ

　は「科学は宗教の味方となった」と書いている。

　　　 バハオラは、人間が不滅の魂をもつという心の中の声を決して疑わないようにと教えた。やがて、この

　疑いのない事実は明らかにされるであろう。

　　　 現代の偉大な科学者たちも、すでに、この事実を支持しはじめている。かれらは「物質」がそれ自体破

　壊できないものであることを指摘しているのである。それは決して消滅することはなく、新しい形へと変

　わっていくだけである。つまり、一種の不滅性をもっているのである。では、要素から構成されたもので

　はない精神や魂はどうであろうか。

　　　 原子物理の時代である現代で、時代おくれの考えをもっているのは、疑う者や無神論者である。真理と

　生命の流れは、懐疑論者、詭弁者、世にたけた者を通りすぎていく。かれらは「港も灯台もない貧弱な海

　岸」となった。

　　　 有名な生物学者のＣ・Ｃ・ハーストはつぎのように述べている。

　「最近の遺伝学の研究から、概して生きている遺伝子は比較的不滅だということがわかった」�B

　 　　ノーベル賞を受けた物理学者のＡ・Ｈ・カンプトンは、こう語っている。

　「生物学的に述べると、生命はりんごの種であろうと、人間の細胞であろうと、本質的につづくものであ

　り、永遠のものである。意識、心または魂の連続性も、生殖細胞のもつ本質的な永遠性から推定しても、

　論理にかなっているといえないであろうか」�C

　　　 バハオラはつぎのように書いた。

　「神の予言者らと使者らは、人類を一直線の真理の道に導くという唯一の目的のために下されてきた。か

　れらの啓示の根底にある目的は、人間が死に際して、最高度の純粋さと聖別された状態と完全なる超脱を

　もって、もっとも高遠なる者の王座にのぼれるように、教育することである……」�D

　　　 キリストは信者につぎのように告げた。

　「……だれでもあたしについてきたいと思うなら、自分を捨て、自分の十字架を負うて、わたしに従って

　きなさい。……人が全世界をもうけても、自分の魂を失うならなんの得になろうか」�E

　　　 キリストを信じることが人間にとって魂を救う唯一の道であると、キリスト自身述べた。

　　　 かれの弟子は問うた。

　「では誰が救われるのですか」

　　　 かれは答えた。

　「よく聞いておくがよい。世が改まって、人の子がその栄光の坐につくときには、わたしに従ってきたあ

　なたがたもまた永遠の生命を受けつぐであろう。しかし、多くの先の者はあとになり、あとの者は先にな

　るであろう」�F

　　　 キリストが述べたように、指導者であっても信じない人たちは、謙虚で信じる人たちにとって代わられ

　るのである。

　　　 万物は、石ころから人間まですべて生命をもつ。鉱物、植物、動物、そして人間はすべて生きているの

　である。石を構成する原子の中には電子が中心陽子のまわりを回転している。ふしぎな生命のフォームで

　あるが、人間の生命と比較すると石は死んでいると見なされてよい。

　　　 同じように信じる人と信じない人との差異もそうであるといえよう。すべての魂は不滅であるが、各々

　の魂の発達程度にある差異は、石と人間の間にあるちがいほど大きいのである。信じて精神的に発達した

　人は生きており、信じない人は死んではいないが、石ころの状態にあるといえるであろう。

　　　 魂について、バハオラはつぎのように書いた。

　「魂は、全創造物の中で最初に創造主の卓越性を宣言し、最初にその栄光を認め、その真理にすがり、そ

　の面前でひれ伏し讃美するものである。もし魂が、神に忠実であれば、その光を反映し、やがて神にもど

　るであろう」�G

　　　 これもバハオラの木の果実である。

　

　十五　 魂の食べ物

　

　「祈りは祝福であり、義務でもある」

　　　 バハオラの教えによれば、祈りは魂を癒し、喜びと幸福をもたらすものである。それはまた、試練や困

　難から守ってくれるもので、人間の精神生活に欠かせないものである。

　　　 身体が毎日食べ物を必要とするように、魂も毎日食べ物を必要とする。魂の食べ物が祈りなのである。

　毎日食べ物をとらないと、身体はおとろえ、ついには病気となって死ぬであろう。魂についても同じこと

　がいえるのである。魂も毎日栄養をとらなければ、力はおとろえ、病気になるのである。魂は死ぬことは

　ないが、無力になってしまうのである。

　　　 アレキス・カレル博士は、祈りには科学ではどうしても説明できない治療の力があり、自分もそれを目

　撃した、と述べている。ほかの多くの著名な科学者たちも同じようなことを語っているのである。

　　　 わたしたちが、ある期間片腕をまったく使わないでいると、その腕は動かなくなってしまう。腕は萎縮

　して使うことができなくなってしまうのである。同様に、魂が規則的に祈りという栄養をとらなければ、

　萎縮し力がなくなってしまうのである。

　　　 バハオラは、美しく、深遠で、精神が高揚される祈りを数多く残した。しかし、祈りはそれだけにかぎ

　られるものではない。奉仕の精神で為される仕事はすべて祈りであり、礼拝なのである。

　　　 バハイ書には、これに関してつぎの言葉がある。

　「芸術、科学、そしてすべての工芸にたずさわることは礼拝と見なされる。一枚の紙を良心をこめ、かつ

　全力をつくして完成する人は、神を讃美しているのである。つまり、人間が真心をこめて為す最大限の努

　力は礼拝なのである。もしそれが、人類への奉仕という最高の目的のために為されるならばである……」�@

　「医師が偏見をもたずに、人類の協同一致を信じて、病人をやさしく親切に治療するならば、その医師は

　神を讃美していることになる」�A

　　　 バハイ信教は、人間の生涯そのものが祈りでなければならない、と教える。同胞の利益のために捧げる

　あらゆる考え、言葉、行動は、本当の意味で祈りである。

　　　 以上もまた、バハオラの木の果実である。

　

　十六　 一人一人が王である

　

　「信仰は親から受け継ぐものではない。自分で自らの信仰を決めなければならない」

　　　 バハオラは、人はだれでも、親または家族がある宗教の信者であるという理由で、自分もそうなるべき

　ではない、と教えた。信じる前に、調査し、決断する権利はすべての人に与えられなければならない。

　　　 生まれながらにバハイである人はいない。十五才に達したとき、自分でバハイになるかどうかを決める

　のである。バハオラは十五才を精神的成熟の年であると述べている。

　　　 子供に精神的・物質的教育を与えるのは親の義務である。子供は歴史に現われた偉大な予言者たちの生

　涯と教えを学ばなければならない。そうすれば、宗教的偏見は、子供時代に除かれ、将来、自分の信仰を

　選ぶときの基盤ともなるであろう。親は、神の教えにそって生活し、その模範を通して子供に教えるので

　ある。しかし、強制するようなことは絶対避けなければならない。必要なのは愛である。各人の魂は、精

　神的運命の王なのであるから、だれにも妨げられずに自分の道を選ばなければならない。

　　　 これもバハオラの木に実ったもう一つの果実である。

　

　十七　 一つの群れ、一人の羊飼い

　

　　　 地球上のあらゆる国家からなる世界共同体は、人間の権利を守るものでなければならない。百年以上も

　前、バハオラは世界の為政者たちに宛てた。

　「この世の国王たちよ、和合せよ。それにより、あなたがたの間にある不和の嵐は静まり、国民は平安を

　見いだすであろう……」�@

　　　 世界が平和と安定を得るための方法に関して、バハオラはつぎのように書いた。

　「全人類を包含する大会議を開く必要性が一般に認められるときがかならず来るであろう。世界の為政者

　と国王はそれに出席して討議に加わり、国家間に最大平和の土台を置くような手段を考慮しなければなら

　ない……。そのような平和を確立するためには、列強国が世界の人びとの平安のために、自分たちの間で

　十分和解することを決めなければならない」�A

　　　 しかし、かれらは全人類の利益を無視した。その結果は、別の章で述べることにする。

　　　 バハオラは、膨大な数にのぼる著書の中で、世界の和合の基盤をしいた。過去の聖典の予言「一つの群

　れ、一人の羊飼い」が実現され、全人類が平和な社会に暮らせるようにである。

　　　 かれは人類が平和な手段を用いて和合されることを望んだ。そうしなければ、人類は何回となく打ち砕

　かれるであろうと警告した。かれは、世界の人びとが、和合された平和な世界を建設できるプランを示し

　たが、それを成し遂げる責任は人類に与えた。

　　　 かれはまた、地球上のあらゆる人間の安全と安定を確保し、維持するためには、国際機構が必要である

　ことを強調した。そのような機構は、大国も小国も含めて、すべての国を保護すると同時に、個人の権利

　も保証しなければならない。

　　　 バハオラは、アメリカ合衆国の大統領をはじめ、世界の政治家や国王たちに、そのような国際機構を設

　立しなければ、どのような結果になるかを警告した。そのような機構なしには、災難が幾度となく人類に

　襲いかかってくることを予知したのである。バハオラが描いた世界機構は、全世界から選ばれた人たちか

　ら成る世界議会をもち、そのほかにも国際警察軍と世界裁判所をもつ。

　　　 この諸国家の連合は、西洋だけのものでも、東洋だけのものでもなく、白人だけのものでも黒人だけの

　ものでもない。また、富裕者だけのものでも、貧困者だけのものでもない。この諸国民の集りは、ただ一

　つの目的に捧げられる。すなわち、全人類の安全と平和を守るため、およびすべての人の権利を守るため

　に捧げられるのである。

　　　 バハオラは、そのような世界機構の設立の必要性を説いただけでなく、それが建設されるための組織、

　法律、原則をも示した。この世界機構は、度量衡制度と世界通貨を確立し、地上の諸資源を開発し、世界

　市場を調整して、持たざる国が困ることがないようにする。極端な貧富の差も除かれ、資本家と労働者間

　には和解がもたらされ、双方の利益は確保されるであろう。また、国際補助語が促進され、平和を愛し、

　進歩的で精神的に方向づけられた人間家族を生み出すために、あらゆるステップがとられるであろう。そ

　れは、モーゼやキリストやそのほかのすべての過去の予言者たちが予言した諸国家の和合であり、「一つ

　の群れ、一人の羊飼い」の日なのである。

　　　 以上も、バハオラの木に実る多数の果実のうちの一つである。

　　　 キリストは述べている。

　「にせ予言者を警戒せよ。……あなたがたは、その実によって彼らを見わけるであろう。……すべて良い

　木は良い実を結び、悪い木は悪い実を結ぶ。……このように、あなたがたはその実によって彼らを見わけ

　るのである」�B

　　　 これまで挙げてきた果実は、豊富に実ったバハオラの木からとったものである。それも一部にしかすぎ

　ないが、これだけでもかれの教えが正しいかどうかを判断するのに十分であろう。バハオラ自らも「神の

　木に実った果実」�Cと呼んでいるのである。

　　　 長い間の調査研究のあと、わたしは千年期喪失事件を閉じた。最後の判断は読者の方々にある。わたし

　の仕事は終わった。

　　　 その後、わたしがバハオラの信教を受け入れたとき、聖書にある予言よりも、論理と理性がはるかに重

　要視されていることを知った。しかし、これまで述べてきた出来事は、あまりにもおどろくべきものであ

　り、予言の実現はあまりにも的確であり、この事実を一般の人びとに伝えなければならない、と感じた。

　　　 読者の方々は、わたしが一世紀間も未解決であったミステリーを解いたかどうかを決めなければならな

　い。これは人間が一生のうち直面するもっとも困難な決断であるかもしれない。

　

　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 弟六章

　

　一　 もしその期間が縮められないならば

　

　　　 千年期喪失事件は、わたしにとって納得のいく解決に達した。ここまできて、これを忘れてしまうこと

　ができるであろうか。今、何をすべきであろうか。

　　　 この長い間の調査・研究は、わたしに厳然たる事実を教えてくれた。人間と同じように、宗教も幼年期、

　思春期、成熟期を通って老年期に入り、やがて死に絶えるという事実である。大宗教の寿命は、何千年と

　つづくので、その老年期は何世紀にもわたることがある。死は徐々にしのび寄ってくるので、何世代もそ

　れに気がつかないかもしれない。そして、宗教の機構だけは、内部の精神がなくなった後も、長く残りつ

　づけるのである。

　　　 これについて、ある教育者であり哲学者である人は、つぎのように説明している。

　

　　　 第一段階　 神は人間にとって真実のものである。神の精神はあらゆる人の中に生きている。つまり人び

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 とは生きた信仰をもつ。

　　　 第二段階　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 人間にとって神より文化の方が重要となる。神学が信仰を導くようになる。真理に対する

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 深い内的な確信よりも、知的に受け入れる信仰となる。巡礼や聖人は重要視されず、また

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 精神的な真理よりも美とロマンを求める工芸家や冒険家が重んじられる。

　　　 第三段階　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 この最後の段階では、物質的な力と肉体的な快楽が求められるようになる。神も文化も優

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 位を占めることはない。かって生き生きとして活動していた宗教は、ただ外殻だけしか残

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 らない。神の使者たちの教えは、こり固まってしまい、宗教は時代おくれとなり、世界で

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 起る出来事を理解することも解釈することもできなくなる。過去に生きているため、人間

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 のもつ保守的な面に訴える。かっては巡礼や工芸家で満たされていた道は、瞑想すること

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 も、美を求めることもせず、ただ外的な感覚の喜びだけを求める旅行者たちが歩く道となる。

　

　　　 もちろん、現在の西欧の文明は、この第三の段階に達し、その中に浸っていることは明らかである。ほ

　とんどの人びとは、教会や寺院に社会的な習慣として通っているのである。

　　　 千年期喪失事件のこの章は、わたしの親しい友人に宛てて書いたものであるが、現在の社会の危機を考

　えると、世間一般の人びとにもぜひ知ってもらいたいと思う。しかし、この話をどう受けとめるかは各個

　人の責任であるが。

　　　 わたしは、だれでもこの話を一度は聞くべきだと確信している。友人の運転する車にのって、まがりく

　ねった山道を下っていくとき、その友人が居眠りをはじめたら、あなたはどうするであろうか。すぐに、

　その友人を起こすであろう。二人の安全のためにである。もし、あなたの隣人が眠っているときに、家が

　火事になったら、あなたは隣人を起こすであろう。

　　　 一世紀前のメシアの謎を調査する前は、わたしはキリスト教徒であった。この調査がわたしをどこに導

　いていくかは、その当時まったく見当がつかなかった。調査は終わった。わたしは今もキリスト教徒であ

　る。想像もしなかったほどの真の意味でのキリスト教徒なのである。

　　　 わたしはまた、バハオラを信じる者となった。わたしには、そうする以外に道はなかった。バハオラを

　受けれなければキリストを否定することになるからである。

　　　 何かを証明しようとするときには、つぎの四つの方法のいずれかを用いなければならない。

　

　　　 一 理性による（論理または実験）

　　　 二 五官による（経験）

　　　 三 伝統または予言による（約束の実現）

　　　 四 霊感または直観による（五官や論理を超えた内的な確信）

　

　　　 わたしは以上の四つの方法を全部用いてバハオラを試すことにした。試しているうちに、わたしの自尊

　心は次第に弱っていき、太陽を求めて土の中からでてきたありのように感じはじめた。

　　　 バハオラはすべての予言を、星の運行と同じ正確さで実現した。かれは、理性をそのもとの地位まで高

　めた。そして、真理を探究するときには、科学的方法と実験を用いるように全人類にすすめたのである。

　　　 かれの生涯は『栄光の王』という本の中でかなり詳細に語られているが、それは最高の美と霊感に満ち

　たものであった。そして、キリスト教の牧師であり、有名な聖書学者をして、「もし最近予言者がいたと

　したら、われわれはバハオラに向かわなければならない」�@と言わせたほどである。

　　　 わたしはまた、バハイがなぜキリストとモーゼに対して心からの敬愛と尊敬をもっているかを理解する

　ことができた。モーゼとキリストを否定することは、バハオラを否定することになるからである。かれら

　のもたらす聖霊は同じなのである。神を太陽にたとえると、モーゼやキリストやほかの予言者はすべて鏡

　であり、異なった時代に現われるが、同じ真理を反映するのである。したがって、かれらはすべて一つで

　あると見なされるのである。

　　　 バハオラを信じる者となった今、この本を書き直すとすれば、ちがった形になるであろう。わたしは、

　この本をバハイとして書いたのではなく、失われたメシアを探しあてたキリスト教徒として書いたのであ

　る。この本を書き終えたとき、わたしのキリストに対する愛は以前にもまして強くなっていた。バハオラ

　は、キリストの美と威厳を教えてくれたのである。

　　　 この理由から、わたしはできるだけ多くの人びとに、わたしが発見したことを知らせる決心をした。こ

　のおどろくべき話を知っていながら沈黙を守ることはできなかったのである。世間の人びとがまだこのこ

　とについて知らないというのは、なんとも残念である。

　　　 キリストの最初の出現時に、弟子たちが感じたと同じ責任感がわたしの心に重くのしかかってきた。

　「もし福音を宣べ伝えないなら、わたしはわざわいである！」�A

　　　 百年以上も、人類はこの貴重な機会を逸してきた。一八四四年より現在までバハオラとバブに耳を傾け

　ようとしなかった。もう諸国家間の衝突を防ぐにはおそすぎるかもしれない。数多くの人たちが、バハオ

　ラを認め、人類が新しい精神で急速に変わらなければ、今後の悲劇は避けられないであろう。

　　　 しかも、各個人が現代の神の使者の呼び声に答える時間はまだ残されている。聞く耳と見る目をもつ者

　が全能の神に奉仕できる時間はまだ残されているのである。その人は、終わりの日に、精神的な指導を約

　束されている「選民」のうちに数えられるであろう。キリストはこう述べている。

　「もしその期間が縮められないなら、救われる者はひとりもないであろう。しかし選民のためには、その

　期間が縮められるであろう」�B

　　　 イザヤが「終わりの日」に神にしたがう者は「新しい名」で呼ばれるであろうと予言したと同じ章で、

　神は「終わりの日」にかれが選ぶ者に慈悲深いであろう、と約束した。

　「……ことごとくは滅ぼさない」�C

　　　 神は存在せず、人間は地よりでて太陽の下で短期間過ごすだけの生物であるだけならば、なにも問題は

　ない。しかし、もし人間が魂をもつ精神的存在であるならば、魂と神との関係はもっとも重要なものでな

　ければならない。それに関する知識は、人間にとってもっとも貴重なものと考えられる。

　　　 この本の残りで、調査・研究のあとで、あらゆる人が直面しなければならないと思われる二つの道を述

　べてみたいと思う。砂時計の砂粒は残り少なくなった。さいころは投げられた。

　

　二　 原子上の巨人でモラル上の小人

　

　　　 わたしたちは「原子上の巨人でモラル上の小人」の種族と呼ばれてきた。わたしたちは、物質主義の怪

　物でモラル上は未発達の人種なのである。わたしたちは、ガンの進行を止め、結核を治し、病気を予防し、

　音速より早く飛び、原子を分裂し、宇宙を旅行する。しかし、たった一人の感情を制御することもできな

　いのである。

　　　 わたしたちは、国旗や皮膚の色や財布の中身や信仰などに対する偏見を前にして、無力である。疑惑と

　憎悪の熱を下げる政治的なペニシリンを創ることはできない。わいろや腐敗から人びとを守る抗生物質は

　ない。無関心のバチルスを隔離することもできない。国中にはびこるこれらの悪弊に対して接種をしたり、

　手術をしたりすることもできないのである。

　　　 このように、現代に住むわたしたちは、物質を扱うことにかけては天才となり、人間を扱うことにかけ

　ては愚鈍さの犠牲となった。

　　　 技術の発展は、わたしたちの地球をはじき玉にしてしまった。地球全体がたかの飛行範囲となったので

　ある。たかの影が地面に写るとき、だれもそれが敵であるか味方であるかを知ることはできない。ある年

　にニュースで誉めそやされた国は、つぎの年には罵倒される。

　　　 縮小した世界の競技場でおびえた人類は、昔の物語りを眼前にしているのである。不安と恐怖の目は、

　世界の諸議会の入り口に向けられている。だれが出てくるのであろうか？ 美女か？ トラか？

　　　 どの国に住む人も一瞬のうちに破壊されるかもしれない物質的な繁栄のために、高い価格を払いすぎた

　のではないかと思いはじめている。わたしたちは、どの方向に向かったらよいのであろうか。希望はどこ

　にあるのであろうか。

　　　 バハオラは、人間は精神的な存在であり、動物ではない、と述べている。心が神と精神的なものに向け

　られていれば、原子力の面でも、モラルの面でも巨人になれるのである。もし、心が自我と肉体的な欲望

　に向けられていれば、モラル上の小人になり、動物のようになるであろう。そうなれば、人は肉体的快楽

　にふけり、精神を認めることができなくなる。そして、自分自身が実際に死人となってしまっているのに

　気がつかず、精神など狂信であり、時代おくれであると嘲笑するであろう。

　　　 人間の所有するもので、他人から取られないものは、精神と魂だけである。キリストもつぎのように述

　べている。

　「むしろ自分のため、虫も食わず、さびもつかず、また盗人らが押し入って盗み出すこともしない天に宝

　をたくわえなさい。あなたの宝のある所には、心もあるからである」�@

　　　 人間は滅び去るものに心を向けた。この悲しい事実は、わたしたちの社会状態を一見しただけでも明ら

　かである。

　

　　　 一 毎年、教育に用いる費用よりもはるかに多額なお金を酒類やアルコール飲料水に用いている。

　　　 二 多額なお金が教育よりも化粧品に用いられている。

　　　 三 教育よりも娯楽への出費が多い。

　　　 四 世界には無数の人びとが住む家も持てずにいるが、先進国では多数の新車が使用されずに保管された

　　　　　　 ままである。

　　　 五 世界には赤ん坊に飲ませるミルクが不足している家庭が多数あるが、さまざまなアルコール飲料水や

　　　　　　 炭酸の入った飲み物があふれている。そして、多額の金がそれに費やされている。

　

　　　 自殺は毎日、毎時間でなく、一分毎に起こる悲劇となった。この自己破壊による死は、老人や病弱者の

　間にだけではなく、前途に希望をもつべき若い人たちの間で起こっているのである。かれらには未来はな

　く、絶望しかないのである。かれらは、滅ぶべき事物に幻滅したのである。

　　　 最近、ミシガン州のデトロイトで放送されたニュースによれば、精神病院は以前には見られなかったほ

　ど患者で一杯で、これ以上患者を収容できないという。まだ完治していない患者を家に送り返さなければ

　ならない状態であるという。

　　　 ほかの報告によると、現在入院している精神病患者の数の方が、ほかの病気で入院している患者の総計

　を上回っているという。また、ほかの情報によるとアルコール中毒の問題の方が、精神病より深刻な問題

　であるそうである。アルコール問題は、ひじょうに広範囲にわたっており、精神病患者の数よりもアル

　コール中毒患者の数が多いという。もちろん、アルコール中毒患者を全部治療する施設はない。

　　　 現代人は、真理を求めるかわりに、楽しみを求める人間となった。人間の生活には双方共に必要である。

　バランスのとれた思慮深い人間となり、人生から驚きや喜びや怖れを経験し、愛情ある家庭に囲まれて豊

　かな役に立つ生活を送ってこそ、本当に幸福な人間となれるのである。

　　　 現在の文明は、利益を生み出すが福利を促進するものではない。社会には双方共に必要である。わたし

　たちは、神に背を向けた結果として、同胞にも背を向けることとなった。欧米の人びとは、物質主義の麻

　薬で死にかかっており、残りの世界へ麻薬を売る密売人となった。どれほどとっても満足できなくなった

　のである。単純な楽しみや喜び、家庭の温かさ、友人や隣人の友情といった単純な喜びを感じなくなった

　のである。

　

　三　 戦車はちまたに狂い走る

　

　「終わりの時」というのは現代のことであり、私たちのことである。新約聖書に強い言葉で叙述されてい

　るのは現代のことである。

　「しかし、このことは知っておかねばならない。終わりの時には、苦難の時代が来る。その時、人びとは

　自分を愛する者、金を愛する者、大言壮語する者、高慢な者、神をそしる者、親に逆らう者、恩を知らぬ

　者、神聖を汚す者、無情な者、融和しない者、そしる者、無節制な者、粗暴な者、善を好まない者、裏切

　り者、乱暴者、高言をする者、神よりも快楽を愛する者、信心深い様子をしながらその実を捨てる者とな

　るであろう」�@

　　　 現代人は、戦場でよりも道路上で人を傷つけたり、殺したりする。交通事故で死亡する人の数は、戦死

　する人の数を上回る。このことも「終わりの時」に関して聖書の中に予言されていた。

　「戦車はその備えの日に、火のように輝き……戦車はちまたに狂い走り、大路に飛びかける。彼らはたい

　まつのように輝き、いなずまのように飛びかける」�A

　　　 祭日の夕方、車で家に帰った経験のある人は、この光景を目にしたことがあるであろう。車は、神の備

　えの日が過ぎ、審判の日がきているのを知らず、「たいまつのように輝き、いなずまのように飛びかけ

　る」。そして多数の人が傷つき、死んでいく。

　　　 メシアは到来し「一つの群れ、一人の羊飼い」の日をもたらすかもしれない。しかし、主はもはや人類

　の羊飼いではない。羊はもはやかれの声を聞くことができなくなった。羊の耳は異なった歌を聞いている

　からである。バハオラはつぎのように書いた。

　「神を信じる心は、あらゆる国でおとろえつつある。神の効力ある妙薬のほかには、それを回復させ得る

　ものは何もない。不信心による腐食は、人間社会の核心をも蝕みつつある。神の威力ある啓示の霊薬をお

　いて、何が人間社会を浄化し、復活させ得るであろうか」�B

　　　 キリストは、個人の良心に訴え、再臨時の偉大なる日のために準備した。

　「わたしについてきなさい。あなたがたを人間をとる漁師にしてあげよう」�C

　　　 バハオラは社会全体に語りかけた。

　「わたしのあとについてきなさい。あなたがたを人類の蘇生者となそう」�D

　　　 キリストは、個人の良心と個々の人間間の関係について説いた。

　「もし、だれかがあなたの右の頬を打つなら、ほかの頬をも向けてやりなさい」�E

　　　 バハオラは、人間の集団的良心に語りかけた。そして、世界の支配者や国王につぎの言葉を宛てた。

　「この世の国王たちよ、和合せよ。それにより、あなたがたの間にある不和の嵐は静まり、国民は平安を

　見いだすであろう。もしだれかが、ほかに対して武器をとれば、皆その者に対して立ち上がらなければな

　らない。というのも、これは明白なる正義にほかならないから」�@

　　　 キリストは、山上の垂訓で個人の良心に語りかけた。

　「悔いて改めよ、天国は近づいた」�G

　　　 キリストは、各個人の心の中に確立されると同じ精神的な王国が、終わりの日に地上のすべての人びと

　にも確立されることを約束した。かれは、主の祈りの中で、このことを述べている。この祈りはまた予言

　でもある。

　「御国がきますように。みこころが天に行われるとおり、地にも行われますように」�H

　　　 バハオラは書いた。

　「福音書にしたがう人たちよ。天の扉が大きく開いているのを見よ。天に昇った人は、今や再び到来した。

　その声は陸や海を越えて高らかに叫び、全人類に宣言している……。『見よ、聖なる誓約は果たされた。

　約束の方が到来されたからである』」�I

　　　 ほかの個所で、バハオラは、キリストがオリーブ山上で説いた神の愛のあらたな発露以外は、人類を再

　生することはできないと述べた。神の愛だけが人間を物質的なものから精神的なものに向けさせることが

　できるのである。

　　　 現代社会は、予言者ヨナの時代と同じ問題に直面している。全能の神は、ヨナを下し、邪悪なニネベの

　町、世俗の町、神の精神と愛に欠けた快楽の町に向かって叫ばせた。西欧の物質主義は現代のニネベなの

　である。

　　　 神がヨナを通して語った言葉は、現代人のわたしたちにも同じように向けられることができるであろう。

　「立って、あの大きな町ニネベに行き、これに向かって呼ばわれ。彼らの悪がわたしの前に上ってきたか

　らである」�J

　　　 ヨナは叫んだ。

　「後悔せよ、さもなくば滅びるであろう」

　　　 ニネベは後悔して神に向かった。そして破滅からまぬかれた。

　　　 わたしたちは現代のニネベである。邪悪な行動をやめなければ、わたしたち自身が作り出した力によっ

　て滅ぼされるであろう。バハオラは声をあげて警告した。わたしたちにはどこにも逃げ場所はない。

　　　 バハオラは、全世界の人びとが和合しなければ、自滅から救われることはない、とくり返し忠告した。

　この和合は、恐怖からでなく、相互の愛を土台として確立されなければならない。また、この和合は人間

　の力では達成不可能である。それは、人類が現代の神の使者に向かうことによってのみ成就できるのであ

　る。ほかの解決法はすべて一時的、部分的なものであり、遅かれ早かれ、分裂や戦争に終わるであろう。

　　　 かれはこう述べた。

　「今日、すべての人にふさわしい行為は、全人類の和合を確立することである……。神以外に逃げ場所は

　なく、だれも探し得る避難所もない」�K

　「主が全世界を癒すための最高の医薬、および最大の手段として定められたものは、全人類を一つの世界

　的大業、一つの共通の信教の下に和合させることである」�L

　　　 神は一つしか存在しない。したがって宗教も一つである。ユダヤ教徒だけ、キリスト教徒だけ、仏教徒

　だけ、またはほかの宗教の信者だけが救われるのではない。神は自分自身と競争したりするものではない。

　神の宗教は一つである。人類はすべて神の子供たちである。神の子供たちが同じ都市の隅々で分派をつ

　くって敵対し合うのは、神の意志ではなく、人間が勝手に作り出したことである。

　　　 生存していくためには、和合が必要条件となった現代においては、宗派的な信仰は、価値のないものと

　なった。

　　　 和合は、神の使者によってのみ成就される。わたしたちは、国家や人種や階級や信条の壁を越えて人類

　全体に忠誠をつくさなければならない。バハオラは書いた。

　「これ（全人類の和合）は、熟練し、威力があり、神の霊感を受けた聖なる医師の力を通して以外は決し

　て達成されない」�M

　　　 バハオラは、世界中の人びとに宛ててメッセージを送った。とくに、キリストが準備してきた西欧の人

　びとに力強い言葉で語った。キリスト教徒は現在、キリストが予言した偉大なる日に直面しているのであ

　る。各個人、自分の力で神の使者を受け入れるかどうかを決めなければならない日である。

　　　 バハオラは、キリストの約束を思い出すようにと、キリスト教徒に呼びかけた。

　「あらゆる聖典にその出現が約束されている『助け主』は到来した。その方がすべての知識と英知を、あ

　なたがたに顕してくれるよう、地上の隅々までその方を探し出せ……」�N

　　　 ほかの個所で、バハオラは、ダニエルやイザヤ、さらにキリスト自らが約束した「人の子」をキリスト

　教徒に思い起こさせた。ついに、その日が来たのである。イエスが語った御父は現われたのである。そし

　て、人間の希望は、かれに顔を向けることである。バハオラは述べた。

　「人の子の声は、聖なる谷より声高らかに響いている。『われここに在り、われここに在り』……御父は

　到来した。神の王国の約束は果たされた」�O

　

　四　 空の恐怖

　

　　　 人類が後悔せず、神に背を向ければ、その運命はどうなるであろうか。バハオラはつぎのように述べて

　いる。

　「この世とその虚栄と飾りは滅び去ることを知れ。神の王国以外は何も存続しないであろう……。あなた

　がたの生命のある日々は過ぎ去り、あなたがたが心を奪われ、誇っているものはすべて滅び、そして確実

　にあなたがたは、全創造物の四肢が震いおののき、あらゆる圧政者の身体がぞっとする場所に出頭するよ

　うに召喚されるであろう……。そして、あなたがたの仕業に対して返報を受けるであろう。その日はかな

　らず到来するであろう。それはだれも元に戻し得ない時である」�@

　　　 世界は、和合しなければ滅亡してしまうであろう。滅亡しないためには、内的にも外的にも和合しなけ

　ればならない。世界の人びとは良心にしたがって生きなければならないのである。

　　　 医学やそのほかの科学面の発明発見は、全人類の所有物なのである。生まれて死ぬまで、わたしたちは

　国旗や国境や特定の宗教や皮膚の色を考慮に入れずに努力した人びとの精神の果実で囲まれている。これ

　らの人びとは、人類全体の利益に奉仕してきた。つぎの引用文は、バハイ書からの抜粋である。

　「一人の人間に影響を与えるものは、すべての人びとに影響を与える。世界の一地方で起こることは、世

　界のほかの地方で起こる人間生活に大きな影響を与えるであろう。人間はすべて、一つの大家族の一員で

　あるから」

　　　 百年前、バハオラは書いた。

　「この一握りの土である地球は一つの国である。和合せしめよ。……あなたがたは、人の子の福利と平安

　を促進するものに従事せよ。地上のもろもろの国民と民族の教育に心と意志を傾けよ。それにより、地上

　を分裂している不和が、その表面より消し去られるように……。あなたがたは一つの世界に住み、一つの

　意志の働きにより創造されたからである。最高の親切さと愛の精神で、あらゆる人と交わる者は幸いであ

　る」�A

　　　 神を無視して計画されたものは、どれほど強力に見えても、成功にいたることはできない。世界のすべ

　ての国家、人種、階級、宗教のすべてを包含しない計画は、着手する前に失敗したのと同様である。

　　　 太陽が沈めばどの国でも暗くなり、温度は下がってくる。一方、昼間は太陽はどこにでも光と熱を与え

　てくれるのである。

　　　 原子の中に長い間閉じ込められてきた恐るべき破壊力をもったものの発見も、一人または一つのグルー

　プに属する人たちからもたらされたのではなかった。たとえば、原子力の発展に貢献した人たちは、つぎ

　のリストに示す通り、さまざまな国に属する人たちであった。

　

　　　 一 メンデレエフ、ロシア人、元素の周期律を発見

　　　 二 トムソン、イギリス人、電子論を展開

　　　 三 アインシュタイン、ドイツ人、相対性原理

　　　 四 キュリー、ポーランド人、ラジウムの放射能性を発見

　　　 五 ラザーフォード、ニュージランド人、原子核を発見

　　　 六 フェルミ、イタリア人、ウランの変質を最初に達成

　　　 七 湯川、日本人、中間子論を展開

　　　 八 ハーン、ドイツ人、バリウムをウランから抽出　　　　　

　　　 九 ボーア、デンマーク人、原子構造論

　　　 十 アンダーソン、アメリカ人、陽電子発見

　十一　 チャドウィック、イギリス人、中性子発見

　十二　 マイトナー、オーストリア人、原子分裂成功

　

　　　 以上のリストから、一つの頭脳、一人の人間、一つの国が原子力を生み出したのではないことが明らか

　である。

　　　 科学は、現代人の指で、いかなる形にも思い通りに作り上げることのできるパテとなった。美しいもの

　も、死の手段となるものも、意のままに作れるようになったのである。

　　　 この現代において、安全な場所に逃げることができるであろうか。わたしたちが、神に向かい、精神的

　な人間になったとしても、すべての人が災難に巻き込まれるであろう。少数の人だけが、この事実を認め

　ても仕方がない。大多数の人がそうしなければ、破滅は免れないであろう。

　　　 つぎの言葉は、宗教家でもなく、政治家でもなく、教育家でもないマッカーサー将軍のものである。

　「われわれには最後の機会が残されている。人類を救うことのできる唯一のものは、精神的蘇生である」

　　　 テレビや映画やラジオを通して、人類はキノコ型の雲の恐ろしい光景を見たり、聞いたりしている。あ

　る雑誌は「恐怖のキノコ」と呼んだほどである。現在、ミサイルから発せられる核弾がとつぜんおそって

　きて、すべてを灰にしてしまわないかと心配せずに住める場所は地球上には一つもない。

　　　 一九五四年の春、水爆がビキニ島のナムに落とされたが、もうそれは古くなった。人間はつぎに示す統

　計にも満足せず、つぎからつぎへと新しい兵器を作り上げていく。

　

　　　 一 一つの爆弾は千二百万から千四百万トンＴＮＴに匹敵する。

　　　 二 その一つの爆弾は、第二次大戦で落とされたすべての爆弾に匹敵する。

　　　 三 爆発は高さ十万フィート、ほとんど二十マイルの高さに達する。

　　　 四 その有害な雲は、半径百マイルに達する。　　

　　　 五 戦略的に落とせば、それは三千五百万の命を一瞬にほろぼしてしまう。第一次と第二次大戦で殺され

　　　　　　 た人の数の二倍にあたる。

　

　　　 この爆弾はすでに廃品となった。これ以上に致命的な凶器が作り出されているのである。大陸間弾道弾

　やロケットの翼で飛んでくる凶器が発射台に静かに待っているのである。どの国に向かって発射されるの

　であろうか。だれかまちがってボタンを押し、発射しないであろうか。そうなった後ではだれも聞くこと

　はできない。このことは、聖書に予言されていなかったであろうか。

　「彼は夜の盗人のように来るであろう」

　「火は天より降り注ぐであろう」

　　　 一八四四年以前に、ある詩人は書いた。

　　　 「あなたが目をあげ、

　　 　長い勝負なき戦いを空に見るときがくるであろう。

　　　 年老いた農夫たちは、

　　　 あまりの驚きに声は出ず、

　　　 空飛ぶ不思議な鳥の一隊を見つめるばかりである」

　

　「鳥」は以前にも飛んできた。恐怖をもたらし、都市を暗黒化し、人びとをありのように地の底に追い

　やった。しかし、今度は逃げ場所はない。キリストとザカリヤが予言したような破壊をもたらす鳥の飛来

　はこれまでなかった。それが起こるのは二人が取り去られ、一人が残される日である。

　　　 百年ほど前、ヘブライ語学者、アルバート・バーンズは、恐ろしい終わりの日についてのダニエル（九

　章十二行）の予言の正確な解釈は、つぎの通りだと述べた。

　「鳥の翼に似たものが、（空に）広げられ、嵐のように人びとの上に荒廃を降り注ぐ」

　　　 この金属の卵とひょうは、聖書のほかの個所に約束されていなかったであろうか。

　　　 読者の住んでおられる都市にはレーダーが備えられ、「鳥」がそのスクリーンに写し出されはしないか

　と見守られてはいないであろうか。

　　　 バハオラは、一世紀以上も前に述べていた。

　「地球には不思議ですばらしい道具（力）が存在する。それは大気を変える力をもち、それによる汚染は

　破壊の原因となる……」�B

　　　 一九一二年、バハオラの長子、アブドル・バハは、パリに滞在していた。かれは、世間の人びとに父、

　バハオラの教えを伝えるために欧米を訪れた。かれは、父が語った「不思議ですばらしい力」について語

　り、この「力」は一九一四年から一九一八年にかけて起こった第一次世界大戦では使用されないことを明

　らかにした。かれはまた、第一次世界大戦が最後の戦争ではないこと、その後より大規模で、より恐ろし

　い戦争が起こることを予知した。人類はいまだもって憎しみに駆られており、唯一の解決方法であるバハ

　オラの勧告を無視しつづけているからである。

　　　 一九一二年、かれはバハオラの言葉をくり返した。

　「地球には強大な力がある。人類が精神性を完成させ、人間の破壊のためではなく、福利のために用いる

　ようになるまで、それが発見されないように神に祈る。それは地球の大気を汚染し、その炎は都市を滅ぼ

　すであろう」�C

　　　 つぎの警告はバハオラの本から引用したものである。

　「文明は中庸が守られていたときは善の源となるが、もし、極端に走れば、もろもろの悪の源泉となるこ

　とが証明されるであろう……。文明の火炎が都市を飲み込むときが近づきつつある……」�D

　　　 アブドル・バハが、「大気を汚染する力」について語った相手は日本の大使、荒川男爵であったのは皮

　肉な偶然であろうか。それとも、神からの警告であったのであろうか。日本は「より大規模で、より恐ろ

　しい戦争」で最初の原子爆弾を落とされた国であった。

　　　 第二次大戦は終わった。人類は大三次大戦を避けるために神に向かうであろうか。ミサイルがつぎから

　つぎへと工場から出てくる一方、首脳会議は思うように進展しない。

　　　 キリストの「彼（キリスト）は夜の盗人のように来るであろう」という言葉に、もはや誤解の余地があ

　るであろうか。バプテスマのヨハネの「悔い改めよ、天国は近づいた」という言葉は、もはや無視できな

　くなったのではないか。人類は見る目も聞く耳ももたないのであろうか。

　　　 イザヤは予言していた。

　「……その日、主は天において、天の軍勢を罰し、地の上で、地のもろもろの王を罰せられる」�E

　「……それゆえ、すべての手は弱り、すべての人の心は溶け去る」�F

　　　 これは遠い将来のことではない。現代のわたしたちに起こることである。イザヤはつづけて語った。

　「それゆえ、万軍の主の憤りにより、その激しい怒りの日に天は震い、地は揺り動いて、その所をはなれ

　る。……地の基が震い動く。……また地の民は焼かれてわずかの者が残される……地は酔いどれのように

　よろめく」�G

　　　 原子力は都市を照らすことも蒸発させることもできる。その使用の方法は、道徳的良心に依存するのみ

　である。

　

　五　 時きたる

　

　　　 百年以上も人類は、バハオラのメッセージを無視してきた。人びとは、かれの教えを調査することを

　怠ってきた。歴史のはじめより、あらゆる聖典にバハオラの到来が約束されていたにもかかわらず。キリ

　ストもはっきりと警告していた。

　「目をさましていなさい。主はいつこられるかわからないからである」

　　　 バハオラは、西洋と東洋のすべての君主に向かって、つぎのように呼びかけた。

　「われの大業を研究し、われに降りかかってきたことを調べ、われとわれの敵のどちらが正しいかを決め

　よ。……あなたがたの人民は、あなたがたの宝である。神の命令に背かないように治め、人民の保護を盗

　人の手に渡さないように気をつけよ。かれらがいるからこそ統治ができ、かられの財産で暮らし、かれら

　の助けによって勝利を得ることができるのである。しかも、あなたがたはかれらを何とあなどり、見下し

　ていることか。何とも奇妙なことである」�@

　　　 バハオラがアッカの牢獄に投げ込まれたとき、かれは自分を投獄した国王に、この迫害も決して自分を

　黙らせることはできないと警告した。バハオラは、国王のうち一人でも神の言葉を擁護し普及するために

　立ち上がらないかと期待していた。そうすれば、人びとの苦しみが終わることを知っていたからであった。

　　　 世界の国王や指導者たちに宛てたバハオラの書簡は、断固とした口調で書かれていた。かれは、人びと

　の間に愛と和合が欠けていることを指摘し、諸国家が友情をもって協力して世界平和のために働き、貧し

　い人たちや身分の低い人たちの権利を守り、神の意志にしたがって行動しなければ、かれらの王国も、財

　産も、特権もすべてぶどう園の主（メシア）から取り上げられるであろう、と警告した。そして、地球は

　人類が自らもたらす大災難で生き残った人びと中から立ち上がる者たちに渡されるであろう、と予言した。

　「あなたがたの王国を掌中におさめるのがわが望みではない。わが使命は、人びとの心をとらえ、所有す

　ることにある……。わが大業のために立ち上がる国王を待ち受ける祝福は何と偉大であろうか」�A

　　　 バハオラは、国王たちの応答を忍耐強く待った。そしてついに沈黙を破った。

　「おお国王たちよ、二十年が過ぎ去った。……しかしながら、あなたがたは侵略者の手を食い止めようと

　もしなかった。あなたがたの強い正義感が全人類に十分示されるように、圧政者の暴虐を押え、人民を公

　正に扱うことがあなたがたの明らかな義務ではないのか……」�B

　　　 かれは、ほかの個所でもこう警告した。

　「圧政よりあなたがたの手を引け。われはだれの不正も許さないことを、われ自身に誓ったゆえに」�C

　　　 そして、時間が差し迫っているという緊急感から、バハオラは支配者たちに呼びかけた。

　「国民を神に召喚せよ」�D

　　　 地上の統治は神に属し、国王はその管理人にすぎないことを、バハオラは明確にした。人びとの心は宝

　石であり、それは神に属するものであるから、盗人や邪悪者に盗み取られないようにと忠告した。バハオ

　ラは恵まれない人たちに対する深い愛から、指導者たちに、かれらの模範になるように勧告した。しかし、

　指導者たちはそれを拒否した。そこでバハオラは、かれらの困難は増し、問題は深刻化し、かれらが誇っ

　ている文明は、幸福ではなく災禍をもたらすであろうこと警告した。

　　　 災難は神から人間に与えるものではなく、人間自身が招くものであることをバハオラは説明した。人が

　神の法側を破ると、その結果災難が起こるのである。人類は容易な道を選ぶことも、困難な道を選ぶこと

　もできる。選択するのは人間なのである。地上に建設される新しい世界文明は、人間の意志次第で、早め

　ることも遅らせることもできるのである。しかし、それはかならず成就される。現在、わたしたちがしな

　ければ、災難の後に生き残った人たちが達成するであろう。

　　　 バハオラは、国王たちや支配者たちが、神のメッセージに応えなかったことを悲しんだ。かれは、苦難

　がかれらに襲ってくることを知っていたからである。

　「いかにこの世が日々新たな災難で苦しめられているかを目撃せよ。その苦難は絶えず強まりつつある。

　ライースへの書簡が啓示されて以来、今日にいたるまで、世の中が静まることも、人びとの心が休まるこ

　ともなかった。一時は論争と口論でかき乱され、ほかのときは戦争で極度に揺るがされ、根深い疾病の犠

　牲となった。その病は、まったく絶望の段階に近づきつつある。というのは、真の医師は治療をほどこす

　ことを妨げられ、一方、未熟な医者が好まれ、まったく思いのままふるまう自由を許されているからであ

　る。……かれらは、やがて神の日に、自らの手による仕業の結果に気づくであろう。すべてに精通する方

　は、このようにあなたがたに警告する……」�E

　　　 人類は現在この警告に耳を傾けようとしているであろうか。

　

　六　 主の日

　

　　　 バハオラは深い慈愛をもって人類をめざまそうとしたが、人類はそれに応じなかった。かれは厳格で責

　任ある父親のように、人類の怠慢を指摘した。かれは人間がこれまでの態度を捨て、真実の愛を神と同胞

　に示さなければ、黒煙の暗やみに包まれている自分をとつぜん発見するであろう、と忠告した。バハオラ

　は、つぎの言葉で神を無視すれば、どのような結果になるかを示した。

　

　　　 一 時がきたのにかれらは遊び興じている。前髪をつかまえられながらも、そのことを知らない。�@

　　　 二 起こるべきことがとつぜん起こった。いかにかれらがそれより逃げ去っているかを見よ。避けがたい

　　　　　　 ことが起こった……。神にかけた誓う。ラッパは吹かれた。そして見よ、人類はわれらの眼前で気を

　　　　　　 失った。�A

　　　 三 この日こそは、あらゆる目が恐怖でみはる日である。この日こそは、あなたの主の思召しにより救わ

　　　　　　 れる者以外の者らの心がおののく日である……。�B

　　　 四 いつまであなたがたは眠るのか。……いかに山々が毛くずのようになり、いかに人びとが神の大業の

　　　　　　 荘厳さに当惑しているかを認めることができないのであろうか。家々は壊され、人びとが溺れている

　　　　　　 のを目撃せよ。

　　　 五 あなたがたに残されている短い時間が浪費され、失われないように奮起せよ。電光のようにすばやく

　　　　　　 あなたがたの時代は過ぎ去るであろう。そして、あなたがたの身体はちりの天蓋の下に安置されるで

　　　　　　 あろう。そのとき、あなたがたは何を成し遂げることができようか。あなたがたの過去の失敗をいか

　　　　　　 にして償い得ようか。�D

　　　 六 時間のあるうちに戻れ。�E

　　　 七 あなたがたはどこに逃げるのか。山々は消失し、天は折りたたまれ、全地球は神の掌中に握られてい

　　　　　　 る。……あなたがたを保護できるのはだれか。全能者なる神以外はだれもいない……。�F

　

　　　 これらの畏敬と威厳にあふれた言葉は、半世紀の間人類に深い慈愛を注いだペンと同じペンで書かれた。

　バハオラは家族と子供たちを愛し、また田舎の風景や緑の牧場や小川を愛好した。しかし、四十年間、追

　放と投獄の苛酷な生活を強いられたため、自然の美しさにふれることもなかった。そのような生活の中か

　ら、人類に対する深い愛の言葉が流れ出してきたのである。

　「今こそ、愛と親善の活気ある微風および友情と慈善の活水で、意気消沈している人びとを励まし、元気

　づけるときである」�G

　「神より愛される者らは、いかなる場所に集合しても、だれと会っても、謙虚で従順な態度で神への讃美

　とその栄光を賞賛し、足元のちりのすべての原子が、その献身の深さを証言するほどでなければならない

　……。これらの聖なる人びとによって交わされる会話は、威力にみたされ、ちりの原子は、その影響を受

　けて喜びで身震いするほどでなければならない」�H

　「お互いに忍耐と慈善と愛を示せ。もしあなたがたのうちだれかが、ある真理を把握できないとき、また

　は理解しようと努力しているときには、会話中に真心からの親切と好意の精神を示せ。あなた自身がその

　人より優れているとか、より以上の才能をもつなど、少しでも考えることなく、その人が真理を見、認め

　ることができるように援助せよ」�I

　　　 小夜鳥の歌は、人類が快楽にふけり、神の甘美な調べに耳を傾けそこなったとき、ワシの叫びとなった。

　そして、怠慢の社会を守るために、バハオラはリュートをラッパに変えた。かれは、精神的に眠っている

　人びとが目をさますようにラッパを吹いたのである。

　　　 かれは「見る目」と「聞く耳」をもつように人類に呼びかけた。かれはまた、全能の神に向かって、人

　類を覚醒する自分の使命を果たしたことを証言されるようにこん願した。

　「聖句は下されたでしょうか」

　「言あげよ。しかり、天の主なる方にかけて下されたことを誓う」

　「その時は到来したでしょうか」

　「到来したどころではない。その時は過ぎ去った。……真実なる方は証拠と証明をもって現われたのだ」�J

　　　 バハオラは生涯の終わりに、聖地、イスラエルで書いた。

　「われは、神が命じた通りに、人類を救い出す義務を怠らなかった……。だれに言い訳が残されているだ

　ろうか。……いや、神にかけて誓うが、だれにも残されていない。わがしるしは地球を取り巻き、わが力

　は全人類を包んだ」�K

　　　 そして、最後にかれはつぎの言葉を残した。

　「主は栄光に輝きながら到来した。まことに、その方こそは、神のもろもろの聖典に約束された方である。

　……今、超脱の道で、あなたがたの努力を示すときである」

　　　 このように、責任は各個人の肩にかかっている。人は神の言葉に耳を傾けて、ニネベの町の人びとのよ

　うに救われることもできるし、それを無視し、あざ笑うこともできる。しかし、その結果、旧約および新

　約聖書に警告されている通り、かならず最悪の苦難が人類を襲ってくるであろう。

　　　 旧約聖書にはこのように書かれていた。

　「海の魚、空の鳥、野の獣、すべて地に這うもの、地のおもてにあるすべての人は、わが前に打ち震える。

　また山々はくずれ、がけは落ち、すべての石がきは地に倒れる」�L

　　　 これを書いたエゼキエルは、終わりの日に、神の栄光が東方より現われる、と予言したが、同時に大い

　なる破壊のときでもあると述べた。

　「……イスラエルの家は、これを埋めて地を清めるために七ヶ月を費す。国のすべての民はこれを埋め、

　これによって名を高める。これは、わが栄えを現す日であると、主なる神は言われる」�M

　　　 エノクの書にはつぎの言葉がある。

　「そしてすべての人は恐れ、見物人はふるえる。そして大恐怖が彼らを地球の終りまでとらえる」�N

　　　 また新約聖書にもつぎのように述べられていた。

　「この三つの災害、……人間の三分の一は殺されてしまった」�O

　「天から火と硫黄とが降ってきて、彼らをことごとく滅ぼした。人の子が現われる日も、ちょうどそれと

　同様であろう。その日には、屋上にいる者は、自分の持ち物が家の中にあっても、取りにおりるな。畑に

　いる者も同じように、あとへもどるな。……その夜、二人の男が一つの寝床にいるならば、ひとりは取り

　去られ、他のひとりは残されるであろう。二人の女が一緒にうすをひいているならば、ひとりは取り去ら

　れ、他のひとりは残されるであろう」�P

　　　 もっとも恐ろしい叙述は、おそらくつぎの句であろう。

　「しかし、主の日は盗人のように襲って来る。その日には、天は大音響をたてて消え去り、天体は焼けく

　ずれ、地とその上に造り出されたものも、みな焼きつくされるであろう」�Q

　　　 この句ほど、あの恐ろしいキノコ雲を的確に描写しているものはないであろう。

　

　七　 新しい時代の夜明け

　

　　　 世界はハルマゲドンの戦いの脅威からのがれることができるであろうか。現代人は、災難の大洪水を受

　けなければならないのであろうか。

　　　 わたしたちの未来が「成熟」の時代に向かうか、それとも「創世紀」時代へ逆戻りするかどうかは、人

　類がどれほどバハオラがもたらした神のメッセージを受け入れるかどうかにかかっているのである。バハ

　オラの言葉は、現在全世界の隅々までひろがった。したがって、聞く耳のある人はだれでも聞けるように

　なった。バハオラは、聞く耳のある人たちにこう告げている。

　「おお、わがしもべらよ。洞察力をそなえたわずかの人以外はすべて神より離れた日に、神の喜びを求め、

　その愛にすがった者らよ。神が、その恩恵により、寛大で朽ちることのない永遠の報酬をあなたがたに与

　えられんことを。……あなたがたは、人びとの目が盲目になった日に、神を求めたからである」�@

　　　 バハオラはまた、物質主義の危険なわなから逃れるように、神を愛する人びとに警告した。

　「おお人びとよ、あなたがたの所有する金銀のために、神から離れようとする誘惑に負けないように気を

　つけよ。……神以外は何も益にならない日、あらゆる柱がゆれ、人間の皮膚がぞっとし、あらゆる目が恐

　怖で見張る日に、神の愛をあなたがたの魂の倉庫とせよ」�A

　　　 人間は鉄にたとえられる。鉄が火中に入れられて熱で赤く輝いてくるように、人間も神の愛の火の中に

　入ると輝き、神の特性を身につけてくる。バハオラはこれに関してつぎのように述べた。

　「世界の真っ只中で燃えるこの不滅の火の炎で、宇宙の水さえもその灼熱を冷やすことができないほど、

　あなたの魂を輝かせよ……」�B

　　　 そしてバハオラは「現在の秩序が巻き上げられ、その代わりに新しい秩序が展開される」ことを宣言し

　た。�C

　　　 人間は生きていても、メシアの到来について知識をもたなければ、死んでいると見なされる。たとえ、

　歩きまわり、隣人と話をし、食べ物を口にしても、死んでいると見なされるのである。キリストは述べた。

　「その死人を葬ることは、死人に任せておくがよい。あなたは、出て行って神の国を告げひろめなさい」�D

　「手をすきにかけてから、うしろを見る者は、神の国にふさわしくないものである」�E

　　　 キリストが述べようとしたことは明らかである。メシアの真理が見えない人に、肉体が死んだ人を葬ら

　せ、キリストを信じる人は、手にすきをかけ、勝利が得られるまで後ろを振り向かないようにという意味

　である。かれは警告した。

　「あなたがたが放縦や、泥酔や、世の煩いのために心が鈍っているうちに、思いがけないとき、その日が

　わなのようにあなたがたを捕らえることがないように、よく注意していなさい。その日は、地の全面に住

　むすべての人に臨むのであるから。これらの起ころうとしているすべての事からのがれて、人の子の前に

　立つことができるように、絶えず目をさまして、祈っていなさい」�F

　　　 バハオラは、キリスト教徒に訴えた。

　「祝うことによって讃美される方を認めることを妨げられないように……。主を見よ。……あなたがたは

　福音書を学んだにもかかわらず『栄光の主』を見ることができないのか｝�G

　　　 朝、太陽があがると人は眠りからさめる。そして起き、着替えて仕事にでかけるであろう。もちろん、

　死んでいなければの話である。

　　　 同じように、新しい日のキリストであるバハオラの太陽がのぼった今、人びとはめざめ、起き、仕事着

　を身につけて神と同胞に奉仕するために出かけるであろう。そして、せまりつつある災難を避けるために

　全力をつくすであろう。しかし、そうするのは精神的に生きている人たちだけである。

　　　 人間が生きているか、死んでいるかは、神と各個人との間の秘密である。わたしの責任は、この話を読

　者に語ることで終わった。各個人、自分の道を選ばなければならない。聖書の封は開けられた。耳は聞こ

　えはじめ、目は開けられた。

　　　 聖パウロの言葉を思い出しながら未来を見てみよう。

　「われわれは、これほど尊い救いをなおざりにすれば、どうして報いをのがれることができようか」�H

　　　 ある人は未来に絶望と破滅しか見ないであろう。地上に建設される神の国を見る人もいるであろう。そ

　れも各個人のもつヴィジョンと精神的な耳と目による。

　　　 つぎのぐう話の中の父親の見方をとるか、息子の見方をとるかは個人の自由である。バハオラに向かう

　か、それとも背を向けるかによって見方が異なってくるのである。選択は個人にある。

　「昔の話であるが、父と息子が遠方に旅をした。途中で山にのぼり、山頂で一夜を明かした。夜明け時に、

　太陽が暗やみを追い払い、雪をかぶった峰をすばらしいオレンジ色に染めた。息子は目をさまし、輝く空

　と赤々と燃える色をした山々のふちを見た。かれはまだ小さかったので窓の上の方からだけしか外が見え

　なかった。かれにはその輝きがどこから来ているのか理解できなかったので恐ろしくなった。そして、旅

　に出ずに家にいればよかったと後悔した。かれは奇妙な空に火事と災難が起こっていると想像したのである。

　　　 昇ってくる太陽は、山の側面に長い間積もった雪をあたためはじめた。やがで、雪はとけはじめ、なだ

　れとなって谷に落ちていった。その恐ろしい音は、赤々と燃える空にまして小さな子供に恐怖感を呼び起

　こした。かれは父親のところに駆けつけ、揺り起こした。

　『お父さん、お父さん、早く起きて。世の終わりが来たんだ』

　　　 父親は目を開けた。かれは窓からすべてを見ることができた。そして、太陽で輝く峰を眺めた。春の太

　陽が雪をとかしてなだれとなって落ちていく音を聞いた。かれはそれがやがて下流の渇いた土地をうるお

　し、草木をよみがえらせることを知っていた。そこで、息子の手を取り、やさしく言い聞かせた。

　『息子よ、これは世の終わりではない。新しい日の始まりなんだよ』」